うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
「信じられん」
ヴァージニア・バランス大佐。人事畑を中心に功績を重ねた女傑。
在日USNA大使館近くの、ある出版社のオフィス。
出版社は複数の仲介を経由してUSNAの退役軍人会が出資し、運営している。いうなればUSNA軍のダミーカンパニーである。
バランスは会議室で目の前に座る少年から報告を受けると頭を振る。
昨夜(約8時間前)の脱走者追撃で、脱走者の協力者が全員魔法師でそれも特異な能力を保有している可能性が高いというのだ。
「ですがCAD使用も認められません。クラッシックな魔法師とも考えられません。単一能力でもないことから【パラサイト】の可能性があります」
【パラサイト】ロンドン会議にて定義づけされた国際的な用語である。
吸血鬼、デーモンetc。神話、おとぎ話の怪物は情報体次元からやってきた情報体存在が生命体に憑依した存在。人間に憑依し「増殖行動」を行うのがパラサイトである。
「戦闘時に巻き込まれた民間人というのは、貴官の同級生だな」
「はい、大佐。クラスは違いますが同じ一校の学生です。アラタ・ソウマという名です」
(そして転生者の可能性を残す。パラサイト相手に戦闘を行えるのだ)
タツヤは報告に心の中で補足を付け足す。
あまりいい気持ではない。実力を見抜けなかったこともあるが、自分の姿を見られている。
もっと言えば、同じ転生者ならあの場にいたUSNAエージェントの行動目的やあの仮面姿が自分であることも把握していたのだろう。
タツヤとしては軍人としても同じ転生者としても手の内、胸の内を見透かされたようで悔しいといったところだ。
「民間人は病院に入院中だったな。いいか見舞いなど考えるなよ。今はヨツバに張り付いてくれ」
「はっ」
「脱走者については、戦力を整えて再度だ。所在の調査はこちらで行うのでそれまではグレートボム調査に専念してくれ」
(潜入捜査と脱走者処理を同一工作員で並行処理する神経を疑うね)
そんなことを思いながらタツヤは了解の意味で敬礼をする。
◆
病院から離れる司波達也一行を遠くから見送る黒羽貢。
ソフト帽にトレンチコート。ふた昔前の映画俳優のようでもある。
警察関係の病院といえども、黒羽の技ならば入り込むことなど容易い。
19時も過ぎ、太陽は傾き空は暗い。
幾つかの工作。侵入の痕跡を消し、関重蔵の病室に人が来ないよう人を眠らせ、遮音の術を使う。
「お邪魔だったかな?」
音を立てず部屋に入る。ベッドでは少年が横になっていた。
黒羽貢はベッドのわきではなく少し離れたところ、入口とベッドの中間に立った。
関重蔵との間合いを取り、逃走経路を確保したのだ。
「何ですか!いきなり!」
個室のベッドで寝ていた少年は驚き、ナースコールを手に取る。
息子の文弥より背も高いし、身体を鍛えている。
(何とも高校生らしい印象だ。これで国防軍の佐官と言うのだから驚きだ。実年齢は30代だったかな)
貢は珍しそうに関重蔵の顔を見る。
「芝居が上手いね。関少佐」
黒羽貢は対面した人物の少年演技に違和感がないのは、彼が童顔だからかと思った。
「いきなりなんですか!あなたは!?」
困惑と恐怖。表情の作り方が上手い。
ナースコールを押しても誰も来ないことを貢はわかっている。
「四葉の使いですよ」
「光夜の!それが」
「いい加減芝居を止めなさい。あまり時間を無駄にしたくない」
静かだが高圧的。情報部の一佐官と四葉の分家当主では重みが違う。
関少佐は手からナースコールを離すと、不貞腐れた顔をする。
「もう少し付き合ってくれてもいいだろ。こっちは見舞客がいないと暇なんだよ」
起しかけていた上半身をもう一度ベッドに横たえる関重蔵。
本当に暇だったようだ。
「で、四葉さんちの人が何か御用時?光夜の戦略級の話は佐伯さんに聞いてくれ」
「昨晩の件だ」
黒羽貢は出張の帰路、四葉真夜からパラサイトの入国と昨晩の事件の連絡を受け
