うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
気が滅入る日々が続くが、その合間合間にも学生生活を満喫していく。
今日はリクエストがあり、レオと幹比古のコンビと模擬戦をすることになった。
ホイホイと模擬戦を受けてしまったので、相当俺の精神状況は不安定なんだろう。
条件は2対1で俺の攻撃手段は魔法だけ。そして夜間であること。
生徒会と部活連に許可をもらい、訓練場を夜間利用している。
21時の訓練場は深い夜の影で見通しが悪い。
お互いモノリスコードでも使用される黒系の防具をつけているので夜の森では視認しにくい。
二人との距離は100m程度かな?
離れたところにいる二人の気配は俺を挟みこもうと移動を開始した。
速足程度のスピード。速度を上げないのは相当警戒しているからだろう。
俺も俺で、二人の気配に警戒しながらレオの居る方向へ移動する。
魔法発動時の光は目立つ。移動は地力で行い、ここぞというときに魔法を使う。
俺は魔法のふりをして関係ない所に発光を起こし、位置情報を誤魔化しつつ森の中を動き回る。
棒立ちで「喰らえ!」とか言って魔法を発動するのは素人がやること。
間違っても技名を叫びながら使ってはいけない。
例えば「喰らえマテリアルバースト!」とか。
実際に戦闘中はカッコいいBGMがかかっているわけではないので、衆人環視の中「いい感じの名前」を叫んでいるに過ぎない。
いきなり町中で「俺の天狼抜刀牙が火を噴くぞ」とか言ったらおまわりさんか心療内科医を呼びたくなる。あるいは両方かね。
そう思うとレオの「パンツァー!」と叫ぶのはギリギリだな。
この模擬戦はそのレオの提案だった。
どうもレオは俺の正体に勘づいている節がある。
いや特に何か話の中で出るわけじゃないが、視線が違う。恋する乙女の視線とは違う、尊敬と警戒が混じる独特の視線だ。
「今度さ、夜間訓練の仕方とか軍人のおじさんに聞いておいてくれよ」と頼むような口調で言って来た。
その時の態度が学生らしくないというか、まるで部活の顧問にでも聞くような印象があった。
親しみを感じているが何処か一線を引いているような感じだ。
「レオ、あんたには歩兵の才能がある」と横浜騒乱前に剣術小町こと千葉エリカがドヤ顔で言ったらしいが
俺は「西城レオンハルト」には兵士だけでなく、特殊な職業の向いている才能があると思っている。
簡単に言えば、警戒度合いを見抜く力だ。
積極的敵対者、消極的敵対者、中立、消極的友好者、積極的友好者こういった区分を何となく察して、それぞれに適した対応が出来る。そんな才能がレオにはあると思っている。
つまりはレオは俺に対して友好ながら一定の距離を置きつつ接しているのだ。
きっと大家族や地元住民との交流が多い幼少期を過ごしたのではないかと俺は思っている。
大人の顔色や大人同士での会話、応対を見る機会が多かったのだろう。自然と観察眼が鍛えられ、会話のニュアンスから
「自分にとっての脅威度」を計れるようになったのでは?
う~ん諜報に欲しい人材だ。
正直俺から見たレオの評価は高い。体力や頑健度は言うことなし。学力はまあまあだが知性や観察能力、他者との距離の置き方や、初対面に対してのアプローチ、高校生にしとくのはもったいない。諜報の基礎を叩きこみたい。
逆に言うと成長しないとわからないのが、吉田幹比古と千葉エリカだ。
現時点では基礎体力不足。技術は高いが何と言うか汎用性が低いというか、共有化された技術ではないので特化的な運用になるので、なかなか頭を悩ます。
特に幹比古は「古式」という特殊なフォーマットの魔法なので部隊内でも運用に困る。
魔法の結果が現代魔法と同じでも発動タイミングや、発動に必要な構成要素が幹比古しか理解できないので連携を取るのに苦労しそうだ。
エリカは刃物持たせて走らせておけばいいだろう(雑)
既知未来知識での二科生グループは汎用性が弱いが特化した集団だったことを思えば、彼ら彼女らの活躍の場は普通の兵隊の世界ではないんだろうな~。
逆に即戦力という意味ではモーリーと須田ちゃんはなかなかいい線いっている。
基礎体力はまだまだ。だが連携や指示命令に従うことが出来るのは兵隊や組織には重要だ。
