雪ノ下雪乃がいて、一色いろはがいて。   作:コウT

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第7話

 一ページ、また一ページ。されど終わりは見えてこない作業が続く。

 

『……おい』

『何だ』

『あと何時間だ?』

『ふっ、慌てるな。まだ時間はある……ある……いやあったのだ……』

『つまり通常入稿は間に合わなかった、と』

 

 スピーカーから材木座の唸る音が聞こえてくる。もうため息吐くことすらめんどくさい。

 にしてもこれ……終わるんだろうか? そう思いながら、目の前にある液晶タブレットに視線を映す。そこにはまだラフ途中の書いているイラストだけがあり、ここからペン入れやら色塗りやらを考えると終わりそうにない。

 ペンを置いて、カレンダーを見る。七月二十一日。試験もほぼ終わり、夏休み突入のこの時期は一部の方々にとっては地獄のスケジュールだろう。

 

「失礼しまーす。早くご飯食べに来なさいって雪乃先輩が」

「だからノックしろ、ノック」

「おっとそれは失礼しまし……絵、描いてるんですか?」

「……まあな」

 

 絶賛アニヲタ進行中のこいつに見つかっても問題ないとは思うが……いや大いに問題有りだな。

 ただでさえ、胡散臭い外見やら死んだ目つき等の汚名が与えられた俺が如何にも消費豚が好きそうなロリっ子ツインテールイラストを描いているのだから。

 

「ほえー、先輩って絵描くの上手いんですね」

「イラストって言ってくれると助かる」

「まあ描いている絵が女子小学生っぽい事に関しては感想なしにしておきます」

「助かる」

「で、何で描いてるんですか?」

 

 やっぱりそこにいきつくよねぇ。

 というわけで説明しよう!

 まあ早い話が今書いているのは来月に迫ったとある大型イベントで出す予定の同人誌の原稿なのだが、そもそも俺は申込をした覚えがない。

 では何故描いているのか? 答えは材木座の同人小説の挿絵と表紙に使うものである。もちろんそれだけでは味気ないという事で俺もひそかにイラスト本なんかを作ったりしたら、結構ハマってしまい、今じゃただのお絵かき大好きさんに。最初は落書きと呼ぶのも恥ずかしいくらいのクオリティなのに二年経った今ではそこそこに。継続は力なり。

 しかしどんなに上手くなっても絵師なんていう高位ある存在とは思い込んではいけない。

 

「ちなみにこれは何のアニメのですか?」

「ああ、これは―――」

 

 一色に説明すると、思い出したのか「あ!」と叫ぶ。

 

「そういえば見たような、見てないような。ここのところ、レンタル屋で一気にDVD借りたり、ネットで一挙放送見てたので似たような奴だとわからないんですよね」

 

 そう発言した一色の方に顔を向ける。

 この子本格的に鍛えれば、いずれは俺達の同志になるのではないか? ほら、女ヲタっていわゆる腐女子と呼ばれるのだけではなく、俺達が好きなラノベキャラを描いたりと幅広い視野で見る人もいるっていうし。

 つまりはコミケで完全に浸透させれば、こいつは……。

 いつの間にか俺の口から笑い声がこぼれていた。

 

「ふふ、ふふふふふ」

「せ、先輩? 結構マジでキモいですよ?」

 

 ここは思いっきり叫びたいところだったが、自重しよう。

 今は目の前の足を踏み入れた新入りを二度と逃げ出せないようにしなければ。

 

「なあ、一色。もし暇ならその……来月イベントに行ってみるか?」

「え? いいんですか?」

「ああ。ちょうど売り子欲しかったし」

「それなら仕方ないですねっ! 先輩の為に後輩がひと肌脱いであげますか」

「おう、よろしく」

 

 一色が笑みを浮かべる。俺もニコニコ。

 さてと。それじゃあイラストの続きを―――。

 

「一体いつになったら、来るのかしら?」

「「ご、ごめんなさい」」

 

 ちなみに今日の風呂掃除、洗物、翌日のゴミ出しは俺になったという。

 

 

 × × ×

 

 

「先輩、先輩」

「何だ?」

「調べたら売り子の人って結構コスプレしてる人多いらしいんですけど、私もしなきゃ駄目ですかね?」

「別にしなくてもいいぞー」

 

 むしろ一色は素のままでいるだけで、問題ないっていうか。だって相手は所詮俺みたいなアニメ大好きで毎シーズン嫁が変わって、ブヒブヒ言ってるようなヲタクである。手玉に取ることはこいつにとっては朝飯前。

