うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
重要なのは差異の程度だ。森崎が司波達也たちと同席できているのは「何かがあった」からだ。
その「何か」が分かれば転生者たちの考えやスタンスを知るカギとなる。
今必要なのは会話だ。
◆
「並んで歩くと双子のようだ」
俺は笑顔を浮かべつつ司波達也と須田に校内を案内されていた。
「よく見れば容姿に違いがあるから、そう間違えることもないだろう」
「光井さんが達也君とタッちゃんを交互に見てニコニコしていたのはなんでだろうね」
須田は司波達也の顔を見てやや意地悪げに言った。
その言葉に司波達也は顔色を変えない。
「あまり囃し立てると須田の方を見なくなるぞ」
暗に「嫌われたくなければ下心で相手を見るなよ」と釘を刺したように思う。
「司波さん、深雪さんはたしか九校戦でも活躍したらしいね」
話を変える風を見せつつ、話題の中心を司波深雪にする。
「そうなんだよ!可愛かったよ~。お勧めはアイスピラーズの時の巫女コスプレだね」
そんなの聞いてねぇよ。
須田がその時の司波深雪の可愛さを「黒髪と合ってた」や「清楚な感じがいい」と実兄の前で
我がことのように褒めちぎる。司波達也も苦笑いをせざる得ない。
「須田君や達也君は九校戦には?」
おしゃべりだった須田が黙る。司波達也も少し話辛そうだ。
「いや~新人戦の選手だったんだけど、途中怪我で交代しちゃって」
「まあ不幸な事故だったな」
頭を書きながら先ほどの勢いもなく須田が言うと、慰めるように司波達也が捕捉する。
つまりあの交代は原作に近い「事故」があったようだ。修正力でも働いているのか。
「達也君はCAD調整で不敗神話作ったよね。いいな~女子にモテモテで」
「不敗神話?」
「達也君が一年生女子選手のCADを調整して、そのCADを使った選手は優勝!負けなし!キャー達也君、お付き合いして!」
「話を盛りすぎだ。CADの調整はしたが優勝は選手の力で、交際の申し込みは無い」
須田の話に呆れつつ訂正を加える。この須田の話しぶりに苦笑で済ますのは、この二人の付き合いがそれなりにあり、須田の性格や日々の言動をある程度把握している証拠か。
「それは凄い!達也君はCADエンジニア志望なのかい?」
肩を動かしオーバーアクションで驚いて見せる。
「ああ、そのつもりだ」
「それなら卒業後の就職先にUSNAなんてどう?」
「なんだ藪から棒に」
「本国にCADベンチャーやっている友達がいて、優秀なエンジニア欲しがっているから紹介しようかと」
「高い評価をありがとう。だが日本から離れるつもりはないよ」
そうだな。深雪が心配で異郷の地には行けないだろうからな。
「自分でもCADは組んでるのかい?それなら僕のCADも見てくれないか」
「留学生ならCADは日本製ではなくUSNAのメーカーか?」
ここには食いついてくる。興味を抑えて冷静だが、本音は早口でまくしたて聞きたいのだろう。
「一応USNAメーカーだけど、知り合いのベンチャーのだからあんまり有名ブランドじゃないけど」
臨時の生徒会役員ということで、所持が許されているタブレット型のCADを上着のポケットから出す。
「気になる?」
「気になる」
今までで一番語気強く司波達也は言った。
◆
「光井さん、四葉君といて緊張しない?」
生徒会室で光井ほのかと二人だけとなった。他の生徒会面々は部活連との打ち合わせ、年始最初の業者との打ち合わせと、留守番兼指導役として光井ほのかが俺と残ることとなった。
彼女はなかなか俺と目を合わせようとしない。質問に対して何か思うところがある訳ではない。俺が司波達也に見えて仕方がないのだろう。
人一人分の距離があったのを詰めるように横に座った。
彼女は顔を赤らめてこちらを見る。
少し笑いながら「四葉君はまるで生徒会長か王様みたいだね」と彼女に向かって冗談めかして言った。
「うん、四葉君は堂々としていて迫力があるから」
光井ほのかの言葉は意識して言っているわけではなさそうだ。
微笑みを向ける司波達也の顔に喜んでいる。
「彼はやっぱり成績良いの?」
「はい、学年首席なんです。実技でも理論でも一位なんですよ。深雪さんも接戦で二位なんです。そんな中で私みたいなのが生徒会にいて・・・」
話ながら光井ほのかは自分の実力が生徒会で劣っている、役に立つかわからない点で悩んでいる様だ。
「光井さん」
俺は肩を少し寄せ、励ますような声で話す。
「誰でも、能力を見込まれてこの場にいるんだよ。それは光井さん自身が思うより、君の実力をみんなは評価している証拠じゃないかな。試験で判断できない部分や人柄とかさ。僕も光井さんが親切で安心してるし」
光井ほのかの目を見て微笑む。俺を通して司波達也に変換しているのだろう。先ほど見せた落ち込みかけた表情は無くなり、笑顔の花が咲く。
光井ほのかから、他の面々の成績の話を聞く。一年の総合上位は四葉、司波、司波、藤林だ。
無論、司波達也は筆記のみなら首席だが実技がダメらしい。
