うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
第一高校は緩い坂の上に立っている。
白い校舎はすでに改装から数年経過しているが、風雨で汚れた様子はない。
この門から出るのもこれで最後だ。
2090年代でも卒業証書は紙だった。
権威主義なのか変えるのが面倒なのか、それとも先人の感傷かな。
藤林奏、問題なく卒業しました。最終的な席次は8位となりました。
3年生は激動の一年だった。
あの人がいなくなっても司波達也のトラブルメイカーぶりには何も変わりがなかった。
内心トラブルメイカーはあの人かと思っていたけど、やっぱり達也がトラブルメイカーだった。
新ソ連の魔法師との対決とカチューシャのお父さんの問題や、トーラス・シルバーの正体暴露、
四葉の当主となった光夜による十師族会議での大演説。魔法師の宇宙開発への利用案、七賢者による魔法師の社会進出計画とその顛末。
雪光は半年のUSNA留学でタツヤ・クドウ・シールズ、アンジェリーナ・クドウ・シールズと組んでパラサイト退治で名を上げた。
トラブルメイカーは司波家の特性な気がする。
向こうでつけられたあだ名が「ヴァンパイアハンター雪光」らしい。本人は「ダサい」と嘆いていた。
それ以外はあまり語ることはない。せいぜい皆の進路くらいだろうか。
予想する進路に進む者もいれば、意外な将来を描く者もいる。
モーリー君が医大に入ったのは驚きだった。てっきり防衛大に進むかと思ったけど。
一般教養の分野では学年1位を取ったのは彼自身の努力の賜物だろう。
話に聞いていた看護師の彼女さんの影響だろうか。
予想通りにエリカは防衛大に進んだ。渡辺摩利と同じ進路である点を指摘したらキーキー言っていた。
いい加減、お兄さん取られたコンプレックスは直した方がいいと思う。
レオはレオで体育系の大学に進んだ。やっぱり山岳警備か機動隊系のゴリゴリの仕事に就く気らしい。
魔法大に進む者もいれば私大の魔法科コースや一般大学に進学する者もいる。
あたしも一般大学組だ。
この時代でもエンジニアの需要は尽きない。情報ネットワーク構築に関連する学部のある大学に進んだ。
そのくらいしか興味もやる気も起きなかった。
幹比古君も美月も、雫もほのかもそれぞれの進路に進んだ。大半は魔法関係の大学が多いけど。
あたしも最初は防衛大も考えたが、あの人がいないと思うと進む理由もない。
いなくなって最初の2週間は泣いて暮らした。次の2週間は笑うことが出来なかった。
その次の2週間は世界が嫌いになった。そして死にたくなる2週間を過ごした。
恋とか愛とかに破れた一人の女だった。
そこから少しづつ学校に出ることにした。お姉さんの励ましのおかげだ。
愛した人を失くした姉妹がお互いを慰め合って、初めて肉親の絆というものを感じだ。
「どう?寂しい?」
「ううん、わからない」
校門前にはお姉さんが迎えに来ていた。
夕陽が白い校舎を赤く染める。気づいたら卒業生で最後に門を出たのはあたしになっていたようだ。
自分でも笑って応えたつもりだけど、涙声な気がする。
寂しい?どうだろうか。あの人と学校過ごした記憶が一番大きい。それが完全に過去になると思うと寂しいのかも知れない。
同級生との楽しい記憶もあるけど、楽しいことはまだこれからあるのだろう。
辛い記憶は・・・辛い記憶はなかなか褪せない。
九島家も少し変わった。
伯父も、祖父も新生四葉の後ろ盾となり、十師族の改変に掣肘することはない。
「次の世代に苦労してもらおう」と言っていた伯父は寂しそうであり、嬉しそうでもあった。
光宣は元気になった。
半年の治療でもそれなりに効果が出たのか、今年度の九校戦&論文コンペでのMVPは紛れもなくあの子だ。
アイス・ピラーズ・ブレイクとスティープルチェイスの二冠だったし、論文コンペも優秀賞を獲得している。
来年は一校が追う側なので、七草泉美生徒会長と七海奈波部活連会頭には頑張ってもらいたい。
琢磨君は風紀副委員長で香澄ちゃんが委員長。
武心君は剣術部主将だけど一年生の時のやんちゃが今でも語り草になっている。
三校には番長となった法楽君がいるし、鳴門君は四校の生徒会長。
一学年下の子たちの学園生活も賑やかになりそう。
武心君はあたしが寂しくないよう、たまの買い物にも付き合ってくれた。
残念ながら須田君が設定したグループデートの一部として。ごめんね。
武心君の一個下の学年にも転生者が2人いたが、あまり接点がなかった。
