うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
国立魔法大学付属第一高校の制服に袖を通して思うのだが、肥満体に似合わない柔軟性の無いデザインにGOを出したのか不思議だ。
緑と白を基本にした制服で男子の制服はブレザーと呼んでいるが、なんというか燕尾服のジャケットというか、中途半端な丈のコートのようにも思う。襟も高く、全体的に角張ったイメージのブレザーだ。
巨大ロボットを操縦するパイロット候補生と言っても通じそうだ。実際本国のギーグ達はSNSで笑っていた。
ありがたいことに俺は顔の造形はいい。
この制服でもさほど違和感がでない。司波達也が着るのだから俺も着れる。
「タツヤの顔は夜空のような美しさがある。吸い込まれそうな瞳よ」とリーナは評した。
個人的には少し地味な顔つきをしていると思っているが。
黒髪に黒い瞳、そして特徴的な前髪の眉間クロスのくせ毛。
本国でも日系より「日本人」に間違えられることが多かった。
どうやら遺伝子的には両親とも日本人だ。
「タツヤ・クドウ・シールズです。日本語はしっかり勉強して来ました。よろしくお願いします」
少しはにかんで、頭を下げた。
クラスメイトの視線は好奇心がはっきり出ている。
黒髪に黒い瞳、貴様らと変わらない日本人顔だろう。珍しいのか。
いや視界に入る司波深雪の表情から、即座に理解できた。
やはり俺の顔は司波達也に酷似しているのだ。
鏡で見ても、本物について挿絵を見た記憶頼りなので違いがあるかどうかわからない。
今回の任務は日本魔法科高校一校が潜入だ。
目的は横浜での大亜連侵攻後に起きた「グレートボム」を使用した魔法師を探すこと。
この学校に容疑者がいる。
俺こと「タツヤ・クドウ・シールズ」はUSNAスターズの少佐である。
USNAの魔法師特殊部隊スターズ。実際は陸海空、海兵隊、沿岸警備と並ぶ独立組織でもある。
そのスターズの総隊長、USNAにおける最高戦力の一人「シリウス」それが俺の義理の妹リーナだ。
俺は俺で「もう一人のシリウス」という特殊な立場にある。
シールズ家には二人の天才児がいたのだ。
いや、軍内政治によって俺がシリウスになるところを、本当の天才が正しい評価で正しい場所に収まったのだ。
実力の評価は拮抗していた。そこで独立した行動を認められるワンマンアーミーとして「もう一人のシリウス」として恒星シリウスの異名「シヴァ」で呼ばれることとなった。
リーナは今二校に潜入している。あれで少しおっちょこちょいなところがあるので心配だ。
紆余曲折の結果、俺はシールズ家で世話になっている。養子という形だが、なんというか家族というより家族みたいな下宿な感じがする。以前にそんなことを言ったらリーナに「家族でしょ!」と怒られた。
それ以来、何につけて一緒に行動することとなった。どうも義理の妹は甘えん坊のようだ。
俺は転生者だ。
この世界の未来を知り、会ったことのない人間の内面を知る。
前世は30代のサラリーマン。人付き合いは苦手な方ではなかったが、やっぱりオタク気質が強い
生まれ落ちた世界が「魔法科高校の劣等生」なのは幸運でもあり不運でもあった。
魔法科高校の劣等生の二次創作SSを投稿していたこともあり、世界設定と年表には人より詳しかった。
軍属を選ぶ時に覚悟は出来ていた。将来、司波達也と敵対する立場になることを。
転生者であるとともに、チート持ちでもある。幾つかのリクエストと幾つかのランダム。
チート名だけでは判断がつかないが、「シヴァ」となれたのは、チートだけではなく自分なりの努力もあった。
俺自身、この世界や自分の立場に対しての気持ちは複雑だ。
魔法を使えるのは楽しいし、待遇もいいし、今は家族に囲まれている。
だがここに来るまでの地獄めいた人生を思うと時折神を呪い、この世界に転生した自分を呪った。
そして、自分が受けている地獄の同じ時間軸で原作キャラクターが平和に、俺と比べ平和に生きていることに八つ当たりめいた恨みを持っていた。いや、今もそれは燻っている。
その恨みは「司波達也」に向いている。俺と同じ顔をし、類まれなる能力を持ち、地獄めいた人生を送る者。
鏡で見るこの顔が司波達也と向き合うようで気に食わなかった。
「お前だけが世界に祝福され、人間に呪われているわけではない」
お互いに相手を罵るような気分になる。
あれ程熱狂して読んでいた世界も、そこに入り込めば戦争と差別が続く世界なのは変わりなかった。
さて、俺と同じ異分子は
一校
四葉光夜
司波雪光
藤林奏
二校
川村エカテリーナ
三校
黒城兵介
の5人。
「大亜連合の横浜侵攻」いや「横浜騒乱」で名前が挙がった5人は転生者の可能性が高い。
九校戦と横浜騒乱での活躍。高い魔法力に独特の立場。何よりも俺の知識外の存在であること。
以上の理由でチートを保有している転生者として接した方が賢明だ。
昨年起きた鎮海軍港の「グレートボム」を起こした魔法師を探し出すのが俺の、そして日本に派遣されたスターズの面々の仕事だ。
グレートボムを使用した可能性がある魔法師が各魔法科高校の学生の可能性を鑑み、戦闘能力のある若年の魔法師が留学生として、日本全国の魔法科高校へ送られた。
第一高校のグレートボムの容疑者を「四葉光夜」と戦略室の将校と分析官は判断している様だが俺は違う。
司波達也だ。日本の魔装大隊特尉大黒竜也。
俺の知り得る原作知識では司波達也がグレートボム、つまりマテリアルバーストの術者だ。
これから俺はその調査をせねばならん。
証拠が無かった今までとは違い、確実に尻尾を掴める。この来訪者編、いやパラサイト事件を使えば奴の実力をUSNA軍に認識させることが可能だ。
俺はこの世界で今の立ち位置で幸せに生きるために必要なことを考える。
自国の戦力強化と、トラブルメイカーである司波達也を抑え込む材料を持つ。
つまりはいつか来る魔法師たちを主体として行われる世界大戦の勝利。
そして場合によっては現段階で司波達也とその他の転生者たちと敵対する覚悟がある。
主人公がなんだ。敵となるなら容赦するつもりはない。
なんだかんだで、俺は司波達也が嫌いなのだ。
義妹はやらんし、俺の幸せのためだ、地獄を見ろ。