うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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お前も誰だよ!

「追加の資料です」と秘書官である大泉軍曹の野太い声が聞こえてくる。

俺と村井大佐の手元のタブレット型PCにデータが送られてきた。

 

村井大佐は広い額にしわを寄せながらタブレットを睨んでいる。

勿論俺も鏡を見れば渋い顔をしているはずだ。

試験翌日、大佐の執務室は空気が重い。

 

う~ん、想定外どころの話ではない。

 

今回の一校潜入は「七草」と「十文字」の次代への接触と必要があれば両家の弱みを握り、俺は2年進級時には家庭の事情の名目で転校する予定だ。

 

十師族は軍内にも根を張り、国防軍内の諜報・防諜は敵も味方もわんさかで、味方を味方、敵を敵と扱えない複雑さだ。

 

十師族の弱みを握ることで軍は十師族と対等になれる・・・とか思っているんだろう。

そういう存在なのだ。十師族は。敵対しないだけで、国内の脅威でもある。

大隊に満たない人数で世界の軍事バランスを大きく変える。

場合によっては個人の思惑で、である。

 

村井大佐は「四葉光夜」以外に

「九島」の分家筋である「藤林」の名前が見つかり情報を整理している。

 

俺は俺で、それ以上に頭を抱えている。

この作戦により司波兄妹に関わる危険もあるが、前世の記憶との齟齬が既に3つ起きている。

 

謎の「四葉光夜」、「藤林」そして

「司波 雪光」という名前の男子生徒である。

お前も誰だよ!「司波雪光」ってよ!

 

おい!おい!運命よ!なんじゃこりゃ!普通に九校戦して夏休みやって横浜騒乱して来訪者編に突入させろ!

 

今判明しているのは

 

「四葉光夜」という男子生徒

「藤林奏(かなで)」という女子生徒

「司波 雪光」という男子生徒

 

大佐は特に四葉の情報収集に懸命だが、俺は「司波雪光」で頭がいっぱいだ。

一校の受験者情報は受験者リストしか入手できていない。

高校と言っても魔法師育成機関であり、情報の重要度は軍機密に匹敵する。

諜報機関といってもそうそう軍事機密にアクセスはできない。

コネと建前が必要なのだ。

特に今回は「四葉」の名前があるので、個人情報の確保は難しい。

 

時折大佐の机に備え付けられた電話が鳴っては

「私も存じ上げておりません!現在調査中です!」と大佐が怒鳴り返す光景がすでに数回。

 

「大佐。どうします?作戦バックレません?」

作戦の早々の中止を進言する。

「これは、大島少将の肝いりで・・・」

大佐の小声は、この作戦が単なる国内諜報ではなく

面倒な個人の遺恨も混じった作戦であることを告げた。

 

いきなり登場人物が増えたので少し整理せねばなるまい。

顎に触れて、少し息を整える。

 

村井大佐は諜報参謀としていくつかの功績を立てている。一応諜報のプロだ。

多少、上司におもねるところはあるが、諜報畑において信用できる人だ。

問題は情報部幹部将校の一人である大島少将だ。

 

魔法師の有用性を認めているが「軍の主力は非魔法師」と言ってはばからない人物である。

勿論差別として言っているのではなく、純然たる数の問題だ。

非魔法師は多い。普通科連隊で魔法師資格を持つ奴は、すぐに専科に移動になる。

普通科連隊、つまり普通の兵隊は非魔法師なのだ。

 

101旅団の佐伯少将に「101旅団が優遇を受けすぎている」と将校会議で噛みついたこともある。

魔法師を積極登用する佐伯少将と、魔法師の優遇を抑えようとする大島少将。

 

両名とも伊達で少将まで昇進したわけではない。

会議の場で顔を合わせれば、一度は「軍内の魔法師」の扱いについて応酬が起きる。

大島少将は「会議での舌戦も仕事のうち」とか言いそうだが

村井大佐(大島派閥)の配下の魔法師としては「面倒」以外の感想しかない。

 

「そこは…断ってくださいよ…」

ジト目で村井大佐を見るが、村井大佐は目を合わそうとしない。

おい、おっさん。こっち見ろよ。ハゲ。デコハゲ。

 

「すでに予算も確保している、君の小隊も到着次第作戦に参加させる・・・」

小声で言うな、おっさん。

 

このまま行くと「妹の安全は確保させてもらう」とか言いながら

魔法ぶっ放すシスコンに殺される未来しかない。

 

そうでなくとも「四葉」が怖い。

諜報に身を置いている四葉の怖さはよくわかる。

二度ほど四葉のエージェントと接触したが、村井大佐配下ということを初対面で指摘された。

俺、名乗ってないのに。覆面していたので、俺個人は特定されなかったようだが

その作戦の成果は四葉に持っていかれた。

 

「大佐、言いたくはないですがこりゃ不味いですよ。他の諜報屋も今頃大混乱でしょ。

あの引きこもりの四葉がいきなり一校に受験ですよ?情報持っているのは風間のおっさんあたりですよ」

 

ハゲ大佐は「う~ん」と言うだけで黙ってしまった。

佐伯少将のところの風間少佐とは面識がある。

というか、軍内で「大天狗」風間少佐をおっさん呼びするのは俺ぐらいだ。

 

「あのおっさんに話して情報回してもらいましょうよ~」

「だがな、こちらの動きを101には悟られたくはない」

四葉というか十師族と太いパイプを持つ佐伯少将派閥との距離感は難しい。

俺自身は魔法師で佐伯派閥と誼もあるが、仕事上の所属は情報部で大島少将の配下筋だ。

 

「現状できる限りのことをしよう。常に最善の道を探ることが諜報の本道だ」

なんかカッコつけたことを言っているが、大佐は目を合わそうとしない。

相当行き当たりばったりで潜入作戦始めやがったな。

 

俺は改めて、自分のカバー(偽造設定)を読み返した。

 

相馬 新(そうまあらた)15歳。東京の公立中学卒業。運動部に所属。祖父、叔父が国防陸軍所属。

将来は陸軍に入るため防衛大学校進学を目標に一校を受験。

 

俺は受験合格すれば相馬アラタ君になる。アラタ君。君の学生生活は前途多難だ。

 


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