うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
正月三が日はカナデと離れて色々と雑事を片付けていたところ、1月3日の朝に奈良へ呼び出された。
連絡をして来たのはカナデではなく、九島御大だった。
「どうやら世界が揺れ始めたようだ」
自室のモニター越しに清川元夢さんと同じ声で言われると映画かなんかのオープニングのようだ。
すでに奈良の屋敷には軍服姿の風間さんが到着していた。
ほんときっちりしているな。この人。戦闘服と軍服のイメージしかない。
私服とかHIPHOP系(ただし2090年代的にはファッションとしては3周回ったクラシカルファッション)とかだったら面白い。
え、俺?アメカジとか好きよ。
「ものすごく嫌な予感がするんですが」
「状況としては最悪の部類に入る」
元旦に会ったばかりの風間さんは静かに首を横に振る。
あ、中佐昇進おめでとうございます。
桜井水波がもたらした情報は最悪の最悪の最悪だった。
司波深雪と光夜の婚約。
慶春会での戦闘。
雪光の重傷。
そして転生者だけが判断できる「四葉真夜の暴走」である。
水波ちゃんは疲労と負傷で熱を出したが、知っていることを全て教えてくれた。
よく頑張った。あとは寝てなさい。
「君たちは何をするのかね」
九島御大と当主、風間さん、俺が談話室に集まる。
九島当主の言葉は落ち着いているが本当に何もわからない人間の言葉だ。
困惑とも違う。事実を確認すべく出された言葉。
桜井水波が与えた情報はすでに全員把握している。
だが、その裏で進行していることを知るのは我々二名だけで、九島は巻き込まれた側だ。
巻き込まれるのって大変なんだぞ!
息子がいきなり傷だらけの女の子を連れてきたのだ。
「親方!山寺の斜面から女の子が!」というネタもこの時代の若人に通じるだろうか。
突然の負傷者、そして日本の暗部ともいえる四葉内部での諍い。
何よりも「四葉真夜が何かを画策している」という状況。
極東の魔王、夜の女王、流星の所有者、影の主etc
二つ名、異名といったら綺羅星の如くだ。
あったな~「綺羅星!」ってポーズをつけるアニメ。
司波達也こと大黒竜也特尉のマテリアルバーストが「戦略級魔法」として一級ならば
四葉真夜の「流星群」は「戦術級魔法」としては世界でも有数だろう。
光を触媒とした強力な「貫通魔法」とでも分類するのだろうか。
何度か雪光から説明されたが、大枠は把握したか具体的な構築理論の話になると複雑すぎてついていけない。
光夜に補足を求めたら「個々の構築要素は単純だ。問題は一つの要素が複数の構築に重複して影響を及ぼしている。複雑に感じるのは紐づけ要素が多いからだ」と言われた。
いや、わからん…
あいつ絶対、教師とか塾講師とか向いてない。絶望的に説明が下手だ。
話が逸れた。
「十師族内でも四葉の存在を苦々しく思う者や、そのスタンスに共感する者、反応は千差万別だ。だからこそ十師族内でも各家の動向と言うのは重要視している」
当主は一度言葉を区切る。四人の共通認識の確認だ。
十師族は外敵には強く連帯する。それは「魔法師を守る」という大前提があるからだ。
だが十師族内部では血で血を洗う抗争が起きている。
実際何度か介入したことあるけど今時「お家の為」といって死ぬ奴が少なくない数がいる。
ホント、「柳生〇族の陰謀」かよ。あの映画面白かったけど。
九島当主の言葉は端的に十師族を表し、その不安定さも表している。
下手をすると十師族が割れる。
いや、それが狙いだったんですけどね。
割れるというより「四葉を切り離す」と言える状況を作り上げ司波一家と光夜を独立させる。
だが、切り離す下準備の前に混沌が発生した。
「佐伯、関、私で司波達也とその関係者を四葉から距離を置かせる方法を検討していました」
風間さんが慌てることもなく答える。
何が起きたのか、そして何が起きるのか。
俺はカナデからの呼び出しだが、風間さんは佐伯さんの名代だ。
風間さんには九島当主と老師に状況を説明する責任がある。
俺が蒔いた種でメンゴ、メンゴ!まあ村井大佐もよくやってたから、このくらい大丈夫っしょ(無責任)
「それが今回の件に関係していると?」
「可能性は否定しません。ただ四葉内部での諍いを発生させる段階ではありません」
九島当主の猜疑の視線。十師族の向こうを張る暗躍をしようとしていたのだ。
そこに存在する利害が不透明であれば疑わざる得ない。
風間さんは言外に「予測を越えている」と伝えている。
う~ん、きっとパズルのピースが悪い方向にはまったのだろう。
四葉真夜、司波三兄弟妹、四葉光夜、慶春会、後継指名、タツヤ・クドウ・シールズの件、婚約。
四葉真夜による司波達也、深雪の婚約は既定路線のはずだ。
二人を兄妹ではなく婚約者同士として一校に戻し、深雪の四葉後継を世界に喧伝する。
そしてその伴侶は司波達也、四葉真夜の息子という触れ込み。
何が既知未来との掛け違えを起こした?いや、何が起きた?
