うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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若い奴に出会いを与えたと思えば、これもアリか

俺はヘルメスという神に愛されているんだと思う。

ヘルメスは幸運、詐術、計略、牧畜、盗人、賭博、商人、交易、交通、道路、市場、競技、体育etc、多くの面を持つ神だ。

きっとその中で詐術、盗人、体育あたりで愛されているんだと思う。

 

てなことを思いながら中華街の人のいない暗がりを進む。

全身黒づくめ。目出し帽だし、なにより足音が一切しない。俺、変態みたいだ。

幾つかの装備、赤外線を見れる眼鏡やらなんやらのスパイセット、が入ったバッグを肩にかけている。

監視カメラの死角、もう3秒で左上のカメラが首を振り、10秒の空白があるので、そこで壁を越える。

壁の下には圧力感知式セキュリティも軽々と回避。

店の電源を細工、セキュリティシステムを騙すソフトの実行、そして警備員の真後ろを息を殺して気付かれずに歩く。

 

到着したるは周公瑾の店での私室。

周公瑾本人から教えられた書類の隠し場所…を漁り・・・ってホントに紙の本だ。

で、これには大陸式の古式魔術があるので、術をかけた当人から貰った護符を使用してと。

うへ、こりゃ面倒だ。ただ手で印を切るのだがちょっと楽しい。オンシュラソワカ!ってか。

 

にしても主人格と記憶が前世で、知識と技術が現世ってどんな組み合わせだ。悪意あるチョイスだぜ。神よ。

 

総時間1時間で俺は中華街の周公瑾の店から離れた路上に止めた車に戻った。

小泉中尉と島村曹長、田中二等兵曹に迎えられ、早々にセーフハウスへ向かった。

 

村井大佐の無茶は「24時間以内に証拠を証人の自宅から取ってこい」だった。

 

この手の仕事は情報部の実働部隊か俺たち支援課に限る。特に便利屋、三次受け、下請屋、残務仕事担当と有難くない異名を持つ支援課第二班はどんな仕事でもする。

使い走りから、中東における石油取引に絡む企業令嬢誘拐や、大量虐殺の目撃者を三つ隣りの国の日本大使館まで追跡部隊を振り切って俺一人で届けるとか。

届けた時に「ほんとにやるんだな」と鼻で笑った外務省の役人を、旅の途中で知り合った人たちの鎮魂の意味を込めて足腰が経たなくなるまでぶん殴ったこともある。

いや、その後しこたま怒られた。4か月の減俸で済んでラッキーだった。

 

「これですよ」

本をテーブルに置く。

村井大佐と周公瑾、そして小隊の面々、あと村井大佐が巻き込んだ情報部監察の竹田監察官。

セーフハウスにはそれだけの人数がいる。マンションの一室。

設定上は島村曹長のカバー(偽装設定)である玩具会社社員の趣味部屋として借りている。

「あっちの言葉か」

本を開きながら竹田さんは通訳がいないことを少し困ったようなので、俺がわかるところだけ訳してみる。

「こりゃ、亡命の記録ですね。何人をいつ、どこの引き取り先に渡したか。暗号交じりなので、本人の解説が必須でしょう」

この軍人たちの重苦しい空気の中、周公瑾こと中身はワタナベケンゴさんが、たどたどしく説明する。

 

俺以外ガタイがいい奴か、眼光で人殺せそうな奴しかいないからね~。怖いよね。

一応、証人保護で小隊が到着するまで周さんには「日本での正業の利益確保及び、違法行為へのリスク意識から組織の情報を売る司法取引を希望した」という形で進めることを教えておいた。

数年前からの亡命ブローカーとしての行動や、先日の大亜連合の軍人の手引き。そしてをそれを記載した個所と、彼らの知っている範囲でのプロフィール。

「人食い虎」の名前が出たときに部屋の空気が更に緊張した。

 

「あとは問題のそいつらだが…」

そうなのだ。それが問題だ。周公瑾が手配した住宅にはすでに大亜連合の軍人たちはいなかった。

というのも日本潜入初日から周公瑾の病んだ姿を見て、まともなコミニュケーションも取れず、単に衣食住だけ与えられれば

「この状況はまずい」と考えるのが工作員の常である。

この病んだ協力者は自分たちを秘匿してくれるのか?ちゃんと協力してくれるのか?

そのあたりの疑問が浮かぶと、あとは保険の意味で行動を起こすのだ。

 

つまり、潜入軍人は都会の中に逃げ込んだ。

それを追い立て狩るか、目的の日に、目的の場所で、一網打尽にするか。

 

情報部は手隙の部署、内情の瀬川、外務省外事部を巻き込んでローラー作戦の実施も視野に入れて足取りを追っている。

大亜連合が頼れる人物。華僑の人間や反政府思想のある者、魔法協会への反感の強い人間。

ブラックリストを片っ端から追っている状況だ。

 

周さんもGPSを体内に埋め込まれ、当面は支援課の監視下で暮らすことになる。

明日にも司法系の部署から弁護士役が来て、お店の管理について確認するらしい。

 

俺の中で意外な形で横浜騒乱への不安が構成されていった。

 

