うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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貸し一つな

 

 

 

クロスフィールドの夏季大会は優勝した。俺も頑張った。

現役軍人で、凄腕諜報員で、軍神の加護を持つ男が頑張った。

俺は並みいる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、5秒間で40人の敵を倒し・・・

それをやると拙いので、準決勝のラスト30秒で4人を倒すまぐれを演じたのだ。

 

その頑張りは俺に幸運をもたらした。任務の半分を達成したも同じ!

十文字克人の私邸での優勝祝勝会に参加したのだ。

祝勝会と言っても部活の面々が「一番家がでかいから」という理由で十文字家で祝勝会を行ったのだ。

3年の先輩に「一番家のデカい奴のところでやりましょうよ」と言ったら、十文字克人の家と相成った。

 

いや~豪邸。祝勝会の準備に手を貸してくれたお手伝いさんは5人だし、リビングダイニングを全開放すると

部活の面々が全員収まるし、デカいわ。金持ってるわ~。奥さんと子供5人ぐらいは余裕だわ~。ビッグダディだわ~(偏見)

本当なら、ここで盗聴器を仕掛けたいが、そんなそぶりを見せるとやばい。人の目が多い。

なので俺はこの家の見取り図を手に入れようと思った。

 

俺は祝勝会の下準備としてお手伝いさんからテーブルクロスを借りたり、全員のスポーツバックを空き部屋に移動させたりと働いた。

 

諜報員になるときに習得する技術が幾つかあるが、俺は「建築」を選択した。

今回の祝勝会で、ダイニング、リビング、トイレ、台所、空き部屋、勝手口、廊下、玄関、庭先、十文字会頭のトレーニングルームを見れた。

それで十分である。それだけあれば十文字邸の間取りは外観からの推察と合わせて、8~9割は書ける。

想定される接触型、非接触型の電源供給フォームの数も誤差1割と言ったところだし、水回りもおおよそわかる。

台所で見た家庭用セキュリティの操作パネルのメーカーから、十文字邸の基本セキュリティ契約も想像がつく。

庭先にはいくつかの赤外線による接触型の警備アラームも見受けられた。

魔法的なセキュリティもいくつか判断できる。

 

俺はこの仕事を辞めても、警備会社に勤めるか、プロの大泥棒になる自信がある。

 

この十文字私邸での祝勝会により「十文字東京私邸」というプライベート空間の間取りという重要情報を手に入れた。

早速、村井大佐に報告しクロスフィールド競技で疲れた体に鞭を打ち、早々に見取り図を完成させた。慣れた徹夜もこう続くと嫌になる。

 

真面目な話、俺一人でそれなりの準備期間があれば十文字邸への侵入するだけなら可能だ。

ただそこで何をするかで話は変わる。それは、十文字邸へ何かを仕掛ける諜報組織の任務次第である。

村井大佐もこれで、各情報組織へクソ高い情報料を取ってこれる。

 

それ以外だと横浜でちょっとしたトラブルに巻き込まれた。

 

モーリーが遭遇した謎の女性の護衛だ。

横浜の病院にモーリーが転院したので見舞い帰りに遭遇した。

その日以外も俺は今後のため横浜周辺の地理確認のため横浜を歩き回っていたので、遭遇する確率はあった。

昼間で夏休み後半という点だけでも時間と範囲は絞れる。

あとは忍耐強く歩き回り、広域的に人払いの魔法が使われれば、そちらへ向かうの繰り返しだ。

遭遇しないなら内情なり外事なりに直接聞けばいい。

 

「雪光?!」

そう雪光がなぜか、女性の手を引いて逃げ回っていたのだ。一緒に黒城兵介もいる。

仕方ないから尾行だよ。尾行。おい、どうなってんだ、この状況。お前は主人公か。

 

女性を救った二人は、レストランに逃げ込む。人目が多い方がいいわな。

俺は少し離れた路上から店の様子をうかがった。横浜の路上売りのハンバーガーも美味い。

 

