うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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村井さんが【ヘイミッシュ】と

いや~光夜は強かった。というか範囲系の魔法が豊富なのでやりづらい。

あいつの魔法で耳とか頬とか指先も細かい傷で一杯だ。

気と呼吸法で出血と痛みを止めて、丘の斜面を駆け下りながら先ほどの戦闘を思い返す。

あいつはどう感じてるか知らんが、中条あずさを見てから動きが少し悪くなっていたな。ねぇ?

洗脳には愛の力が有効だね(棒読み)

それよりも情動魔法による脳のキャパオーバーが有効だったと思うのですまる。

 

さて、それよりこれからだ。

四葉の連中をボテ繰り回すのは決定として友軍内の敵対派閥からの攻撃をどう躱すかな~。

案はあるけど、実施するとカナデに怒られそうである。ビンタの10発は覚悟しないと。

 

「貴様!」

市街地の入り口で拳銃型CADを持った住人が声をあげたので、銃型に固められたの樹脂製フェイク銃を投げつける。

吸い込まれるように住人の眉間にあたりノックアウト!

2090年代でも野球とプロリーグは存在している。

ただ戦争による社会疲弊もあるので高額年俸やスター選手といった部分は鳴りを潜めている。

なんというか1990年代の都市対抗野球の華やかな感じ?といった風でもある。

俺の応援している球団は昨年リーグ2位となり万年Bクラスから久々に脱し嬉しい限りだ。

今から100年前のリーグ9連覇の夢をもう一度。

 

市街地は俺の所業により黒煙が充満していた。

2090年代の住宅は不燃性が高く、相当特殊な方法を使わないと燃えない。

軍用物資を少し使えばこの通りだけど。

走りながら消火活動を勤しんでいる人々を横目に裏路地へと滑り込む。

 

一校の制服目立つ!

 

光夜対策で中条さんにも着て貰ったけど、やっぱり一校の制服は派手。

あと、常々思うがデブには厳しい制服だよな。

先々週に装備課の棚岩さんが「今の若い子はスタイル管理大変よね~」と制服を見て笑っていた。

出産前はスタイルが良かっただけに、25kg太った今の状態でしみじみ言われると説得力が高い。

 

そんなこんなを思いつつ裏路地を走り抜け、適当な家の庭先に発火チップを投げ込む。

 

情報部というか政情不安を起こすときの現場七つ道具の一つ「発火チップ」

大きさは一辺5㎝くらいのビニール製だ。

これの端を切り、中に入っている特殊な素材を酸素に触れさせると数秒で発火する。

素材はだいだい4分間発火するので、適当な小火を起こしたい時には必要になる。

ほら、庭先の植木に火がつき始めた。

 

こんなことを黒羽の工作員を黙らせながらちょこちょこ行っていた。

既に発火チップより危険度の高い軍事用物資は使い終わり、村内の混乱も後は沈静化に向かうだろう。

「こちら、優男。報告を」

軍用の小型通信端末に話しかける。

 

四葉の村内における防衛管理は低いと言わざる得ない。

破壊工作されることをあまり意識していないのかシステムハッキングに関してはそれ程防護は高くなかった。

まあ、村内に侵入するのに一苦労な村なので侵入者に対しての防備意識は低いのか?

どうやら四葉には「施設防衛」の高度訓練受講者もいないようだ。

 

「施設防衛」の講座は年に二度、5月から9月と10月から3月までのコースがあるので暇な国防軍の兵隊は受講しておくといい。

 

村内外の情報管理を司ると思われる施設には既にハッキング済みで軍利用の特定の周波帯での交信は可能にしてある。

ついでに四葉の交信も国防軍には筒抜けだ。

「こちら本隊。既に北東部は制圧。地域の中心地に向けて移動を開始。予定では00:20後には中心地到着となります」

「優男了解」

オペレーターはカナデだ。四葉の方位感覚を狂わせ、外敵除けの魔法やその特殊なセキュリティを本隊が抜けるのに九島から派遣されたのはカナデだ。

なんでも「電波とかに強い」らしいので、今回の四葉攻めにはぴったりだったようだ。

一応職業体験として本隊のオペレーターをしている。

「その識別名どうにかならない?」

「えっ?ダメ?」

「こっちが恥ずかしくなる」

「うおっほん!」

恋人同士の話に割り込んで白々しい咳をしたのは風間さんだ。

情報端末には笑いをかみ殺す藤林響子の声も小さく入ってくる。

 

 

走りながら交信を終えると四葉本宅が見えてきた。

さっきは玄関先に荷物を置いたが、ホントなんでここまで防衛が甘いかね?

