うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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何となく特別編を書きたくなったので書きました。
1万文字オーバー、長い。



【特別編】論文コンペ発表内容を最大で25分の動画にまとめ提出しろ

先々週の横浜騒乱編は真田大尉の専用CADケース解除の「色即是空空即是色、南~無、沢庵は奥歯で噛みんしゃい」でお馴染みのマテリアルバーストで朝鮮半島の一部の地形が大幅に変更されて終戦となった。

 

来年の受験生大変だ~地理の教科書を変えなきゃね。教科書関係は小さくない業界なのでその影響はすさまじい。

お兄様、教育界にも影響がある。

 

「動画撮影の担当は部活連に打診されますか?」

生徒会室では中条会長に深雪副会長が確認を取っている。

あの横浜騒乱は別の形で学生たちにしわ寄せを起こしている。

 

本来行われる論文コンペは途中で中止。論文の評価も出来ぬままの幕切れとなり文科省及び日本魔法師協会の出した結論は・・・

 

各校でプレゼン用の動画を期日までに提出。その後審査員である各校の生徒会長がネットワーク越しに評価会を行い最終順位を決定。

 

つまりはこの1週間内に論文コンペ発表内容を最大で25分の動画にまとめ提出しろという話なのだ。

すでに一校のプレゼン用機材は横浜騒乱の中で破棄されており、予備機を司波達也と五十里先輩と雪光が大急ぎで組み立ている。

 

五十里先輩どちらかと言うと部品の発注で専門業者に頭を下げる専門だが。

いや前髪クロスシスコンニンジャ戦略級魔法師(軍事秘密)に相談すればトーラス・シルバーが試作機のモデルアップに使う超高々精度の部品とか出てくるからね。

後輩がいのない奴め。

 

生徒会室には会長の中条あずさを筆頭に光夜や深雪嬢、光井ほのかちゃん、そして論文コンペの主筆である市原鈴音先輩、とおまけの俺、相馬新だ。

「そうですね。今回は部活連の映像部に応援をお願いしましょう」

あーちゃんの言葉に頷く光夜。この後部活連執行部に行って「お力添えを」と一言言って服部先輩の胃にダメージを与える仕事をするのであろう。なんでも服部先輩カウンセリングの回数が増えたらしい。おいたわしや。

 

というのも問題児二科生グループ以外に雪光が命令無視の横浜での高速戦闘をおっぱじめたり、光夜のトンデモ魔法の使用など一校の部活連会頭として全生徒の範を示す重石役はそのプレッシャーが凄いことだろう。

十文字克人は難聴系鈍感主人公の才能があるからその手のプレッシャーには強そうだ。

いきなり妹とか増えても動じないイメージだ。エロゲ主人公みたい。きっと妹は金髪だな。

 

雪光も雪光で魔装大隊からのお誘いもあり、光夜はすでに戦略級魔法師候補として先日佐伯少将が会議の俎上に挙げたらしい。

 

服部先輩の胃痛の話は置いておいて、映像部への依頼については少しだけ市原鈴音先輩の眉間にしわが寄る。

切れ目の美人。数字落ち「一花」家である。まあアニメ設定が無く、コミック読んで知った口なのでこれが未来に対してアドバンテージのある情報かは知らん。

 

問題なのは映像部である。

正しくは「ビジュアルエンターティメントディレクショングループ」通称、映像部である。

悪い方向での問題児集団で、端的に言えば「美少女」のPVを作りたくてうずうずしている奴らである。

勝手に「一校美少女ベスト10」とか言う盗撮紛いのPVを作ってwebに公開しようとして肖像権の問題で生徒会から叱られた盆暗集団である。

10代にある意味もない蛮勇による無茶な行動、正しく意味を理解しない「表現の自由」という単語と屁理屈紛いの口八丁で事を切り抜けてきたらしい。

らしいというのは、全て風紀委員のカナデ経由で教えられた渡辺摩利前風紀委員長の苦労話によるものだ。

 

美少女多くて映像系の仕事希望ならそういうことしたくなるのは分かるが、魔法科高校には名門や曰くつきの家の人間もいるので肖像権を理由に黒服にどこかに連れていかれる可能性もあるので正論だけで武装するのもよろしくない。

賭郎だって武闘派じゃん。

 

「そうですね、服部会頭に許諾を得た後、映像部に話に行ってきます」

あ、映像部終わった。光夜が話に行くと言ったのだ。

ちょっとでも中条会長の発案に反対の意思を見せようものなら…アーメン。

横浜騒乱後に少しだけ物腰が柔らかくなったので、即死ということは無いはずだ。

 

「機材の準備は明後日には完了の予定です。リハーサルで1日、本番は4日後でしょうか。編集に最大2日なのでぎりぎり締切には間に合いそうですね」

私プレゼン内容は暗記しています、みたいな落ち着いた態度の市原先輩の言葉にうなずく生徒会一同。

 

