うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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何となく書いたわけです。


駄話:第二回剣術稽古会

「第二回剣術稽古会」

「わ~」

俺の言葉におざなりに声をあげ拍手するのはレオだけだ。

 

タッちゃんの帰国日も決まった。

一応、留学生としての体面を保つためぎりぎりまで授業に参加し来週の卒業式後のパーティの余興迄やるのだ。

時折「腕の傷が痛む」と言ってくるので「虫刺された?」と茶化す。

お前のせいでこっちも死ぬほどの想いをしたのだ。お相子にしておいてやろう。

 

カナデは「あいつが死ななかったのが残念」と笑顔で言っていたので相当怒っているのだ。

雪光も「ミスターブシドー」と言っては厳しい視線を向ける。

二科生の面々を態度が厳しい。

マスクをしていたこともあり正体は知られていないようだが、それでも勘の良いエリカやレオはタッちゃんの正体を訝しんでいる。

 

そしてある日曜日。

凄腕潜入工作員として、世界のメディア王が仕組むEMP爆弾と身長2m以上の銀歯の用心棒、メディア王の愛人で超絶美女との大人のアバンチュール、そしてビックリギミックが仕込まれた名車アストンマーチンとワルサーPPK、シェイクされたドライマティーニ、豪華客船で行われるパーティでの「ボンド、ジェームス・ボンド」の本名を名乗るシークエンス、大体上映時間128分くらいの映画で収まる大冒険は特になく非番なので予定が空いていた。

 

で、エリカのリクエストにより第二回千葉道場での稽古会が開かれた。

参加者が増えた。

エリカ、レオ、そして壬生紗耶香&桐原武明と千葉修次である。

勿論保護者代わりの千葉長男もいる。

カナデは九島からの仕事で今日はいない。なんかアウェイ感があるな~。

 

全員胴着に着替え、俺の言葉を待っている。

 

「前回はエリカに歩法の初歩をやった。まあ今回はその一歩先、歩法と初動についてやりたいと思います」

俺の言葉に各自うなずく。

武術の達人の第一歩の第二回だが達人初歩の初歩の稽古である。

「レオ」

「おれ?」

「あんた、今日は見本役で呼んだんだから」

俺の言葉に自分を指さしながらレオが立ち上がる。

身長や体格からするとちょうどいい。

エリカも今日の出席を求めた理由を端的にいってくれた。

 

「前回歩法では滑らかに動くこと、簡単に言えば力まずに動くことを説明したけど次は動きながら動作を切り替える、つまり力みが発生する攻撃の初動を消す」

竹刀を持ったレオの正面に立つ。俺も右手に竹刀を握り、力まずに自然体で構える。

「面を打つから気づいたら止めろよ」

「おう」

 

レオは正眼に構え、俺は7,8歩の距離を歩き出す。

剣道におけるすり足ではない。膝は高く上げないがそれでも普段の歩き方と遜色ない。

右手には竹刀を軽く握り、剣の構えなどには一切見えない。

ゆっくりとだがレオに近づく。

 

パン

 

レオの頭に俺の竹刀が触れる。

音はするが強くは打っていない。

 

「レオ、ちゃんとやりなさいよ」

「いや!俺だって反応できないんだよ」

 

正眼の構えのまま何もできずに頭を打たれ、エリカに突っ込まれるレオ。

面を打つ相手に反応するとはなんぞや?

 

人間は反応⇒伝達⇒実行まで0.5秒かかると言われている。つまり、動きの起こりとは伝達⇒実行ではなく反応がスタートである。

 

 

腕の振り、肩の動き、体軸の動き、足の動き、目の動き、そう言った「面を打つ動き」すなわち「普通の動きではない動き」を第六感を含めた「五感+直感+経験則」によって判断し「打ってくる」動きであると無意識的に判断し、脳が「防御の構えを取る」と反応し、肉体に信号を出し、神経が五体に伝達し、肉体が実施する。

 

細かく言ったがざっくり言えば「こいつ面を打ってくるぞ!」と相手の動きを見て判断し、防御の構えを取るのだ。

 

※詳しくはグラップラー刃牙 第二部 「バキ」のブラックペンダゴン編を読もう!

