うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
司波深雪は非常に優しい少女である。
その深雪も怒る時は怒る。騒動を起こした双子の雪光の夕飯を抜きにしたのだ。
「お腹空いた~」
雪光は自業自得であることを感じつつ、自室でCADの組み立て、調整を行っていた。
司波邸には兄、司波達也専用のCAD調整のルームもあるが、雪光は昔から自室でダラダラと組み立てをするのが好きだった。
アラタに悪いことをした。帰り道、でっかいパフェをおごった時に聞いたら、2、3発殴られたそうだ。
その時に「あんまり目立てないからね、俺」と釘も刺された。
九校戦の帰りのバスの中でも「今まで通りでよろしく」と言われた。
最初は少し考えたが付き合いとか呼び方は変えるな、ということだと雪光は理解した。
諜報のプロは自分の身を隠すために殴られることに抵抗がない、ということに雪光は自分の甘さを感じ反省した。
アラタは身を守るために戦うと思った。自分がそうするからだ。
今回は相手も逃げて行ったし、アラタも軽傷だったので結果としては丸く収まったが
それが幸運だったということを達也に指摘されたのも、雪光が沈んでいる理由でもある。
将来的には四葉のエージェントを管理することになる。
本当のプロというものをしっかり考えようと思った雪光であった。
今日は兵介が上京し、九校戦後夜祭のパーティで話したCADについて細部を詰めていた。
某特撮の聖地巡りも併せてではあったが、雪光と兵介は満足した。
そして女性が何者かに絡まれていた。雪光も兵介も顔を合わせて思った。
「森崎のアレだ」
リン・リチャードソンこと孫美鈴を助けると、顧 傑の日本入国を遅れさせられるということは
二人とも把握していたので、取り敢えず助けることにした。
逃げる中「魔法師は魔法を暴力として使う!同じ人間なのに」と孫美鈴の心情を聞いた二人は
最後の大乱闘は魔法を使わず生身で戦った。
乱闘後に「なぜ魔法を使わなかったの?殺されるところだったのよ」とリンが泣きながら雪光に抱き着いてきた。
「うん、あなたが使うのを嫌っていたし、僕らも人間だから。でも、よくわからないや」
兵介と目が合うと頷かれた。
「魔法師も人間だよね。そう魔法が使えるだけで人間だよね」と泣き笑いされた時は、はにかむ以外の返し方が出来なかった。
結果的に兵介は鼻血を出し、雪光はおでこに小さなたん瘤を作った。
家に帰り今日あったことを全部話した。雪光の晩御飯は無くなった。
「もう一度ちゃんと謝りなさい!」と深雪が正座する雪光に電話を掛けさせると
アラタが「大丈夫、日常茶飯事だし。何?こんなことで気にしてんの?」とさらっと言った。
ただ雪光はアラタの声の奥の方で「ん・・・はっ・・・」と声を出すことを我慢するような女性と思われる息遣いを聞いた。
雪光から、電話取った深雪も「この度は申し訳ありません。いえ、そんな。アラタさん、その、あのお怪我が軽いようで・・・はい!では、ごめんください!」
と最後のあたりは早口で切ってしまった。
達也が自分も兄として謝罪したいとボヤいたが、深雪が「気づかずに申し訳ありません!」と顔を赤くした。
深雪も雪光もアラタが何をしていたのか勝手に想像して、本当に「大人なんだ」と納得した。
雪光は九校戦で転生友達が出来たし、懸念のアラタの正体もわかったので
本格的に横浜騒乱編の対応を考えていた。
ネックなのは今後、長期的に対応することとなる「周公瑾」と捉えていた。
早めに消すと来訪者編以降に影響があるが、良い影響では?と雪光は考える。
理由は簡単だ。いつか殺すなら早めに殺せば暗躍を止められる。
ただ殺すと来訪者編や顧 傑の行動に変化が起きる可能性が高い。
光夜と雪光の原作知識を十二分に使いつつ、将来的、そう雪光の知る最も遠い未来まで優位に進めなければならない。
そのためには、原作からの乖離は大きくはしたくない。ただ不穏分子も放置はできない。
(一度光夜兄さんに相談しよう)
そう思いながら「想子剣」のCADの組み立てを進めた。
◆
(鬱陶しい)
視線が痛い。みな恐れよりも好奇が勝っているのか
始業式も終わり教室に向かう中、皆、光夜を見てくる。
(あれが理由か)
廊下に張り出されていたのは生徒会選挙の告知だ。
七草真由美が9月で生徒会を引退する。後任は誰だ?それが楽しみなのだ。
十師族であり、九校戦で見せた一瞬の魔法、圧倒的なコンバットシューティングでの成績。
知性、実力とも三年の三巨頭に匹敵する。そんな光夜こそ生徒会長にふさわしい。
そんな好奇な視線が光夜には飛んでくる。
(たしか・・・)
原作では生徒会会長選挙に担ぎ出されるのは達也で自分ではない、と思い出す。
(余計なところで、少し複雑になったな)
教室に戻ると他の生徒も生徒会選挙の話で盛り上がっていた。
カナデも何人かと話し、光夜の名前が出ると、当人の方に視線を投げる。
本命:完璧。一校の絶対支配者。魔王。四葉光夜
対抗:一校の王子様。女子人気は圧倒的。高速の美少年。司波雪光
対抗:現生徒会執行部。あわわと言わせれば学内一。梓弓。中条あずさ
対抗:生徒会の氷雪姫。九校戦新人戦2冠。才色兼備。司波深雪
大穴:天才少年魔工師。影の実力者。二科生の星。司波達也
服部刑部は部活動会頭に内定しているが、それも「四葉光夜に」という人間もいる。
そんな生徒会選挙狂騒曲を知ってか知らずか、カナデは光夜をニヤニヤ見ている。
「お前出るの?選挙」
「そのつもりはない」
アラタに聞かれて即答した。
生徒会会長になるということは、横浜騒乱で自由に動けないということだ。
光夜の認識ではそうだ。
(ここはあーちゃん先輩に当選してもらうに限るな)
光夜は根が真面目だが、同時にオタク気質も残っている。中条あずさは心中、「あーちゃん」呼びだ。
部活の後、生徒会室へ書類を持って行った時に「あーちゃん先輩」しかいなかった。
光夜の左爪のあたりが少し血がにじんでるのを見て、あずさは救急箱を取り出し、大げさに消毒をし絆創膏を貼った。
「これで大丈夫です。あ、もしかして余計なことを・・・」
「いえ、助かります。あーちゃん先輩」
自然と心中の呼び方が出た。親近感から、つい出てしまったと光夜は反省した。
「あーちゃんと呼ばないでください!」
あずさは即座に頬を膨らませ怒る。
「すいません」
自然と微笑んだ。
光夜は気付かないが、あずさは顔を赤くした。
あの怜悧な美形が、優しく微笑んだのだ。
光夜の母親も気の弱く、小柄な人だった。
ちょっとの怪我もすぐに消毒して絆創膏を貼って、笑顔で頭を撫でてくれた。
そんな面影を中条あずさに見ている自分に気付くと
(俺もマザコンだな)と悪い気はしなかった。
中条あずさを尊敬している。そう光夜は自分の気持ちを見つめた。