まあ、前生徒会の上級生で模範にすべきは小悪魔七草真由美でもなく、胃痛王服部刑部でもなく、女王中条あずさでもなく、

「普通に優等生」の市原鈴音だろう。態度も落ち着いていればその魔法実技においても学内屈指。

美人、冷静、実力、あと声が中原麻衣という4大美点を持つに美少女に憧れを頂く人間は少なくない。

特に司波深雪の抑え役の側面を持つ自己評価が低めのほのかちゃんなどランランとした目で市原先輩を見ている。

 

 

「話は付けてきました」

須田ちゃんを引き連れて早々に光夜は生徒会室に戻ってきた。

 

服部会頭の許可を得て、部活連執行役員であり光夜担当の須田ちゃんを同伴し映像部に協力の話を持って言ったところ

「中条ね~、もしかして四葉君って貧乳好き?」と言ってはならぬ冗談を薄ら笑いを浮かべて映像部の部長が協力依頼の返事としてしてしまったらしいのだ。

 

珍しくお怒りの須田ちゃん曰く「拗らせ童貞男子らしい無意味な体形揶揄のニュアンスを含んだ言葉に開いた口がふさがらないね。細身の子には保護欲を掻き立てられ、豊満な子には安心感を感じる。美しさなんて人ぞれぞれ!大事なのは愛嬌と慎み深さのバランス!自分の外見に対して一般的な美醜基準における美しさを維持する努力には敬意を払うよ。でも、いきなりあんな口を利くのは男子としてはだめだね。そう思うでしょ」と息継ぎなしで持論を展開され、生徒会室の女性陣はあっけに取られている。

光夜は深く頷き、俺は少し頭を抱える。10代男子の拗らせ映像部より業の深い猛者がおったぞ、ここに。

 

「光夜、お前何をしたんだ?」

部屋にいる人間の代表として聞いてみたが返事は効率重視だった。

「永劫に逆らうことはない」

うわ~効率重視。

 

ん、情報端末の着信を見るとカナデからだ。即座に返信する。

 

受信:映像部、風紀に庇護を求めてきた。光夜なにかやった?

返信:やった

 

「光夜、風紀に映像部が逃げ込んだぞ」

頭を抱えた姿勢のまま、俺は光夜に告げると光夜は中条会長に外出を告げる。

「申し訳ありません。映像部との打ち合わせがありますので行ってまいります」

生徒会室、特に中条会長にしか見せない優しい笑みを見せ、光夜はそそくさと生徒会室を出る。

 

光夜はポーカーフェイスのボッチだが、中条会長に対しては感情が顔に出るようになり生徒会の仕事を一人で負担しようとして「できるからといって一人でしないでください。役割分担を持って運営していきます」と注意された時は珍しくというか、初めて凹んだところを見た。

やっぱりあいつ中条会長の事が好きなのか?

 

 

「今のところ、トラブルらしいトラブルはないですね」

「そうか、当面は水面下での対応がメインになるだろう。あとは軍よりも外務省の仕事だ」

定期連絡ということもあり、市ヶ谷には出頭せずモニター越しでの風間さんとの打ち合わせだ。

 

百名以上の大亜連の捕虜は千葉にある収容施設に入れられており、捕虜取り扱いを定める条約に基づき「人道的な」待遇下に置かれている。

ただ、尉官以上の者には時折情報部の専門部署による非情な尋問が行われ、現時点である程度作戦立案の経緯が判明している。

国家主力軍内の派閥闘争とか止めろよな。

 

「当面は大亜連関係の作戦は凍結ですかね」

「これだけデカいカードがあるからな、無用な行動をする必要はないが逆に情報部の方が苦労しそうだな」

「一抜けして正解だった」

「そう言ってやるな。それに今週来週はお前も忙しくなるだろう」

 

産学スパイの皆さん垂涎の論文コンペの動画作成は一部では有名な話になっており、学校警備の名目で国防軍の一部が未だに学内警備に回っているので産学スパイが入り込む余地は少ない。

 

少ないだけで入り込むのだ。スパイは。例えば童顔の情報部員とか。

つまりは網をくぐり抜けた一流どころのスパイの対応は、天才的諜報員かつ20歳下の美少女彼女が頻繁にお泊りに来る男、地獄からの使者関重蔵!デデーンの仕事でもある。

 

 

「せーんせ」

「あら、相馬君どうしたの?」

カウンセラー室の扉を開けて気軽に声をかけてみた。出来る限り下心を隠す感じの高校一年生っぽく。

巨乳のカウンセラー小野遥は九重八雲の弟子で司波達也の妹弟子。

顔は童顔で幼い感じが一部男子生徒に大人気だ。顔は幼く、巨乳でカウンセラーで包容力が高い感じ。

 

童顔なのはどっこいだし、巨乳な彼女いるし、あと包容力高いのはカウンセラーとしての職務態度なので特に惚れる要素はない。向こうが俺に惚れる可能性はあるけどな!

