うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
その音楽が夜明けの村内に響く。爆発音が断続的に続き、まるで音楽に合わせてリズムを刻むようだった。
(「もってけ!セーラーふく」か)
四葉光夜は突然の村内に響く曲名を当てながら、寝室から出て急いで身支度を整える。身支度を整えるのに2分半。
母から贈られた黒のスーツを一部の隙も無く身につけると、別館から本邸の母の元へと急ぐ。
本邸に光夜が入ると村内に響き渡る「もってけ!セーラーふく」はリピートが始まった。
「葉山、状況は?」
「不明です。村の周辺に国防軍の一部隊の展開が確認されておりますがそちらは陽動の可能性があります」
母の居る部屋に案内されながら光夜は筆頭執事であり村内外を全て知る葉山に状況を求める。
「音楽の出どころは」
「村内のすべてのスピーカーからです。幾つかの施設では電源そのものを切りましたが非常用電源が起動し、スピーカーの駆動は止められません」
「構わん。音楽そのものは無害だ。爆発は?」
「村内の下水道施設で小規模の爆発が連続して続いております」
やり取りが一段落する頃には母の居る部屋についていた。
母のお気に入りの部屋でフランス窓からすぐに庭園へ出られる部屋だ。
2090年代の最新の生活機能を持つ、1920年代のモダンアメリカ風の部屋。
ノックをし、部屋の中から「どうぞ」の声を聴くと光夜はドアを開けた。
「大丈夫ですか?」
光夜は声を掛けながら母のもとにいく。
数日前から不思議と右足と左足の動きが不調だがそれを押して母の元へ行く。
「どうやら敵が村内にいるようです」
「この時期に可哀そうね」
母は同情するように嘆息する。
黒のナイトガウンに深紫のネグリジェ。その顔には若若しさが溢れている。
村内には慶春会の後も主要分家は残っており、それこそ四葉の全戦力が集まっている状況に近い。
そんな村に潜入者がいるのだ。自殺と同義と取っていい。
「葉山、黒羽は」
「すでに村内に散っております。警備には新発田が応援に向っております」
葉山の報告を聞いて、光夜も母もうなずく。
「ではこの音楽もすぐ止みますね」
再度の嘆息。寝不足の方が母には問題らしい。
光夜は母が早起きの習慣を止めたことを薄っすら思ったが、光夜が村外で高校生活を送ることで
母が生活習慣を子供に合わせる必要が無くなったためだと一人納得していた。
◆
「どちらへ?」
「村内を巡回する」
あれから45分。葉山が出したコーヒーを飲みながら待ち続けたが状況は一向に改善されない。
「もってけ!セーラーふく」から「けいおんOPメドレー」へと変更された。
既にメドレーも数回目だ。
母もその美貌の眉間にしわを寄せている。
光夜は立ち上がり、葉山に行動告げる。
その時、ノックされ葉山が取り次ぐ。
黒羽貢が入室すると状況を説明する。
「村内に敵が侵入し、上下水道への破壊工作を行っております。黒羽の手の者で工作を止めるべく村内を探索いたしましたが、敵によって気絶させられております」
状況が後手に回り、言葉も弱弱しい。
実際に敵と思われる一団?に4人一組で動く黒羽のエージェントは悉く倒されている。
気が付いた者に言わせると「突然の衝撃が」や「いきなり首を絞められて」など実際にどのように倒されたかはっきりしない。
恐ろしく手際のよい何者かが侵入したようだ。
「黒羽は役に立たないと」
断罪する光夜の言葉に、謝罪とした頭を下げたままの黒羽貢の方が少し震える。
屈辱とも見れる動きに光夜は気も払わない。
「葉山、俺のCADを」
そう言って光夜は部屋を出る。
CADを頼まれた葉山も四葉真夜に一礼し、光夜の後を追う様に部屋を出る。
「御当主様」
「疑うの?」
人の居ない中、黒羽貢が姿勢を正し言葉を発すると、言葉が継げぬよう四葉真夜が邪魔をする。
黒羽貢は忌み子の光夜への厳しい態度を取っていた自分と、次期当主の婚約者としての光夜に対する自分の態度の落差に苦しんでいた。
これが嘘であれば、とも思うがその心理は四葉真夜に見透かされている。
「間違いないわ。あの子は私の子供。私がお腹を痛めて産んだ子よ」
そう言って、真夜は自分の下腹部に手を置く。
これを黒羽貢は大漢事件を自分の中で真夜が消化したから言える言葉と認識した。
一種の比喩だと誤認した。
◆
黒羽貢が退室し数分後には葉山が戻ってきた。