 

で、俺が今レオにやったのは歩きの中に剣を振る動作を隠し、左足を前に出し右腕を前に振る動きでレオの頭を竹刀で打った。

 

「ちょっと次、私!」

 

パン

 

今度はエリカの頭。

 

「俺が受けてみよう」

 

パン

 

桐原先輩

 

「私も」

 

パン

 

壬生先輩

 

 

「僕も」

 

パン

 

千葉修次

 

「やります?」

「修次がダメなら俺じゃ無理だから止めておくよ」

千葉長男は冷静に断った。

 

皆不思議そうに頭を抱える。

「俺は普通に歩き、腕の振りに竹刀を振る初動を隠しました。だから初動を見切れない人は面を打たれたわけです」

「つまりは実戦なら君の動きを察知できずにみんな斬られると」

 

「まあそうですね。この稽古の目的は十二分な殺傷能力を持った攻撃を出来るだけシンプルかつ最小の動きで行えるか、そしてそれを歩法、ステップワークの中に如何に隠せるか、もっと言えばステップワークと攻撃のつなぎ目を消す事でもあります」

 

右ストレートを打つ時、手が出る前に腰の回転や足のひねり、肩の動きを見れば軌道を予測して避けることが出来る。

だがステップワークの中で足のひねりや腰の回転する動作があって、そのステップワークの動きを利用して右ストレートを出せれば、相手はステップワークの動きとして油断するから右ストレートを受ける確率が上がる。

 

動きの中に隠すとはそういうことなのだ。

 

「じゃあ、みんな力の限り素振りね。脱力代わりに肉体的疲労から。60分間竹刀を振って。ただし一回一回ちゃんとした動作で。反動使ってステップするような面打ちしないように」

 

 

「中国拳法には暗勁という技術があります。つまり勁を暗くする、隠すことです。勁にも、沈み込む、踏み込む、体重移動、捻転動作と何種類もあります。ただその動作をわかり易く見せると容易に防御されます。だから暗勁、つまりは何気ない動きに殺傷能力を隠すのです」

あ、壬生先輩がバテだ。

 

「東アジアの武術だけではなく、世界各地の武術にそう言った最小動作に殺傷力を残す技術というのがあります。近年では100年ほど前に生まれたシステマにも似たような技術が見受けられます」

エリカが片膝を着いた。

 

「日本の剣術は刃物があることが前提なので素手による殺傷能力を上げる必要はありません。まあ日本刀を振り回せる程度の筋力があればいいんです。あとはそれをどう当てるかで」

桐原先輩の竹刀の振りが遅くなる。

 

「格闘技には一撃必殺信仰があります。防御を打ち砕く強い一撃なのか、確実に当てるのか、相手が疲れたところでの一撃なのか。剣術にも示現流の様な防御無視な超攻撃的流派がありますが、その剣術思想が絶対の正解ではありません」

レオも大口開けて呼吸を繰り返す。

 

「いうなれば、今回行うのは如何に当てるかという問いに対して「相手の虚をつく」という部分を掘り下げることとなります。残念ながら雲耀の剣ではありません」

千葉修次だけが面打ちの姿勢も崩れず行っている。

 

「では次。二人一組。俺は修次さんと。面を打つ役と受ける役。重要なのは打つ側が殺傷能力を残したまま剣の振り上げる角度をどこまで抑えられるか。受ける人は威力が下がったらその旨伝える。言われた人は威力を戻しながら振りを縮める」

「はぁはぁ、ちょっと待て、見本の一つでも見せてくれ」

休憩の催促代わりに桐原先輩がリクエストを言ってくる。

まあ壬生先輩とエリカがへばっているのを見ると一息位は入れようか。

 

「折れてもいい木刀とかあります?」

千葉長男にお願いしたら使い古されたの木刀が出てきた。

次男坊に面を受けれるよう木刀を頭の上で横に構えさせる。

「あ、左手で峰部分を支えてください」

身長差は数センチ。10センチはいっていないと…思いたいが、如何ともしがたい足の長さが俺の心を抉る。

スタイルいい奴の隣には極力立ちたくない。幹比古とか。

 

千葉道場の天才剣士で、若くして尉官で、18歳の彼女がいて、金持ちで、ブラコンの妹がいて、そんでもってイケメン。

 

おお、神よ!なぜに!なぜに人は美醜にて己の自尊心が傷つくのでしょうか!神よ、お答えください!