「真実」ではなく事件のディテールがあやふやだ。
四葉真夜の意図によるものなのか、それとも偶発的なハプニングによる変化なのか。
やっぱり光夜なのか。
だが光夜本人の口から聞いた四葉真夜への憎悪を思い返せば、四葉真夜の指示・命令に対して素直に聞くとは思えないし
その余波で桜井水波が脱走し負傷するまで追い込まれる状況が想像できない。
四葉真夜の命令に従って光夜が司波深雪と婚約しても、慶春会での戦闘に発展するのはなぜだ?
きっと答えは桜井水波が「心ここにあらず」と評した四葉真夜にあるのだろう。
俺の横では、出されたお茶に口をつけずに九島の二人に対して「司波三兄弟妹と光夜の独立作戦」の概要を風間さんが伝えている。
当主は苦々しく、しかし息子の恩人である俺の上司の風間さんに嫌味を言うこともできない。
老師に至っては、【クドウ・シールズ】という名前が出たことで表情から感情が引いていく。
そこには冷徹な計算を胸のうちで行っている様に見える。
そんな風景を横目に俺は思考の海を泳いでいた。
俺は少ない情報と転生者としての既知未来知識とオタクとしての想像力で
慶春会で起きた事象を分析せねばならない。
1、時系列としては
「当主候補食事会」
「司波達也と四葉真夜の会談」
「水波のメッセンジャー仕事」
「深夜に何かあったらしい(桜井水波談)」
「慶春会」
「慶春会戦闘」
「桜井水波脱走」
「光宣による水波保護」
今に至る。
2、桜井水波はメッセンジャーとして下記の情報を司波達也、四葉光夜に共有するよう動いた
・次期当主に司波深雪が内定した
・司波達也と深雪の婚約
・二人の一校退学
3、大晦日に見た四葉真夜とは違い慶春会では四葉真夜は「心ここにあらず」であった
【四葉光夜はなぜ四葉真夜を「母」と呼んだのか】
これが最大の謎だ。
「では、旅団として正式にその四名の四葉離脱支援を行おうと」
「はい。その方針の確定と細部の計画立案を行っておりました」
「十師族への根回しについては」
「九島老師をまずお味方にと考えております。影響力もさることながら以前、九校戦の際に四葉のこれ以上の勢力増大化を懸念されておりましたので」
風間さんと九島当主の会話は続く。風間さんの言葉に無言で頷く老師に、その発言に対してまだ猜疑が拭えない当主。
当主が欲しいのはもう少し明確なビジョンかな。
風間さんは続いて、十師族への「四葉弱体化におけるメリット」を掻い摘んで説明し始めた。
俺と九島老師は変わらず無言だ。
桜井水波の話から「食事会」と「達也、真夜会談」は既知未来通りと睨んでいる。
というのも、そこには転生者の介在がない。食事会で雪光が何か行動を起こせばその後の行動も変わってくる。
マイナスな行動を起こせば、雪光は慶春会への出席を止められただろうし少なくとも分家席には座っていなかった。
それに今は我慢の時だ。
多少既知未来(雪光の説明でしか知らないが)通りに司波達也と深雪を婚約させておけば四葉真夜を油断するはずだ。
自分の予定通りにことが進んでいると。
問題なのは水波が伝えたメッセージの何に光夜の琴線に触れたかだ。
いや違う、それはどうでもいい。そこじゃない。
どういった理由で怒り狂おうと、それによって四葉真夜へと復讐心を爆発させようとそこはこの事件の本質ではない。
事の本質は光夜の暴走ではなく、「司波達也」から「四葉光夜」へと婚約者を変えた四葉真夜の心理だ。
そして、なぜ四葉真夜は「四葉光夜」を婚約者に指名し、【母】と呼ばせるに至ったのか。