俺は夜の森の中を駆けまわる。全速力ではないが、木々の間を抜けつつ走るには十分早速いといえるだろう。
レオとの距離は50m程か?逆に幹比古とは200m近く開いている。
適当に距離のあるところに魔法光を出し、振動系魔法を使い現在位置から数m離れた場所に俺の声を複写する。
「ミッキー!どうした?!立ってるだけか?」
幹比古の嫌う呼び方をしてみたがここで「幹比古だ」と返さないのはまだ冷静なのかな。
裏声で「ハハッ」って笑い声が聞こえてきたらどうしよう。
「ミキミキ!ミッキー!ミキノスケ!」
今度は魔法を使わずに再度挑発したら無数の風の刃が飛んできた。
やべ~こえ~高校生怖い。中年男性に風の刃を飛ばしてきた。おやじ狩りだ。
レオの気配に気をつけながら、レオの背後を取るため再度移動を開始する。
勿論俺はこの模擬戦に勝った。圧勝だった。
だが今ひとつ気持ちはスッキリしない。
やはり、クドウ・タツヤ・シールズDNA調査事件a.k.a”神の悪戯”が俺の心を重くしている。
◆
「で、どうすんのさ」
学校から少し離れた喫茶店。
雪光はパンケーキをパクつきながら、お決まりのことを聞いてきた。
アメリカンカフェでやや大ぶりなマグカップに、あんまり美味しくないドーナッツ。
美味くないドーナッツのある店は人が寄り付かないから、人に聞かれたくない話をするには持ってこいだ。
内観は1980年代のアメリカンカフェまんま。俺の好み作りだ。
この一か月は暇があればここで雪光と話をしている。
残念ながら結論は出ていない。
「結局は、四葉真夜の人間性が鍵なんだよな~」
「望み薄だと思うよ。あの人、ネジ外れているから」
雪光のこの言葉はここ一か月で4回目だ。
悩み始めた1か月前には「光夜兄さんの復讐心を止めるつもりか?」と雪光に聞かれた。
雪光は光夜の復讐心も、司波達也と深雪の気持ちも肯定しているようだった。
いや復讐心って大事よ。特にこの殺し合いが身近にある世界では。
復讐心だけで48年間小さな土地を守り抜いた老兵士を知っている。
最後の言葉が現地の言葉で「ざまーみろ」だったので、彼の復讐は成功したのだろう。
安らかな死に顔だった。
DNA鑑定結果を見せたとき雪光は渋い顔をした。
「四葉の里がどうなろうと知ったこっちゃないけどさ、光夜兄さんや達也兄さん、深雪が不幸になるならこの結果を握りつぶすよ」
そう言って、雪光が本気のCADを見せたときは正直に「悩んでいる」と答えた。
場合によっては俺と敵対する気だったのだろう。俺を殺して証拠を消す気だったのだ。
俺の悩みは「雪光の従兄弟」であり、「七草泉美と異母兄弟」としてDNA鑑定結果が出たタツヤクドウシールズの存在を四葉真夜に伝え、四葉当主を即時引退させ、タツヤクドウシールズの親権を主張させ彼を日本人として帰国させ、親子ともども拘束することが可能なのかどうかだ。拘束しないまでも、二人を監視下におけるかどうか。
四葉当主のままタッちゃんを追ってUSNAに渡っては四葉真夜はきっと身動きがとれない、というよりも「四葉の暗躍」を宣伝して行動しているようなもんだ。
タッちゃんの情報を提供する見返りに当主引退して、四葉の弱体化、可能ならば十師族との関係良好化への布石にしたい。
さもなければ光夜に好きにさせるかだ。
「君の子供、USNAにいるよ~」に対して四葉真夜は希望通りリアクションを起こしてくれるのか?
相手は狂人らしい。
そりゃ四葉の罪の結晶くんと深雪を結婚させて、世界の終わりを迎えようとするくらい判断能力が面白くなっているのだ。
どんなリアクションをするかは未知数だ。
というか、司波達也と司波深雪が肉体関係持ち、結ばれると世界が終わるとか思ってるんじゃないのか?
どんな妄想なんだ?大丈夫か?
肉体関係で世界が終わるならディープキスすると、大陸1つ消えるとか?
いくら司波達也の分解が凄まじいからと言って、そこに人間の心を鑑みない時点で狂人だ。
いつか自分の命令で、世界に向かって司波達也がマテリアルバーストをぶっ放すと思っている。
四葉真夜は。支離滅裂に誇大妄想。
四葉真夜に期待しても無駄だろうし、この件はより情念の深い奴に相談するに限る。