うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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まあ主人公だからね。


余話:戦わないのも戦術ですよ

「エリカ、相抜けとは」

達也がモニターから目を離さず、先ほどの試合後でアラタが言った言葉の意味をエリカに聞いた。

言われた時にエリカが表情を硬くしたので意味を知っているのだろう。

周りの面々エリカの解説を待つ。

 

「なんていうか、相打ちのもっと上のレベルでの話のことよ。お互いの決め手を外させて相手も殺さず、自分も死なず、負けの無い状態っていうの、そんな感じ」

エリカは説明しながら少し不機嫌になる。狐につままれた感じを思い出した。

先ほどの試合で「相抜け」と言われてエリカはハッとした。相打ちとは違う。

負けて悔しがることはない。どちらかというと不思議な感じで、それを誤魔化す様に怒った。

心も体も一ミリも傷ついていない。本当に不思議な感じだ。

 

エリカの説明に納得したのか納得しないのか達也がうなずいた。

「それって引き分けじゃないの?」

千代田花音は納得できずに声を出すが壬生紗耶香が「まあまあ」となだめる。

 

「スタート地点についたぞ~」

モニター隣りのスピーカーからアラタの声が聞こえる。

ギャラリーは視聴覚設備のある部屋で訓練フィールドの画像を見ていた。

流石にフィールド全面を映し出すことはないが、8分割されたモニターには離れたところで準備を完了させた十文字とアラタが移っていた。

二人ともモノリスコードで使うプロテクターをつけている。

 

三試合目の相手に立候補した十文字の提案で、殺傷レベルが高くなければ「魔法」も「武術」ありとなった。

十文字としては理由はどうであれ、全力で戦う者への礼を失した行為と思い制裁のつもりでもある。

 

試合時間は30分。フィールドは野外フィールドの遭遇戦。

 

「では試合スタート!」

フィールドのスピーカーから千代田花音のスタートを告げる声がする。

 

 

「残り時間3分!」

千代田花音の声がフィールドに響く。

 

十文字は焦っていた。

試合開始後すぐにアラタからの攻撃があった。

サイオン弾を細かく発射、濃い煙幕、突然の爆音、いろいろと手を出してきたが

森の中に逃げ込み、十文字がそれを追い駆けた。

追いかけると森の中でもアラタはサイオン弾や煙幕を使い、

十文字はいつの間にかアラタを見失っていたのだ。

 

そして残り3分となった。

(どこにいる!)

 

時折、牽制で周辺に攻撃をするが、回避、逃走のリアクションはない。

 

「終了!」

スピーカーからは時間切れの宣言がされ、引き分けが決まった。

 

「戦わないのも戦術ですよ」

 

十文字の背中に声をかけたのはアラタだった。

「お前、どこにいた!」

怒るつもりはなかったが、声が荒くなった。十文字はすぐに興奮した自分を感じ呼吸を整える。

「話しても信じられないと思うので、みんなと合流して聞いてみてください」

そう言ってアラタは先にギャラリーのいる視聴覚ルームへと向かった。

何ともつかみどころのない相手だった、と十文字は悔しさ混じりに思う。

十師族にして十文字家の次期総領。そして九校戦におけるモノリスコードの覇者。

並の軍人魔法師よりも強大な魔法師。

それなりの自負があったが、それが軽く躱された気分だった。

 

視聴覚ルームに戻ると、アラタは光夜にハイタッチしようと手をあげるが光夜は無視。

「お前、ボッチか」

「趣味じゃない」

そう言って、アラタは着替えるため更衣室へ向かった。

 

入れ替わりで十文字が入ってくる。

「俺はどうやって負けた」

室内にいたギャラリー全員に問いかけるよう言った。

負け方を説明したのは司波達也だった。

 