「だが君らも四葉の恐ろしさを知らぬわけではないだろう」
「もちろんです。御当主。まずは情報を取られぬよう」
「そこだ。私が危惧しているのは。この数名しか知らぬ事実も作戦が実行されれば情報を共有する人間が増える。そうすればいつかは四葉に漏れる。【四葉真夜の息子】を有効に使うより早く四葉は動く。彼らの諜報を甘く見てはいけない。四葉を弱体化する手はずを整える前に情報を握られカウンターで別の噂を出される」
当主の言葉にやや押され気味な風間さん。
その通りです御当主。勿論甘く見るつもりはない。
この「タツヤ・クドウ・シールズ」の情報を使った「4人の四葉離脱作戦」に有効なのは「四葉が真実を確認できず、情報だけが人の口に乗る」ことで、その前に根回しを済ませなければならない。
情報の流し合いで先手を取る。四葉に情報戦で後手を踏ませる。
準備は迅速に、だが秘密裏に。
四葉は諜報にお得意の精神干渉魔法をも織り交ぜてくる。
四葉が情報部から情報の横取りをした時も、情報部お抱えの情報屋に後遺症が残る催眠での情報の引き出しがあり、支援課は後手に回った。
情報戦は常に先手に情報をコントロールする必要がある。
「彼らは情報奪取に容赦がない。それこそ情報のために容易に人を殺す」
そうですね。御当主。四葉は人命を軽く使う。さっきの情報屋も……情報屋?
「老師。以前、四葉真夜に魔法の指導をされたことがあるそうで」
場の流れとは違う質問にその場の人間の視線が俺に向く。
老師はその深い眼をこちらに向け口を開く。
「確かに。かつて深夜と真夜。七草の現当主に一時期魔法を指導していた。それが今の話題に何か関係があるのかね」
「大ありですよ。老師は四葉の精神干渉魔法についてはどの程度お詳しいので。もしご存じなら【催眠】について、想定しうる四葉一族の技量は?」
俺の言葉に視線を落とし思考する老師。当主と風間さんは置いてきぼりで言葉が出ない。
老師は30秒ほど考えて口を開いた。
「そうだな。人格をいじる、といったことは条件付きで可能だろう。記憶を混濁させたり、すり替え、強制なども可能だろうな」
「どの程度の準備期間で?例えば一晩で記憶をすり替えたりするのは可能ですか」
今度は1分の沈黙。
「可能だな。四葉の精神干渉魔法は我々が論文等で見るよりも遥かに高等だ。また個々人の精神干渉魔法への特性も公表されていない。その特性いかんによっては想像以上のことを行える」
「では四葉光夜に後催眠のキーワードを埋め込み、光夜の行動を掌握することは可能と思いますか」
たっぷり3分の沈黙。
さあ、答えろ最高にして最巧の魔法師。四葉の魔法に最も詳しいであろう部外者。
「可能だ」
その言葉に俺は膝を打った。
パァンという音が談話室に響く。
「四葉真夜は戦略級魔法師である【四葉光夜】を不当に拘束し、更には催眠・洗脳と思われる行為で個人の意思を抑え込む人権侵害をしている疑いがあります。これは四葉一族が国防力を私的に運用していると小官は判断します」
俺の言葉に3人は息をのむ。さあ名探偵のネタ晴らしだ。一度やってみたかった。
「桜井水波の情報では大晦日、次期当主の内定が出るまでは正常でした。だが、その晩何かが起きた。想像するには四葉真夜と光夜の対決でしょう」
「関、なぜそう言える」
