2期EDを聴いて浮かんだ場面をそのまま文章にしてみました。BADENDが嫌いな方はブラウザバックでお願いします。

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HYDRA

 焼け焦げた大地に横たわる、白銀の竜の屍。鈍色に濁ったその瞳には、紫色の極槍が突き立っている。

 首と体とは切り離され、そこからとめどなく流れ続ける紅き血が大地を染めていく。

 ツァインドルクス=ヴァイシオンという名を持っていた、今となってはただの肉塊。二度と動くことはない、死骸。

 その屍の足下に倒れ臥しているのは、赤い鎧をまとった吸血鬼。いや、吸血鬼だったもの。大きな風が吹き、下半身の一部が灰となって舞った。

 吸血鬼は最期の力を振り絞って、既に死んでいる竜の脚に腕を突き刺した。

 

 「アインズ、さま……」

 

 そう呟くと、吸血鬼は安らかな顔つきになって命の灯火を消した。体の全てが灰へと変わり、支えを失った真紅の鎧がガシャンと音をたてて地に落ちた。

 

 

 

 

 

 蒼き甲冑を纏った蟲人の体を、無数の刃が貫いていた。その体を構成する純白の体液が傷口から勢いよく迸り、急速に抜けていく力は蟲人に死を予感させる。

 蟲人は苦悶の声をもらすが、なおも立ち上がる。その身の先にある何かを守らんと、阻むように仁王立ちをして。

 

 「ココハ……通サヌ……ッ!……アインズ様ハ……ッ、コノ、コノコキュートスガ……オ守リ──」

 

 志を捨てず剣を握った蟲人の喉元に、無慈悲な刃が深々と刺さった。

 ヒューヒューと空気がもれるような音が、その体の奥から聞こえる。声はもう聞こえない。

 けれど、蟲人は倒れなかった。

 

 倒れず、立ったまま、死んでいた。

 その背中に傷は一つもなかった。

 

 

 

 

 ダークエルフの姉弟は、安らかに眠っていた。永遠に覚めない眠りにつき、二度とその目が開くことはない。

 ドルイドの最期の奥の手、命と引き換えのスキルによる呪詛。二人の魂は静かに、暗い暗い闇の底へと落ちていく。

 

 ふと、二人の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。煌めく雫はこめかみをつたって流れ落ち、地に吸われて消えた。

 それきり、二人は背中合わせに眠ったままピクリとも動くことは無かった。

 

 

 

 

 悪魔には既に腕がなかった。

 両腕を根元からもがれ、脚も負傷し、残すは魔法とスキルを唱える口のみ。それでも、悪魔は余裕ぶった笑みを絶やすことは無かった。

 ここで自分が死のうと、それは敗北ではないのだから。かの御方の命が尽きない限り、自分は不滅だ。何度でも蘇り復讐を果たそう。憎きあの敵の歯を一本ずつ手で引っこ抜き、爪は丁寧に時間をかけて剥ぎ取り、そのぶん髪の毛は一瞬でむしり取ろう。頭皮が剥がれようと、骨が見えようと構うものか。眼球にストローを差し込んで空気を入れてやろう。脳みそをフォークでかき回して鍋に入れて茹でてやろう。そしてそれを口から食わせてやるのだ。食おうとしなければ顎を無理やりこじ開けてしまえ。

 あぁ、なんと楽しみなことだ。そのためにも。

 

 「……アインズ様、……どうか、どうかご無事で……!」

 

 悪魔は、かの偉大なる支配者を想うと、その凶悪な笑みを絶やさぬまま心臓を貫かれて死んだ。

 

 

 

 

 

 「アインズ様……っ!」

 

 「来るな!アルベド!」

 

 強力な魔法が弾け、大地をえぐりとる。砂埃の中から長髪の男が飛び出し、骸骨の王に槍を突き刺す。しかし、骸骨の王は魔法を発動させて己の位置を後方に瞬間移動させてダメージを軽減する。

 戦いが始まって十時間以上の時間が過ぎた。種族として疲れを知らない骸骨の王と、装備品で疲労のなくなった長髪の男。終わりのない戦いの先に、何があるとも知れなかった。

 その戦いを静かに見守る、満身創痍の白い悪魔が骸骨の王に呼びかける。なんとか力になりたいと。

 しかし、骸骨の王は拒絶した。それは絶対的な戦力の差によるもの。全身に傷を受けた白い悪魔は、足でまといにしかならないと知っているのだ。

 