 

先ほど仕掛けた爆薬で村内の病院の屋根が吹き飛ぶ音がする。

最上階の天井部分に仕掛けたので、病院の機能は一部止まるが入院患者や怪我人への直接的な影響は無いだろう。

こういう細かい嫌がらせを時差を付けてやると大抵は混乱が加速する。

なんで防衛が甘いかは俺相手だからと自慢気に言いたいが、謙虚な関さんとしては自慢も自重しよう。

 

本邸の玄関を無視して庭先へ回り込む。

既に庭先の監視システムは掌握済みです。ご愁傷様。

 

はい、赤外線は無効。重量感知型の警報も無効。

粒子放出型の追跡機も黙らせた。

番犬の方が厄介だったりするので愛犬家が仲間内にいる人の家には入り込みづらい。

スピッツは吠えるとうるさいしね。

 

フランス窓越しに屋敷内を見ると、黒いドレスを着た女性が嘆息交じりに執事の男と話している。

あれが、四葉真夜か。

 

執事が視線を四葉当主から外し、お茶の支度をする。

既に日は高くなり、正午へと刻一刻迫る。

 

庭の一画、洋風の庭と言うのは身を隠す場所がある。

和式の庭と言うのは、意外と身を隠しづらい。

というのも「自然の調和」みたいなものを「人為的に作る」ので異物が混ざり込んだ時に異様に目立つ。

今身を隠す生垣も背が高く、また花の蕾の明るい色も多く、一校の白い制服が生垣越しに見えてもあまり目立たない。

 

俺はポケットから金属製の十面体ダイスを手にする。

こいつを上手く指弾で飛ばすと、飛距離も貫通力も銃弾に近い事が起こる。

日光の反射からフランス窓のガラスは強化ガラスではなく、市販のそれに近いようだ。

これだけで自分たちの村の防備への甘さが感じられる。

 

正直潜入するだけで一苦労だし、出くわす村民は四葉の住人という村そのものが強力な防衛施設なので

最高の権力者は自然と防衛力を過信する。

「人は石垣、人は城」を曲解するとこうなるのだ。

 

俺は指弾を飛ばし、お茶を入れるべく屈んだ執事のこめかみを撃つ。

フランス窓の木枠ぎりぎりを貫通させれば硝子は簡単に割れない。

硝子の中央を均一の威力で叩くと割れるが、ガラスの強度と割れる場所さえ見極めれば

硝子越しの狙撃でも硝子全体が破砕することは実はない。

 

という説明を昔陸軍の狙撃研修で話したら「嘘つけ」みたいな顔された。

ばっか!お前らシティーハンター読めよ!と言ったらもっと酷い視線を投げつけられた。

結局実践してみせ納得させたが。

 

執事は手にしたティーカップを床に落としながら倒れる。

確か「ハヤマサン↑」だったかな?

倒れ込む執事に四葉真夜は慌てることはない。

フランス窓に近づき俺は庭から室内に入り込む。

 

「あら」

四葉真夜は俺に驚くことなく、少女の如き反応をする。

まるで近所の知り合いと道で出会ったような反応だ。

 

俺は一瞬で背中に嫌な汗をかいた。

俗にいうハイライトのない瞳。年齢(48歳)に似合わぬ反応。

 

 

ヤバい、メンヘラだ。超めんどくさい。

 

 

 

四葉真夜の座る藤の椅子。

内心(エマニエル夫人か!)と突っ込んでおいた。

【エマニエル夫人】を知らない人間がいたら検索すれば一発でわかると思う。

でもエロいから18歳未満は検索しない方がいいか。

 

「国防陸軍だ。お前に監禁、誘拐、また情報漏洩教唆で逮捕状が出ている。同行願おう」

 

「それは私ではなく、代わりに息子が対応します」

恐ろしく内容の無い笑顔で答えて来る。

いやだ…ホントメンヘラ。

「お前の息子?誰だ?」

知らないふりをしてみたが返って来る答えはわかる。

 

