リハビリ作なので期待せず読んでいただけたらなと思います。
二時間クオリティ兼リハビリです。
『青春』とは欺瞞であり、『恋』とは虚像である。
誰もが恋がどうだの語っているが、実のところ恋の本質を知っているものなんてこの世にはいないのだ。
例えば。
俺の友人の友人の話なのだが、消しゴムを拾って笑顔を向けられただけで一目惚れをしていた。
勿論相手からしたら普通のことで、それだけで好かれたら気持ち悪いだろう。
…まあ、実際に言われていたんだが。
つまるところ言いたいことは『恋』は押し付けであり偽物であるということだ。
だから、雪ノ下さん。そんな笑顔をこっちに向けないでください。
俺を好きだ、なんて言わないでください。
■ 春休み前 奉仕部
最後の期末試験も終わり、奉仕部も春休みの間は休暇になるとのことで今日が最後の活動である。
雪ノ下の紅茶を飲めなくなる、なんて考えると中々寂しいものである。…恥ずかしいから絶対に言わないけど。
「比企谷くん、すこし良いかしら?」
「…なんだ?」
「その、姉さんが、あなたに用があるらしいのよ」
「…?なんでまた急に。あの人って用があるなら直接言いに来るイメージなんだが」
イメージとしては大魔王である。あねのんマジ恐怖の大魔王。
「ゆきのんに伝えてもらってるってことは結構大事な用なのかなぁ?」
「どうかしら、あの人の考えることは私には解らないもの」
「むしろ誰にもわからんだろ」
「ふふっ。それもそうね」
由比ヶ浜は雪ノ下のお陰で少しずつ勉強を始めている。ここ最近では期末試験や受験なんかを意識することも多くなり奉仕部の部室が自習室のようになっているのだが、由比ヶ浜にとっては良い方向に向かっているのだろう。
今だってあーでもない、こーでもないなんて言いながら参考書に向かっている。
頑張れ、由比ヶ浜。目指せアホヶ浜さん卒業。
「今、ヒッキーすごい失礼なこと考えたでしょ!」
「べ、べつにそんなことないじょ…」
「むー、あやしい!!」
ちょっとディスったのは謝るから、その可愛いお顔とおっきな二つの山をこちらに近づけないで!その魅惑に八幡負けちゃう!
「ンン!由比ヶ浜さん?」
「あっ、ゆきのんごめーん!!」
唐突に始まる百合空間。
いいぞ、もっとやれ。
この空間に我一人、いつものことである。
「ゆ、由比ヶ浜さん、少し離れて」
「あ!話の途中だったよね!」
「ええ、べ、べつにいやではないから、そんな捨てられた子猫みたいな目をしないで…」
「ゆきのーん!!」
まーた、始まったよ。
ま、別に楽しそうなんで良いんですけどね?
「おい、由比ヶ浜。急ぎの用かもしんないだろ」
「そっか!ゆきのん!話し続けて!」
「話の腰を折ったのは由比ヶ浜さんなのだけれど…」
乗ったのは雪ノ下なんだよなぁ。
言ったら数十倍になって返ってくるだろうから言わないけど。
「…で、比企谷くんは時間はあるのかしら?」
「まあ、あるっちゃあるけど」
ぶっちゃけ雪ノ下さん関連は絡みたくないんだよな。
割とあの人が絡むと毎回痛い目にあってるし。
ただ、雪ノ下を経由して俺に伝えてきたことが解せない。
あの人ならなんでもない顔をしながら、奉仕部にやってくるなりして直接伝える筈だ。
「雪ノ下さんにいつ空けとけばいいのか聞いといてくれ」
「姉さんがごめんなさい、比企谷くん」
「大丈夫だ。まあ、なんだかんだお世話になってるしな」
大半が大きなお世話ではあるんだが。
■ 春休み 千葉駅前
さあ、やってきました。千葉駅。
はてさて、鬼がでるのか蛇がでるのか。
「比企谷くーん!ごめんね!待った?」
「別に大丈夫ですよ」
「ふふ、その割には鼻が赤いぞ!」
「…大丈夫です。ところで、なんなんですか?」
「もー!比企谷くんはせっかちだなぁ!」
「こちとら受験生なんですよ」
これは本当のことだ。雪ノ下に感化されて国立を目指し始めたのだ。
ただ、なんにせよ、すうがくこわい。
「じゃあ、単刀直入に言うね」
「はい」
「比企谷くん。わたしと付き合いなさい」
「…は?」
どういうことなのだろう。
買い物に付き合う?違うだろう。
どこかに付き合う?おそらくこれも違うだろう。
その言葉を発したときの雪ノ下さんの顔は笑っているようで、泣いているようなそんな顔をしていたように見えた。
「仕方ないな、比企谷くんは」
「いや、おかしいでしょ」
「改めて言うね、比企谷くん。わたしと付き合いなさい」
「それは…」
「男女の付き合い、解るよね?」
「いや、まあ、それは分かりますけど」
解るけど理解はできない。
おかしいだろう。雪ノ下さんがそういうことを頼むことも想像できなかった。
「なんで、俺なんですか?」
「比企谷くんのことが、好き、なんだよ」
おかしい、おかしいだろ。
こんなこと、おかしい。本物じゃない。
それに…。
「なんで、そんな泣きそうな顔をしながら」
「…そっか。そんな顔しちゃってたか」
「雪ノ下さん、どうしたんですか」
「わたしね、結婚するんだ?」
頭が横から殴られたような感覚を覚えた。
結婚…?
「な、んで」
「そりゃあ、長女だからね。雪ノ下の家で自由がないのは私なの。ばかげてるよね?あんな飄々とした態度しながら中身なんてこんな脆いの」
「…」
「ねえ、比企谷くん。どうしよう?」
咄嗟にでたのは一言だった。
普段理性の化け物なんて呼ばれているが、こんな面を見てしまったら理性も何もないだろう。
「逃げちゃいましょう」
リスクなんて考えず、向こう見ず、無鉄砲に。
俺が俺でないような感覚を覚えながら、違和感感じながら、少しずつ言葉を繋いでいった。
「逃げちゃいましょう、雪ノ下さん」
「そんなこと!!できるわけない、できないんだよ?比企谷くんなら解るよね?」
「なら!ならなんで、俺に相談したんですか?」
そうなのだ。
雪ノ下さんなら、それでもなお抗うはずなのだ。
押し付けでもいい、雪ノ下さんにはそうあってほしいのだ。
「は、はは、あははははは!そっか!そっか!!わたしはそう言ってもらいたかったんだ!わたしって馬鹿だ!」
「どうやら、雪ノ下さんなりに納得したようでよかったです」
「あーあ、うん、そっか。ありがとね?比企谷くん」
「俺は、別に何にもして…」
雪ノ下さんの方を振り向いたときには顔が目の前にあって。
いつも通りのようで、少し顔を赤らめた強気な笑顔があって。
「な、な…」
「比企谷くん。私さ、結構天の邪鬼なんだよね」
今まで見たことがないほど魅力的な笑顔で。
「比企谷くんを私のものにするって決めたから。比企谷くんを飽きさせないでね?じゃないと比企谷くんのこと」
そうだ、間違っている。
「壊しちゃうかもっ!」
こんな、こんな俺の青春ラブコメは間違っている!