雪ノ下雪乃がいて、一色いろはがいて。   作:コウT

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第1話

 午後二時三十八分。

 

『今どこ? もう結衣さん行っちゃうよ!?』

『悪い。今、改札出たから、そのまま荷検前にいろって言っとけ』

『せっかくの見送りに遅刻とかそういうアニメ的な展開は求めてないよ? あ! 妹大好きな兄っていう設定はいいかもしれないけど。今の小町的にポイント高い!』

 

「いや高くねぇよ」

 

 文句を言葉と共にようやく到着。今から搭乗口へ向かおうと、既に荷物検査受付前は列が出来ている。

 その横で小集団を作っている女子、いや女性五人。

 

「遅刻した時点であなたに評価はマイナスになるのだけど?」

「うるせ。遅延した電車と社会が悪い。ついでに言うなら、千葉県民なのに成田じゃなくて羽田で行こうとするお前が悪い。何でアメリカ行くのに成田じゃねえんだよ」

「それはまあ……色々と」

 

 何かを誤魔化すかのように苦笑いをする由比ヶ浜。額からあふれ出ている汗が怪しさを増していく。

 

「グアムで遊んでから、行くからですもんね。いいなー」

「いろはちゃん! それ内緒!」

「ついでに言うと、グアムまでは向こうにいる友人と合流で、その後は留学メンバーでハワイに寄ってから、向こうへ行く予定なんですよね」

 

 後輩達に囲まれて、幸せそうだね。もちろん当の本人は「ううっ……」と悔しそうにしてる。いや別に遊び行こうが行かまいがそこはどうでもいいんだけど……。

 

「まあとにかく向こうで変な人についていっては駄目よ。日本の人みたいに優しくはないのだから」

「大丈夫だってばー! 私、コミュニケーション英語でSだったし!」

「……ちなみにテスト内容は?」

「事前に先生と議題を決めて、会話するだけ―」

 こめかみに手を当て、いつも通りのため息が吐かれる。お疲れ様です。

 と、話している間に荷物検査の列は消えており、そろそろ終わりの時間が近づいてきた。

 

「それじゃあ行って来るね」

「ええ、くれぐれも気を付けて」

「たまには帰って来てくださいねー!」

「小町もお金があれば、遊びに行きますからー……お金あれば」

 

 アルバイト大変そうだもんね、小町ちゃん。派遣も登録して、ちょくちょく行ってるらしいし。それに引き替え、以下省略。

 俺も由比ヶ浜と目線を合わせる。

 

「ま、頑張れ」

「うん! ヒッキーも連絡してよね?」

「あーまあ」

 

 曖昧な返事でも本人は満足の様で、背負っていたリュックサックのショルダーベルトの位置を左右両手で握り締める。

 

「それじゃあ行ってきます!」

 

 

 こうして由比ヶ浜結衣は一年の短期留学へ旅立った。

 

 

 × × ×

 

 

 高校卒業から二年経ち、三年目になろうとした大学生活。

 あんだけサボっても、最後の試験で帳尻合うようになってるのだから大学ってやっぱりしゅごい……まあ騒がしいチンパンの多さも凄い。

 もちろん成人したという事もあり、流石に友人の一人くらいは出来るだろうというマジレスがくると思われるが真のぼっちというのは存在が消えかけるのが特徴なので、「あ、比企谷君いたんだ」「比企谷って誰?」なんていうテンプレ的に名前が会話から出るどころか一言も話していない。いや本当に。

 そんな大学生活も二年が過ぎて、三年になるのだが、上がる際にこれまでの成績で必修科目の単位が取れていない場合は進級不可となる。どう考えても普通に受けていれば、問題ないはずなのだがどこの大学にも勉強の場と遊びの場をはき違える奴はいるもので、毎年何人かは上がれないらしい。

 と、名前も知らない進級出来ない君の話題はどうでもいいので、直面している問題に再び意識を戻す。

 

「んー、どこがいいか」

「この辺とかは? 駅から近いし、小町も通いやすいし!」

「いやお前と俺の大学かなり離れてるじゃん……あと家賃バリ高ぇ」

 

 これにはバリヤードもバーリバリバリ! と言っちゃうレベル。また息を吹き返したらしいし、久々にアプリを起動しようかな。ルビサファ世代だからまた一日帰らず、街中を歩くのもいいかもしれん。やだ、八幡君アクティブ過ぎ……。

 

「もうどこでもいいじゃん! お兄ちゃんなら公園のベンチでも暮らしていけるよ」

「ホームレス扱いにしないでくれる? そもそもお前が良くて、何で俺だけ一人暮らしに出されるのかが意味わかんねえ」

「そりゃあお父さんが小町とイチャイチャしたいからとか? 本当なら結構引くけど」

 