答えはすでに知ってる、チート選択のサイコロの目に関係しているはずだ。

 

まあ武術の大天才で、36歳で少佐で、16歳の(コスプレしてくれる)彼女がいて、(裏稼業で貯めたマネーロンダリング済みの莫大な)貯金があって、妹弟にはそこそこ敬意を払われていて、姪っ子、甥っ子にも好かれている童顔と考えれば俺の方が幾分か勝っている。

 

ほら大人だから、顔の良し悪しなんてさ、どうでもいいですよ。大人ですから!

 

「ほ」

正眼の構えから面打ち。

さほど振りかぶらず剣道の試合なら手首の動きだけで打った面として無効な感じ。

踏み込みもせずにその場で行う「手癖で打つ面」だ。

剣道での面打ちは踏み込んで前方への移動の推進力を威力に乗せてテイクバックを少なくして打つ。

だがこれは踏み込みもせずその場での上半身、特に手首だけの面だ。

 

バキッ

 

竹刀で木刀が折る。

 

「こういうことです。殺傷能力を隠すということです。最小の動きで最大の威力。壬生先輩、今の面打ちは試合で避けます?」

「…受けると思う。打突としては有効打と取られないし」

「はい、頭蓋陥没です。桐原先輩、今の面は避けれそうですか?」

「いや、手癖で打たれる分、鍔迫り合いの間合いだと容易に当たる。さらに竹刀だ。殺傷能力を感じられないから避けないな」

「はい。頭蓋陥没です」

 

「いいですか。威力を残すんです。力を抜いて動きを隠すだけならチョットした荒行を行えば出来ます。大事なことは「ちゃんと殺せる威力で動きを隠す」ことです」

 

千葉の次男坊は折れた木刀を不思議そうに眺めている。

ちなみに気は一切使っていない。

日本武道の秘伝を3つくらい重ねて使えばこのくらいできる。

 

つまり、最小の動きで行う最大の殺傷能力を特殊な歩法で行えば、容易に人を殺せる。

すれ違いざまや、それこそ肩がぶつかっただけでも殺せる。

俺の体重約60kgを肩を通して相手の背骨へと衝撃を伝えてやれば殺せる。

 

端から見たら肩がぶつかっただけだが、受けた側は重さ60kgの鉄球が突然、それこそ時速100km以上でぶつかった威力を身体の芯に受けるのだ。

 

今見せた木刀折りもそれと同じ理屈。これが「武神」の加護なのだ。

 

 

「いっそころせ・・・」

道場の床にはバテにバテた桐原先輩と壬生先輩が寝ころび、レオは片膝を着き、エリカは道場の隅で無言で倒れ込んでいる。

なんとか言葉をつぶやいたのは桐原先輩で、千葉修次も無言で竹刀を杖代わりにして立っている。

 

面打ちの稽古を45分。延々と自己の動作を小さく収斂させる。

そのうち稽古は単純に自分の肉体との対話となる。

 

足の裏、背中、肩、ひじ。姿勢の中で普段意識しない箇所を意識し、大きな動作を小さくしていく。

威力を落とさないためにも、普段使わない筋肉を総動員して威力を上げる。

剣の振りが遅くなれば相手への接触の瞬間、手の内を締めて一気に威力を付ける。

ほんの数センチの手前から握力と手首の力で急加速して威力を求めるのだ。

 

これやると一気に握力が消耗するので大変だ。

 

現代の「剣術」は魔法技能との併用武術なので、実のところこういった細かい部分はそれほど精度が高くない。

大事なのは「移動速度」や「魔法併用の意識を持ち続けること」で、純粋な剣技であれば「剣道」の方がこういったヘンテコ技術には適応性がある。

 

なんか、この手の「純粋な剣技~」ってどこかで聞いたことがあるなと思ったら、壬生先輩と桐原先輩の馴れ初め会話じゃないか!

