うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
魔法師協会関東支部では緊急かつ重要な会議が行われようとしていた。
先日発生した九校戦最終日のミサイル誘導事件についての十師族と軍の会議だ。
ただ、その性質は決してオープンなものではない。日本の魔法師の頂点の内、一握りだけが集まっている。
本来であれば現日本魔法協会会長である十三束翡翠の同席も検討されたが、京都での外向きに重要な会議があり、代理としてこの場合は協会理事の一人が同席している。協会も会議に参加したというアリバイだ。
・国防軍
佐伯広海少将
風間玄信少佐
・十師族
七草弘一
九島真言
十文字克人
この五名が円卓につくと、司会役として同席した理事が宣言する。
「今回の会議内容は公表されませんが議事録を協会が保存します。発言内容には十分ご注意を」
あまり波風を立てるな、という協会からの一刺しだ。もっと言えば中立宣言でもあり、議題への介入放棄でもある。
「事件のあらましは把握されておりますな?」
風間の言葉に十師族の三人は頷く。
十師族の七、九、十の家が出席したのは各家に役割があるからだ。
首都防衛という重役の担い手、そして今回の件で首都圏への影響を懸念する十文字家。
関東圏の守護を行う七草家は、十師族の重鎮、九島家へのカウンターバランスとしての出席。
九島家は十師族を代表として、軍の意見を聞くため。
七草と九島はその関係性が複雑だ。九島真言と七草弘一は年齢が離れているが若いころからの知己であり、友人以上親戚未満といった距離感を何十年続いている。七草弘一が九島烈の弟子筋ということから、個人の関係と家の関係が、個々人の心中に複雑に絡みついている。
「今回の件については、十師族は全面的に協力を約束しますよ」
「それはありがたい限りです。現場からの報告では、特殊な魔法を使用する魔法師が目撃されています。もし民間の魔法師が関係するならば十師族ひいては協会からの情報提供が不可欠ですから」
九島真言の発言に、感謝ししつつ、求める情報を開示する風間。関重蔵の持ち込んだ「治療」の件で二人は面識がある。
「犯人の目星はついていないのですか?」
この面子の中で一番若い十文字克人は緊張した様子もなく疑問を呈する。
19歳の青年とは思えぬ迫力だが、他の出席者に比べるとあまりにも場慣れしていない。
九島真言は60代、佐伯は50代、七草ももうすぐ数年で50歳だ。風間でさえこの中では若手だ。
「現在のところ捜査中ですが、単独のテロリストと考えられます。個人の特異な魔法によって侵入し、精神干渉による短期間洗脳によりミサイル発射の権限を持つ基地司令を操ったのではと。目的を持つ組織的な行動なら、ミサイルの照準から15分以上声明の発表や行動を起さないとは考えられません。その点から個人の可能性があると睨んでいます」
佐伯の説明に十文字は頷いて納得した。組織に所属しないテロリスト。捜索には骨が折れる。
「それは今回の犯人が無目的に基地を占拠したということですかね?」
七草弘一は謀略好きとして一部に知られている。発言の一つ一つが意味深で、裏を感じさせる。
「無目的かどうかはわかりません。動機が不明ですから。場合によっては劇場型犯罪の第一幕の可能性もあります」
(どうも、こちらの隙を突きたいような気配がする)佐伯はそう思いながらも現時点での見解を述べる。
九島真言は協力、十文字克人は情報、七草弘一は牽制と佐伯は感じる。
「捜査について主導はどこに?メディアへの報道規制されているということは情報部で?」
突っ込んだ七草の質問に対して、1秒ほど佐伯は考えてしまう。この男に余計なことを言うと曲解を盾にどんな手を打ってくるかわからない。
「相手の能力や技術が不明ですので、情報部と101旅団が主導になるかと。ただ海外の組織との繋がりが判明した場合は各省の各部署と連携すると思いますが」
七草の表情はサングラスで読み取りにくい。
かつてある事件で隻眼になり若い頃は眼帯、今はサングラスで目元を隠している。
「どうでしょうか?人口の集中する関東圏、関西圏は十師族でもここにいる七草、九島、十文字の管轄地。より密に情報交換をするためにも、連絡官をこの三家と軍との間に設けませんか?軍側に人員数の問題があるならば各家から出すというのは」
