──気がつくと、首から花弁が舞っていた。
──不思議と、才能を得たのだと分かった。
──以前の自分が思い出せないが、些細なことだと思った。
──自分はこれから、『ラインハルト·ハイドリヒ』として生きていくのだから。
◇
──予想外だった。
──そんなモノを与えた記憶も、そんなモノを作り出した記憶もない。
──そもそも、その才能はそんな才能ではない。
だが──面白い。
◇
「──私が気付かないとは、卿の才能は暗殺か、或いは隠行か? そのどちらでも無いように思えてならないが。」
「──いやいや、俺も気付かれるとは思っていなかった。少なくとも、こちらから話し掛けるまで、俺は、君たちにとってただの偶像だからね。」
玉座に掛けたまま、黄金の獣は薄ら笑いを浮かべる。玉座の真後ろで、獣の爪牙たる少女たちが居れば、不敬と断じられ首を落とすであろう位置で、黒ずくめの男は、穴の空いた顔で愉快げに笑う。
「俺は、アラン。アラン·スミシー。」
「私は──ラインハルト·トリスタン·オイゲン·ハイドリヒ。」
心地よく、黄金の獣は言葉を紡ぐ。頭を痛ませていた既知感は、なぜか感じない。知っているのに忘れているのか、或いは、本当に知らない会話なのか。どちらにせよ──心地いい。
「卿は──廻り者ではあるまい?」
「あぁ。俺はユーザーじゃくて、クリエイターの側だからね。」
輪廻の枝で首を掻き、命を懸けて才能を得た廻り者が問う。返す男は何者でもなく、何も気負わない。
「何故、こんモノを作り出した?」
「望まれたからだよ。君たちはいつも、口を開けた雛鳥のように欲しがるばかりだ。」
カランビットナイフのような輪廻の枝。それの柄に開いた輪に指を通して、黄金の獣は退屈そうに弄ぶ。
「そうか。では重ねて問おう。何故、この場に姿を表した? 卿は作り手であって、セールスではなかろう? アフターケアに来たわけでもあるまい。」
「なに。作った覚え、与えた覚えの無いモノを持つ者がいたからね。様子を見に来たのさ。それが功名か単なるバグか、見極めるために。」
弄んでいた輪廻の枝を、纏う黒い軍服の懐に仕舞い込むと、ラインハルトは長い金髪を靡かせて立ち上がった。
「結果を聞いておこう。」
「あぁ。君は──」
「消すべきバグだ。それ以上でも以下でもない。」
「今頃気づいたようだぞ、カール。」
「なんたる蒙昧、なんたる無知か。物差しの尺度を疑ってはいたが、そこまで矮小とは。あぁ許されよ、獣殿。その相手では、貴方の渇きは癒せない。」
顔のない男は笑みを消し。
黄金の獣は変わらず嗤い。
そして、水銀の蛇は失望する。
「やはり、第二のスワスチカは必要か。それに私の分身も。この世界では、女神に捧ぐに値する宝石は生まれ落ちない。この結論も最早何度目か──。」