うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

124 / 127
余話。


余話:「奴らみたいなのに無駄に名乗るのは嫌いでね」

NY。

 

2100年を過ぎてもこの都市は世界の中心地のひとつだ。

ビジネス、カルチャー、サイエンス。

 

USNAとなった合衆国でも、この賑わいは変わることが無い。

夕刻のマディソンスクエアガーデンの派手なモニター。

シアター情報、新製品のCM映像、来週のスポーツの予告。

モニターと3Dネオンの輝きは20世紀、21世紀、22世紀だろうと変わりはない。

 

「シールズ大佐」

「ああ」

「キングコングver.22c」という22世紀版キングコングの予告に一瞬目を取られ、カノープスが声をかけてくる。

スーツ姿のカノープス中佐は軍人というよりはアメフト経験のある下院議員にも見える。

姿勢もよく、胸板も厚い。よくよく見ると髪に白いものが混じっている。

考えれば40代。中年だ。彼がスターズ総隊長になった10年前に比べれば腰回りが太くなったように思う。

 

案内人のNYPD(ニューヨーク市警)の組織犯罪対策担当のハンス警部補が先導して歩く。

ハンス警部補はあまりこの話に好意的ではない。

国防総省からの命令でUSNAスターズの佐官を二人、「NYの犯罪組織連合の窓口担当者に会わせる」という仕事だ。

縄張り荒らしや、余計なトラブルと思われても仕方がない。

前を歩く後ろ姿からも感情的な距離感を感じる。

 

人込みから少し離れた通り。

NYで人混みが少ないのは「治安の悪い裏通り」か「金持ち向けの飲食店通り」の二通りしかない。

ここは後者だ。

大通りの喧騒は丁度良いBGMで「文化の最先端」と「格式と豪華」を混ぜた空気がこの高級レストランが軒を連ねる通りだ。

小金持ちのニューヨーカーや海外からの成金客。そしてセレブと同じ空気を吸いたいミーハーな人々。

本当の金持ちはもっと違うところで食事をするが、NYの最先端と高級感を同時に味わうのには丁度だろう。

 

通りに面した店構えはギリシアの石づくりの家を連想させる白の壁で、謙虚に主張するギリシャ国旗と都市の守護者たるアテナのレリーフが飾ってある。

 

警部補の案内で着いたのは「アクエリアス」という名のギリシャ系料理の店だ。

この店のオーナーに用がある。

「案内はここまで。大佐殿の名前でアポは入れてある」

「ハンス警部補の名前でなく」

「奴らみたいなのに無駄に名乗るのは嫌いでね」

 

それだけ言ってハンス警部補は来た道を戻っていく。

俺とカノープスは同時に肩をすくめた。

「仕事熱心ですね」

「見習いたいものだ」

カノープスの皮肉に同意見だ。

やはり縄張り荒らしと認識されているようだ。

犯罪組織に接触して会合の場を設定してくれただけでも礼を言ってもいいな。

 

「ご予約は」

ドアを開き足を踏み入れると、恰幅の良い中年のスタッフが声をかけて来る。

無用な客は帰れ、を優しく言ってくる。

「タツヤ・クドウ・シールズだ。オーナーにアポイントメントがある」

中年スタッフはもう一度俺とカノープスを見る。

 

1人は白人の大柄な男性。もう一人は東アジア系。

片や重役然としたグレーのスーツ。もう一人は年齢不詳、若いのか中年なのか判断がつかない顔つき。

 

差別や先入観というのは100年、200年ではなかなか薄まらない。

 

先々週に下ろしたばかりのスーツはまだ身体に馴染んでいないせいか、どうやら俺が部下、カノープスが上司と思われたようだ。

 

「ではこちらへ」

視線は俺だが、その恭しい態度はカノープスに向けられていた。

 

 

「交渉決裂ですね」

「今回はメッセンジャーです。交渉ではありません」

 

女は俺の話を聞き、提案を撥ね退ける。俺の立場は決定者ではないことを明確にする。

 

レストランの奥。

オーナーのオフィスルーム。

机の上に、クラシカルな電話や家族が写った写真立て。そして書類の入った木製紙面ケース。

22世紀ともなると「紙」の情報はタブレットで見る情報と違い、印刷や書面の提出と人を介して渡されることから、紙というだけで重要な事項に対しての情報と考えられる。

 

