うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
生徒会選挙翌々日。早朝の九重寺。前日に「九重八雲に会わせる」という光夜の連絡を受け
俺は朝も早くから九重寺に来た。境内では司波兄妹弟と光夜がいた。
「この寺の住職、九重八雲だ」と手を出されたので握手。
グルんと回された。受け身を取って立ち上がる。
作務衣の細身の坊主に投げられた。綺麗な合気の投げだ。
体重移動を隠し、上下の動きも最小限に相手をその場で投げる。
ここまで動作を消して行えるのは流石、九重八雲。
「無理をしなくていいよ。ここでは実力を隠す必要はない」
その細い目で余裕の表情を作り言ってくる。そりゃね、実力隠すのは仕事ですから。
俺は服についた土を落としながら改めて握手を求め右手を出す。
「改めまして、関重蔵です。情報部の零細部署に所属していますが、今は彼らの同級生の相馬新です」
四人を視線で指し、自分の所属を紹介する。さあ握るか?坊さん。
「もし、さっきのが擬態なら流石だね」
坊さんが褒めつつ俺の手を握る。改めての自己紹介だ。
次の瞬間、九重八雲が片膝を着く。
突然の状況に理解できないのか雪光と深雪が目をぱちくりしている(表現古いか?)
膝を着く九重八雲の姿に驚き、声が出ないのは司波達也と光夜。どうやらこの二人は何が起こったか理解しているようだ。
坊さんの額に一筋の汗を確認して手を離した。
「いやいや参ったね。ここまでとは」
手首をさすりながら立ち上がる九重八雲。
額の汗は痛みではなく、驚きなんだろうな。
「魔法の方は普通ですが、この手の技は人に自慢できる程度には」
謙遜してみた。
「隠者を気取ったら「野の達人を知らず」とは情けないね」
「こっちも有名人にならぬよう気を使ってましたから」
お互い笑い合う。向こうも本気ではないし、俺も本気ではない。
ちょっとした確認だ。
「あの、先生。何が起きたのかわからなかったのですが」
深雪がおずおずと質問する。
「お茶しながら話そうか」
九重和尚はお堂内に案内しお茶を出し説明をする。
お茶が出るまで、司波達也に「俺の素性を九重八雲に確認したのか?」と聞くと「15,6歳で合気の達人には心当たりがない、と言われたよ」だって。
名前を隠すのに成功!
お堂の中で全員車座で座りお茶をいただく。手品のタネを言うのはお任せしますよ。九重先生。
「彼は合気の技法で、僕の足腰の関節から力を抜き、上から体重をかけたんだ」
あ、お前らあんまり理解してないだろ。
と言っても合気の理合は説明し辛い。気とか呼吸力、重心、タイミング等々説明する概念や要素が多い。
「それは魔法とは違うんですか」
深雪のさらなる質問に、横で頷く雪光。
深雪くん、俺今いるメンバーで一番魔法下手なんですが。魔法使ったら君ら驚かないでしょ。
「純然たる技術だよ。深雪くん。それもこれほど滑らかに僕に掛けられる程の使い手は、ん~」
俺はどの程度の使い手か?俺の技に触れて生きている人間は少ないし、本人の目の前で評価してくれる人間はいない。
少しくらいは褒められたい!
「彼だけだろうね」
やったー!天下の忍術使いに褒められた!
「僕が見るに、出来ることはこれだけではない。そうだろ?」
更なるネタバラしを求めますか、九重八雲。喰えないおっさんだ。確かに気が合いそうだ。
「もう一度広いところへ行きましょうか」
俺は腰を上げ、庭に向かった。
この四人の実力を九校戦で見れたんだ。多少手の内をは見せないと戦力計算ができないだろう。
サービスですわよ。
「うわー自信がない(棒)」
組み手の相手は九重寺の弟子二人だった。
一人は、杖まで持ち出し本気のようだ。
「ちょっと、やりすぎではございませんかね。先生さん」
「魔法無しなら、そのくらいじゃないと、手の内は見せてくれないだろ」
ウインクしてくるな坊さん!