やっぱり達也と深雪に絡んでいた。
みんな、あの二人が好きなようだ。
そうそう、須田君。彼は凄かった。二校と七校、四校と六校、一校と九校の学校を跨いだカップルを三組を誕生させた。
「伝説の恋愛マスター」として末永く魔法科高校の伝説となると思う。
但し彼自身はシングルとして卒業している。大学で可愛い彼女と会えるといいね。
「友達と帰らなくて大丈夫?」
「うん、明日改めて卒業のお祝い会するから」
お姉さんの車に同乗して自宅を目指す。
そう言えば、最近お姉さんが千葉さんと会う頻度が増えている。千葉さんはもうすぐ本家に挨拶に来るのだろうか。
コミューターの駅の前を通り過ぎると卒業生が家族と乗車の列を作っていた。
大半の卒業生は今晩家族と共に卒業を祝うのだ。
転生者の進路について少しだけ。
光夜は一気に億万長者になった。
四葉傘下の企業を統括する四葉ホールディングスの代表取締役兼最大株主の席に収まっている。
大学には行かず「あーちゃんとキャンパスライフを・・・」と悔しがっていた。四葉の変革は待ってくれず、卒業前から忙しそうだった。ご愁傷様。
雪光は工業系大学に進む予定だ。CADをもう少し弄って遊びたいらしい。
それ以上に「魔法バイク」なる構想があるらしいのでその実現を考えている。
光る剣を持ったバンパイアハンターがバイクに乗るって本当にヒーロー趣味だと思う。
黒城君は卒業後国防軍入り。入隊前の丸坊主にした頭の画像をみんなに送ってきた。
ちょっと話をしたけど「楽しみだ!」と言っていた。きっと将来、隊長とかになって部下を率いるんだと思う。
絶対死んじゃ駄目、とだけ念を押しておいた。真面目にうなずいてくれた。
カチューシャの進路は面白かった。USNAの経済系の大学への進学。
海外への進学が難しい現代で彼女が取った道は茨の道だった。
「光夜の会社も買収してやるわ!」と言っていたけど、その目は本気っぽい。
こんな子があたしの親友だと思うと人生面白いと思える。
タツヤ・クドウ・シールズはよくわからない。
あの可哀そうな女がUSNAに渡ってからはあまり話を聞かない。
正直どうでもいい。
周公瑾は今も喫茶店でウェイターをしている。この人は平和に生きていればいいんじゃないかな。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
家政婦さんに帰宅を挨拶を済ませ、自室に荷物を置き着替えてリビングへ向かった。
達也と深雪は、魔法大に進学する。四葉から放たれ自由に生きている。
ただ雪光が「深雪、大学にいるうちに気持ちを整理しなよ」と真面目な顔で言っていたのが印象的だった。
深雪の愛情はどうなるだろうか。遺伝子的に問題無くても近親相姦は倫理の問題。
どう選択するのだろうか。楽しみであり、そして心配でもあり不安でもある。
「奏お嬢様、お手紙が」
ん?この時代に紙の手紙というのも珍しい。
贈答品にメッセージカードが付くというのはあるが、単体で手紙が来るのは珍しい。
手紙を受け取り、リビングのソファに腰掛ける。
薄っすらと青みのある封筒。お洒落な字体であたしの名前が書かれている。
国際郵便なのか封筒表面に「Tokyo」とメモ書きされている。
ここの住所を示す暗号型QRコードから、送り先を知ろうと指先を二度三度動かし
配送ネットワークを遡るとフランスからの手紙だとわかる。
フランスに関係しそうな顔見知りを思い浮かべるがジェニーさんしか思い浮かばない。
彼女は今年度の九校戦で1時間ほどお喋りして以来、メッセージのやり取りをする間柄になった。
彼女の初恋もあの人だったらしい。たまに「お義母さん」と呼んでくるのは嬉しいけど恥ずかしい。
ちょっと笑っちゃう。
封を開けるとポストカードが入っていた。観光用のしっかりしたものではなく、
写真を加工して作られたお手製のポストカードのようだった。
最初に目についたのは写真に映るどこかのダンスホールの看板だ。
昼間の陽の中。通り過ぎる観光客の後ろ姿が見切れて映っている。
看板に書かれている言葉はフランス語で・・・う~ん、よくわからない。あとで検索しよう。
何となく看板のあるハイフンで区切られた数字は住所な気もする。
写真をひっくり返す。そこには嫋やかな文字で日本語が書かれていた。
スズカさんへ
4月25日に踊りに来ない?
あの人、こんな綺麗な字を書くんだ。
あたしは翌日の予定をすっぽかし大急ぎでフランスへ行ったことを最後に記しておく。
「宇多田ヒカル あなた」で検索。
この話のイメージ曲。