佐伯は(ほら来た)と心中で膝を打った。
適当な人物を101旅団か情報部内に常駐させ、家の有益になる部分をつまみ食いしようというのだ。
九校戦での事件は軍は、不本意ながら、加害者の立場だ。基地を占拠され、軍保有のミサイルが若い魔法師を狙った。
魔法協会としては「若い魔法師を人質に取られた」という点では被害者だ。
その中で十師族側から人員を割いての協力要請だ。断る方便が必要になる。
「御憂慮いただき感謝します。ただ現在情報部内で指揮系統の調整が続いています。数日内には体勢が固まりますので連絡官の所在については後日ということでは如何でしょうか」
実のところ、指揮系統は固まっている。情報部一課が主導権を持ち、現場での戦闘を想定して常に101旅団から首都圏と関西圏に各1大隊が待機することが決定している。
佐伯は事もなげに七草の言葉を賺(すか)す。
「まあまあ、調整という意味では我々十師族も軍との協調行動の報告を各家にせねばならない。即断即決とはいかんよ。数日内、まあ2日3日で決まるなら早い方と思わねば」
九島真言からフォローが入るが、反面佐伯が得られた猶予は最長で3日だ。その間に軍は十師族から来る連絡官の立ち位置と対応方法を協議せねばならない。
情報部は部外者を嫌う。特に十師族は利害関係が軍、情報部内に張り巡らされており「連絡官」の調整がどのあたりで落としどころが着くか、今の佐伯では見当がつかない。
「そうですな。少々気が急いてしまいました」
七草はそう言って軽く微笑む。即日に連絡官を送り込むことは出来なかったが、連絡官設置が前提として話が進むのはこの場で求められる報酬としては十二分だった。
「では連絡官については後日」
風間が確認すると全員がうなずいた。
◆
「これは違法捜査ではないんですか?!」
カチューシャの厳しい声に対して捜査員たちは動じない。
九校戦から1週間。会場がミサイルの的になっていた事実をカチューシャは極秘裏に調べ上げていた。
個人的な伝手もあるが「陣地」化したマンションの情報端末を駆使すれば、軍機密でもある程度は調べられる。
ただ富士基地での具体的な事件の推移まではわからなかった。
カナデとも連絡をとったが反応が鈍い。メッセージの返答に半日以上かかっている。
九校戦の最終日の懇親会でもカナデの表情に精彩が無かった。まるで美しき幽女のようであった。
(どうしたものか・・・)
カチューシャは自分の動きを決めかねていた。
この後起きるのは【古都内乱】だが、すでに「伝統派」を名乗る無頼の民間魔法師は少ない。
カチューシャの「西日本民間魔法師連絡会」の影響により、定職や社会的認知を得た魔法師が一定数いる。
互助団体として完璧とまではいかないが、効果を上げている。
それに「周公瑾」は横浜にいない。横浜の事件後大急ぎで調べたが既に影も形もない。
東京の転生者たちが動いたんだ、とカチューシャは予想していた。
【古都内乱】つまりは3か月後の論文コンペ前の数週間を舞台とした、軍内部・周公瑾・伝統派が暗躍する事件が発生する可能性は低い。
事件が起きないことで、市民の被害が出ないのはカチューシャとしても良いことだ。事件により市民へ被害が出ることの恐ろしさを横浜で学んだ身としては、このまま論文コンペに突入するのもありかと考え始めていた。
そんなある日だ。突然家族と過ごす日曜日に警察が自宅にやってきた。
府警の公安と名乗って父を連れて行こうとした。
突然の連行に違法捜査を訴えたが「任意同行」の名目で押し切られた。
入国管理局であれば弁護士を呼んだが、相手が「公安」となると話が複雑になってくる。
一度連絡会の関係で公安が絡んできたが、複数人の弁護士で対抗して何とか丸く収めた。
それ程公安というのは厄介だ。
カチューシャは父が車に押し込められるのを情報端末で録画しながら次の行動を考えていた。
母には自宅で待つように言って、ある人物へメッセージを飛ばした。
◆
「名代っていうヤツです」
五輪鳴門は、東京の四葉邸を訪れていた。
体格的には平均的。凛々しさと愛嬌を合わせた人好きする容貌。
短くした髪はやや茶色で、光の加減によってはもっと軽い色にも見える。
応接室で対面する光夜は表情に出さずに困っていた。
(なぜ、四葉なんだ)
五輪から「挨拶をしたい」と話があったのが3日前だ。
そしてやってきたのは、この少年だ。