 

「動作は小さく、威力は高く。矛盾するように聞こえますがその矛盾を矛盾としないのは人間が行うからです。筋線維一本一本まで意識し使うことでデコピンでも瓦が割れるように、肉体を超高々精度で把握し動かせば手打ちの面で人の頭蓋を砕けます」

「これ、実戦で役立つかな」

「知りません。うちの不破流じゃあ実戦度外視の暗殺技法が体系化されてますが、実際に使えるかまでは保証しません」

投げかけた質問に対しての回答にある実戦度外視というところで千葉長男は苦笑いをする。

不破流なんてないけれど、この場にいる俺以外の人間にはどの程度必要な技術かは謎だ。

 

暗殺技など実際に使って成功か失敗かを見極める機会などほとんどないので、今日教えるのは初動を消すことで剣道なり、剣術の試合で有利試合運びが出来るかどうかに結び付くくらいだ。

 

俺のようにエジプトで現地の敵国エージェントを観光客の振りしてぶつかって昏倒させるといった任務でもないかぎり使える技術ではない。

素手の暗殺など時代遅れで確実性も薄い。

よく「凶器が残らない」ことをメリットに挙げている情報士官もいるが素手で人をぶっ殺すのは凶器は残らないが、実行者の逃亡の難度が高くなるので、証拠が残っても1kmスナイピングの方が実行者の逃亡が出来るのでそっちがお勧め。

 

素手で戦うのは最後の手段なのだ。可能であればまずは銃火器、次に刃物や棒状の武器、最後に素手だ。

俺だって、呂剛虎とは最初PDWを装備して相対した。

 

常に戦闘とは有利な状況下で行うべきで、黄金聖衣を着て光速のパンチ(原子を砕く)が出来ない限りは敵の前に姿をさらすのはお勧めしない。マジお勧めしない。

 

 

「一つ仕事を頼まれてくれないかな?」

「事務所通していただけます?」

「仕事の出来るアイドルは自分で営業までするものだよ」

 

ピカリンこと九重八雲先生とのたまにやっている「おっさん飲み会」で仕事の話を振られた。

 

九重さんは熊本の芋焼酎と同一成分のなぜか蔵元から送られてくる般若湯だ。

いい銘柄を飲んでいる。

俺は焼酎派ではないがなかなか東京まで回ってこない渋い蔵元の般若湯。先ほど舐めさせてもらったが焼酎らしい強さはあるが口当たりはきつくなく、ロックでもお湯割りでもイケそうな般若湯だ。

 

俺はウィスキー。アイリッシュウィスキーの良いのが手に入ったので、薄くお湯割りにして飲んでいる。

ロックも悪くないがウィスキーの香りを楽しむなら、9:1くらいで温めのお湯をちょこっと入れて香りを立たせると楽しめる。

 

寺の敷地内では夜間の稽古と称して、月明かりと本堂の外廊下にある光量を抑えた外灯のみで坊さんたちが格闘戦、武器戦の稽古をしている。

 

時折、俺と九重さんは稽古する坊さんたちにランダムで手元の落花生を投げつけちょっかいを出す。

人によっては察知し避ける者もいれば、殺気の無さから甘んじて受けて稽古に集中する者もいる。

本当にたまに本気の指弾を投げると頑張って避けてくれる。

 

「何をさせるんですか?話次第ですが」

「いやね、5人、この場合は三組の武芸者と立ち会って欲しいんだよ」

「腕立つんでしょ?」

「そうだね、状況によるけど魔法なしの達也君と五分と言ったところかな?」

「九重さん自分で出来ますよね?」

「いやいや、負けるわけにはいかない話でね。僕は忍びだ。必要があれば負けを擬態をする」

「そうはいってもこっちもスパイ屋ですから、必要があれば負けますよ?」

「困ったね」

「困りましたね」

「ではどうだろう?千葉家に武芸者の対応を斡旋するから剣客相馬新として対応しては」

「うわ~ピカリン和尚、ひどい」

 