 しかし一色は唸った様子で口を開く。

 

「でもちょーっとは興味あるんですよね。ま、まあ別にそこまでっていうか」

「……別に今回描いているアニメのキャラじゃなくても、簡単に出来るコスプレとか調べればあるだろ」

 

 最近は一式売っていたりもするらしいがコスプレイヤーの皆さんはそう言った市販で販売されているものではなく、ディティール一つにこだわっているので自作が多いと聞く。

 実際コスプレ広場で見るレイヤーさん達の衣装はどうやって作っているのかといつも驚かされている。

 一色は俺の本棚がラノベをいくつも取り出して、表紙を見ながら、悩んでいる様子だった。コスプレイヤーいろはちゃんの誕生かなぁ、これ。

 

「あ、これならいけそうかもしれないです」

 

 そう言って、手に持っているラノベをこちらに見せてきた。

 それはちょうど今俺が描いているキャラの原作のメインヒロインのイラストだった。服装はシンプルな制服。ほー、まあこれなら市販の制服コスプレ買って、ちょっと弄れば、いけそうだな。

 

「まあいいんじゃないか」

「ほうほう。ちなみに先輩的にどうですか? 私に似合うと思いますか?」

 

 首を小さく傾げて、されど笑みはいたずらっぽくて。まーたこの子の悪い所が始まったよ。イベントの時もこんな感じで「えーお兄さんはこの恰好可愛いと思いますかね?」って言うんだろ? 知ってる、知ってる。

 

「ああ、可愛い。こんな可愛いいろはす見た事無いーすごーい」

「わー凄い棒読みー」

 

 一色はちょっとがっかりしたのか、がくんと肩を落とした。

 いやまぁ、マジトーンで俺が褒めたら、変な空気になるでしょ? シェアハウス中で恋愛沙汰禁止っていうルール忘れてないからね?

 紛らわすように液タブに集中すると、一色から質問が投げられた。

 

「そういえば夏休みって先輩ってイベント以外はどうするんですか?」

「ん? ああ。イベント終わったら、一応実家に帰るけど」

「ずっとですか?」

「いや少ししたら戻るけど?」

「じ、じゃあ! どこか旅行行きませんか? 三人で」

 

 食い気味に迫ってきた一色に戸惑う。いや近いから。さっきの空気感に戻りそうになるから、ストップ、ストップ。

 

「俺はいいけど、雪ノ下が了承するかどうか」

「あ、雪乃先輩ならもう了承もらいました。でもまだ試験が終わらないらしいのでそれ以降って事らしいです。あっでも! イベントが終わった時までには全部終わるらしいんで」

 

 やっぱり国立ともなると、試験期間が長いものなのだろうか。私立大学とは色々と違ったカリキュラムになるだろうし。

 

「よーし。それじゃあ私も衣装作り頑張りますかね」

 

 そう意気込みながら部屋を出て行く一色を見送ると、こちらも意気込んで、ペンを走らせる。

 

『……もう話してもよい?』

『あ、悪い』

 

 そういえば電話してたの忘れてたわ。

 

『一応こっちは誤字、脱字のチェックが終わったのだがそっちはどうだ?』

『こっちもほぼ終わり。挿絵と表紙の絵は今日中に送るわ。イラスト本も多分間に合いそうだから、いつも通り頼むわ』

『うむ、買い出しも我に任せたまえ! まあそれは置いといて』

 

 材木座はげふんげふんとわざとらしく咳をすると再び会話に戻った。

 

『えーと……彼女来るん?』

『一色の事か? まあ会話を聞いていたなら、ご察しの通りだ』

『あ、あの……我のスペースにだよね?』

『まあな』

『売り子って事は我と八幡と彼女さん……ふふふ、どうやら当日。我は他の戦友に援軍として派遣される事が』

『ああ。行って来い。というか暑さで汗臭くなるから、あまり来るな』

『我のスペースだよね?』

 

 

 そんな会話をしつつも、その日の夜には小説本もイラスト本も脱稿。

 そして数日経ち―――イベント前日。

 いや当日じゃなくて前日になったのはちょっとした問題が起きてしまったのだ。

 

『は? 明日こっちに来る?』

『うん! 夏休みだし、小町も三人の秘密のアジトにお邪魔したいのです』

 

 さーて無事に終わるかどうか。いやこれ終わらないフラグだよな……な?

 

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