うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu
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【幻】パワーゲイザー!!!

夜の港湾地域。

最近はコンテナを改造した宿泊施設「コンテナハウス」というのが新大阪港の一画に出来たらしい。

ビジネスホテル程度の値段だが、コンテナを区切って作られた部屋は広く、安く滞在したい旅行者が多く利用しているらしい。

 

夜露で地面が濡れ、街灯の反射がアスファルトに映り込む。

数十個のコンテナが並ぶ。受付と書かれたプレートが掲げられた緑のコンテナでは、受付担当の男が多国語を駆使して応対をしている。

扉の空いているコンテナからは明かりが漏れ、人の笑い声が聞こえる。この周辺だけは明るくにぎやかだ。一区画向こうのコンテナは静かに荷受けのトラックを待っている。

 

俺はこの数日「バックパッカーの若者」として大阪の街を歩いている。

あの男の「串揚げ」という言葉と次元の穴らしき先に見えた大阪の高層ビル群から調査範囲は大阪に絞られた。

そこからさらに移動している可能性もあるが、今はこの街を歩き、調べるしかない。

軍人然とするより、このカッコの方が自由に動ける。公権力による捜査は別の連中に任せた。

 

「部屋空いてます?」

受付の男に声を掛けると高めの声で「空いてるよ!ただ二階建ての一階だから上の音が響いても勘弁してよ」と返事をもらった。前金でいくらか払う。残りはチェックアウト時だ。

男はラジオから流れる曲に体をゆすりながら手元の端末に俺の情報を入力していく。

「旅行?」

「夏休みが9月10日までなんで、西日本をブラブラ。一昨日まで四国」

「いいね~。俺、岡山出身なんだけど後楽園スゲーよ」

そんな世間話を少しして俺は割り当てられたコンテナへ向かう。

 

目的は一つ。手がかりを拾うことだ。あの男が大漢のジジイと繫がっているなら、どこかに匿うはずだ。だが引き連れている多数の遺体はどうするか?どこかに一カ所に管理するか、適当な人が集まる場に隠すか。

この数日は大阪にある廃墟や郊外のキャンプ場を歩き、そして今日はコンテナハウスだ。

報告の奈良の病院から消えた遺体は1体だけではない。複数体を隠すとなると「人込み」か「人が近い寂しい場所」のどっちかだ。

 

今はただ急いで、足で探すしかない。

軍の基地を占拠できる個人と、国家への反逆意識を持つテロリスト。繋がっていれば最悪だし繋がっていなくても最悪だ。

 

コンテナに荷物を置き、俺はぶらつくふりをして通常の貨物コンテナ群へと足を踏み入れた。

コンテナハウスから一区画となりだが、すでに人の声は遠くに聞こえる。

 

貨物コンテナを一つ一つ調べる。軽く叩き、貨物の重量や形を調べ、時には情報端末のイケないアプリケーションを起動させ、貨物内の動的存在を調査する。

4時間近く歩いては調べ、歩いては調べを続ける。光夜当たりなら魔法を使って効果的な調査も出来るだろう。この時ばかりはあの天才児の才能の便利さが欲しくなる。

 

意外なものでカナデと離れて2週間以上たつが寂しいという気持ちにはならない。

軍神の加護というものもあるが、昔っから女を置いてきぼりにしては殴られることばかりなので慣れっこだ。

女に刺されて死ぬか、戦場でろくでもない死に方をするかの二つに一つだと思っている。出来れば前者がいいな。

 

調査作業も5時間を超えたところで、見つけた。いや遭遇したというのが正しいか。

コンテナの中には不規則に動く人型の存在を情報端末は指し示す。

可能性としては密入国者、もう一つは・・・顧傑が仕込んだ死体だ。

 

情報端末から捜査本部へ連絡。10分程度で来るだろう。

俺はコンテナの周辺に隠れ、近づく者がいないか監視する。

あの男の仕込みなのか?それとも偶然の発見か?顧傑とあの男・・・影の中の男との関係はこれで決定づけられるのか?