 真顔でケロっと肉親への暴言とかヤンキーかな、小町ちゃん。もちろん心の中で常にお父さん、お母さん、カマクラに感謝してることは知っている。何なら俺には妹ラブコメを体験させてくれるくらいの有能な妹である事を知っている。

 

「本当にどうすんの? もう来週からだよ」

「まあそれまでは……家に家賃を入れて、住まわせてもらうしかないだろう」

 

 いくら何でも家が決まっていないのだから、追い出す真似はしないはずだ。

 こうして話の区切りがつくと、小町のスマホがぶぶっと震えだした。見ると画面に『雪ノ下雪乃』と表示されている。

 

「雪乃さんからだ。はい、もしもーし」

 

 そのままリビングから自室へと戻って行く。別に会話内容に興味はないので、俺も自室へと戻る。とりあえずは春アニメの消化をして、のんびりと考えよう。

 このパターンは間違いなく考えないけれど、何もしないよりかはましってやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、小町ちゃん。その大量のダンボールはどういう事かな?」

「いいから、早くやって。あ、これ小町欲しいから、もらってく」

「おい待て。それ結構気に入ってる」

「あ、この漫画お兄ちゃん買ってたんだ。これも」

 

 翌日。

 静止を振り切って、『小町行き』と書かれたダンボールにどんどん積み込まれていく。兄の物は妹の物というジャイアン理論が働いているようだ。

 つか何これ。どうして朝っぱらから部屋に来たと思いきや、引っ越し準備みたいな事させられてんの?

 

「お前は味方だと思ったんだがな」

「何言ってるの? ようやくお兄ちゃんにぴったりのお家が見つかったから、手伝ってあげてんじゃん。あ、PS4はもらってくねーん」

 

 もう容赦ないですね、君。半ばあきらめながら、とりあえず同人誌やらラノベやらブルーレイBOXやらをダンボールに避難させていく。お前らだけは渡す訳にはいかないからな。

 そんな作業を時折休憩をはさみながら、続ける事二時間。

 全然持っていく物が少ないので、簡単に終わってしまった。意外と一人暮らしの男って少ないよね。服なんて最低限のものばっか。足りなくなれば、買いに行く方が却って安上がりになる。

 

「で、俺はどこの国に連行されるんだ?」

「ここだよ! 千葉からも近い都内某所!」

「某所どころか新木場だな、ここ」

「ネタバレは恨まれるよ、お兄ちゃん」

 

 いやお前が見せてきた地図の右下に思いっきり住所書いてあるし。

 

「そんな訳でまたしばらくは寂しくなるけど、頑張ってね。あ、小町に仕送りもね」

「最後のはともかく、まあ寂しければ会いにこい。飯くらいは作ってやる」

「それはポイント高いですが、個人的にはそれは私以外に振る舞ってほしいものですねぇ~」

「……確認するが、ここってどういう家なんだ」

「普通の家だよ?」

「そうか。じゃあ不動産会社に確認するから」

「そういう探り合いはよくないよ。ほら、さっさと行った、行った」

 

 もう自白してるも当然なんだよなぁ……今更こいつの考える事なんて疑う訳ではないが。

 まあ昨日雪ノ下と電話してたから、どうせ家の場所を教えたんだろう。それくらいなら別にいいか。雪ノ下が家に来るくらいは特に問題ないし。多分一色とかにも教えるだろうけど、それも大丈夫。

 何なら二人共前に一人暮らししてた時からちょくちょく遊びに来てた訳だからな。

 家を出た後は乗り慣れた京葉線でそのまま新木場駅へ。つか本当に大丈夫だろうか。こんなところ、どう考えたって家賃馬鹿にならないイメージがある。まあヤバければ、小町には悪いけれど勝手に変えさせてもらうか。

 

「えーと……ここ?」

 

 もう一度地図に視界を落とす。

 

「ここ……だな」

 

 そこはアパートとかマンションではなく、立派な一軒家。うん、お家。全国のお父さんが夢見る賃貸とかではないローンを組んで購入したかのような二階建てのお家。

 

「どうやら間違えたようだな」

 

 さっそく電話をして、小町に確認しようと思うとガチャっと家の扉が開き、

 

「遅いですよー、先輩」

 

 という聞き慣れた声1に、

 

「本当ね。色々やってほしい事があるというのに」

 

 聞き慣れた声2が被さるように聞こえてくる。

 はは、まさかな。いくらなんでもこの設定を現実にするのは無理があるのではないか。

 ラノベですらもうちょいテンポを考えてやるぞ。まあ現実とは無情なものであり、顔を上げれば、見覚えある女性が二名。

 

「とりあえず届いたダンボールを部屋に運んでください、先輩」

「その後は夕飯の買い物に付き合いなさい」

 

 三月三十一日。

 比企谷八幡と雪ノ下雪乃と一色いろはのシェアハウス生活一日目。

 

 

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