あの食堂の面々の成績の話になったが、皆想像通りといった程度だ。
相馬新も須田渉も中の中。
◆
「雪光は王子様って何?」
帰路は喫茶店に誘われた。
メンバーは司波達也、司波深雪、千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、光井ほのかだ。
喫茶店に入り、ここにいない面々の話になったので、昼間に女子生徒が話をしていた「雪光君は王子様」のことを聞いてみた。
どうせろくでもない話だろうが、情報収集はしなければならない。
千葉エリカが面白がって幾つか教えてくれた。横にいる司波深雪は身内を褒めらているのか、けなされているのか判断つかない様子だ。
他の面々も時折茶々を入れてくる。
「で、結局横浜の事件だと一番目立ったのは雪光くんと光夜くんなのよ」
「お兄さんとしては、弟に差をつけられてるんじゃない?」
意地悪に司波達也に聞いていみる。
「弟の成長は嬉しいものだよ」
「そうだね、妹がいるからよくわかるよ」
「お兄様も昨年の模擬戦で服部会頭に勝ちましたし、九校戦も急遽モノリスコードの選手抜擢で優勝に貢献しています」
雪光だけ褒められたのに嫉妬を感じたのか、司波深雪が司波達也の戦績を言ってくる。
こういうところは国関係なく妹は同じ行動をとる。
◆
「アラタの彼女って誰?」
食堂で森崎、須田、相馬と食事をすることとなった。
森崎との雑談で出た相馬新の彼女の話を本人に聞いてみる。原作キャラならこいつの転生容疑が濃くなる。
「藤林奏だけど。タッちゃんとまだ会ってなかったっけ?」
「うん、名前は光井さんと話したときに出たけどんな人?」
相馬新は嬉しいそうに、そして自慢げな笑顔を見せた。藤林とはそれほど自慢する美女なのか。
タブレット型の情報端末に表示された写真を見せてくる。
たしかに美人だ。16歳にしては大人びた風貌で、街ですれ違えば10人中9人は振り返るほどだろう。
「ほんとこいつがどうやって、藤林さんと付き合ったのか?!」
「犯罪的な香りがするんだけど、ほんとに脅迫とかしてない?してないよね?」
横から森崎と須田がブツブツと文句を言ってくる。
相馬新は胸を張り、タブレットを積極的に見せびらかしてくる。
「どうだ!よかろう!俺のレモンちゃん!」
「何がレモンちゃんだ、馬~鹿!」
「なんで、ちんちくりん度なら僕より上なのに」
「は~」
森崎、須田、俺の順で呆れる。
レモンちゃんってゼロ使か?一つ反応を見るか。
「アラタは古いアニメとか好きなの?」
俺は
「へっ?」
「いやレモンちゃんって、大昔のアニメにあったキャラクターの愛称らしくて」
相馬、須田、森崎が俺を見つめる。
「タッちゃんってオタク?」
「イケメンでオタクはチャームポイントだよ」
「オタクでも友達だからな」
勝手なことを言いやがって。ポンコツ三人組が!
俺はにこやかな顔で答える。
「妹と子供の頃にネットテレビで見たんだよ。少し萌え?MOE?らしくて親に叱られたけど」
今の時代「萌え」はややセクシャルな意味合いがあった。
少なくとも数年前のUSNAではローティーンが萌えアニメの見る時代ではない。
「なんか、冗談で彼女のことをレモンちゃん言ったことを別方向から補足されると恥ずかしい…」
男子高校生が顔赤くして恥ずかしがるな。
「Booo!」
ブーイングを飛ばす須田を横目に相馬にさらに質問をする。
「で、どうしてそんな美人と付き合いうことになったの?」
そして30分近く馴れ初めと、九校戦のスタッフ間の恋愛話を惚気混じりに聞くとは思わなかった。
このおしゃべりな男は本当に転生者なのだろうか。
飲んでるブラックコーヒーが甘くなりそうだ。
◆
九校戦や論文コンペなどのオープンな情報以外に
・司波達也はCADエンジニア志望であり技術面が高い
・学内の成績においては転生者容疑の強いものほど成績上位者
・服部は司波達也に負けた。
・須田は「レモンちゃん」に反応しなかった。
・相馬は冗談で「レモンちゃん」を自発的に言ったがゼロの使い魔の存在は知らないようだ。
・藤林奏はCAD調整の適正が高い。
・横浜騒乱における各キャラクターの行動が原作と違うが功績については原作通り。
・光井ほのかは司波達也に恋をしている。
この第一高校では「原作通り」のことと「原作には無いこと」が起きている。
司波達也が魔工師希望であり、服部と模擬戦をしている。
原作にはいない人物は首席の座にいる。
転生SS執筆は、原作を変えることはままある。
オリジナル主人公の活躍によって、例えば司波達也が四葉達也で入学することもあるだろう。
場合によっては四葉光夜は四葉真夜の冷凍卵子にて生まれた実子かもしれない。
司波深雪が十文字克人と婚約している可能性もあった。
ただ今の状況を鑑みれば司波達也は「原作通り」のキャラクターであると判断していい。
つまり俺の原作知識はある程度通じるのだ。
司波雪光の存在には驚かされたが、司波深雪の嫉妬具合を見ても、彼女の感情は「アレ」だ。
キャラクターの内面もそれほど違いは無いようだ。
問題は転生容疑を持つ面々の動向だ。