雪ノ下雪乃がいて、一色いろはがいて。   作:コウT

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第5話

「……何だ、このバットエンド」

 

 あまりの結果に朝からドン引きしていた。

 大学も会社も休みな日曜日。いや休みじゃない社畜さんは本当にお疲れ様です。頭が上がらない。

 そんな社畜とは裏腹に僕は布団に包まりながら、ゲームしてました、はい。

 で、どうしてこんな台詞が出たかと言えば、積みゲー化していたゲームを土曜から消化作業中の為だ。そりゃあこの新居に引っ越してから、ゲームというゲームをロクにしていない。というより、出来る環境ではなかったので、この土日でそこそこ進めたかった。

 が、ストーリー中での選択肢をミスり、サブヒロインエンドが見られずにいるのが現状である。無論ネットでググれば、すぐに回答は出るだろう。

 しかしそれでいいのだろうか。いやいい訳ない。

 と、カッコつけてはいるがこのせいでストレスが順調に溜まっているのもまた事実である。

 

「せんぱーい。起きてますかー?」

「ノックしろ、ノック」

 

 部屋の扉からひょこっと顔だけ覗かせているのは同居中の一色である。

 間違っても同棲ではない、同居である。

 

「私達に隠れて、変なことしてたら面白いかなーって」

「具体的に」

「それを私の口から言わせたら、セクハラで訴えますよ?」

 

 想像でが出来ちゃうくらいこの子も大人になってたという事ね……何だか悲しいなぁ。

 一色ってもうこうピュアというか男の憧れの後輩みたいな、それでいてずる賢くて、生意気なとこあって……これ以上いくとどんどんマイナスイメージしか浮かばないのでここで止めておこう。

 と、一色はじーっと俺の持っているゲームに見ていた。

 

「ゲームしてるんですか?」

「ああ。放置になっていたままだからな」

「ふーん。どういうゲームなんですか、それ」

「えーと……」

 

 そりゃあ秋葉原が舞台で、世界線を飛び越えるゲームだよと言えば、大体のヲタクは理解してくれるだろう。しかし一般人は平気で聞いてくるのだ、どういうゲームなんだ、と。

 この説明ははっきし言って、面倒くさい。例えば好きなラノベのどの辺がオススメと言われても、

「オウフwwwいわゆるストレートな質問キタコレですねwww おっとっとwww拙者『キタコレ』などとついネット用語がwww まあ拙者の場合○○○はいわゆるラノベとしてではなく、メタSF作品として見ているちょっと変わり者ですのでw 私みたいに一歩引いた見方をするとですねwwwポストエヴァのメタファーと商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwww フォカヌポウwww拙者これではまるでオタクみたいwww 拙者はオタクではござらんのでwwwコポォ」

 と、なる。いや大分これも省略してるぞ? 本気で語れば、あと二、三行は足らない。

 ちなみにもうすぐアニメ化されるからとか、全く関係ない。

 ポイントが溜まったから、酔った勢いで購入しちゃったとかそういうのも全然関係ない。

 

「まあ何ていうか、いわゆるアドベンチャーゲームってやつだ。物語を進めていく上で必要なギミックを回収していきながら、それぞれのマルチエンドへと向かって行く」

 

 その後も細かい内容を説明すると、「ほえー」と一色の口から言葉が漏れる。お前、そんな反応するのかよ。ゆるキャラみたいだな。

 

「面白そうですね。ちょっとやってみたいかも」

「今やっているやつより最初のやつやったほうがいいだろ」

 

 立ち上がって、引き出しから前作を探す。

 多分こっちに来る時に持ってきている筈なので、ないという事はない。

 

「ほれ。あとこれも」

「それじゃあお言葉に甘えて。あとで感想言いにきますねー」

「ん。あ、もし物語進まないならググれば攻略方法わかるからな」

「了解でーす」

 

 と、機嫌よく俺の部屋から出て行った。

 また布教に成功してしまったか。敗北を知りたい。

 さて。それじゃあ俺も戻るか。いい加減みんなが笑顔のハッピーエンドルートが見たいからな。

 