じゃあ、みんな声を合わして言ってみよう。

「四葉光夜です」

ほら。

「そいつはお前の実子ではないだろう」

間を置かず俺は突っ込む。

いや、何度かメンヘラを抱いたり会話をしたが本当に面倒くさいのです。

俗にメンヘラ言われる人には説得よりも治療だよ。ホント。

 

四葉真夜はやはり死んだような瞳を変えない。

「私の、私のお腹を痛めた子供です」

俺は嘆息する。

「あんたは光夜を息子にして何がしたいんだ。大漢への復讐?」

質問に少しだけ感情が、怒りと復讐心が詰まった言葉で返される。

「全部よ、全部への復讐」

 

世界は嫌いだが具体的な方法は決まってませんね。

大体、ラスボスがこの状態だと途中無理な命令で部下の人心が離れ、孤独のまま主人公と最終戦闘に突入する展開になる。

俺はさらに揺さぶりをかける。

精神疲労で気力を無くさせれば後が楽なんだよね。

「タツヤ・クドウ・シールズがいるのに?」

その名前に30秒以上だまり、更に瞳からハイライトを失くし俺を見て来る。

「誰です?息子じゃ…………」

「息子じゃないと言うなよ。遺伝上は子供だ」

 

押し黙る。暴れないメンヘラは内罰的になるよな。

今彼女は実子を無視したことへの自己嫌悪と、自分の地獄のような人生を起こした周囲の世界への怒りの自己正当化の合間で揺れ動いている。

傷ついた人間はその諸悪を世界に転換する。

こうなるとあとのコントロールは簡単だ。

 

「自覚してるか知らないが七草弘一はアンタに未だ惚れてる。過去に起こったことに悔やんでいると思っていい」

俺は優しい声を出す。この女に唯一の道を提示してやる。

「…」

「逮捕されたら、七草を指名して弁護を要請しろ。そしてUSNAに飛ばしてもらって向こうで野垂れ死ね」

「そう上手くいくかしら」

呟くように言う。完全に自分の無力に打ちひしがれている。

「上手くいく。四葉は光夜が統括し、過去の亡霊たちを殺して普通の十師族になる。あんたが全ての罪を背負ってUSNAに行けば丸く収まる」

あのボッチ以外は四葉を統括できないだろう。生まれついてのカリスマ性というヤツがここで生きて来る。

「俺はアンタに興味がないが少しだけ手伝いしてやろう」

それだけ言って俺は少し震える四葉真夜に近づく。

彼女は不安そうに俺を見ている。

 

無力な女。可哀そうな女。魔法師という存在であることに人生を狂わされた女。

 

顎を掠める拳。四葉真夜は白目を向き、脱力し気絶する。

 

 

周囲の索敵を済ませ、屋敷内に敵はいない。

四葉真夜を肩に担ぐ。

「こちら優男。四葉真夜を確保」

情報端末に伝え、撤退用のルートを確認。歩きながら最後の支度をする。置き土産だ。

「了解しました。こちら第一小隊が四葉本邸に到着しています」

「風間中佐はいる?」

奏の声を確認する。元気そうだ。

「なんだ?」

 

「村井さんが【ヘイミッシュ】と」

俺が最後まで言葉を紡ぐ前に爆発が起こる。

 

四葉真夜を爆発から守るため、適当な家具の物陰におろし障壁を展開する。

変数を調整し、極力強度を上げ、展開時間も伸びるようする。

ある程度距離が離れたり、サイオンの供給が途切れても多少は残量サイオンで障壁の維持は出来るだろう。

 

ちなみに俺は死ぬ前の走馬燈は信じない。あんなものはないのだ。(体験者談)

爆風が目の前に迫る。炎の色はオレンジだ。

 

村井さんには俺の伝言は届くだろうか。

 

 

すでに正午は過ぎた。

「通信は…回復しないです」

「彼は行方不明だ」

風間の言葉に納得いかず、カナデは近づき少し高い位置の風間の胸倉を掴む。

「死んだの?」

声には感情はない。事実確認をする無機質な声だ。

「わからん。捜索を出す」

「ッツ!」

返答した風間が見たのは、無機質な声を押し殺し涙を溜めた藤林奏の瞳だった。

女の涙だ。

 