紙を受け取るだけの立場。

専用のケースを机上に備えることからこの女の立ち位置はNYの裏社会でも相当なものなのだろう。

 

年齢は俺と同じかもう少し若い。

顎のあたりに切り傷が残っており、それだけで鉄火場を生き抜いたイメージを受ける。

傷があるから鉄火場経験とは安易だがそう受ける印象は部屋に飾ってある19世紀のウィンチェスターのライフルと合わせての印象だ。

大抵は法学部か経営学部あたり卒業し、よくある挫折と違法寄りの仕事の請負、そして裏社会に飲み込まれた。そんな経歴だろう。

 

ギリシャ風の店構えとは違い、室内は最高裁判事の執務室と言わんばかりに整理整頓され、革張りの椅子に木製の俗に「プレジデントデスク」と呼ばれる高級な執務机だ。

犯罪組織の窓口というよりは、弁護士や検事をイメージさせる。”凄腕”とつけて良いかもしれない。

 

「大佐。貴方の言うことの証拠がありません。【円卓】はその情報について確認していない」

「そうですか。我々の役目は日本からの工作員の目的がそちらである可能性が高いこと。こちらの指示に従うのであれば国防省は守って差し上げてもよい。この二点を伝えるだけです。判断はお任せします」

女は小さくため息をつく。

国防総省の高圧的な提案を馬鹿の意見として落胆しているのか、それとも国の力を借りずとも対応できる自信があるのか。

 

「大佐。我々が保有する警備会社は元スターズや元国軍特殊部隊も雇用しています」

「存じています。二線級の」

俺が付けた余計な言葉に反応せずに女は続ける。

「ご存じかと思いますが、【円卓】の保有する警備員は銃火器の取り扱いだけでなく、VIP警備や対テロの訓練も積んでいます。勿論実戦経験のある魔法師も在籍している。それをバックアップすのはNYそのものと言っていい」

 

鼻で笑うのを我慢する。犯罪組織の寄せ集めが「NYそのもの」らしい。

都市の裏社会に君臨するから自分達を都市そのもの自認する。自惚れだ。

「ここはハクトウワシの庭ではない。我々狼の群れの狩場だ」

歯を見せて女は笑う。迫力のある笑いと言っていいだろう。

だが自惚れだ。

 

「わかった。泣きついても対応はしない。死ね」

それだけ言って踵を返す。カノープスは「また余計な言葉を」と言った表情をしている。

部屋から出る時女が声をかけて来る。

「スターズ辞めたら、連絡頂戴。雇ってあげる最下級で」

 

 

「馬鹿どもが」

「タツヤ、言葉」

 

メッセージを伝えてから1週間たった。

情報局の分析は当たった。最悪のケースで。

 

カノープスから情報端末に来たメッセージに悪態をついたら妻のリーナから注意される。

子供たちが生まれてから口調や言葉遣いについて注意されることが多くなった。

まあ、軍人がする汚い軽口を小学生いる家庭で使うのはあまり良くない。

 

うちの娘たちがFワードを連呼するのはあまりうれしくない。

そういった言葉を覚えるのはもう数年あとでいい。

 

朝の自宅。

間もなく俺は自分のオフィスへ出勤する時間となった。

軍服を身に着け、娘たちもボチボチ起きて来る。

長女、次女、長男。

 

三人とも魔法師の素養はあるようだが、出来れば民間魔法師の道を進んでもらいたい。

魔法技術を軍事利用する馬鹿どもはこの数年で大分処分してきたが、それでも現在も少なくない人間が軍事利用を前提に魔法師育成を行っている。

そう思うと日本の十師族主体の民間への魔法技術の転用方針は羨ましい。

何事も軍事運用を考えるのはUSNA以前からのうちの国の病理かも知れない。

10年前の空軍の魔法師の違法運用については、いまだ軍法裁判は結審していない。

 

国家のため、が減刑の理由になると思っている輩はいる。

ただ、PTSDで今もリハビリセンターに通い、就業もままならない退役魔法師がいることも事実だ。

 

リーナは予備役に入り、出頭命令が無い限り在宅での事務ワークとトレーニングがメインとなり、出張の多い俺に替わり子供たちの面倒を一手に引き受けてくれる。

あとはたまに泊りに来るカチューシャの対応もだ。

 