情報収集で一日動き回り、関重蔵なる少佐が現場にいたことを突き止めた。
貢一人の力ではなく、四葉本家の執事である葉山からの情報があってこそだが。
「あーはいはい。その件は国防に関わるので民間の方には情報開示できません。必要であれば十師族内での意見調整のうえ、然るべきルートで然るべき部門に問い合わせてください」
あしらう気を前面に出して貢の問いに答える。
諜報の世界で知られ、脅威の一つとしてみなされる四葉を「民間」と断じている。
四葉の名前と今の状況の中で、この男は貢に対して挑戦状を叩きつけたのだ。
お前ら四葉は引っ込んでいろ、と。
「我々を愚弄するのかね」
「四葉が防諜任務の非開示情報を求める理由は?法的正当性は?」
貢は怒りを表情に出さないようポーカーフェイスに努めた。
人の居ない病室で、諜報の、命の軽くなる場で、法的正当性を問うてくる。
憎らしい童顔の男を今すぐ地獄の苦しみを与えたい衝動を抑えた。
(四葉の、黒羽の実力をその身に知らしめてやろうか)
冷静に感情を出さぬよう貢は返答する。
「君にこた」
「開示請求の仕方を知らないなら弁護士を紹介しようか」
遮られた。さらに馬鹿にされた。男はいやらしく笑っている。
最も苦しい方法で尋問することを考えたが、次の言葉でそんな考えなど吹き飛んだ。
「お前のおじさんはおっかないな。光夜」
関重蔵は貢の肩越しに部屋の入り口を見た。
人の気配はない。だが、あの四葉光夜だ。あの男だ。あれに隠形の技術がないわけがない。
貢の心中は乱れた。四葉の闇たる黒羽の当主が後ろを取られたのだ。
振り向くわけにはいかない。振り向けば目の前の男を視界から外してしまう。
だが振り向かずにはいられなかった。あれは関重蔵以上に目を離してはいけない。
目の前の男は病室着でCADは保有していないのだ。何かあれば毒蜂で対応できる。
極力、関重蔵から目を離さないよう、右を向き、横目でドアを見る。
誰もいない。
「馬鹿が見る、豚のケツってか」
関重蔵の声が近い。貢は視線を戻すと男はすでにベッドから立ち貢の眼前に立っている。
一呼吸もない。一瞬の視線の動きを盗み、小男は立ち上がり数歩間合いを詰めていた。
そして貢の腹部に拳を当てている。その拳から強い殺気を感じる。
「よく聞け民間人。お前ら情報を抜くだけ抜いて、てめぇらの陰謀にばっか使いやがっていい加減にしろよ」
魔法を使うか貢は悩む。毒蜂なら一瞬だ。
だが、この拳の殺気を掻い潜り発動できるのだろうか。
「情報は追々出してやる。俺はこの数日睡眠不足で気が立ってるんだ。見逃してやるからとっと帰れ」
先ほどまでと声のトーンが違う。本当の声は顔つきからは想像できないほど物騒なものだ。
(人を殺すのに躊躇などない、と言いたいのか)
自分の背中に大量の冷や汗があるのに気づくと、黒羽貢はゆっくりと拳から距離を取り部屋を出る。
「顔は覚えた。必ず殺す」
黒羽貢は自分が陳腐な台詞を言うことに驚いた。
だが腹のうちにある感情は先の言葉以外にない。
そう思いつつ、黒羽貢は病院から去った。
◆
「ふむ、パラサイトか」
「ご存知でしたか、九島先生」
九島烈は顎に手をやる。
パラサイトという単語である程度のことは察した。「世界最巧」の名は伊達ではない。
「今後のことを考えると、確保したいところだ」
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「ふむ、パラサイトか」
「ご存じでしたか、師匠」
九重八雲は頭に手をやる。
パラサイトという単語で、ある程度のことは察した。「忍使い」の名は伊達ではない。
「対応方法を教えた方が良さそうだね。達也君」
◆
「バレンタインのチョコどうするの?」
「あらカナデは相馬君にあげるんでしょう」
「お姉さんは、千葉さん?」
「もう、茶化さないの」
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コミューター整備基地の事件から数日、1月30日を迎えようとしていた。