七宝琢磨や緋村武心と同い年のはずだが、十分交渉役として風格を醸し出している。
「疑問がある。なぜ四葉に接触した」
時折深雪に指摘される光夜の悪い癖だ。疑問を直接相手にぶつける。
そう言われて鳴門は肩をすくませた。
「だって四葉ですよ。魔法師、特に大事件には四葉が絡んでいると考えて当然でしょ」
酷い風評被害だと一瞬思ったが、人体実験や幼児虐待紛いの訓練、殺人教唆等々、今までやってきたことを思うとそう思われても仕方がないと光夜は納得した。
「今回のミサイル事件について、四葉の見解をお聞かせ願いたい」
「そういうことは本家に聞いてくれ」
「本家の窓口もわからないから、四葉を名乗るあなたに」
「協会経由では?」
「協会が四葉に対して意向調査を行えると」
「愚問だったな」
光夜は自分で入れたコーヒーに口をつけた。
人からは意外と思われるが家事や料理は光夜は得意だ。
チートである多芸多才の影響でもあるが、現世でのアニメや漫画に興味を持てなかった代償として家事や料理へ興味を持った。ちなみに得意料理は「ピザ」で自分で生地から練る。
「言っておくが、今回の件で四葉は特に意見表明することはないだろう」
落ち着いた声だが、まるで他人事のように光夜は説明する。
「俺がミサイルの誘導範囲内にいたという意味では四葉は被害者だ。九校戦から十日以上経過して、五輪家の耳にこちらの動向が入らないのであればそういうことだ」
そういうこと、「動いているが情報が手に入らない」か「動いていないか」そのどちらかと鳴門は判断した。可能性として高いのは前者。だが目の前の男の落ち着きからは後者のようにも思う。
「あなたは五輪家を評価されているんですね」
先ほどの光夜の言い草は五輪の諜報能力を少しなりとも認めている様に聞こえた。
鳴門としては将来は五輪澪や五輪洋史の耳目として五輪の諜報に従事するつもりだ。
それだけの恩があり、恩を返そうと思う義理堅さが鳴門にはあった。
「十師族で軍と良好な関係を結んでいるのは五輪家だけだ」
「ごもっとも」
(軍との関係性を含めての評価か)と鳴門は少し残念な気持ちになった。
そしていつか万人から「五輪の諜報能力にも一目置かれよう」という気持ちも強くなった。
「遠方からの客人だ。聞きたいことがあれば答えよう」
光夜の言葉で鳴門はさらなる質問の機会を手に入れた。
この言葉は光夜の気まぐれだ。というのも九校戦から状況が遅々として進まない。
七草、九島、十文字と三家が軍との間に連絡官を置いたが、活発な情報交換がされている様子はない。
もっと言えばアラタ、関重蔵と九校戦のスティープルチェイス戦前に会って以来、姿を見ていない。
カナデは九校戦翌日に会ったが顔色は優れなかった。アラタの行方については「答えられないのが答えよ」と言った。
転生者間での情報交換も出来ず、頼りになる男は行方知れず。
達也からの情報も「今は言える状況ではない」と軍人として意識的に口をつぐんでいる。
「では遠慮なく」
五輪鳴門とっては僥倖だった。あの四葉光夜に質問が出来る。それも特に範囲は指定されていない。
今回の名代は命懸けだった。
突然の訪問、不躾な質問、相手の腹を探る行為。
下手をすると五輪と四葉の戦争になり得る可能性があった。
もし、両家の関係に亀裂を入れることとなれば、自分の命で償う覚悟があった。
(そうなったら澪さんと洋史さんは悲しんでくれるだろうか)
「あなたと四葉の御当主の血縁関係はどの程度で?」
「直球だな」
微かに光夜から笑いが洩れる。苦笑のようにも見える。
鳴門は自分の言葉が、地雷を踏んだのか笑いのツボに入ったのか判断がつかない。
握り込んだ拳は汗でひどく湿っている。
「単なる遠戚関係だ。血のつながりはあるが四葉の姓を名乗ったのは高校入学の少し前だ」
光夜の答えに鳴門は内心ホッとする。地雷を踏んだわけではなかった。
だがこれ以上の突っ込んだ話は命懸けになるのでは?と鳴門は感じていた。
質問の踏み込み具合も、四葉光夜相手では見極められない。
「では、今度は俺から質問だ。お前は特異な魔法特性を持っているな」
光夜が突然の質問をして来た。
五輪鳴門はこの後30分程交互に質問する時間を得た。
だが、目の前の美青年の迫力と異様な空気に呑まれたのか、四葉の家のことより自分の情報を多く話したような気がした。
◆
五輪鳴門が四葉光夜と会談していた頃、関重蔵は大阪の街にいた。