 白い悪魔は歯噛みして、その戦いの行く末を見定める。骸骨の王は長髪の男よりも強い。常に上手を行っているように見える。しかし長髪の男が手にしている槍は、世界級アイテムだということを白い悪魔は骸骨の王から聞かされていた。

 

 世界級アイテム所持者には、世界級アイテムの力は及ばない。白い悪魔の武器である真なる無(ギンヌンガガプ)も、骸骨の王の最終兵器である紅き珠も効果をなさない。奥の手が通じないのだ。それは油断ができないことを意味する。

 だが、そんな戦闘もこれまでだった。

 

 

 ──骸骨の王が白い悪魔に返答をした瞬間、僅かな瞬間だけ戦闘から気がそれたことを理解した長髪の男が、手にした古槍を骸骨の王に突き立てる。

 それが突き立ったのは紅い珠。世界級アイテム由来の凄まじい耐久力を持っていたはずのそれは、同じ世界級アイテムに貫かれて罅が入る。

 

 「なっ……貴様!」

 

 「──邪悪なる魔導王、アインズ・ウール・ゴウン。我が身と引き換えに、その命を貰い受ける!」

 

 ピキ、パキ、と割れる音が白い悪魔にもはっきりと聞こえた。長髪の男は槍を引き抜くと、再度構えをとった。

 その手の槍が黄金の輝きを放ち、物理法則の一切を無視した軌道で骸骨の王に迫る。

 

 「やめて……!逝かないで下さいアインズ様──」

 

 「──結べ!聖者殺し(ロンギヌス)!」

 

 「──モモンガ様ぁぁぁぁッ!!」

 

 白い悪魔は絶叫した。骸骨の王と長髪の男が黄金の光に呑み込まれて消えていくさまに、必死に手を伸ばして吼える。

 

 「モモンガ様ッ!モモンガ様ぁぁぁぁっ!!」

 

 二人を呑んだ光が収束して、闇と静寂が戻ってくる。そこには、愛しき骸骨の王の姿はなく────

 

 

 

 

 

 

 

 寝室の天井があった。

 

 「はぁ……はぁ……。……夢、かしら?」

 

 かなりの現実感がある夢に、白い悪魔──アルベドは背中にびっしりと汗をかいていることを感じた。朦朧とする頭の中を整理しながらシャワーへ向かう。すぐに汗を、そして嫌な気持ちを洗い流したかった。

 

 シャワーを浴びて、いつもの服を着る。鏡の前に立ち、顔色が悪く見えないかを確かめてからアルベドは部屋の外に出た。

 時間帯を問わず煌々と照らされている廊下を小走りで、自らの居場所である玉座の間へと急いだ。

 

 廊下を掃除していたメイドたちとのすれ違いざま、アルベドは訊く。

 

 「アインズ様がどこにいらっしゃるかわかる者はいる?」

 

 「アインズ……さま?ですか?」

 

 「……申しわけありません、アルベド様。どういうことでしょうか?」

 

 困惑するメイドたち。一刻も早く嫌な夢を、至高なる御身を拝謁して忘れ去りたい。そんな思いからの問いだったが、メイドたちは答えを持っていないようだった。

 

 「どういうことって……。……まぁいいわ。仕事の邪魔をしてごめんなさいね。私が自分で探すわ」

 

 《伝言/メッセージ》を使って御身を煩わせるほどではないため、小走りでそのまま玉座の間に入る。

 誰もいないかと思ったが、そこには先客がいた。第七階層守護者のデミウルゴスだ。デミウルゴスはアルベドが玉座の間に入ってきたことに気づくと、振り返って会釈をした。

 

 「おはよう()()()()()、アルベド()

 

 デミウルゴスの態度に違和感を感じて、アルベドは顔をしかめる。

 

 「……どうしたの?デミウルゴス。何のお遊びのつもり?」

 

 「遊んでいるつもりはないんだがね。……君が『支配者代理』の座についたから、私もそれ相応の態度で相対しようと思っただけさ。これまで通りがいいのであれば元に戻すよ」

 

 「支配者……代理ですって?ナザリックの支配者であればアインズ様がいらっしゃるじゃない。なんで私が代わる必要があるのかしら」

 

 デミウルゴスはアルベドの口ぶりに唖然とすると、苦々しい顔で眼鏡の橋を持ち上げた。

 

 「その、アインズ様……というのは?我々の創造主たるアインズ・ウール・ゴウン()()()の意志を告げる精霊か何かなのかい?」

 