 

俺がした顧傑とのつながりの問いに答えなかったあの横顔は、感情が読めないというより俺を無視していた。

もし繋がっていれば死体損壊辺りが罪状につく。そして国際的なテロリストの共謀も視野に入るな。

正直、この「富士基地占拠事件」と「顧傑追跡」は俺の中で非常に複雑に絡み合っている。

 

雪光曰く「十師族会議」での悲劇は全て顧傑によるものらしい。だがその心配はもう無い。周公瑾はこちらの手の内で鎌倉の古式魔術師も少し前に公安にマークされた。

すでに既知未来からは果てしなく乖離しているが、そこに強力な存在が関わることで「顧傑」というトラブルが別の形で顕在化するのではと思っている。

 

wikiとアニメonlyの俺でさえ顧傑の存在やその厄介さは把握している。影の中の男がどの程度この世界に精通しているかわからないが、雪光に匹敵する詳しさであれば既知未来との差異や、俺たち転生者の実力を把握していると考えてもいい。

 

九校戦による司波三兄妹弟の存在、四葉光夜の活躍、横浜騒乱で流れた獅子奮迅した学生たち。

情報を拾おうと思えばいくらでも拾える。そして玉石混合の情報から正しい情報を見抜くのは転生者なら容易だ。

 

果てしなく不安なのだ、俺は。唯一影の中の男と対峙し、その実力をこの身で痛感したから。

 

光夜の才能や雪光の実力、司波達也の恐ろしさはよくわかっている。

だが、至高の魔術師の実力は未知数だ。

影の中の男の能力が本当に【究極と至高の対決的な魔術師】なら司波達也でも危ない。四葉光夜でも勝敗は不明だ。司波雪光の速さを持ってもしても必殺とはいかない。

 

結局のところ「悪意のある闖入者」なのだ。それも実力の判断がつかない領域から来た。

まるで、沼の底から現れた悪意のようだ。対峙してもいいモノなのか?殺せるのか?それとも逃げるべきなのか?

 

そして不安は一瞬で霧散した。

 

影の中の男が街灯の明かりを背にコンテナハウスとは違うところから歩いて近づいてきたのだ。

 

 

影の中の男の回りには精気を感じない歩き方をする男女がついていた。

顧傑が仕込んだリビングデッドなのか?

 

40代の男性と、20代の女性だ。二人ともどこにでもいそうなビジネスマンの服装だ。

 

監視対象のコンテナに近づき、情報端末をコンテナに備え付けられたモニターにかざす。

コンテナの扉が開く。影の中の男は連れてきた男女をコンテナの中に入れて、また扉を閉める。

そして口笛を吹きながらコンテナハウスの一群へと歩き出す。殺気を漂わせて。

 

あいつはコンテナハウスで追加する気なのだ。少なくともあそこには数十人の旅行者がいる

 

俺はコンテナの影を素早く、静かに移動する。

息を止め呼吸さえも止める。

 

コンテナの影から矢のような速さで飛び出し、男の脇腹に拳を突き出す。

男は俺の存在に一切気づかなかった。

 

夜の闇、遠い所から聞こえる人の喧騒、そして俺自身の隠形の術。

 

先制攻撃は大成功だ。俺の拳には奴の肋骨を砕く感触と、剄が内臓まで浸透する感覚が残った。

殺してもよかったが顧傑との関係を洗う必要があったので殺すわけにはいかなかった。

 

組技も一瞬悩んだが、下手に接触してもどんな攻撃手段があの男にあるかわからない。

 

男は数歩たたらを踏んでよろける。片膝を着き口から何かを吐き出す。

コンテナハウスの光が逆行となり色は見えないが、粘りのあるそれは血なのだろう。

内臓の損傷でとどめなく血を吐く。だが男は左手を少し動かすと自分自身を覆うような魔方陣を展開する。

 

俺は即座に貨物コンテナへと姿を隠す。

男は貨物コンテナの裏にいる俺を把握しきれていないのか、あいつは光る塊を中空の魔方陣から無作為に放つ。

何かを叫びたいのか口を開くが出てくるのは血だけだ。

 

あいつをコンテナハウスから遠ざけねば。

 

影の中の男は手に一つずつ魔方陣を展開させる。

貨物コンテナのいくつかが宙に浮く。

「どこだ!」

影の中の男が怒りの声をあげ、滅多やたらにコンテナを投げつける。

俺の位置を把握できずにいるのだ。

 

