うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
警察省の警部である千葉寿和はその日久しぶりのデートとなった。
同年代に比べると長身の部類に入り、剣術で鍛えこまれた体躯に、決して汗臭くない顔つき。
学生時代は渋谷を根城に遊びまわったが、今は警察キャリア組として充実した生活を送っている。
ボチボチ婚期といえる年齢となって来た時に運命の相手と出会うこととなった。
今回のデートの相手、藤林響子である。
お互いのスケジュールが合致してから1週間。
千葉は死に物狂いで色々調べデートプランを構築した。
公安系部署の外事的な案件に多く参加させられ激務の中ではあるが、何とかひねり出した一晩だ。
仕事の関係があって18時に会うことになったので、長時間歩き廻るのは少し厳しい。
どこか一箇所寄って、19時過ぎに食事の出来るところに入って・・・残念ながら翌日も仕事なので夕食とどこか落ち着いてアルコールを取れるところに行き、彼女を彼女の自宅に送り、車内でキスでも、と綿密かつ自分に有利なイメージトレーニングしていた。
◆
「あれ?千葉さん」
「お姉さんもデート?」
(なんでだ!)
不意のことに千葉寿和は内心で驚いた。
千葉寿和は、中世日本絵画展をのぞいてから近くの和風レストランでの食事のスケジュールを立てた。
「たしか九島の本家からも何か貸し出しているらしいので見に行くのも面白そう」
と藤林響子からはデートプランに合格点を貰っていた。
さてこれから絵画展の行われている展示ルームへ踏み入れようとしたとき、展示ルームから出てくるカップルと出会った。
国防軍101旅団魔装大隊の関重蔵少佐と藤林響子の妹の奏だ。
「や、やあ君たち」
声が少し上ずる。自分の声が動揺しているのを千葉寿和は感じていた。
どうも、この二人には弱い。
大阪の事件で捜査本部で相馬新こと関重蔵と顔を合わせた。
妹の同級生が国防軍の少佐というのには度肝を抜かれる。
「軍機ということで一つよろしく」と凄みのある笑顔で言われた時は裏返った声で「はい!」と敬礼してしまった。
その15分後には東京へとって返したのでちゃんと話する機会はない。
捜査本部にいる時間より長距離コミュ―ターに乗っている時間の方が長い謎の出張であった。
公安系の先輩に聞いたところ「あの人ヤバいからな、深入りすると公安仕事から抜け出せなくなるぞ」と注意された。
藤林奏とは妹の友人であり運命の人の妹ということで、何度か顔を合わせている。
大人っぽい女子高生だ。
(うちのエリカももう少しこの落ち着きを見習ってほしい)と勝手に思っている。
ただ時折、年長さの余裕を醸し出すのでどうもペースが握れない。
だが藤林響子へのメッセンジャーとして色々動いてくれて助かっている。
「君たちもデートか」
自分の笑顔が引きつっている様に千葉和寿は感じた。
結局関少佐は、デートの邪魔をすることなく、帰っていったが藤林響子との話題は
関重蔵という怪人物の話が中心となり、なんとなく車内でのキスのタイミングを逃してしまった。
後日、千葉寿和のもとに関重蔵からビンテージワインと二つのグラスと「次はこれで決めろ!」というメッセージカードが送られてきた。
◆
「これ以上は無駄です」
七草本邸の書斎では名倉三郎が七草弘一に、事件の報告と今後の調査打ち切りを進言した。
すでに50を超えた名倉はその年齢には見えないほど若々しい。40台に前半と言っても通じる偉丈夫だ。
七草家の防諜、諜報を仕切り、彼の耳目には日本の魔法師が関わる多くの事件の情報がもたらされる。
すでに「富士基地事件」も犯人死亡で終了し、大阪での国際テロリスト捕縛も犯人死亡で幕を閉じた。
USNAとの非公式な共同作戦の側面もあり、事件の終結はやや不透明な形に終わった。
一側面ではUSNAに恩を売った形となり、外務省の一部役人は得をした顔で東京に戻る姿を名倉は確認している。
七草弘一は少し不貞腐れたような表情にも見える。
どうも雇用主は「諜報」をゲームと捉えている、と名倉は常々思っている。
ただ余計な口を挟まないので、職場環境は良好だった。
「大阪は収束し、外務省の管轄に移りました。伊豆の事件も東京の事件も関係各所に公開されており介入する意味はありません」
大阪で起きた事件と同時期に関東でも事件が起きていた。
伊豆における国防軍の人造サイキック移送を襲撃されたことを端に発した48時間の事件。
そして都心の新たな商業ランドマークで発生した大型人質事件。
前者は七草真由美の依頼で一校学生、司波何某という男子生徒が事件の収束に貢献した。
どうやら軍とのつながりがあるようで、東京に展開していた101旅団と協力したらしい。
この事件は七草の管轄地伊豆が事件の始点であり、その発生が「人造サイキックを七草家の戦力」として利用した七草弘一の謀略が関係するものだったので、娘が親の失態をフォローした形となった。
人質事件は笑い話のような事件だ。
都心でオープンした新たな商業ランドマークで、三組のテロリストが同時に合計で100人の人質を取るという事件だった。
狭いランドマーク内で三つの人質事件を解決に導いたのはこれも一校生だった。
森崎家の長男、吉田家の次男、千葉家の次女を中心に10名程度の一校生の人質が、知恵と体力とちょっとしたユーモアを使ってテロリストを捕縛した。
関東で二つ、大阪で一つ。
七草の諜報担う名倉としてはこれだけ事件が広域に発生すると、情報の裏取り、関係者の調査と行うべき作業に時間が取れない。
もっと言えば、大阪は情報部と外務省が抑え、そちらに介入できるか試すうちに関東の二件に介入する時期を逃していた。
「もう一度言いますが、これ以上は無駄です」
そう言われ、七草弘一は不機嫌な顔で黙る。
「香澄様、泉美様がお帰りです」
扉をノックする音の後に娘たちの帰宅を知らせる声がした。
七草弘一は苦々しい表情のまま椅子を立ち部屋を出た。
夕食の時に娘たちから、藤林奏からお菓子の差し入れがあったことを聞かされた。
九島家の分家とはいえ、藤林は古式と現代魔法をつなぐ特殊な家だ。
その家の次女と親密になるのは利益と不利益が混在する。
七草弘一は娘たちには「よかったね」とほほ笑みながらこの事実をどう利用するか算盤を弾いていた。
同時刻、関重蔵は香澄と泉美の唾液サンプルを入手していた。