ピカリンという言葉に数名の坊さんが反応する。そこにすかさず九重さんの落花生投げ。

見事に当たり、動きを崩す。

 

 

こりゃ負けられないわ~(棒)

千葉道場には当主と千葉長男と次男、そして立ち合いでに日本古武道協会の偉いさんが5名。

千葉家の三人は胴着姿や着物姿。臨戦態勢で、協会の人も着物姿もいればスーツ姿の人もいる

押しなべて、皆自分の刀や武器を手元に置いている。

 

相手の三組を見ると負けられないのが納得だ。負ければ日本武道の威信に傷がつく。

アホくさ。俺には日本武道の威信とか関係ないんだけどね~。

 

一組目。

西EUからいらっしゃった男性。

西洋剣術の使い手で身長も2mかな?筋骨逞しく、大剣を使う。

服装は金属製の篭手をしていることから、刃の部分を持って柄で撲殺する気まんまんなのがわかる。

 

二組目。

二刀一対。刃渡りは30cm程度だが独特の鍔(剣の背のところが出っ張って上手く受けると相手の武器落としが出来る)を持つ詠春蝶剣を持つ50代の男性と30代の男性コンビ。

アジア系だが肌はやや焼けており、東南アジア系華僑といったところか。

 

三組目。

薙刀と打ち刀を装備した二人組。

男女コンビで年齢は20~30代。黒人(女)と白人(男)のコンビだ。

袴姿で服装も武具も使いこまれており、日本武道の熟達ぶりがよくわかる。

 

「改めて説明をするが、使用する刀剣は刃引きされたもので間違いないな」

千葉長男の言葉に全員頷く。

真剣でやりたかないわ!絶対藤林少尉とのデート邪魔してやる!くっそ!

 

話は簡単だ。

論文コンペと同じようなスケジュールで日本古武道協会が大規模な演武会を実施。

西洋剣術の一流実践家であり現役アスリートと、東南アジアで詠春蝶剣の名手として名高い親子。

そして西EU最強と言われる現地の日本武道に熟達した武道家の夫婦。

 

上記の面々がゲストとして来日したところ横浜での一件。

千刃流の実践性が改めて取りざたされ、ゲストは「立ち合いを希望」した。

 

ただ日本古武道協会としては実践性が改めて証明された日本古式剣術の要素を持つ千刃流が負けでもしたら日本武道の名折れと考えた。

他に三組のゲストに勝てそうな武道家がいないか、九重さん含めた業界人に打診があり勝てそうな武道家として「相馬新」くんが選出された。

 

風間さんに報告しつつ、文化保護をうたっている文科省と関係各所に「相馬君は魔装大隊の風間の遠縁」ということで恩を売っておいた。

「いつの間に世界で一番格闘技の強い親戚が出来たんだ」と苦笑いの風間さん。

 

これで俺が負ければ、そこに控えている3m以内なら世界十指、彼女とお揃いのダッフルコートを着る男、彼女の怪我の見舞いのためなら弾丸スケジュールで日本に戻って来ると男、千葉修次がお出ましとなる。

 

つまりは露払いである。

 

三組は道場の端まで戻り各々の武具を再度点検する。

 

俺は千葉家の面々の近くまで歩み寄る。

千葉家、古武道協会とも渋い顔だ。

そりゃそうだ。あの九重八雲お墨付きとはいえ、謎の暗殺武道「不破流」を使う少年で実力は未知数。

一応千葉修次が「自分に匹敵する」とは言ってくれたが協会の人は疑心暗鬼。

 

露払いであることを何回も念押しされて俺が立ち会うこととなった。

絶対文科省から大枚せしめてやるんだ!プンスコ。

 

剣道着姿の俺は座り改めて日本側の面々に頭を下げる。

深く頷く千葉当主は俺に一振りの日本刀を渡す。

「刃引きはしてあるが業物だ」

俺は受け取ると立ち上がり腰に挟む。

「では行ってまいります」

俺の緊張した声音と額に浮かぶ恐怖を象徴する汗。

取り敢えず相馬新君には重荷であることをアピール。

 

俺は日本の古武道の威信をかけた勝負をすることとなった。

この勝負は他言無用で動画も一切取られていない。

俺の「武道家」としての本気の一端を見せてやろう。

呂剛虎との一戦よりさらにチートが成長したこの俺の本気だ。

 

未来永劫、相馬新が日本武道の威信を守ったと吹聴せいよ。

ただしそんな奴、あと2年くらいで消えるけどな!