朝食を配膳ワゴンに乗せている。
真夜が軽く食事をすませると、今度は新発田の当主が入室してくる。
「申し訳ございません」
村外北東部で戦闘が発生。
警備部隊と謎の部隊が衝突。
警備部隊は敗走し、敵の部隊が村内に侵入している。
敵は魔法師との戦闘に慣れており、煙幕や閃光手りゅう弾を駆使し戦闘を有利に進めていた。
すでに警備には20名以上の重軽傷者がいる。
魔法師の魔法の有効範囲は概ね知覚範囲に収まる。
知覚魔法により、知覚範囲を拡大させるが村への侵入者はその阻害に長けていた。
訓練された部隊、組織によって運営されている部隊、そういった印象を新発田は真夜に伝える。
「四葉は後手に回っているというわけですか」
真夜は興味なさげに呟いた。本当に興味が無かったのだ。
◆
窓の外から涼宮ハルヒの憂鬱OP「冒険でしょでしょ?」が5回目のループしたとき
葉山は情報端末で黒羽貢に連絡を取っていた。
「こちらは本邸の葉山です。現状のご報告を」
黒羽貢が退出してから1時間。
現在の状況を把握できずに内心で葉山も焦っていた。
普段と変わらず、いやそれ以上に事態に無関心な四葉真夜が心のうちでは激怒しているのではないかと。
「すでに連絡役を2度本邸へ向かわせたぞ?」
怪訝な声を返す黒羽貢。
既に日は完全に出ている。午前8時に差し掛かろうとしている。
爆発音は収まったが、時折村内では放火や住人たちの悲鳴が響く。
「こちらには到着しておりません」
黒羽の言葉にさらに焦燥が募る葉山。異常事態だ。
(四葉の村に潜入したのは何者なのだ?人か魔か?)
そんな不安が葉山の胸に去来するが、一瞬で霧散した。
「葉山様!」
大きな声を出したのは使用人の一人だ。
玄関に人が倒れていることを告げ、大急ぎで葉山を呼びに来たのだ。
「こちらです!」
使用人が玄関ドアを開けると折り重なる2つの身体。
どちらも黒羽の工作員だ。
いちばん上の身体にそっと白い紙がのせられている。
葉山はそれを手に取ると、紙に文字が書かれていることを認識した。
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今回は21世紀初頭のアニメメドレーをお送りしています。
君らのような山奥の殺人カルト教団気取りの盆暗どもにはこの選曲の妙はわかるまい(笑)
いい加減白旗上げて、ごめんなさいしよう、な。
そうすれば優しくしてあげましょう。
追記:ところでお宅の当主、化粧濃すぎない?
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葉山は一瞥すると怒りが込み上げてきた。
◆
村の住宅区域では複数個所火の手が上がっている。
魔法師を総動員して消火している様子がここから見えるが、それも後手後手なのがよくわかる。
住宅区域で黒い煙が天に立ち昇るのと同時に村の南側で爆発が起きた。
小中学校の窓ガラスが全部割れている。
四葉光夜は村を見渡せる小高い丘からこの光景を眺めていた。
村内は完全に混乱している。
ヘッドセットから聞こえる黒羽貢の怒号や指示は的確ではあるが全て状況の対処に追われ、事態の収拾までできていない。
村内に潜入した敵の捜索と消火活動に人員が足りなく、警備に従事している者も消火に駆り出されている。
村外の国防軍も村になだれ込んでくるのは時間の問題と光夜は判断している。
母とよく来たこの西側の丘からは村の様子がよくわかる。
(母とよく来た?あの母と?)
一瞬あの母の顔が浮かぶが、この丘と連想が結ばれることはない。
光夜は少し苦々しい顔をした。
この丘には音楽が届かない。爆発音と風切り音だけが存在し、思考を深くさせる。
「光夜くん、遊びましょ!」
少し離れたところ。少年が一人立っていた。
それ程距離がある訳でもない。見通しのよい丘で後ろを取られらのだ。
「相馬、相馬新」
光夜は厳しい視線を相馬新に向ける。
なぜかその少年が相馬新だと認識していた。
「お前、俺のことちゃんと認識してないだろう」
第一高校の制服に身を包んだ一人の少年。
少し残念そうに、ただそれ程落胆もしていない。予想通りの結果だからだ。
制服の以外には右足にレッグホルスターをつけており、黒く光る拳銃の一部が見える。
既視感のある顔だが、今ひとつはっきりとしない。
(俺はあの制服の高校に通っていた?)