 

× × ×

 

 

「一色は?」

「それが呼んでも、降りてこないのよ。ご飯はどうするか聞いたら、あとで済ませるからいいって言うし」

 

 その日の夕食。

 この時はまだ特に疑いもしなかった。まあ買ってもらったばかりのゲームってすぐハマっちゃうからな。

 ところが次の日。

 

「一色はまだ帰って来ないのか?」

「それが駅でバッタリ会ったから、一緒に帰って来たのだけど、家に着くなり部屋に閉じこもってるのよ。様子を見に行くと、「何でまたこのルートに行くんですかー!」「あー! どうして何回も殺されなきゃいけないですか!」って」

 

 ああ、そりゃあそうだよな。初見は結構苛苛するけど、よく読んで、考えれば、なんて事ないぞ。

 あくまで俺個人の主観だけど。

 そしてまた次の日、翌日と数日後になっていき……。

 

 とうとうお母さんの逆鱗に触れました。

 

「一色さん。あなたご飯の時間どころか、ずっと部屋に引きこもっているようだけど、何をしているのかしら」

「あ、雪乃先輩。トウットゥルー♪」

 

 えぇ……。少しハマり過ぎなんじゃないですかね。

 

「な、何かしら。その挨拶は」

「いえいえちょっとした流行りの挨拶ですよ。あ、先輩もいるんですね。トウットゥルー」

「お、おう……つかいくらなんでもクリアするのに時間かかり過ぎじゃね?」

「あ、前作はクリアしましたよ。本当ハッピーエンドは泣けましたし、アニメも借りてきて、一話から全部見ました」

 

 どうやら俺は一色の中にあった何かを目覚めさせてしまったのかもしれない。

 人がヲタクへの足踏みするきっかけはほんの些細な事から始まるのだ。だから気づかない間にいつの間にか漫画、ゲーム、ラノベ。同人誌まで買い出したら、もう手遅れ。

 ある意味こいつも未知の世界へ飛び込み、完全に浸かってしまった状態だろう。

 

「ところで先輩。ゼロの方の攻略でわからないところあるんですけど」

「攻略wikiみれば、いいだろ」

「やだなー。自分の力で全部のルートに行くのがいいんじゃないですか。それくらい当たり前だろ常考」

 

 いやお前がそれ使うのは……今度秋葉原に聖地巡礼にでも、つれてってやろうかね。

 

「何章だ」

「この章なんですけど。あと他にも疑問に思った点あるので、ちょっと教えてくれません? てか立ち話もあれなので、部屋どうぞ」

「それじゃあ失礼して」

 

 自然に一色の部屋に招かれ、そのまま中へ入る。

 中は思った以上にさっぱりしており、部屋の端に姿見や箪笥。そして壁には小型のテレビといつ買ったのかわからないが何故かゲーム機の筐体が置いてある。更には人を駄目にするという噂のソファ。敷布団ではなく、ベッドもある。

 

「あ、あの話が全くついていけないのだけど」

「ああ、ここは俺に任せとけ。雪ノ下は下で紅茶で飲んで、のんびりしとけ」

「そうですよー、ご飯になったら、行きますから」

「は、はあ」

 

 困惑した表情のまま、雪ノ下はその場を後にする。何やらぶつぶつ言っていたが、もはや俺達の頭は攻略の事で一杯だ。

 

「この部分のこれって……」

「ああ、これはこうなっていて……」

 

 人間、好きな事の話になるとついつい夢中になってしまうのだから、怖いよね。

 だからオチも想像がつくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。ミイラ取りがミイラになった気分はどうかしら?」

「ま、まあ雪ノ下。落ち着け、お前もこのゲームハマるかもしれ」

「ここでの生活に支障を乱すようなものに興味はないわ」

 

 お、俺もタイムリープしなければ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も語尾にニャンとかつけたら、いいですかね?」

「頼むからそれは辞めとけ。な?」

 

 少なくともここにいるのはラボメンではない。

 

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