 

 

「はじめ!」

1人目は大剣使い。

練習用の面頬を付ける。胴回りは最新素材性のボディーアーマーである。

 

俺はそのまま剣道着姿。防具は無し。腰には刃引き日本刀。

 

身長2m、そして大剣の間合いも長い。

相手は2歩踏み込めば、その大剣は俺の身体に触れるが俺は4,5歩は間合いを詰めないと刀が当たらない。

 

道場は天井も高く大剣を振り上げるのには支障はない。あった方が嬉しいが。

大剣使いは切っ先を俺に向ける。

 

大剣の強い圧力。

まかり間違っても俺が刀を正眼に構え、剣先が触れようものなら柔軟かつねばりつく西洋剣術の交差法で俺は斬られる。

 

大剣と言っても西洋剣術は交差法や切り結びの中から相手を制する。

日本刀よりも刃が鋭利というわけでなく多少なら剣同士で打ち合える。そこで間合いを詰めるなり、剣が交わった瞬間の手首や腕の返し、ステップワークで横を取り相手を切り殺す。

 

でっかい剣で叫びながら振り回すだけが西洋剣術ではなくそこには術理がしっかり存在する。

 

相手がジリリと数センチ詰める。

すり足は別段日本独自の動きではなく、足を上げずに低く歩くことはどこでもある。

大剣の切っ先は50cm先だ。

 

緊張が高まる。俺の背後に陣取る古武道協会のおっさんが唾を飲みこむ音が大きく聞こえる。

 

はい!終了。

 

道場内にいた俺を除く全員が緊張と静寂の中の一人の唾を飲みこむ音に意識の1%を向けた瞬間である。

俺は左脚を五センチほど引いた。

それで終わり。

一回戦は俺の勝ち。

 

『終わりましたがどうしますか』

 

俺は英語で話しかけた。

相手はそれの意味を理解できなかったようで、切っ先を向けたまま大剣の構えを変える。

そして大剣は切っ先の20cmほどが落ちる。

 

道場内がどよめく。

大剣の剣士は驚愕しながらも俺に向かって鋭敏な袈裟懸けをしてくる。

今度は15センチ左脚をひいた。

俺に当たることなく、また大剣の切っ先が落ちる。

 

『もう一度』

 

俺の言葉に大剣の剣士は身体を傾け左下から切り上げる攻撃。

ボチボチ正体を見せてもいいだろう。

 

一瞬だ。瞬きの速さで俺は抜刀し、大剣の切っ先を斬り、納刀する。

今度は納刀だけゆっくりとだ。

既に大剣は全長が試合開始時より-50cm以上になっている。

 

『その刀は本当に刃を落としているのか!』

抗議の声は二組目の華僑の親子剣士からだ。俺は鞘から刀を抜き、大剣の剣士へ渡す。

大剣の剣士は何度も刀をチェックし、ゆっくりと自分の腕に押し当て斬るような動作をするが、防具に押し当てた線を残すだけで切れた様子はない。

 

『刃引きだ。この少年は速さと技量で行っている』

大剣の剣士は刀を俺に返し、面頬を取り一礼する。

『私の負けだ。真剣であっても同様の結果になるかな?』

『まあ、なるでしょう。私が切れないのは親子と情と、男女の仲、それとコンニャクだけです』

俺のジョークに今ひとつな表情をして、大剣の剣士は再度俺に礼をし、道場の端へ戻っていく。

 

道場の端で待機する他の二組に「居合いだ」「間合いの管理は厳重に」「武器で受けずに回避することを意識したほうがいい」と簡単に説明すると二組も真剣にうなずく。

 

最速の動きで最小の動作で最大の威力。

古武道協会の人間が唾をのむ音を知覚して意識領域に0.1秒でもノイズが入ればそれでいい。そのタイミングで抜刀、納刀を行う。

真正面にいて視界の中央にいても「意識」が向いていなければ見えないのと同じ。

今回は音による知覚意識領域のノイズだが、視界内の物事の反応が遅れるには十分なノイズだ。

 