 

さっとカウンセリングルームに入ると勧められる前に小野先生の前の椅子に座り、俺はニコニコしながら気軽に話しかける。

「公安からの産学スパイ情報って入ってる?」

「うん?」

丹下桜さんの声で首を傾げられると恐ろしく保護欲が高まるのは何でだろう、cc桜は全話観ていたが。

 

俺はさらに気軽に話を続ける。

「今度の動画撮影に関して産学スパイが出て来る可能性高さそうでしょ?」

小野遥の口角が上がる。冗談に対して微笑んでいるように見えるし、わけのわからない質問に困惑している様に見える。

そして自分のウェットワークに関係した質問に警戒するような笑みでもある。

 

手に持っていた問診票を机の上に置き、座ったまま椅子を引き距離を詰めて来る。

問診票を置いたことで心理的に「正対しなければいけない」と無意識に判断したのだろう。

この場合は「産学スパイね~、その手のことなら○○先生が勤務歴長いから詳しいかも」と生徒会の使いぱっしりに答えるのが良い。

下手に正対することで自分から話を深刻化させている。

さてはこの手の対話苦手かな?

 

「先生をからかうんじゃないの」

少しだけ口調を厳しくするが微笑みはそのままだ。

「ですけど先生、先生の以前やった悪戯を考えればこの手の情報に関しては公安から共有されませんか?]

俺の言葉に息を飲む小野遥。表情には怯えが見える。

う~ん、動揺するとは認識阻害のBS魔法師で食っているだけで工作員、諜報員としては訓練等は御座なりかな。

 

まあ認識阻害で出入り自由と言うのは強いが対面でのテクニックも必要になる。

3秒以内に額に汗をかくとか出来る?俺は出来る。スパイ活動とは突き詰めれば嘘を本当にする演技力が必要だ。

 

「安心してよ。この件についての公安からのメッセンジャーだから」

「証拠は?証拠はあるの?」

眼を少し細目敵意を見せる小野先生。

 

「これ」

俺は悪びれることなく上着のポケットから一枚紙を出す。

公安が使うメッセージカード。擦ると文字が浮かぶタイプのカードで何もしないと白い紙だ。

小野遥はカードを受け取ると早速擦り、浮かび上がる「メッセンジャーだ。田代」の文字を確認する。

 

公安のS(情報屋)管理を行っている田代健司警視の名前を見て少し表情が緩む。

「本当にメッセンジャーのようね。安心したわ」

小さく嘆息し小野先生はメッセージカードを破り捨てる。

 

古巣の情報部から各取引先諜報組織の備品を持ち出すなど軽い軽い。

情報部支援課第二班は各組織の特殊な紙の予備分の保管倉庫の管理も行っており、そこから物を持ち出すなど実家の子供部屋から昔読んだ漫画を持ち出す程度のことだ。

支援課の強みは「情報と備品の集積」だ。装備課と違い消耗品の一部管理を任されることはリアルタイムで各組織の動向を把握できるし、嘘をつく素材にことを欠かない。

 

「父さんが国防軍から一時期公安に出向していてその絡み」

歯を見せて笑う。同類だよ!という合図でもある。

下手に沈痛な面持ちで話すよりも高校生らしい冒険心によるものと思わせるのが良い。

好意的な感情の発露を受けると人間というのは肯定的な解釈を行う。

特にストレス下では連帯意識を勝手にもち態度が軟化しやすい。

 

「本当に公安とかエージェント?を学校内に入れてるんですね?田代さんが言ってたけど先生も昔やんちゃしてたって?」

「その名前は出しちゃだめよ。人の耳がどこにあるかわかったものじゃないし」

田代の名前が出た瞬間小野遥の頬がこわばった。

 

田代健司。公安部警視。情報屋やエージェントを統括する責任者。

ミズ・ファントムとの接点がある数少ない人間で、まあ公安関係の情報屋に話を出す時には過去何度も匂わせた名前だ。

50絡みの愛国心の強い、ヤバいタイプの公安部の人間。

警視になっても現場に顔を出すのは少しだけ頭のネジが緩んでいる証拠だろう。

本来であれば司令本部で調整する管理職なのに。

昔「国民あっての国家だが、時には国民が犠牲になることで国家が守られ別の国民を守ることになる」と話をされたことがあるので、公安、特に防諜関係の仕事をさせるには適した人格なのだろう。暴走したら怖いけどね。

 

「で先生、何か共有しておく情報とかあります?」

「そうね、今のところ学内には四葉君がいるから下手に動くところはいないと思うわ。それに司波君、司波達也君もいるから騒動が起こっても問題ないし」

司波達也の名前が出た瞬間に軽く微笑んだ。あれ?司波達也ガールズのお一人でしたか。

「あいつって、何かそっち関係なんですか?」

僕知りませーん、アイツが大黒特尉とか、トーラス・シルバーとか四葉の罪の結晶とか、深雪ちゃん以外に感情向かない設定とか、据え膳喰わぬは花澤香菜とか知りませーん。入学直ぐに深雪ちゃんに突き飛ばされていきなりの再成したとかも知りませーん。スペランカーか、アイツは?