「風間さん合いの手ありがとう。根拠は光夜の復讐心…と言いたいところですが、桜井水波が伝えたメッセージが引き金になったからです。どの情報が引き金になったかは不明です。ですが光夜の復讐心を爆発させる内容であれば、司波達也がその情報をオミットしたでしょう。今、四葉真夜に先手をうたれて行動を制限されるのはまずいですからね。伝えられた情報によって光夜は四葉真夜のもとへ向かい、諍いが発生し【後催眠キーワード】によって」
「まて、なぜ諍いが発生したと言える」
「御当主、一晩で光夜は性格が一変しました。復讐の対象であった四葉真夜を【母】と呼んだんですよ。そこには洗脳または記憶のすり替えが起こったと私は考えます。それは光夜が従来のコントロールから外れたから。当主と家来の関係から離れたからでしょう。コントロール権を得るために【後催眠キーワード】を使用した。そして【後催眠キーワード】によって性格が一変した光夜は慶春会で戦闘を行った」
「それは君の想像だろう」
「いえ、老師。これは確認すべき仮説です。想像ではありません。その証拠にあなたは、【世界最高にして最巧の魔法師】は四葉の洗脳能力を証言した。そして、今回洗脳の対象になっている人物は長年四葉のコントロール下にあり洗脳の催眠をいつでも施すことが可能です。そして【2096年1月1日】に国防軍統合作戦本部より戦略級魔法師に打診を出された人物です。彼は四葉の所有物ではありません。国防力の要に指名された人物です」
俺は立ち上る。
「すでに状況は【タツヤ・クドウ・シールズ】をめぐる情報戦ではなく行動の時と判断します。いま四葉は日本の国防力における重要人物を手中に収めております。その人物は【洗脳】されており、さらに洗脳を行った四葉真夜は通常の判断能力を欠いております。彼女は攻撃の矛先をどこに向けるかわかりません」
「まて、真夜がなぜ判断能力を欠いていると思う」
俺の断定的な口調と先ほどの自分の証言に焦りを見せつつ九島老師はすがるように言ってくる。
自分の言葉が教え子の首を絞めることとなったのだ。
「婚約者の変更です」
そこだ。既知未来知識と違い、なぜ四葉真夜は婚約者を土壇場で光夜に変えたのか。
「きっと諍いの場で光夜は【タツヤ・クドウ・シールズ】の存在を四葉真夜に伝えたんでしょう。まあ悶着は戦闘に発展したか口喧嘩になったかはわかりません。ですが実の息子がいると判明したのに洗脳下にある人物を息子として扱い、あまつさえ【母】という疑似認識まで刷り込んだんですよ。まともな思考と言えますか?タツヤ・クドウ・シールズの存在を知らなかったり、その存在を知ったうえで否定したいのなら、そのまま司波達也を婚約者として発表すればよかったんです。なぜか四葉光夜を婚約者として発表した。彼女が【タツヤ・クドウ・シールズ】を知り、なおかつ混乱を指し示していると思いませんか」
そうなのだ。四葉真夜が光夜を洗脳することでコントロール下に置き、何事もなかったかのように翌日の慶春会で【司波達也と深雪の婚約】を発表すれば、俺の仮説は崩れた。
だが光夜を婚約者として発表した。あまつさえ実子として。
甘かった。光夜はきっと何かの意図を持って四葉真夜に話したのだ。
もっと情報の取扱いに厳密なルールを敷くべきだった。
引き金は【タツヤ・クドウ・シールズ】の情報だ。
だがその弾丸を込めたのは俺だ。
「再度申し上げます。四葉の行動により我が国は国防力の低下を引き起こしています。看過できる状況ではありません。四葉から光夜をはじめとした若年の魔法師を即時救出する必要があります」
俺はもう一度三人を見る。
九島の当主はそのことの大きさに改めて息をのむ。風間さんは俺の推論に目を見開き驚く。
老師は頭を抱える。