先日、上の娘がリーナと本を読んでいたので何を読んでいるのか聞いたら「こども経済学入門」だった。

なんでもカチューシャとモノポリーをしたらぼろ負けしたので、悔しくて経済の勉強をしているらしい。

特に娘よりリーナの方が負債額は大きかったとのことだ。

 

カチューシャこと川村エカテリーナは新進気鋭の経済学者としてUSNAの経済紙に名前が載るほどとなった。

USNAのトップ銀行である10行を「BANK10」と呼んでいたがリーナがマネジメントした地方銀行は瞬く間に「BANK10」へとランクインした。

先々週はうちのリビングでウィスキーを3本ほど空けて寝ていたが。

 

「手を出さなくてもいいの?」

「まあ民間と言っても犯罪組織だしな」

リーナはコーヒーを渡してくれる。

 

彼女も予備役と言っても軍人で十五使徒である。

やはり軍部の動向と言うのは気になるようだ。

 

アンジー・シリウスは予備役中佐となり、俺は大佐。

まもなく将官になるべく専門の学校へ入学する必要がある。

3年後にはスターズは隊ではなく「魔法師軍」として独立する。

その下づくりで俺は各方面に顔と名前を売る必要があり、犯罪組織のメッセンジャーなどという仕事を引き受けた。

 

USNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊スターズ。

組織規模は大隊以上師団未満。

総隊長はカノープスに押し付け、俺は「監督官」としてどちらかと言うとデスクワークの比率が増えている。

軍へと昇格後は俺が軍の現場を監督する将官となり、スターズは引き続きカノープスが指揮する。

戦略級魔法師「シヴァ」であり、魔法師軍統括将官。

我ながら偉くなったものだ。

 

「今回は軍の範疇ではないし、落としどころは見えている。苦労するのは環境省と外務だな」

コーヒーカップに口をつけ事件のあらましを思い出し、USNA軍統合参謀本部情報局が集めた情報の中にあった関重蔵の名前の存在を思い出し考えるのを止めた。

 

あの男が実行犯ならUSNAの警察と防諜機関では事件を解決できないだろう。

 

 

事件の始まりは日系企業への犯罪組織による強請りだった。

その企業は日本の国策にも非常に深く関係した企業であった。

海洋漁業に関わる企業で国際的な漁獲量制限に関して緩和を求めるロビー活動を担っており、島国である日本の水産漁業には小さくない影響力を有していた。

 

強請りといっても、グレーゾーンの政治献金をネタしたものでその強請りが通るのならばUSNAのロビー活動の9割は違法となるものだ。強請りというよりもイチャモンに近い。

 

だが、その強請りは虎の尾を踏んだ。

 

一連の強請りで犯罪組織の標的になった日系企業のロビイストチーム。

そのサポートスタッフの女性が犯罪組織による直接的な行動の標的となった。

ストーキングやマンションへの不法侵入。そして、自動車による追突事故。

 

彼女の仕事は「マグロの漁獲量制限緩和に関する」件であり、犯罪組織はUSNA国内の自国の漁獲量拡大を狙う「日本の漁獲量を減らし、その分UNSAの漁獲量に加算する」案を提案しロビー活動する団体をスケープゴートとして矢面に押しだした。

 

意外だったのが国内団体は女性の各犯罪の訴えを「被害妄想」と断じ人格攻撃を行ったことだ。

スケープゴートにされたことを日系企業からの攻撃として判断したためだった。

 

女性はうつ病の傾向が出て日本へと戻っていった。

 

ここまでは漁獲高に関する日系企業とUSNA国内団体の軋轢、そして犯罪組織がちらつく「社会の闇」と言ったもので、20年後くらいに事実が明るみにでて、市井の人々の興味も引かずにひっそりと消えていく事件だ。

だが、これで終わらなかった。

 

彼女の母は皇籍降下した人物だ。

そして、日本国防軍内にはナショナリストじみた意識を持つ将官も一定数いる。

 

 

報復が決定したのだ。

 

 

 

 

「交渉決裂だ」

「待ってほしい。前回はメッセンジャーだろう。決定権持つ人物に【円卓】が指示を聞く準備があることを伝えてほしい」

その言葉を聞いて舌打ちをしてしまった。

 

出勤し自分のオフィスに到着すると

ハンス警部補を通して件の飲食店のオーナーから音声通話のリクエストが来たので、第一声を出したところだ。

 