「縮地」とは一歩目からのトップスピードに乗る歩法と言われたり、瞬きの瞬間に移動する視覚阻害のタイミングを計る歩法とか言われている。俺が行ったのは後者に属する技術。

 

瞬きではなく「知覚意識領域のノイズ」の間に行動する神速武法だ。

 

 

『くっ!』

二組目はちょっと意地悪をして見た。

俺は開始位置で早々に正座をした。

刀は腰ではなく左わきに置いてある。

 

簡単に言えば座技を仕掛けているのだ。

詠春蝶剣を片手に一振りずつ持つ二人は俺の周囲を距離を取りぐるぐると回る。

 

『日本古来には座ったまま相手の攻撃を捌く座技があります』

その言葉に『立て!』とは言えず、慎重に間合いを図りながら動く二人。

 

これ非常に悩ましいのである。

正座した相手に対する攻撃手段と言うのは意外と難しい。

特に相手が座ったままで攻撃を捌く「座技」に精通している可能性があると特にだ。

座った相手に攻撃を仕掛ける場合は「振り下ろす」か「横に薙ぐ」「姿勢を低くし突きこむ」と行動が制限される。

普段の稽古では想定し得ない状況で、いきなり相対すると対応に苦慮する。

 

想定外の状況と言えどこの二人は見事だ。距離を置きながら身を低く、攻撃姿勢を崩さない。

馬鹿は大上段に振りかぶって「攻撃速度」で俺の対応を封じたりするのだが、この二人は冷静に隙を狙っている。

 

俺は背を伸ばし正面を見据えた姿勢で目を閉じる。

『正面の方、間合いを半歩詰めました。後ろの方は移動速度が上がりました』

俺は二人の行動を言葉にする。

『正面の…年配の方は構えを変えましたね。二刀とも上段に変えています。若い方は右手は上段、左手は中段』

その後も、二人の動きを逐一言葉にする。

『若い方、唇舐めましたね。緊張されている。以前の怪我ですか?右足への重心のかけ方が不自然だ。年配の方。左肩の方が肩の上りが重い。昔痛めましたね』

2分間ほど実況中継するとやおら二人とも構えを解き、蝶剣を腰の鞘に戻す。

『参った。これほどまでの聴勁は初めてだ』

年配の男性の言葉に俺は眼を開ける。

親子剣士は二人とも俺の正面で武術式の礼をとり道場端まで戻る。

聴勁とは、わかりやすく説明するなら相手の状態を察知する能力のことだ。

 

床から伝わる振動で位置を、空気の流れで動作を、何よりも殺気と闘気を読むとこういったことが出来る。

静かな道場ならではのかくし芸で、実戦つまりは雑音や無駄な情報が多い街中では実施しにくい。

俺の悪戯に上手くハマってくれた。

この戦法は意外と使える。何かの折に使ってみよう。

 

 

「本気で来ていただけるか」

「日本語お上手ですね。お断りします」

黒人の女性の提案を一蹴。

いやです。本気の本気でやったら刃引きであろうと人体両断などたやすい。

かつて幕末の老剣豪は竹光で岩を斬ったとの逸話があるが、俺も一度似たようなことをした。

錆突いた牢獄の鉄格子を刃のかけた使い古しのナイフで切り開いた。

斬鉄ってヤツ。いやマジで南仏の地下牢獄って古いし、臭いし、速攻出たかった記憶しかない。

 

俺の言葉にやや不機嫌さを見せ、女性は薙刀を構え直す。

男性は薙刀の切っ先を後ろに向け横に構え、女性は逆に切っ先を俺に向けて構える。

 

「いざ!」

「尋常に勝負!」

二人の声で勝負が始まった。

距離は10歩。といっても納刀状態で腰に日本刀の俺と、すでに臨戦態勢で長物の二人。

「では少しだけ」

本気の印に腰の刀に左手を添える。

 

 

 

 

 

 

 

 

はい終了~。

確実に明日は筋肉痛なので湿布を買って帰ろう。

 

四門を開けて最初からトップスピードの縮地で瞬きの瞬間を盗み、すり足で間合いをつめご夫婦のあいだの位置に立ち、

柄尻と鞘尻でお二人の胴を突く。

 

四門とは?!