 

「大事になりましたね、少将」

「もう少し早ければ逆転の一手だったがな」

「まあ十文字邸の見取り図は有りますし、まったく無駄ではありませんでしたが」

「四葉と関係が結べたなら四葉の村の内部情報も欲しいところだがね」

「それは出来なくはありませんが、分が悪いですね」

「そうか。九島の方は?」

「若い娘に入れ込んでますよ。まあ、この先トラブルになっても自己責任ですからね」

「いや、若い奴に出会いを与えたと思えば、これもアリか。はっはっは」

「あちらに行くのはいつごろに?」

「早ければ月を跨がずにだな」

「では、任務もそのタイミングで」

「いやそれは相手に任せよう。面白いじゃないか」

「私は最近胃薬変えましたよ」

「苦労を掛ける」

「仕事ですから、ご安心ください」

 

 

ここまで来ると俺たち、つまりは、俺、カナデ、光夜、雪光、深雪、司波達也の6名の手には余る状況となった。

確証の無い未来には6人で対応しなければならなかったが、敵の作戦の証拠があれば軍が動く。

 

潜入軍人の追跡は、指揮は軍情報部、外務省外事部をアドバイザーに置き行うこととなった。

 

司波小百合襲撃事件は起きなかった。

やはり聖遺物奪還は重要ではなかったのでは?と思える。

あと軍内で聖遺物複製に関して、消えかかった火が再燃した。

燃えた理由は今回の潜入工作員の目的が

聖遺物奪還にあったこと、そして聖遺物というヤバいブツの複製を民間に丸投げしたこと。

なんでも火種にするのが軍内政治だ。海軍の意見に陸軍は反対である!というヤツだ。

 

そして平和な学生生活を取り戻した。カナデの処女もいただいた、完!

というわけにはいかない。

 

司波達也は七草真由美嬢と資料室の個室でいちゃいちゃしたらしい。

雪光が「身長なのか・・・」と凹んで呟いたのでモーリーが来て「男は身長じゃない!生き方だ!」と励ましていた。

お前、この間看護師のお姉さんに呼び出されて買い物に付き合わされたって言ったけどそれデートやぞ。

「単なる荷物持ちだ」とモーリーはまんざらでもない顔しやがった。こちとら放課後から深夜まで周公瑾の聴取に付き合ってくたくたなんだぞ。

 

 

国防軍は以下を決めて各関係部署に通達及び協力を要請した。

 

・全国高校生魔法学論文コンペティションの中止

・魔法科高校の臨時休校

・魔法協会関東支部の一時閉鎖

・横浜港での軍主導の臨検の実施

 

が、数日で根回しや調整がつくこともなく、グデグデの調整劇になった。

特に論文コンペは魔法協会の育成事業でもあるので、簡単には中止が出来なかった。

そこが大事なのに!

 

・全国高校生魔法学論文コンペティションは外部の見学者を制限。また応援の学生数も上限を設ける。

・会場の警備は魔法科高校から選抜された学生有志と、国防軍派遣の1個大隊にて行われる。また大隊は会場周辺の広域警備も兼任する。

・各魔法科高校には各校近隣の国防軍基地から警備班を組織し、警備として派遣する。

・魔法協会関東支部には特殊部隊2小隊を派遣する。また事前に協会として義勇兵の内々での募集を行う。

・偽装船対策として海上保安庁から巡視艇2隻、港湾近くに海軍の駆逐艦を1隻。また港湾地域に2個中隊を警備として配置。

・魔装大隊への出動待機命令

・鶴見基地に予備要員として2個大隊を待機

 

 

各魔法科高校にはブランシュの事件を教訓に、地方基地から警備が派遣され、偽装船対策は結局お役所の縄張り争いから海上保安庁が実務を行うことになった。

 

論文コンペやるんだよな~。止めりゃいいのに。

 

この条件がまとまる頃にはプラスとマイナスがあった。

 

マイナスは簡単だ。俺の出席日数が減り、カナデには会えず、情報部の支援課オフィスで寝泊まり生活を数日した。

ほぼ毎日の周公瑾への尋問には俺が同席するのが条件なので、常に情報部本部にいる必要があった。

陽が沈み、昇るまで尋問とかやめろよ。俺、普通の学生なのにここで大量欠席とか不味いんだぞ。

 

プラスは凄い。問題の襲撃日まで時間がなかったため、政府発表まで情報が上がらず内々に事が進んだことだ。

横浜港の臨検も今は多少厳しくなった程度だが、今後はどんどん厳しくなる。

文民統制が大前提とはいえ、半ば戦争が目の前にある時代では軍の動きは速い。誰も沖縄と佐渡のことは忘れていない。

そして各基地の警備班派遣も世の中のニュースとしてはほとんど公表されずに実施され、各校に軍人が民間の警備会社の制服で校内を警備している。

 

 

 

 

大亜連合の工作員は東京、神奈川のどこかで、国防軍の警備状況が出来上がるのを知っているのだろうか。

それを本国に連絡できるのかどうかもわからない状況で、あいつらは10月30日を迎えようとしているのだ。

 


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