 

「あああ、うん貴方は知らなくても大丈夫。学内に関しては大丈夫だけど学校の外についてはちょっと担当外ね」

余計なことを言ったという風に言葉を濁して話題の矛先を学校外に向ける。

「その辺りは公安も動いているし、もしかすると国防軍の情報部も動いてるかもしれないの。生徒は安心していいわ」

「へ~い」

「あと、これは協力してほしいんだけど学内に国防軍から派遣されている諜報員がいるらしいの。この間の一校襲撃でも直接現場で動いていたらしいし」

そうか、小野先生横浜にいて藤林響子と「エレクトリック・ソーサレス」「ミズ・ファントム」の中二病ネームの自慢し合ってたんだっけ。

なので一校の詳細な、特に情報部絡みの情報は降りていないのか。

俺は口を少しだけ開け、ほんの少しだ。頷いた。

口を開けたまま頷く奴は「こいつ駄目だな」という印象が残る。出来る奴でも口空けて頷いてはダメだ。

逆に侮られるなら口を開けたまま頷け。

大口ではなく、ほんの少しだけ口を開けることで「暗愚」というより「興味がない」という印象が残るので相手とコミニュケーションを寄りつつ距離を置きたい場合は、口を閉じずに薄っすら開けて頷くと今後相手にされなくなる。

たまに「馬鹿を上手く使おう」と接触してくるが情報が抜きやすくなるだけだ。

 

「それとこれは今回の件とは関係ないけど来月には冬の考査試験があるから、その情報流出対策で文科省から人が来るから、そのあたりの情報収集も必要か」

「その人来るのいつ?」

「明日、明後日には顔出しに来ると思うけど。それが?」

 

BINGO。それだ。

 

小野先生は文科省の人間と産学スパイの公式は知らないようだ。

「いや、たし…あの人からメッセンジャーの話がくるの面倒だな~と思って」

俺はそれだけ答え、悪ふざけで下手な敬礼をしてカウンセラー室から退散した。

 

司波達也には共闘するため正体をバラしたが小野先生にはバラす必要はない。

彼女は現場の「目と耳」であり情報の分析・判断者ではないし、情報の運び役にこちらから正体を教える必要はない。

どれほど特異な能力を持っていても、性格面や精神面においてはアマチュア。

彼女が諜報の世界で出来るのは忍び込んで玄関ドアを開けるのが精一杯なのだ。

 

司波達也も言っていた「擦れたプロよりも巨乳で声が丹下桜のセミプロですよ。そちらの方がしっかり仕事をします」だっけか?

 

 

「風間さん、当たり。文科省のスパイが来るよ」

「待て待て、文科省のスパイとはどいうことだ」

小野遥との接触のその晩。もっと言うと風間さんとの二日連続の通信。

俺はビール片手にモニター越しに風間さんにこれから起こることを告げる。

風間さんも執務が終わったのか、手元にはロックグラス、中には色の濃い琥珀色の液体があることからどっかに隠し置いていたウィスキーかその種類のアルコールを飲んでいる。

 

「文科省と魔法科高校の関係はどの程度把握している?」

「基本的には百山校長の離れ業で繋がっているという風にとらえているが」

風間さんは答えてグラスに口をつける。

二人とも気軽な口調だ。

まあ便宜上部下ではあるが、諜報に関しては魔装大隊唯一レベルの専門家で独自裁量で動くことを認められているし、何よりも風間さんとの付き合いは長い。中東と東南アジア、あとハワイ沖と共同作戦は何度かこなしている。

二度目の中東では1週間だけだが叔父さんと甥っ子も再度演じた。

 

「そこだよ。魔法科高校の監督省庁は?」

グラスを置いて3秒間の沈黙。悩むというより思い出すと言った感じで風間さんが答える。

「そうか、横取りか」

「YES」

 

2095年における日本の若年者への教育機関、わかり易く言えば小中高大学の監督省庁は基本的には文科省の領分だが

「国立魔法大学」「魔法大学付属高等学校」だけ特別だ。

魔法大学付属高等学校の監督官庁は立て付けは文科省だが、仕切りは内閣府に設置されている外局「魔法庁」の管轄である。

もっと言えば国家戦力である魔法師を育成する世界最高峰の機関でもあるので国防軍、総務省と各省庁の利益誘導のための横車は時折あり、その一番の被害を受けているのが「本来の監督省庁」である文科省だ。

国立魔法大も本来は監督は文科省だが、国家機関または準国家機関である国立魔法大は文科省の「教育理念」だけでは支えきれないのだ。

 

日本国籍取得者だけに許される魔法師最高学府への最短ルート。

魔法大国日本の背骨たる国立魔法大学と魔法科高校だけは教育の範疇ではおさまらないのだ。

つうか、文科省では「十師族」の対応は無理だ。奴らは実力行使をしてくるし、それを行うことが特権とも捉えている節がある。

文科省の事務次官や大臣などそれこそ七草や四葉が本格的に動けば3日のうちに変更することが可能だろう。

 

そうしないのは「護国」集団を自認する十師族が教育行政に必要以上に介入することで、日本の教育に歪な暗黙のルールを作らないようにしている自制でしかない。

本気を出せば、十師族だけで一校の2,3クラスなど簡単に埋められるだろう。

 

それをさせないのは百山校長などの現役の教育者のウルトラC的な学校運営と、十師族が実力主義を標榜するため不出来な者を無理やり魔法科高校に送り込まない矜持のためだ。

 