「必要があれば四葉真夜を処理してでも現状を打開しますよ」
「君にそんなことができるのかね」
俺の言葉に老師は小声で非難めいた言い方だ。たんなる小僧の戯言だと言いたいらしい。
いや小僧の戯言と否定して俺の推論から逃避したいのか。
「閣下は私のことをどの程度ご存じで」
「優秀な、そう優秀な諜報員で兵士と聞いている」
残念ながら情報部から引っ張れる情報じゃそんなところだ。
俺の機密情報のプロテクトは「大黒竜也特尉」の比じゃない。
「戦歴は?」
俺の更に問い、ムッとした声で返すのは九島の当主だ。
この緊迫した空気をさも棚の上に置くような質問に気分を害している。
「この数年は中南米を中心に、以前は中東もカバーしていると」
「たしかに関少佐は情報部で中東、中南米方面での複数の作戦に従事し活躍があります」
風間さんがフォローするように俺の戦歴を補足する。
ただちょっと違うんだな~。
「国防軍統合作戦本部情報局別班ですよ」
九島烈が俺の言葉に反応して立ち上がる。
その目には驚きと慄きが入り混じった感情が充満している。
説明せねばなるまい!(堀内賢雄の声真似)
国防軍統合作戦本部情報局別班とは俺と村井大佐のかつての古巣で「荒事と後ろ暗い仕事しかやらない集団」のことだ。
365日のうちで、人に向かって銃弾を発射しなかったのは7日間といった生活を4年ほどしていた。
まあ軍神の加護が無ければ1週間でPTSDになって、今頃精神病院で天井のシミを数えていただろう。
具体的になにをしていたのか。
人様に自慢して話すような内容ではない。
要人暗殺に誘拐、破壊工作、血の流れない任務など一つもない。
以前に大阪で死んだあの男の行った過去の犯罪を蛇蝎の如く忌み嫌ったが、今更ながら考えると俺の四年間も負けず劣らず酷いな。
昨日抱いた女を狙撃する、とか00ナンバーでもやらねーよ。
他国だけど水利権の問題で国家転覆とかやったし。
泥の中で4日間耐えての狙撃とか不衛生極まりないな。
俺の戦歴が一部最高機密扱いなのは、バレると日本政府が半端じゃない額の賠償金を中東及び東欧と中南米と北中米と
一部東南アジアと北アフリカと西アフリカあたりの諸外国に払わなければいけないからだ。
スフィンクスの右手を破壊したのは俺ではなく、現地で敵対した東EUのエージェントです~。俺じゃない。
「閣下、私に四葉真夜の暗殺が無理だと思われますか」
九島烈は力なく、尻もちをつくように椅子に座り直す。
顔を上げず、力なく返事をする。死神に死刑宣告を受けたように、脱力した声だ。
「君なら、別班の君なら行えるだろう」
自分の愛弟子の命を死神に差し出した者の無力な声。
別班のただ一人の実働要員。
誇張ではなく世界を股にかけて厄災を振りまいた男。
エジプト、ドイツ、旧サウジアラビア領内、新ソ連と東欧の境界線上の国々。
かつてのイラク、今は名前を五回変えてイラクに戻った地域。
インド、ベトナムとフィリピン、大亜勢力圏内の国々。
ブラジル、ペルー、ベネズエラ。
かつては「カナダ」と言われた広大なUSNAの州。
貯まったマイルで世界一周できるな。
九島烈は別班の存在を知り、その行ったことの一端を知っていた。
空挺の一部隊を動かし情報部から俺のことを聞き出せ、少将の地位にいた人物なら俺を知っていると思った。
いや~これで知らなかったら、俺赤っ恥ですよ。
「言っておきますが、このことを知るのはほんの一握りです。十師族の当主格でこの事実を知るのは貴方二人だけです」
軽くウィンク。