戦闘は終結した。

警備施設の地下からは衰弱した雪光が、半ば消し炭となった四葉本邸からは薄ら笑いを浮かべながら何も喋らない四葉真夜が発見された。

光夜はすでに確保され中条あずさとすでに旅団が護衛する病院へ到着している。

 

抵抗した四葉の分家衆は魔装大隊と合流した司波達也の魔法力によって制圧された。

司波深雪以外のことで彼が声を荒げるのを、魔装大隊の面々は初めて見たのだ。

 

魔装大隊を中心に編成された今回の大部隊は四葉の村の広場にテントを張り、本拠地として制圧後の村内をくまなく調べていく。

 

日常生活に必要な施設以外にも訓練施設や遺伝子研究施設、もっと言えば人体実験用の別棟や遺体を焼却する施設。

そこはまさに日常と非日常が混ざり込んだ村だった。

 

 

「光夜、お前はそんなことでこの秘匿回線を利用したのか」

「その言い草はなんだ」

「今さら俺の遺伝上の両親など興味はない。お前の推論が当たっていようとそれが俺に何の関係がある」

「お前の問題じゃない。お前の存在が十師族に波乱を起こす」

「それこそ俺の知ったことではない。いいか、よく聞け、俺は戸籍上はUSNAクドウの縁者かつ四葉の正統後継者候補であり、七草の三男だ」

「そうだ」

「では聞くが、俺は四葉や七草の資産相続を訴えれば相続する権利があるのか?」

「そんな話をしているので」

「俺にとってはその程度の話だ」

「……」

「お前たちが俺の存在でどれだけ殺し合いをしようと俺の知ったことではない。俺は俺の生活を守る権利と義務がある。今更十師族の内紛の種になって巻き込まれるなら、正々堂々と四葉と七草における俺の権利など捨ててやるわ!」

 

「アラタが死んだ」

「あれが?死ぬわけないだろう」

「MIA(戦闘中行方不明)だ。屋敷内には死体が複数あり、どれがアラタか特定できない」

「ほらみろ」

「だが」

「お前らはどう考えているか知らんがアレがそう簡単に死ぬわけがないだろう」

「・・・・・・」

「言っておくが、お前らはソウマアラタというかセキジュウゾウという男を過小評価をしている」

「・・・・・・」

「お前たちと魔法師として比べるとおこがましいが、身体能力、戦闘能力については世界最高だ」

「・・・・・・」

「こちらでもあの男についてUSNA情報部から大量の資料を貰った。だがそれは決定的な証拠など一切ない状況証拠による暫定的な戦歴だけだ」

「・・・そうなのか」

「『疫病』という名の超A級の殺し屋、エジプトで時折現れたエージェント『キッド』、ペルーでの内乱で暴れまわった傭兵『ウルヴァリン』、インドで1時間で73人の敵兵を狙撃した謎のスナイパー、その全てがセキジュウゾウの可能性がある」

「可能性なのか」

「そうだ。絶対の証拠がない。だが状況証拠を考えれば同一人物として収束される。USNAの分析官が数人がかりで出した結論だ。この人物の戦歴から導き出される実力は『通りすがりのサラリーマン』並だ」

「何だ、それは?」

「ググれ」

「この人物が本気になり、かつ組織が十全に援護すれば十三使徒を六使徒くらいまで減らせるだろう」

「・・・・・・」

「その人物に限りなく近いのがセキジュウゾウだ」

「・・・・・・」

「俺やお前、達也、雪光や深雪は確実に現代でも隔絶した高度な魔法の実力を有している。だがなセキジュウゾウは本物のバケモノだ。俺たちは魔法で世界をひっくり返せるがあの男は魔法を使わずとも自分一人で世界をどうこうできるぞ」

「・・・・・・」

「はあ~。日本の学生に予言しておこう。あいつは死んでいない。どこかで姿を現す」

「もしその予言が外れたら」

「俺が四葉の本家を継いで、ついでに七草を乗っ取って、クドウ家を丸め込み、リーナと結婚してUSNA大統領選に出馬してホワイトハウスの住人になってやる。そんなことは絶対に起きないがな」


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