 

簡単にいうと肉体の限界を超えることで、詳しくは修羅の門の序盤の格闘トーナメント編を読んでおくれ。陸奥の爺様が説明してくれるよ!でもあの爺さんの杖って刃物が仕込まれているから銃刀法的にはアウトだよな。

 

四門+超人的身体能力+武術の粋=小突かれるだけでスゲー痛い。

まあ「気」を使って小突いたら死んじゃう。

 

お二人は数歩あとずさり、突かれたところを押さえ片膝を着く。

「あとはこのなまくらで首を落とすだけですが?」

内臓の痛みで上手く呼吸が出来ないのか女性の方が咳込み。

旦那さんの方も額に脂汗をにじませている。

 

真正面からの不意打ち。

二人から、いや道場にいた全員から見ても「瞬間移動」に見えただろう。

魔法使ってないの!魔法科高校の劣等生なのに!物理!

 

四門を開くと身体能力が爆上げされる。まあ短距離の世界記録とか「なにそれ?ふふふ」みたいな速度で動けたりするのだ。

残像というものが相手の視界に残るほどの速さだ。

それを超人的肉体と武道における重心移動と脱力を混ぜつつ、歩き出しの初動を消しつつ、すり足による体軸がぶれない姿勢。

 

日本武芸の粋も粋である。

ただ四門は開けっ放しにすると肉体的負担が高すぎるので、こういった確実に休息が取れる目途が立つ時にしか使えない。

常に余力を残すことは大事だったりする。100%ではなく99%で100%のパフォーマンスを出すのだ。

 

「まいった。負けだ」

男性の方が息を整え敗北を告げた。

 

 

その後、古武道協会のおっさん達が満面の笑みで俺に近づいてきたのでそそくさと、三組の挑戦者の方に行き英語で武道談義をした。

何でも蝶剣の親子の方は魔法師で、ベトナムの国立大学で魔法物理の教授親子でもあるらしい。文武両道だ。

大剣剣士はラグビー選手でもあり、縮小開催はされるがラグビーW杯への出場を予定している。

ご夫婦は現在日本への移住を検討しているそうで可能なら日本で武道を極めたいそうだ。

 

談義もほどほどに、今日の技法は「秘伝中の秘伝なので口外無用」と念を押し解散となった。

海外の武道家たちは礼儀正しく、千葉家の面々や古武道協会の連中に丁寧に挨拶をすると千葉家を辞した。

国内外問わず武道の精神性を本当に尊ぶ人々との交流は楽しい。

 

カランビットナイフを使った超至近距離での捌き合いをしたペルー人傭兵などは死ぬときに「いい土産を貰った」と言ってこと切れた。

ナイフ戦闘負けなしの半ば伝説化した傭兵だったので、自分よりも高レベルのナイフ使いに負けて満足したのだろう。

俺もその時は頬と左ひじを切られた。流石に2人乗りホームエレベーターの中でのナイフ戦では無傷ともいかなかった。

 

その後、古武道協会のおっさんたちは手もみでもしそうな勢いで、最初とは違う気持ち悪い笑顔を見せてやって来る。

「二度とやらねぇぞ。うちは暗殺技の流派だ、次呼び出すときはアンタらの誰かの首を落としてやるからな」

不機嫌に言うと協会のおっさんたちは動きが止まる。

あれ程の実力を見せたのだ。逆立ちしたって勝てないのは歴然。

俺の言葉に笑みが凍る。

 

本音も混じるが、これは高校生らしい純粋さを見せるためでもある。

お金と情報統制してくれるなら、情報部支援課か魔装大隊に依頼してね!

 

 




関重蔵の「武道家」としての強さをね、書こうとしたのよ。
もうね、この時点で「武神の加護(最上位)」なんですよ。
そう考えて書くとこうなるので、つまりはこういうわけで。

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