三人が店から出たとき声を掛けた。

「あれ、雪光?」

「アラタ?どしたの?」

「モーリーの見舞いの帰り」

「よう」と黒城兵介が手を挙げる。

「三校の黒城兵介」俺、お前のこと知ってる。

「一校の相馬新。アラタ」

「兵介と呼んでくれ」

 

「ねえ、行くんじゃないの?」

雪光と同じくらいの身長の女性だ。美人と言うより可愛らしいかな。

言葉のイントネーションにやや違和感を感じる。標準語になれていない感じだ。

「そっちのお姉さんは?」

「ねぇ、この子、大丈夫なの?」

少しイライラしてるか?そりゃそうだ何処かへ向かう途中だ。

俺は三人を促しながら歩きながら説明する。

「俺、相馬新。そこのイケメンの友達」

「リン・リチャードソンよ」

リンは少し早口に、周辺を見てソワソワする感じがする。お前アレだろ。そこの角の黒服だろ。

「褒めても何もおごらないからね。リン、大丈夫問題ないよ。そうだ、アラタちょっとお願いできる?」

雪光お前、何か押し付ける気満々だな。

「何を?」

雪光は手に持っていたプラスチックのボール、ガチャガチャの丸いケースだ。

俺は2095年でもあるんだよな~、と再確認すると共に嫌な予感がした。

止めろ、そいつを向こうの角に隠れてるつもりになってる奴に投げるな。止めろ。

俺の願いもむなしく、プラスチックのボールは男の頭に投げ込まれた。

「ヨロシク!足止めしといて!」

バカ―!俺は潜入中で、家族連れとかいる場所なのにスーツ姿で隠れる不自然極まりないバカと関わり合いたくないんだよ!

 

雪光と兵介は女性を連れて走って行った。ため息一つ、俺は三人を追いかける黒服の前に立ち、「や、やめろ!」と声を上げたが、男に押しのけられて倒れる。

後からやってきた黒服数名に両腕をつかまれ、人のいない方向へ連れて行かれる。

 

「糞餓鬼が!」一人が持っていた警棒の柄で俺の頭を突く。

「お前、あいつらは誰なんだ!」と腹を殴られた。どんどん人のいない道に連れていかれる。

どこの組織か判断つかないと暴れらんないし、もそっと状況に流されるかね。

少し離れた駐車場には黒い車がある。車の車種と特徴から内情、内閣情報局、政府の情報機関の一つだ。

俺の回りには4人。道を進む中、1発警棒で小突かれた。

小声で「ふ~、ごめんなさい…」と言ったが聞く耳は無いようだ。

 

駐車場の車の影、フェンスに持たれ足がすくんでいる(名演)俺を取り囲む。

「どこに逃げようとしている!」

「お前も組織の一人か!」

「あの餓鬼どもは何なんだ」

ここで一人俺をグーで殴る。他の面々も特殊警棒を伸ばし威圧してくる。

左端の一人は魔法師。タブレット型のCADを握っている。

「おい!」一人が俺の前髪をつかむ。体格差があるので俺は少しつま先立ちになる。

「やめてください~」

情けない声を出してみたが、こいつら頭に血がのぼっているのか、話を聞いてくれない。

 

もうね、だめ、素人ども。服装からダメダメ。全員黒服なんて都市伝説コスプレか。Kとかコードネーム付けてないだろうな。

それに、ここまで来たら一人くらいは「ま、話してくれれば殴らないよ」とか言って懐柔する役をやれ。

優しい警官と厳しい警官くらい習っただろ。応用しろ。

そんな程度の尋問で厳しい諜報の世界を勝ち抜けると思っているか!諜報は一に演技、二に演技、三、四が無くて、五に演技だ!紅天女だ!

 

俺をみろ!足がすくんで、暴力を恐怖している演技でお前ら騙されとるやないけ!