今は気持ちを紛らわす冗談はこれで限界だ。
事の事実、混乱する四葉真夜、洗脳された光夜、重傷の雪光。
すでに国防のそして友の危機なのだ。
九島老師が顔を伏せ、当主が困惑し、風間さんが驚きを隠さぬこの瞬間。
俺は四葉真夜に対して持てる全てを使い、その思惑を砕いてやろうと決めた。
我が友の人生に不便を強いるのを許さん、と。
◆
村井さんは緊張と焦りで口元をぬぐったり、耳を触ったりと落ち着かない様子だ。
周りの将官たちはそんな村井さんを見て嫌な顔をしたり、苦笑するなどしている。
まあ、村井さんのあれ嘘だけどね。
こういった場で村井さんはいつもより誇張した「小心者」を演じる。
いや小心者だけど、こういった落ち着かない動きの中にハンドサインを混ぜ込んでくる。
んん?『私』『周囲』『怒っている』『好きにしろ』『手助けする』
あーそういうことね 完全に理解した。
村井さんも痛くもない腹を探られた口だ。
嫌いな魔法師の暗闘に巻き込まれた上、正月早々北海道から呼び出されたのだ。
そりゃ内心お怒りですわね。
会議室には軍の10人以上のお歴々と二人のオブザーバーがいる。
一人は十師族の長老、魔法師界のフィクサー、九島烈。
一人は官邸から派遣された総理補佐官。
国防軍のお歴々の中にはかつての上司である村井大佐と大島少将、今の上司である佐伯さんの姿がある。
九島御大の協力もあり、反四葉や中立的立場の軍上層部に俺は作戦を具申できた。
しかし、四葉を崩すということはやはり国防上の大事で簡単には決まらない。
作戦具申を行った少佐の話を聞こうというのだ。
または圧力をかけて四葉への作戦を止めるか、握りつぶすなりして、政治的交渉で【四葉光夜】と【司波達也】だけは国防力として運用を確約させるとか。
まあ、事なかれ主義的な方向だね。
普段なら事なかれ主義にぼやきながら現場判断でどうにかこうにかするけど、今回は話が違う。
友達の生命がかかっている。ので裏技は手配済みだ。
俺は珍しく似合わない軍服で会議という名のちょっとした軍事法廷の中央に立ち、馬蹄形に並べられたテーブル越しに座る全員から見られる。
童顔だから軍服コスプレの高校生に見えるでしょ。高校生のコスプレした軍人さんなんですよ。
俺は自分の姓名、所属を名乗り、今回の作戦の目的と概要を説明する。
【戦略級魔法師を判断能力を失くした保護者からの救出】
そしてその具体的な作戦段階を簡単だが説明する。
説明が終わるまで、俺以外誰も口を差し挟まない。本番はこの後の質疑応答という名の査問だ。
あ、九島御大が厳しい顔つきしている。
あの様子だと作戦を通すための支援工作は失敗したっぽいぞ。
「貴官の具申した作戦は可能かね」
議事進行役の少将が厳しい声音で問いただす。
「はい、情報部の各部署と連携すれば可能です」
俺は背を正して返答する。
「それは可能というだけで、実現の望みは低いとは思わんかね」
この場の最高位の軍人が問いかける。
「四葉など私とかつての私の小隊が動けば、手足をもぎ取ることなど可能です」
さも当然と答える。いや、さっき説明したよね。
「ほう、自信があるな。ではなぜそれをしなかった」
議事進行役の少将が詰め寄る。
「今まで四葉を潰す命令がありませんでした」
暗に軍部は腰抜けという意味で言っているわけではない。命令が無けりゃ、四葉と言っても民間人だ。
手を出すわけにもいくまい。
最高位の軍人が咳払いを一つ。まるで若い子供を諭すように言ってくる。俺37歳だよ、わかってる?