 「…………えっ?」 

 

 なにを言っているのだ、この男は。

 冗談にしても全く面白くない。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンは四十一名の至高から構成されるもの。まさかデミウルゴスともあろう者が、人数を間違えるなどあっていいはずがない。

 

 よもや、アインズ様を忘れるはずもない。ナザリックがこの不明な地へ転移してきてからずっと、かの御身が私たちを導いてきて下さったのだから。そして至高の御方々が次々と去られていったにも関わらず、唯一残られた慈悲深き君なのだから。

 

 ふつふつと湧き上がる目の前の仲間への不信感が顔に出たのか、デミウルゴスはアルベドに急かすように言う。

 

 「……まぁ、思慮深い君のことだ。私の考えの外で何をしていたとしても驚きはしないさ。──そんなことよりも、早く命令を貰えないかな?エ・ランテルで何やらアンデッドが大量発生しているらしくてね。別に放っておいても構わないんだが、支配者代理の指示を請うべきだとセバスがうるさくてかなわない」

 

 話が通じない。断じたアルベドの視界に、偶然あるものが入る。

 玉座の間の左右の壁に掛けられている、至高なる御方々の旗。いつも通りならば四十一旗という奇数で余りがあるはずの旗が、あまりなく左右均等に掛けられていた。

 

 そんなはずがない、と目を擦って再度確認する。それでも旗の数は変わらず四十。誰の旗が無いのかを調べようとしたアルベドの脳裏に、嫌な予感が走る。

 

 (まさか、そんなことがあるはずない)

 

 だって、あれは夢だ。夢の中の出来事なのだから。入口に近い方から名前を諳んじていく。ひとり、またひとりと。

 

 

 そして四十旗数え終わったアルベドの顔は、ひどく青ざめていた。動悸がおさまらない。冷や汗が体中から吹き出す。拳を握りしめ、アルベドは精一杯の笑顔を浮かべつつデミウルゴスに尋ねた。

 

 「………………ねぇ、アインズ様の旗はどこだったかしら?」

 

 「……だから、君が言うその『アインズ様』とやらが私には分かりかねるんだよ。それはギルドの名前のはずだろう」

 

 「そ、それならっ……至高の御方々のまとめ役のお名前でも構わないわ!まさか……あの方のことを覚えていないなんてことは無いわよね!?」

 

 デミウルゴスはため息をついて、アルベドにとって最も好ましくない答えを言った。

 

 「……至高の御方々に上下関係はなかったはずでは?……アルベド、貴方はきっと疲れているのでしょう。ペストーニャを呼んできますから少しここで待っていなさい」

 

 デミウルゴスは玉座の間を去ってペストーニャを呼びに行った。

 誰もいなくなった玉座の間でアルベドはしばらく呆然としていたが、ハッと気づいたことに突き動かされ、死にものぐるいの形相で玉座の間を飛び出して、第九階層の円卓の間へと駆け込む。

 

 円卓の一番奥に鎮座しているのは、光り輝く金色の杖。ギルド長しか触れることを許されていない、ギルドの証であり心臓。

 アルベドはその傍にくずれおちると、「申しわけありません、お許し下さい、どんな罰でも甘んじて受けます」と虚ろな目で繰り返し呟き続け、そしてやがて杖に触れてコンソールを出した。

 そこで、アルベドはほっとする。

 

 シモベたちのリストに、あの方が創造したという「パンドラズ・アクター」の名前があった。宝物殿の領域守護者の欄はしっかりと彼の名前が記されている。

 

 

 しかし、安堵は長く続かなかった。

 自身のページを開いたアルベドは、タブラ・スマラグディナが設定した長い長いテキストを素早くスクロールする。

 その最後の最も大事な一文には、こう記されていた。

 

 「ゥ�ェ繧ゥ譁�ュ喧縺を愛している。」

 

 

 そこで、初めてアルベドは気づく。

 自分が愛していた彼の、アインズ・ウール・ゴウンの真の名前を思い出せないことに。

 

 一部分が文字化けしていたその文は、やがて文字化けが全体に広がり、コンソールの背景に溶けるようにして消えた。




階層守護者たちに何が起きたのかとか、そういうことは一切考えてないです。続きもとくに考えてませんし、これで終わりにすると思います。

このお話の続きが思い浮かんだ方はご連絡を下されば、喜んでネタをお譲り致します。


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