仕方ない。今も怒鳴り上げ、頬を叩き威圧してくる素人丸出しの奴らを全員ぶん殴って、内情の監察してた内藤女史に話ししよう。

あんな素人丸出し使うなら支援課使えと。うちに予算を落とせと。俺の給料上げろと。俺に新車をくれと。3週間くらい有休をよこせと。CADの経費認めろと。

 

「貴様ら何している!そんなところで油売っているなら追跡してこい!」と厳しく叱責する男が現れた。

40代の強面で胸板も厚い。丸刈りの髪でヤクザの若組長と言っても納得されるだろう。スーツも黒一色ではなく、濃紺にストライプが薄っすら見える洒落たスーツを着ている。靴も濃茶の革。

これなら洒落者の横浜デートスタイルと言ってもギリギリ通じる。強面以外。

叱責された4人は警棒をしまい、急いで来た道を戻る。

 

「瀬川~」俺は怒って名前を呼んだ。プンスコ!。

あの素人4人をぶん殴って教育する機会を目の前の男に潰されたからだ。

強面の男は一つ咳払いをして「勘弁してください。先輩。あいつら今日が現場初で頭に血がのぼってるんです」

先ほど叱責した強面はなりをひそめ、俺に頭を下げてくる。

 

瀬川薫。元国防陸軍第一空挺大隊少尉。

1年ほど空挺で俺の後輩だったが、配置転換とちょっとした取引で内情に移った男。

年齢的には俺の一つ下。その老け顔をうらやましく思った事もある。

入隊すぐに「おい、坊や!」とニヤニヤ笑いながら俺の童顔をネタに絡んで来たので〆てやって以来の仲だ。

 

瀬川から経緯を聞いて「内情も使い走りか」と嫌味を言ったら「面目ない」と返して来やがった。

まあ政治力学、この場合は偉いさんの財布と力関係に左右されるから諜報もつらい。

「まあ、あの子たちには悪いですが二、三発殴って終わりにしますよ」

「逆だよ。追ってた奴らのために救急車用意しとけ」

瀬川は驚いてこっちを見てくる。

「二人とも魔法師で、一校と三校でトップクラスだよ。でかい方は見たまんま。腕っぷしならあの四人より上だぜ、きっと」

あ、唇の端が切れてる。当面しょっぱい系の食えないぞ。

瀬川がハンカチを差し出す。俺はそれを受け取り続ける。

「今の俺のこと聞いてるか?」

「いえ、何も」

お、いっちょ前に緊張してやがる。

「あの小さいほうヤバいぞ。魔法アリなら俺も命懸けだ」

瀬川が息をのんだ。

「我々はどうすれば?」

「急いで撤退しろ。失敗しても困るのはお前じゃなくて上だろ」

「はい」

瀬川はすぐにタブレットを取り出し、撤退のコールを入れる。

「貸し一つな」

「そうしておいてください」

俺たちは別れた。

 

合流すると、すでにリン・リチャードソンはいない。

雪光、兵介と二人して「すまんかった!」と平謝りされた。

鼻血が出たのか、兵介はティッシュを鼻に詰めている。

雪光もおでこのあたりが少し盛り上がっている。たんコブだ。

 

俺には頬には叩かれたあとがはっきり残っている。まあ、少しは責任を感じろ。

特に雪光は俺が軍人で格闘技経験者なのを知ってのフリだったのだろうが、簡単に人前で暴れられるか!

「雪光、お前一週間は学食おごれよ」

「ごめん!」

 

モーリー、お前下手したらこんなことに巻き込まれてたんだな。

 

モーリーは、入院中に魔法について看護師さんと話をしたら

「魔法師だって人間!」とたっぷり説教されて、将来のことを色々考え始めたようだ。

新学期に会ったときに「医療現場におけるクイックドロウの使い方」について考えてた。

何人かの女性看護師と連絡先を交換したらしい。そのことを須田ちゃんに教えたら、須田ちゃん悔しがってた。

 

ちなみにカナデは北山雫の誘いで海に行ったらしい。

光夜はコンバットシューティングの夏季大会で優勝した。

 

俺は残った数日の夏休みを、村井大佐への報告と、中華街やその周辺歩きに努めた。

短い夏休みであった。


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