「失点回復の為、学生の研究を盗用しようというのか」

「ある程度の基礎研究はスキップできるし、発表しない集積データが手に入ればラッキーってとこでしょ」

昨年の2094年に起きた文科省におけるちょっとしたスキャンダルは短期だけ日本を賑わせた。

ダメだよ、高級官僚と言われる立場の人間が違法運営の風俗行っちゃ。

俺の前世でも「ノーパンしゃぶしゃぶ」なんて事件があったな~。

 

俺の言葉に呆れるように風間さんは一口飲み話を続ける。

「ということは、叩けば過去にもやっていた可能性はあるな。こうなってくると魔装大隊というより、検察の領分か。いや、下手に検察に持ち込むと…う~ん」

「風間さん、どうするよ。検察に持ち込んだら十師族出張って来るよ」

 

日本における国家権力は「行政」「司法」「立法」そして「検察」に深く関係している。

難しいことは省くが、十師族はそのどれにも触手を伸ばし、深く食い込んでいる。

でなきゃね、四葉みたいな殺し屋集団が簡単にのさばれるわけがない。

アイツらはどこかに根を張り、どこにでも顔を出し、もみ消しを行う。

結局のところ、四葉を筆頭とした武闘派十師族は戦力と同規模の政治力を備え、それは現実に各省庁、国家権力に根を張っているのだ。

 

「だが、完全に国内の組織間のイザコザには魔装大隊は出せんぞ」

「俺、そのイザコザの専門」

「あとは頼む。穏便に」

目の前のモニターの通信が切れた。

あのおっさん、俺に対して端的な言葉で全部押し付けて切りやがった。

 

 

「モーリー、警備やるの?」

「風紀だけだと手が足りないから、部活連執行部も手伝うことになってるぞ」

「俺、誘われてないぞ?」

「お前、一般生徒だろ」

「忘れてた」

 

昼飯。食堂ではいつもの面々、ではなくモーリーとレオンハルトと俺だけだ。

なぜか動画収録の警備をする気満々だったレオの意気をくじくモーリー。

 

横浜の一件から「鉄壁要塞」とか「鉄拳二科生」とかよくわからん渾名を付けられたのがレオだ。

長身で体格も良く、イケメン。多少女子にキャーキャー言われるようになったとか。

「動画は講堂でまとめて撮るんだろ」

「その後、速攻映像部で編集作業。光夜と達也が編集の立ち合いをするってさ」

「映像部死ぬぞ」

レオの質問に答えると、モーリーが映像部に同情する。

 

まあ死ぬな。司波達也がちゃんと光夜を抑えられるか。

映像部の部長は光夜が近づくと直立不動に立ったまま動かなくなるらしい。

雪光に聞いたら「精神干渉魔法は使ってない」から相当トラウマなことが起きたのかもしれない。

 

「それよりも、お前ら冬の期末テストの準備は進んでるんだろうな」

ギロっという擬音が付きそうな目つきで、モーリーが俺とレオを見る。

ふふふふ、舐めてもらっては困る。

学生向けのテストなど徹夜したって覚えられるか!

 

「そりゃ一応やってはいるけどよ」

トレイ上のサラダをフォークで突きながらレオがごちる。

「前日にヤマ教えろって言われても、大事なのは日々の学習だぞ」

「そうだぞ」

「お前もだ」

何とかしてモーリー側に立とうとしても、一瞬で看破された。

 

流石、森崎駿。1年で学年ベスト20に入るだけのことはある。

先日も看護師のおねえさんと川越デートして来たらしい。

 

都心ではなく川越というのも渋いチョイスだがモーリー曰く「女性看護師仲間の酒蔵巡りの付き添い」だったらしい。

荷物持ち大変だ。しかしながら年長お姉さん達(俺より年下)ほろ酔い一日デートに付き合ったと思うとこれはこれで羨ましいだろう。特に須田ちゃんが。

 

「いいか、前日にヤマ聴きに来たら指導料取るからな」

「「へ~い」」

俺とレオの返事が重なる。

指導料取るけど教えてくれるあたりモーリーの面倒見の良さがよくわかる。

 

 

 

灰色の背広。黒い背広。一校から業務委託を受けている大手企業のネットワークエンジニア、そして監督官として教師と職員、セキュリティ担当のスタッフと立会いの中条あずさ生徒会長と司波深雪副会長だ。

 

技術棟にあるサーバルーム。

文科省から派遣された二人組は教職員、学校運営職員たちとそこそこ挨拶すると待機していたエンジニアと早速サーバルームへと脚を運んだ。

 

俺はそれをネットワークカメラ越しに確認している。

一応サーバルームには簡易の監視カメラを2つ置いてある。

学内の重要箇所には覗き用に少しだけ手を加えておいた。

 

この手の事が得意なカナデの頼ればより容易だったが、何でもかんでも民間人に任すわけにはいかないし、ほら彼氏としては彼女に対してミステリアスな部分も残しておきたいじゃん。

 

さて第二図書室に持ち込んだ中型情報端末のモニターには灰色と黒の背広から指示されエンジニアがプログラムインストール作業を行っている。

横ではセキュリティ担当スタッフが教員と職員、生徒会の二人に改めて今回の作業を説明する。

 