「お前が侵入者か」
「この状況下で他に潜入した奴がいたら教えてほしいわ」
あきれ顔で答える相馬新。数歩後ろに下がる。少しずつ戦闘へと緊張が高まる。
「目的は」
「効率重視か」
光夜はこのあけすけな態度に妙な安心感を感じていた。混沌とした目の前が少しずつ開くようだった。
相馬新は右足のホルスターから拳銃を出して弄り始める。
「目的はいくつか。一つは洗脳状態と思われるお前を村から出すこと。一つは重傷を負った司波雪光の救助、一つは年末から村に軟禁状態の司波達也と深雪の救助、一つは四葉真夜に面と向かって厚化粧を注意すること」
最後の冗談に笑いもせず光夜は左手首のCADに触れる。少しだけ空気が重くなる。
まだ緊張は頂点に来ていない。
「国防軍関係者なら忠告しておく。四葉には手を出すな」
光夜はこの状況下でも自分の口から警告が出ることに驚いている。
(即時攻撃に移らないのは何かしら心理的なブレーキがあるのか?)
自分の心と正対するが答えは帰ってこない。正対した先の心は暗闇の中だ。
「俺としては四葉真夜をどうにかできればコトの収束が簡単だったんだけど、彼女がね」
そう言って相馬新は丘に続く森を指さす。
木々の間に一人の少女。
第一高校の制服姿。栗毛の癖ッ毛。小柄でか弱く。幼声でそれでいて気持ちを強く持とうと努力をして、たまに空回る。
光夜の内心に慙愧の念と怒りと哀しさとそしてほんのりと暖かい感情が出てくる。
「あの子を見てご感想は」
相馬新が光夜の目を見つめる。
光夜はその色々な感情に蓋をした。それが正しい行動だからだ。
「貴様を拘束、または殺す」
頭に手をあてて「頭が痛い」のジェスチャーをする相馬新。
「ここで「うわぁぁぁぁ」とか叫んで洗脳解けないのが現実の厳しさだよな」
◆
【雷林】と光夜は呼んでいる。
放出系魔法に属するがその本質は古式に近い。つまりは自然現象の再現及び改変だ。
光夜の周囲には雷の柱が数十本と起立している。
まるで雷の林がそこに生まれたかのようである。
攻防一体の魔法。
それだけではない。情報体装甲(エイドス・スキン)を強化し、簡単な攻撃ならば軽く弾けるように防御を固める。
障壁は熟練しないと行動の阻害を起こす。
十文字克人ほど熟達すれば問題もないのだろうが、光夜としては障壁の維持・稼働に気を張るよりも
情報体装甲による簡便な運用の方が性に合っていた。
相馬新は雷林の中を気にすることもなく動き回る。
(絶縁か)
光夜は相馬新と一定の距離を取るように、同じく雷林を動く。光夜の情報体装甲が雷の木に触れ火花が散る。
相馬新は掌を向けてくると光弾を放ってくる。
(あれは…魔法とは違う)
その正体を喝破しつつも、光夜は次の手を打つ。
情報体装甲に掠る光弾を無視し、左手首のCADに触れると光夜のを中心に波紋が起きるように地面が波打つ。
それも一度ではない。数度と地面が波打ち、常人なら立てる状況ではない。
予想通り相馬新は大きく跳躍する。
空中を自在に動くためには飛行魔法が必要だが、この戦闘の中で即時発動は難しい。
光夜は空中の相馬新目がけて、円錐や錐のように鋭角なサイオン弾を撃つ。
命中すれば串刺しである。
だが相馬新はまるで空中に地面があるように一瞬屈むとさらに高く跳躍する。
(二段ジャンプ!)
サイオン弾は外れる。逆に相馬新は態勢を崩しながら光弾を打ち出す。
それは光夜にあたらず近くの雷の木にぶつかり、閃光が大きく弾ける。
光夜は一瞬だけ視野が真っ白になった。
情報体装甲をさらに強化し、雷の木を気にせず中腰のまま相馬新の予想着地点から距離をとる。
光夜はCADを操作し、障壁の展開と足元を大きく爆発させる。深さ1M程度に地面が抉れる。
簡易な塹壕だ。障壁を展開したままその塹壕に転がり込む。
塹壕内に入るころには光夜の視力も回復していた。
(雷林の効果は薄いな)
絶縁し電気系統の攻撃は無力。
二段ジャンプがある以上、空中での体勢調整は可能。謎の光弾は単なる飛び道具以上の効果がある。
その分析から光夜は次の手を実施した。
雷林は消え、今度は周辺に深い霧が発生する。
【刃霧】
只の霧ではない。光夜により一瞬で剃刀を凌駕する鋭さを持つ刃へと変化する霧。
気配を捉えた瞬間、刃化すれば相当の傷を負わせることが可能だ。
霧に紛れ塹壕から飛び出すと、右側面から衝撃波が発生する。
その一瞬の中での魔法使用。光夜は霧の範囲内で魔法行使が行われたことを感覚的につかんだ。