「二人とも。彼を殺すつもりでやりなさい。そうでもしないと遊ばれるだけになるよ」
あ、帰りたい。
「それはちょっとひど」
俺は九重八雲の方を見ながら抗議の声を上げつつ、左にステップ。
「いん」
更にかがむ。態勢を戻し、素早く一方踏み込む。
「じゃない」
右前方へ肩から踏み込む。肩の発剄。
「です」
身体を少しひねる。もう一度ひねる。踏み込む。
「かね」
杖を引くタイミングも与えず、首を正面から触る。
「こちらに顔向けて、その動き。まだ相手の数が足りないかな」
九重和尚が余裕綽々な物言いをするが、額には何粒かの汗がついている。
一人が正面から近づき、顔面を突いてくるのを左ステップで躱す。
そのまま杖を横に薙ぐのでしゃがみ、間合いを詰めるため一歩踏み込む。
最初の一人の陰から姿を現した二人目の突きをくぐり抜け、肩から当たり発剄で後退させ
横から杖で二回突かれたので二回目のタイミングで踏み込み間合いを潰して、態勢が整う前にお弟子さんの首にタッチ。
俺は首から手を放す。両手を挙げて勝利宣言。
「うーい、俺の勝ち!光夜、学食おごれよ!」
一つ高いお堂の入り口から見ていた面々は俺の動きを理解しただろうか。
「そんな賭けはしていない」
そう言いながらも、光夜の表情は硬い。
「想像以上だ」
そう言った司波達也も口が重い。
「風間さんから俺について何か言われたか?」
あいつが話しやすいようあっけらかんと言ってみた。
「魔法使用の制限下では戦うな、と」
端的だが正しい教えだ。これは俺の攻略法でもある。
「魔法が使えれば勝てるかい?」
「距離を取れば」
今まで一番真剣な司波達也の声だ。
そういうこと。
千葉の次男坊は「3m内なら世界十指に入る」らしいが「魔法なしで3m内なら世界一」は俺だろう。
使える技は山のようにある。
無拍子、縮地に始まり、先読み、聴剄、暗剄、寸剄なんてお手の物。
鎧通しや、殺気を飛ばして圧するのもできる。
相手の気配を感じたり、一寸の見切り、脱力からの最速のパンチ、合気で人を投げ飛ばすなんて簡単だ。
寝技、組技でも負けたことはない。
武に関してできない技は無い。二指真空把は出来る。一度戦場でやったことがある。二度はごめんだが。
変わったところでは、軽功なんてのもできるし、水の上だって数メートル走れる。
武器だってなんでもござれ。刀、槍、銃剣、ナイフ、弓矢、弩・・・指弾の技もだ。
文字通り俺は「武神」なのだ。
だが、それは3m内の話であって。やっぱり魔法は怖い。
100m離れたところから範囲魔法を使われたら勝てないだろうし
魔法師の戦闘距離は3m以下になることはほとんどない。十三束くらいか。いやレオンハルトもだ。結構あるな。
障壁なんて張られたら、俺の格闘技の技では厳しい。
勿論、魔法師と相対した時の切り札はいくつかある。
この武神としての力を容易に超えていくのが魔法なのだ。
ミサイル並の破壊を個人の意思で行えるのだ。おっそろしい。
まあ、俺を形作る要素はまだあるけどね。
「九重先生、こんなもんでどうでしょうか」
「いや十分。今度うちの門下生に稽古をつけてくれないかな」
あ、茶化してない。本気で稽古つけてもらいたいのか。
「僕も、僕も稽古つけて!」
おう、雪光が俺を見る目が最高に尊敬の眼差しだ。
この日の晩に、不審船を見つけた千葉警部が愚痴を言いながら出動した。
さて本番だ。