「覗き?仕事?」

第二図書室の扉を開けて顔を出したのはカナデだ。

肩でそろえた黒髪。余裕のある口元。涼し気な目元だが、決して冷たい印象なわけではない。

「なんでそういう結論になる」

「そういう電波が飛んでる」

カナデは自分の頭の上を指さす。電波的な彼女である。読んだことないけど。

 

人のいない第二図書室。X-ファイルの保管庫と言ってもいいくらい人が近寄らない。

現代における魔法、一部では科学魔法とも言われる理論、技術体系は紙ベースの資料ではなくデジタルメディアでの閲覧が基本で、古式魔法の方が紙での保管を重視している。

一校は「国際基準の高等魔法教育」を標榜しているので現代魔法がカリキュラムの中心で古式の特に紙の資料など閲覧されるのは年に数回あればよいと言った感じだ。

 

というわけで人のいない第二図書室で一人モニターを眺める俺の膝の上にカナデが図々しく腰掛ける。

俺の首に腕を回し、横目でモニターを見る。顔が近い。

肉体年齢は16歳ということで肌がみずみずしい。唇などプルンとしている。

「何?キスでもしたいの」

「そっちがだろ?」

カナデの言葉に答えると軽く唇を合わせる。

 

異性不純交遊しているタイミングではないのでキスし終わるとモニターを再度注視する。

「どうしたの?文科省かエンジニアがスパイか何か?」

「あたり」

カナデの眉間に少ししわが寄る。冗談で言ったつもりが俺の回答が「マジ?」ということへの驚きと文科省への少なからずの落胆であろう。

 

「文科省が悪さをするからそれを見張ってる。エンジニアは買収されたか、知らないか。今洗ってる」

魔装大隊から支援課への支援要請。いや~外注で情報収集してくれるってスゲー楽。

モニターに映るエンジニアは情報端末を操作しながら新しいプログラムと既存のシステムがエラーを起こしていないか項目をチェックしていく。

「あえてアナログなことして、ハッキング要件を逆に減らしてるってことでしょ」

「そうそう」

一校のメインコンピュータはスタンドアローンというわけではない。

外部の魔法協会のデータベースへのアクセスが可能な非常に重要な回線で結ばれている。

ネット越しによるシステムの更新が可能なようにポートやバックドアを作っておくと、そこをブレイクポイントとしてハッカーによる介入が可能であることから更新やプログラムの追加等々はネット越しではなく、直接サーバへのアップロードをすることになっている。

 

2095年現在は便利であることは絶対ではない。

なんやかんやいって戦争が身近な世界では「不便」で情報が守られるなら不便を取ることがある。

 

今度はカナデからキスをしてくる。

重くて情熱的で30秒くらいのキス。

「なんだ、甘えてくるな」

「甘えるくらいで済めば良いけど…」

少し熱のこもった声。

膝の上に腰かけたカナデは少しだけスカートをたくし上げ、俺と正面を向くように足を跨いで座る。

ブレザーを脱ぎ床に落とす。

両手で俺の頭を抱え、もう一度キス。

俺はその間に、ライブ映像が録画されているのを確認しモニターの電源を切る。

カナデはたっぷり2分はキスすると最後に俺の下唇を甘く噛み、唇を離す。

唇が離れたときに口腔内に残る香りは女性の芯に火が付いた香りだ。

 

「言っておくけど、廊下に幹比古がいるから10秒後には扉が開くぞ」

「嘘ね」

余裕綽々のカナデ。

俺から視線を外さずにほほ笑み、ブレザーの脱がすためブレザーの内側に手を滑り込ます。エロい。

う~ん、横浜騒乱後にもベットの中で楽しくしたので、カナデはイチャイチャにハマっている状態だ。

ただ幹比古の気配が廊下にある、

 

「アラタ、どうだい?資料は・・・」

扉が開くと無防備な幹比古が俺に跨りブレザーを脱いでいるカナデと目があう。

 

「あああ、ううう、あああ」

顔を真っ赤にし、うめき声をあげる幹比古。同じ一年生のいざ情事!といった瞬間に驚き動きが止まってしまう。

お前は童貞か!って童貞だよな。

 

「あら…」

カナデは俺の言葉通りに幹比古が現れたので、そそくさと俺から降りるとブレザーを拾い、さささと着ると「オホホホ」とごまかす様に笑うと第二図書室を出て言った。

ありゃ、今晩来るな。

 

「ミキ、資料探しに来たんだろ?」

「ぼ、ぼくの名前はみきひこだ・・・」

半ば条件反射で訂正するが、人生初の色っぽいシーンでドギマギしている。

でもお前、警備班の訓練の時に柴田さんのおっぱい揉んだやろ。

 

 

 

「少佐。変ですよ」

「だよな。非十師族系でまとめすぎだろ」

 

カナデを寝室に寝かすとリビングで通信用サブモニター越しに支援課の小泉中尉と話をする。

支援課第二班が洗ってくれた情報を検討したが、エンジニア、文科省の計三名は非常に怪しい。

 