「4人死んだな」

俺の言葉で相手が息を飲んだ。

メディアはまだ公表していない。

 

【シャドウ・リーパー】【掃除夫】【ロブ&バルディ:セキュリティ】

NYPDやFBIが保有している「殺し屋」情報に掲載されている四人が昨晩不審死している。

どれも「背中に打撃痕」らしい。

NYPD検視官の報告では「打撃痕」は心臓などの体内臓器を傷つけるレベルではないとのことだ。

魔法使用の痕跡もない。

 

「どうせ、こちらが把握していない人間も死んだんだろう」

相手は無言、いや唾を飲み込んだ喉の鳴る音。

「娘が誘拐された。昨日、自宅の部屋から。セキュリティは反応しなかったの」

女オーナーはゆっくりと、陰鬱に連絡してきた最大の理由を告げた。

俺は相手に聞こえるよう溜息をついた。

全くもって卑怯極まりない。子供身柄を確保するとは非情だな。

だが効果的だ。

この女の弱みと影響力。どの程度NYの犯罪組織の内実を知っているのか。

 

奴が以前USNAの南部で活動していた形跡がある。

その時の伝手が有効に働いたのか。

 

USNA軍の情報局は「関重蔵」を「警戒レベル5の工作員」と認識している。

認識しているだけで、その動向を追跡出来ていない。

2週間前にメキシコの空港でその存在が確認されたが、空港から出た後は全く足跡が追えない。

うちの情報局が無能なのではなく、あの男が有能すぎるのか。

 

「1時間待て。責任者に連絡する」

それだけ伝えて通話を切る。

 

流石に子供が巻き込まれるのは他人の話とはいえ、なかなか心理的にキツイ。

うちの子供たちの顔がちらつく。

 

関重蔵、鬼か。

 

 

アラタへ。子供の話を聞きたい。タツヤ。

 

 

NY限定の地方メディアに告知を出した。

情報局にも内密で。

 

NYPDとFBI、軍情報局に対して犯罪組織は白旗を上げて協力を求めた。

既に1ダース近い構成員が何かしらの被害を受けている。

その中でも犯罪組織の一つの幹部の銀行口座から預金が全て消え、経済的に瀕死となっていた。

 

犯罪組織がどうなろうと知らないが、さすがに子供の安否は心配だ。

数年ぶりに藤林奏に連絡を入れ、関重蔵への接触方法を聞いたが「ゴルゴでも参考にしたら」と言われた。

リーナとは週に何回かネット通話でお喋りをする仲だが俺とは相性が悪い。

高校時代に関重蔵を殺しかけたことを今でも根に持っているに違いない。

 

そこで地元メディアに一文広告を出してみた。

掲載の翌日。

 

「タツヤ。手紙来てる」

朝の自宅。軍服を着て出勤の準備をしているとリーナが封筒を持ってきた。

「見せてくれ」

今時珍しい封筒。こんなことをするのは奴らしい。

 

封筒の中には紙片が一つ。

NYの湾岸地域の住所と「給料分の仕事終了。俺はロリコンじゃない。」と書かれていた。

 

即座にハンス警部補に連絡を取り、記載の住所へ警官を回す。

湾岸地域の空き事務所。唯一置かれていたソファでは7歳の女の子が毛布にくるまって眠っていた。

身体的にはまったくもって健康。この数日間は食事して眠ってを繰り返していたらしい。

たまにアジア系の20歳くらいの人物が食料持ってきた。

 

犯人としてアジア系の人物が捜査の俎上に挙げられたが、大統領補佐官の特例的な指示が現場に伝えられ事件は迷宮入りとなった。

犯人はロビー活動が過激化した水産系のロビー団体の一部過激派であろうと報告書がまとめられた。

犯罪組織は警察へ白旗、ロビー団体は政府から監視指定を喰らった。

 

血は流れた。民間人も巻き込んだ。

 

だが報復は成功したとみてよい。

これからは本格的に諜報・工作の時代だ。

魔法師が魔法ぶっ放せば終わるなど時代遅れなのだ。

第二の冷戦が始まった。

 

その時代が到来していると感じる事件であった。




タッちゃんメインでポリティカルサスペンスアクションもいいかな~と思う今日この頃。
ところでポリティカルって何?

あと、期間限定でリクエスト募集。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=259819&uid=222560

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。