相手にしないとそれはそれで被害範囲が広がる。あの男の意識を俺に集中させる必要がある。

コンテナの陰から出て波動拳を一発。当たりはしない。男のそばの地面をえぐる。そのまま次のコンテナの陰に隠れる。

「殺してやる!」

男の怒号。そうだ、痛みと怒りで正常な判断力を失え。突然の襲撃。激痛。混乱と夜の闇。

過信した実力が行動を狭める。本来なら逃げの一手だろう。だがこの男は襲撃者を殺すことに執着し始めている。

「どうした!【イケメンというほどイケメンじゃないけど雰囲気がイケメン英国男優】!そんな顔だとNGシーンだぞ!」

コンテナの陰から大声で挑発する。今頃「あの時の奴か!」と内心気付くだろう。

 

「そこか!」

 

おいおい、その台詞は負け台詞だぜ。

影の中の男は魔方陣を展開し、4つのコンテナを俺の方へ勢いよく転がす。まるでボーリングで跳ね回るピンのようだ。

俺はコンテナの陰から出て、転がる四つのコンテナと対峙する。

 

俺は片膝を着き、右の拳で地面を叩く。

「パワーゲイザー!!!」

別に声を出す必要はないが飢狼伝説2に10,000円以上吸われた身としては元を取るためにも声に出してみた。

お年玉がみるみる溶けたのは思い出したくない。

俺に向かって飛んできた4つのコンテナは巨大な闘気の間欠泉にぶつかり、ひしゃげて動きを止める。

 

闘気の光が収まる前に俺はまたコンテナに隠れる。

【イケメンというほどイケメンじゃないけど雰囲気がイケメン英国男優】もどきが不明瞭な声で騒いでいる。

 

また複数のコンテナが宙に浮く。俺は暗闇へ暗闇へと動きつつ、影の中の男めがけて雷刃波動拳を立て続けに撃つ。

雷撃を魔方陣で遮り、男は防戦一方だ。

このまま物量で押切り、捜査本部の応援が来たらキツいのを一発ぶつけて確保だ。

 

そう思っていたがコンテナハウスの方から悲鳴や人々が騒ぐ様子が伝わってくる。

男はコンテナハウスに目をやる。

まずい。もう少し、もう少し引きつけなければいけない。

 

地面を叩き、奴に地を這う衝撃波「パワーウェイブ」を放つ。

偽カンバーバッチは衝撃波を魔方陣で防ぐ。

さらに俺の視線を塞ぐように複数のコンテナを自分の周辺に浮かせる。

鉄の箱を盾にしたのは俺ではなく今度は奴だ。

くそ、上手くいかないか。

 

コンテナハウスの喧騒で下手に冷静になられると奴も逃走の選択肢が浮かぶだろう。

奴から冷静さを奪わねばならない。

雷刃波動拳を撃ちながら移動するが、奴はコンテナを盾に動こうとしない。

夜の闇の中、奴の意識が徐々に冷静になっていくのを感じる。激痛も慣れ、奴は感情を抑え始めた。

 

そこで俺の感覚が後方のコンテナハウスから疾走してくる人物を捉えた。

奴は俺を無視してその人物へとコンテナを投げつけた。

コンテナは勢いよく飛んでいくが一瞬で「分解」される。

そして俺の後方から一筋の光が男へ飛んでいく。

男へ向かう光は魔方陣によって遮られる。そして次の瞬間には影の中の男は魔方陣を展開し消えていく。

 

「今度は万全にして遊ぶよ!お兄様!」

 

そんな言葉を残して消えていった。

宙に浮いたコンテナは落ち、俺の視界には崩れ落ちたコンテナ群とぐちゃぐちゃに破壊されたアスファルト。そして海へ広がる夜の港だ。

 

「おい、これはどういうことだ」

困惑など一切ない。冷静で知的な声。よく聞く声だがあいつではない。

振り向くと、年齢にそぐわぬダークブラウンのスーツが妙に似合っているのがわかる。

「タッちゃん。こんな短期間で再出張なんて、USNAも意外とブラックだね」

街灯の無いこの場所でもわかる。

振り向いた俺の顔を見てあの地味系イケメンは困惑しているはずだ。

かつての同級生で格闘馬鹿が、なぜこんなところにいるのか。








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