簡単に言えば三人とも非十師族系なのだ。この非十師族系とは職場関係及びプライベートに十師族との接点がないということだ。

文科省の魔法科高校へ派遣される国家公務員(俗にいうエリート官僚候補)に一切の十師族の影が無い。

個人に無いのはたまにある。だが、二人とも十師族との関わりはプライベートでも皆無。

さらに言えば、配属部署においても十師族との接触を最小限、いやほぼ皆無なまで避けられている。

 

1人ならば確率的にもあり得るだろう。文科省で十師族から公私とも接触のない人間。

だが二人だ。そして民間のエンジニアといえ、魔法科高校に出入りする企業のエンジニアもである。

 

情報部は十師族の温床だし、他の省庁、気象庁には天候系魔法師である七宝、また海洋調査庁のところには一条、総務省に言えば十師族の息のかかっていない部署を探す方が大変だ。

 

だが文科省、その魔法科高校への立ち入り業務行う二名が十師族との関わりが無い。

異様だ。

この組み合わせに確率ではなく人為的なモノを感じてしまう。

 

「少佐、こいつ」

「うっわ、公安じゃん」

中尉がモニター越しに指摘した情報は文科省の一人が4年前に出向していた団体の住所。

文科省が関係している第三セクター系法人が入っている霞が関のビルの住所だ。

この住所が公安に結び付くのは同じビルに公安関係の部署が入っているからだ。

 

言いたくないが2095年の公安は第三セクターや民間寄りの世界に溶け込むのが上手い。

というか、第三セクターなどは公安の活動の隠れ蓑に持ってこいで、俺もダミーの第三セクターの架空情報を総務省のデータベースに入力する作業を行った。

勿論それは公安からの依頼で、総務省にばれれば大問題。

 

もう一人も文科省における前々部署の上司は公安と関係性を噂される人物であった。

上司の裏の薫陶が部下に引き継がれることなど良くあることだ。

 

つまり、間接的な情報をまとめると文科省の背広二人は確実に公安の紐付きで、十師族への反抗意識が顕著な人物による意向で一校へやってきたと考えられる。

 

「少佐!ここからは魔装大隊の仕事のなので支援課は手を引きますね!」

「おい、待て待て待て厄ネタは一緒に対応しようよ~」

小泉中尉の爽やかな笑顔を俺は静止する。

 

逃がさんぞ~、魔法科高校へ公安の息のかかった文科省がスパイ行為を行うって文字にするだけで厄ネタなのだから支援課も巻き込んで苦労させたる。

 

「ですが目的は不明ですよ。誰の紐付きかは調べればすぐ出ますけど、その人物によっては完全に公安が魔法科高校通じて国防と内閣に喧嘩売ってることじゃないですか」

「下っ端の暴走…じゃないな~。稼働している人員が多すぎる。係長級だろうな」

「うわ・・・人が死ぬレベルじゃないですか」

 

単独のスパイ、それは情報屋の変種みたいなもので基本的にはバレたらその責任は自分個人に帰される。

だが複数人のスパイが同一行動する場合はそれは組織の意向と規律が働いている可能性が高い。

つまりバレると組織がバレる、だから組織はバレないように十二分にバックアップする。

 

なので今回は文科省二人、エンジニア一人計三人が最大スパイ数とするなら、それは組織が関わっているということだ。

そして隠匿の為に人が死ぬこともいとわぬ瞬間が増えるのだ。

そう、素人紛いの人間を固まって運用するのは危険だ。危険だよな?

 

「ああ、そうか。こりゃ手を出さなくていいな」

「ん?何でですか?」

「3分やるから考えてみな」

数秒だけ考え込んだが俺は結論に到達した。きっとこれが正解だ。

小泉中尉が不思議と思ったのか、俺は思考時間を与えた。

少しは自分の頭で考えないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・3分

 

「で、答えは」

「文科省の官僚候補にスパイ行為を行わせて弱味を作り、その弱味で情報屋としてコントロールするため」

「黒幕は?」

「公安の田代警視」

「結末は?」

「一校の情報を田代に渡したことで違法行為が成立、機密情報の漏洩を理由に文科省の二人は弱味を握られる形になり当面いいなり。エンジニアも同様。文科省、エンジニア両方とも今後は公安の情報源として動かされますね。エンジニアは最悪、会社を辞めさせられて指定する企業に入社?」

自分の発言に十二分な自信がないのか俺の顔を見ながらの回答をする小泉中尉。

 

「公安は文科省内にSを持つことになるから、文科省に出入りするNPO教育団体の振りした反政府団体への情報ががっぽがっぽだな。仕事捗るだろうな~」

小泉中尉も「そうっすね~」と頷く。

 

奇妙なことだが「正義の行為」は違法行為として脅されることがある。

いや、脅したことがあるけどね。大抵は何かしらに不満、いや義憤のある人物がハマりやすい罠だ。

どうせ、この文科省の二人も「十師族は日本の病巣」みたいなことを言われ続けていたのだろう。

そうでなければあそこ迄「無菌培養」に従うことは無い。

 