「開始直後の戦闘で十文字先輩を森に引き込んだアラタは、森での攪乱後、十文字先輩の真後ろにピッタリいたんです」

「後ろに?それは森での戦闘後ずっとか?!」

十文字の体感で森の中で行われた戦闘は試合開始から10分も経っていない。

その後20分以上もフィールド内を動き回る十文字の後ろに付き、存在を悟られないよう行動した。

信じられないと十文字は首を横に振る。

 

「十文字君、まぎれもない事実だし、ここにいたみんながモニター越しだけど確認しているわ」

真由美の慰めるような声が試合の引き分け、そして十文字克人の事実上の敗北を改めて伝える。

「相馬君は、私たちが思っている以上の武術家なのね。あの九重八雲が認めるのも納得だわ」

真由美は自分の仕掛けたいたずらが、予想外の驚きと友人の自信を傷つけたことを反省した。

 

「まあ、これで来年の九校戦も大丈夫そうだな!あれだけ出来る奴がいるんだから!」

桐原が沈んだ空気を盛り上げようと努めて明るく言う。

だがそれを千代田花音が踏み抜く。地雷は伊達ではない。

「でも魔法とは関係ないでしょ」

 

 

関重蔵は経験上、魔法師が戦闘、戦場におけるやりがちな失敗をいくつか知っている。

 

・魔法師は非魔法師との戦闘において、なぜか魔法師にアドバンテージがあると思っている。

 

・魔法師は戦闘において注意を払うのは「相手の魔法の種類」と「魔法を知覚すること」が主で、戦場における周辺環境を積極的に注意はしない。

 

・魔法師が戦場において分析、知覚するもののTOPが「自分の魔法使用に必須な構成要素」であり、その他の戦場を構成する要素を御座なりにする傾向がある。

 

・魔法師は障壁などの防御方法に頼りがちで敵の正面に立つことが多い。

 

・魔法師同士の戦いは隠れない

 

・自分は敵を見失わないと思っている

 

・魔法の方が銃器や格闘より早いと思っている

 

他にもあるが重蔵が思う魔法師の失敗は凄腕の魔法師であればある程、陥ったときのしっぺ返しが大きい。

 

(十文字の坊ちゃんも、少しは自省したかね)

更衣室のシャワーでさっと汗を流し着替える重蔵は将来の十師族の顔が成長してくれることを願っていた。

 

普通に正面からの戦闘ならば十文字克人のファランクスは圧倒的だ。

関重蔵の超人的肉体でも一瞬で潰される可能性が高い。

だが今回は相手が悪かった。

魔法師を良く知る超人的兵士が相手であり、

「十文字を打ち負かすこと」を勝利条件にしていない場合は、十文字の魔法師として実力が十二分に発揮できない。

逃げに徹されると、十文字では追いきれないのだ。

 

魔法師としての才覚・能力では関重蔵と十文字克人の間には雲泥の差があるが

実戦経験者としての実力差はその立場が逆転する。

 

(2年ばかり軍隊でしごけばモノになるけど、さて将来はどうするのやら)

重蔵が更衣室から出る時にばったり会った。

「いい勉強をさせてもらった」

機嫌はあまりよくなさそうだ。口調が固い。

「いえ、自分も少し調子に乗り過ぎました。すいません!」

謝ったが十文字の表情は変わらない。

重蔵はそそくさと退室した。

 

(俺はまだ強くなれるのか?)

十文字克人18歳はまだ成長の余地を残していた。

 

 

 




はい、十文字が事実上敗北です!
正面戦闘だったら重蔵が勝てるか不安ですが、鬼ごっこでは実力差が出ましたね~。

関重蔵の持つ4つのチートを組み合わせ、勝たないことに徹すればこのくらいできます。
というか、十文字ではなくもう少し危機感や危険意識の高い相手ではこうはいきません。
吉田幹比古とか、司波深雪、服部刑部などが相手だともう少しやり方が変わるでしょう。

そういえば吉田幹比古、九校戦から出てないな・・・。

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