「貴官が優秀なのは承知しているが、貴官にはまだ早い。然るべき立場と権限、そして責任を取るだけのものがあってこそ作戦は承認できる」
廊下には正月に聞いた足音。人間の足音は意外と個性が出る。
俺の超人的な知覚能力なら廊下の音も拾えるし、判別も可能だ。
扉の前に気配が立つ。
「はい。おっしゃる通りです。ですので裏技を使います」
ノック。そして扉脇の立つ兵士が廊下と繋がるインターホンで何やら喋ると、上官である司会進行の少将の許可も取らずにドアを開ける。応対した兵士の顔色は一瞬で青くなった。
会議室内の俺以外の全員が視線を入室者に向ける。
この人物を判断できたのは、オブザーバーの二人だけのようだ。
九島御大は驚きの表情でその人物と俺を交互に何度も見る。
「失礼いたします」
その人物。中肉中背の白髪の老人。年齢としては九島の老師に近いかな。
柔和な笑顔が印象的な男性だ。きっと元旦に会ったときのような上品なフォーマルスーツ姿なのだろう。
見なくたってわかる。あの人たちはそういう人種だ。
「現在重要な会議中で部外者の入室は認めておりません。退室を」
議事進行役の少将が入室者に注意を言うが、柳に風の如くさっと受け流す。
「承知しておりますが、こちらも重要なお役目でございます」
ムッとする議事進行役の少将。このやりとりで入室者の方が役者が上というのが決定された。
あの人たちの、場の支配力は軍人でもなかなか抵抗するのは難しい。
「では、お名前と所属を」
少将より高位の軍人が入室者の姓名を問う。
「御所にて御側御用を務めております松平と申します」
御所という単語に全員言葉を失う。この松平さんがどういった立場かこれだけで理解したのだ。
「関”左近大夫”。元旦はお疲れ様でございます」
俺が振り向くと松平さんは上品なグレーのスーツに身を包み柔和な笑顔を俺に向けた。
一応言っておこう。
今年の元旦から俺が官位含め名乗ると「従五位下 左近衛将監 国防陸軍少佐 関重蔵」となる。
略すと「関左近」だ。はんぞー先輩よりも時代劇的名前だな。
ちなみに「左近衛将監」という職に「従五位下」以上の官位を持った人間が着くことで
「左近大夫」という呼び名になる。
通常では左近衛将監は正六位辺りの相当の役職なので、従五位が着くと呼び方が変わる。
日本の官位官職は複雑なのだ。
ちなみのちなみだが「将監」というは近衛の現場指揮官で一番偉い。
まあ今の立場とあんまり変わんない。俺は現場主義なのだ!
2090年代に官位とか官職は完全に意味をなしていない。
だがそれでも「名誉」という点では国内では最も尊い。
魔法の登場、戦争、貧困、世界は否応なしに国家主義的な流れとなった。
自己の生命を守るため、より強大に、強固に、国というコミュニティは発展していった。
王室の残る国では王室親政の政治体制になる国、王室の政治からの排除、王制の瓦解する国。
日本はどうか。
『千代田のお堀の内側に住むご一家』は奇跡的に政治の主導とならぬまま国民の尊敬を持ちえた。
世界的な群発戦争では、外交官顔負けの離れ業を一度ならず行い「外交官1000人分の効果」という噂を
現実のものとした。
俺は兵隊になって、離れ業に二度付き合い三度目に直接命を救った。
その御礼が内々での官位、官職と「何かあれば言ってください」と直接お言葉をいただいた。
担当省庁からは「叶えられる範囲で君の願いを一度叶えよう」とその言葉の意味を教えられた。
政治、行政から切り離された方々ではあるが、その発言や行動には圧倒的な意味がある。
俺はその意味を一度だけ自分のために使えるのだ。
今回であれば「四葉を崩す」ことの全権掌握だ。
松平さんはまだ一言も「約束」を持ち出していない。
もし俺が「約束」を持ち出し、その効果によって作戦の全権掌握を軍に求めたら。