だが、それが攻撃的でないことも同時に感じた。
衝撃波によって霧は霧散してしまう。
霧が晴れた中で相馬新が「にっ」と笑う。
再度の刃霧から瞬時の刃化。
「痛った!イタタタタ」
姿の見えた地点とは別の方向から声がする。
散弾式のサイオン弾を撃ち込むが手応えはない。
立ち止まることの危険を感じ、霧の中を走り回ろうとするその瞬間。
「光夜!魔法を止めろ!殺すぞ!」
その「殺す」は自分に向けられて言ったものではないと光夜はすぐに理解した。
銃口が向いている中条あずさに向けてだ。
距離はあるが相馬新の実力であれば命中させることは可能だろうと、光夜は判断した。
光夜は渋々魔法を止め両手を挙げる。
「よし、いい子だ。CADを外せ」
霧が晴れると相馬新は光夜に近づく。銃口は中条あずさに向いている。
頬や耳などに無数の細かい切り傷。相馬新は無傷ではなかった。
先程の痛みを訴える声は魔法による偽モノだったと光夜は思った。
拳銃を持っていない手で光夜を殴りつける。
最初の一撃は想像以上の痛みだった。
二撃目もさらに痛みを引き起こす。
そして三撃目は顎を掠め、光夜から平衡感覚と全身の触覚を混乱させる。
立とうとしても、足が滑る。地面ではなく足が滑り立てない。
地面に手を着こうとしても、手が地面をつかめない。
身体を少し起こすが再度地面に突っ伏してしまう。
相馬新が拳銃を仕舞い、誰かを手招きする。
小さな足音が駆け足で光夜に近づく。
平衡感覚が機能せず片膝を着き苦しむ光夜のそばに中条あずさが到着する。
左手をそっと光夜の肩に置き、右手には「梓弓」を発動するペンダント型の特化型CADを握っている。
そのまま光夜の頭を胸に押し付け抱きしめる。
「大丈夫ですよ」
光夜にだけ聞こえる優しい声。
そして中条あずさは「梓弓」を最も小さく光夜を包み込むように発動する。
◆
二つのことが思い出される。
母は食事の時にいつも箸置きを出した。母は桜の葉、光夜は白鳥を模したガラス製の箸置きだった。
中条あずさは生徒会長の激務で一度生徒会室で居眠りをした。光夜は30分間二人きりの生徒会室で飽きることなく中条あずさの寝顔を見ていた。
暖かい記憶だ。
脳が平衡感覚を誤認し、その機能に大きく混乱を起こす。異常事態だ。
異常事態が異常事態を呼ぶ。
脳が一つの機能の回復に向かった際に強制介入してきた「情動」という未知の魔法。
脳の機能はそのキャパシティを大きく超え、複数の処理を行うこととなった。
最も正常な状態。つまりは洗脳されていない状態に脳は回帰した。
「奇跡」と呼ぶこともあるが、関重蔵はこれを狙っていたのだ。
30秒ほどすると「梓弓」の光が消え、光夜の足にも力が少し戻ってきた。
弱弱しく立ち上がる光夜。
中条あずさは光夜の右わきに立ち肩を貸す。
「よう、目が覚めたか」
関重蔵は近寄り、顔を光夜に近づけると光夜は空いている左手で重蔵の頭をつかみ頭突きをする。
ゴン、と音がすると重蔵を痛みで額を抑える。
「これであずささんに銃口を向けたことはチャラにしてやる」
「だけどさ」
言い訳をする間も与えず、光夜は言葉を続ける。
「フェイクの銃でも銃口を向けただろう」
「お見通し?」
相馬新は薄く笑い、光夜も微笑み頷く。
肉体言語での会話が少し面白かったのだ。
「ここの森の先に回収部隊を待機させてある。中条さん、光夜をそこまでお願いします」
「はい!」
少し声が震える返事。
「お前は?」
光夜は相馬新にこの後の行動を問う。
「雪光の安全確認して、四葉の当主に仁義を切ってから帰るよ。もし四葉の奴らに遭遇したら対応しろよ」
「了解した」
相馬新は「お幸せに」と一言茶化して、市街地へ走っていく。
◆
二人だけになると光夜が口を開いた。
「少しだけ寄りたいところがあるんです」
「でも」
四葉の人間がどこにいるかわからない。
先ほどの相馬の言葉もあり、中条あずさはすぐにでも安全なところに光夜を連れて行きたかった。
「母の墓がこの近くに」
丘から少しだけ市街寄りの斜面。静かな墓地。その区画の端。
「この人が俺の想い人です」
光夜は母の眠る墓にそう呟き
「私は光夜君をお慕いしています」
あずさは出会うことのなかった義理の母に気持ちを伝えた。
数年後、七草真由美があずさと光夜に別々にプロポーズの瞬間を聞くと、そろってこの時がプロポーズだったと答えている。
転生オリ主同士の戦闘ってスゲー難しい。