あーあ、田代さん上手くやったな~。

民間ではなく官公庁内にSを持てるのはアドバンテージがデカい。

俺も何人か他の省庁に情報を回してくれる人がいるが、それは何年もの付き合いの上で築いた関係で、強権的に強請れる相手ではない。

 

「でもどうします?一応違法行為ですよ。特に魔法科高校」

モニターの向こうでは小泉中尉が嘆息。

落としどころが難しい。

 

俺は顎に手をやる。数秒考え、

「そうだな…よし!拉致しよう!」

「は?」

 

 

 

「お前さんか、老けないな」

「ほっとけ」

 

上井草の喫茶店。

40代のおっさん。髪も綺麗に整えられそこそこのスーツ。

警察官というより、大企業の管理職といった落ち着いた貫禄だ。

50には届いていないはずだ。

 

俺は一昨日の動画撮影終了後に動き出した。

光夜の圧力に負けて映像部部長は編集開始1分で失神して保健室に行った。

 

俺は制服のポケットから小さな情報メディアを出す。

田代はそのメディアを受け取る。

「これは本物か?」

「俺のヌードグラビア」

「まあそれで十分か」

冗談を笑って受け取る。

実際に情報メディアに入れておいたのは支援課が別口で集めた地下組織の情報だ。

小泉中尉にはOKを貰っている。

まあ公安から普通に問い合わせれば出てくる情報なのでこのタイミングで出しても痛くはない。

 

田代がにこりと笑う。

「どのあたりで気づいた」

「素人集めて、危険な橋を渡らせていれば裏ぐらい考えるよ。手駒の調教としてはスタンダードな方法」

俺の言葉に田代は深く頷く。

 

適当な理由で再度一校に訪れたエンジニア。

仕掛けたプログラムで収集した情報を回収するため再度一校を訪れたのだ。

外部からのアクセスが制限されているのだ。情報の回収はアナログな方法だろうとすぐに判断できた。

 

で、その帰りを拉致。

情報を纏めた情報メディアを奪い適当な場所でリリース。

今頃、警察のふりをした支援課の人間に保護されているだろう。

明日には公安の紐付きじゃなくなり、適当なエンジニア人生を送るのだ。

 

「貸し借りは?」

田代の申し訳なさそうな視線を投げる。

そうなのだ。

俺がこの手で事件を晒せば手駒への調教は失敗。

下手をすると文科省の上層部がことに気づけば公安の立場が無くなる。

 

「この手のことは別の場所でやってくれ。高校はこっちの範疇だ」

「文科省は?」

俺は首を横に振る。

「なにも。そこに証拠が手に入ったんだ。上手く調教しなよ」

一校から持ち出された情報の内容が重要なのではない。

情報漏洩を文科省の人間が行ったという事実が重要なのだ。

これで事実が出来た。あとは田代が上手く脅しに使うだろう。

 

「あと忠告だが、あの巨乳ちゃんはもう2,3年で放した方がいい。業界向きの性格じゃない」

「そうだな、その忠告は聞いておく」

お互いにぬるくなったコーヒーをすする。

 

魔法を使わぬスパイの世界は童顔のおっさんと40代のおっさんが上井草の喫茶店でコーヒーを飲んで終幕するのだ。

 

 

「そんなことがあったのか」

風間さんはモニターの向こうで日本酒を飲みながら事件の終幕を聞いた。

俺の手元にも酒。瓶のペールエールだ。

 

「これで当面は公安が魔法科高校関連でちょっかいは出してこないよ」

「十師族が気づいていると思うか」

「無いね。魔法は使われていないからサイオンレコーダーには残らない。監視カメラの映像もこっちで処理済み」

魔法を使えば十師族に勘づかれる可能性は上がる。

だが俺のこの件ではCADにワンタッチもしていない。

 

「まったく恐ろしいな」

「俺から言わせれば魔法を使わないと諜報出来ない奴の方が無能だよ。訓練と経験を積んだ工作員は平時の国防の要だ」

「耳が痛い」

魔法師集団の長は俺の言葉に苦笑いをする。

魔法という技術が万能になりつつある昨今だが、人の思惑や社会の仕組みは魔法ではまだ読み解けない。

人間による知恵と経験と対話でないとわからないことの方が多いのだ。

 

「ドンパチの専門要員は使える手段は使わないと」

俺のフォローの言葉に風間さんも「そうだな」と言って杯を煽る。

 

「まだ話をしているの?」

隣室、寝室からカナデが眠そうな目で出てきた。

既に時間は午前3時。土曜からすでに曜日は日曜だ。

 

「あ!下を履け!風間さんと話してるんだぞ!」

カナデは寝間着代わりのTシャツ。下はスカイブルーの下着だけだ。

 

モニターには写っていないが俺の声と慌てようから誰がどんな格好でいるのか風間さんは察しがついたようだ。

「未成年・・・はぁ。自由恋愛もほどほどにな」

それだけ言って、通信を切ってくれた。

 

もうすぐ期末で年末だ。たしか来訪者編が始まる。

リーナ来るんだろうな~。

 




宣伝。
「うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2」も気晴らしに書いてる。

https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186191

レッツ、チェック、ヒア!(腕クロスしてヒップホップっぽいポーズ)

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