これは脅迫なのだ。捨て身の。
俺の友人たちを助けるため俺は国防軍を脅している。
「約束」による御所からの嘆願を撥ね退ければ、国防軍と御所で遺恨が残る。最悪の遺恨の一つだ。
だが受け入れれば御所を利用した命令系統の掌握により軍事組織の根幹たる「上意下達」が崩れる。
俺がこの手札を晒した段階で、勝負は決した。
つまり、約束を実行させる前に国防軍は自主的に四葉を崩す作戦を実行せねばならない。
そして俺はこの人生で二度とこの手札を人に対して晒すことはないだろう。
いや、この手札は見せただけで効果を失う。恐ろしく政治的な手札だった。
この意味を知らぬ半数は俺を狂ったと思い睨み、意味を理解する半数は負けを悟り軍服の首元を緩める。
意味を理解できない国防軍の上級幹部、この場にいる最高位の軍人に村井大佐は耳打ちし、俺の持ちうる手札を説明している。
一瞬で最高位軍人の顔色が変わった。
「協議に入る」
結局、国防軍は魔法師協会と十師族の両パイプを使いつつ四葉に交渉をし時間を稼ぎ
俺がその短い時間で、俺が選抜した少数精鋭で四葉の潜り込んだスパイを消し、光夜たちの救出作戦を行うこととなった。
会議が終わると大島少将が声をかけてきた。
「いいか、関。これが最後の無茶だぞ。終わったらお前を昇進させて現場から引き離してやるからな」
このおっさんらしい大笑いと共に言われた。現場仕事はこれで最後か。
中佐辺りになって、どこぞの国防系研修施設の所長になってキャリアはおしまい。
国防軍監査部からは監視対象として時折文句を言われながらあと30年くらいは税金泥棒へとジョブチェンジだ。
この手札を出して、その程度で済むのだ。安いもんだ。
◆
「あまりにも情報部の人間に権威と人脈が偏り過ぎていないかね」
「はい。さように思います」
「人脈とは正しく使えるべき人間が利用するからこそ利益が配分される。ただ仕舞い込み自分の利益の為だけに権威を使うのはよろしくないな」
「奴は四葉と本格的な戦闘に赴くと」
「友軍からの流れ弾は常だな」
「そのとおりでございます」
てな会話がどこかの誰か、例えば国防軍の最上級幹部の誰かの私室で行われている可能性が俺の肌感覚だと85%ってところだね。
俺が支援課で遊んでいたのは理由がある。
自他とも認める世界最高の兵士。
そんな厄い存在を手元に置きたがる奴はそういない。
使い道は?と聞かれても、敵対派閥を暗殺するつもりかと疑われるからだ。
仕事が出来る男って辛いね!
まあ正直な話、俺は扱うには優秀過ぎた。
外国勢力へは101旅団やその他の「公表できる」戦力があるし、暗闘させるには俺はいろんな場所に入り込み過ぎた。
知り過ぎた男は殺される。村井大佐はその点知っている情報を上手く使える情報士官だからいいけどさ。
そんなことを考えながら俺は高度9,000mを飛行する軍用航空機の後部スペースで
HALO用装備と必要な機器を入れたバックパックを身につけていた。
すでに機内のランプは赤く変更されており、いつでも降下できる状態であると教えてくれる。
機内の気温は外気よりはマシだが寒いことには変わらない。
高度9,000mからの高高度降下低高度開傘(HALO)を行う為、俺は1月7日の深夜に
四葉が居を構える小渕沢上空にいた。
いくら方向を惑わす魔法を使おうとGPSは騙されない。
空軍パイロットが周辺を確認できなくても高度計を頼りに操縦するように人間の五感に頼らず高度計と位置情報だけで目的にランディングする。
この作戦は最強の暗殺者を送り込む、のではなく
悪の魔女の護衛となった騎士を女王陛下がキスで起しに行く手伝いだ。
作戦のキモは中条あずさ前生徒会長だ。
長いとか、わかりずらいとか、無茶とかチートじゃねぇかとか、言いたいことはよくわかる。
でも書き上げちゃった。てへっ☆