うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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不機嫌指数の最高値

「お前の能力は?」

「それを今聞くか?」

俺の目の前に座る四葉光夜は端的に聞いてくる。

息は切らしてはいない。落ち着いているのか性急なのかよくわからん男だ。

誰もいないカフェテラス。近くにロボ研が見える。そして先ほどパラサイトの残滓がピクシーへ避難したのも確認した。

「介入したな」

「柴田美月を助けただろう。なにか問題でも」

四葉の断定的な言葉を肩をすくめて肯定する。別段邪魔はしていないだろ。

こちらにもこちらの見通しがある。それに合致するから手を出したまでだ。

パラサイトを認識できるのは俺、司波達也、柴田美月であり、司波深雪、魔法を利用することを前提に吉田幹比古も可能なのかもしれない。

「いや」

四葉は頭を横に振る。

俺の行動を責めているのではなく、確認したのだろう。

気苦労の多そうな奴だ。

 

 

【情報体次元投射】と呼んでいる。俺の能力だ。

端的に言えば幽体離脱のように、意識を情報体次元に潜り込ませる。

俺は情報体次元の海を泳ぐことが可能なのだ。

 

これは「模写」と「転写」と「単一創造」の三つの能力の前提だ。

 

俺の能力は説明が難しい。情報体次元の概念を理論的にも体感的にも把握している魔法師でないと理解できない。

さらに言えば他人による再現性というものがない。全て俺の認識と感覚において処理される。

もしかすると司波達也なら理解できるかもしれないと淡い希望を持っている。だが、あの顔に理解されたくはない。

 

この能力は「分解」「再成」ほど融通が利かない。俺は傷を負っても肉体を再生することが出来ない。

さらに「分解」と同じ結果をもたらす使い方をする場合は、相手の情報強化を抜く必要がある。

ただし干渉力の勝負に勝ってもあまり意味がない。俺の「分解もどき」は人体には、無害だからだ。

 

「模写」「転写」を砕いて言うならコピー&ペーストだ。

情報体の一部をコピーし、ペーストする。

 

無機物、例えばコミューターにコピー&ペーストを行う場合、情報全体ではなく情報の一部である車両外壁の分子構造をコピーする。それをコミューターの情報体内にペーストすると「分解」が行われる。

コミューターの情報体規模に対して情報量が過剰になったことで、情報体の構成バランスが崩れ「分解」されると思われる。「情報体レベル」での情報過剰は物理世界では「存在の瓦解」へと繋がるのだろう。

 

ただこれが有機物、具体的には人間だが、人間にはコピー&ペーストは何にも意味がない。人間に「分解現象」は起きない。情報体レベルで情報過剰状態にあっても、有機物は情報体内でその情報過剰状態に辻褄をつけるのか、物理面では何も起きない。肉体の損傷に対して、他の部位のたんぱく質情報などをコピー&ペーストすることで傷をふさぐことは可能だ。ただ肉体は無機物と違って情報が多い。情報読み取りに数分程度かかる。

原作では司波達也が相手の遺伝情報や存在過程を容易に全て読み取るが、そんなことを俺がやろうとすれば数時間はかかる。

 

以上の理由から俺の「分解もどき」は無機物専用の障害物破壊魔法だ。

ただ「分解もどき」は相手の情報強化を抜く必要があるので

情報強化素材で建築された建造物には俺の干渉力が要になる。

 

無機物は硬くて脆いが、有機物は脆くて柔らかい。

これが俺の人間に対しての認識だ。

 

そして俺が唯一創造できる物。

俺の能力を軍事ではなくエネルギー供給問題に利用すればUSNAはもっと豊かになるはずだ。もしかすると世界のエネルギー問題もどうにかなるかもしれない。そんな能力を爆弾代わりにしか利用しない人間の業は悲しさもある。

リーナに「神様の贈り物だ!」と喜んでもらえたのが救いだ。

彼女の笑顔は数少ない人間の善なる面だと思っている。

 

俺が創造するのは「反物質」。「対消滅」を引き起こす。

シリウス、いやシヴァたる俺が人々にもたらす創造、破壊である。

 

 

「次はどう動く」

表情を動かさず、四葉は聞いてくる。

俺は少しだけ笑う。

「それを俺に聞くのか。それよりもグレートボムの使用者はお前で報告すればいい?それとも司波達也か?」

軽く揺さぶる。どう返答する?

「勘違いをしているが、あれは俺だ。原作通りの司波達也ではない」

落ち着いて答える。いいや、嘘だね。他の人間なら信じてしまいそうだがな。

精霊の眼が存在する以上、司波達也がマテリアルバーストの使用者の可能性は高い。

「それはそのうち確認する。次はピクシーだ。光井ほのかの誘導は上手くやれよ」

「そうだな」

それだけ答えると四葉光夜は喫茶室を出る。

あいつらもピクシーの起動が必要と考えているのだろう。

 

そしてピクシーを餌にパラサイトを集める。さてレイモンド・S・クラークと連絡は取れているのか。

 

 

バランス大佐の不機嫌はこの数日で不機嫌指数の最高値を更新し続けている。

整備基地事件について上層部とやりあったらしい。

 

パラサイトの追跡は続けられていて、奴らの拠点も把握した。

昨日の2月1日に3名が追加されて11名のパラサイトが渋谷の外国人向けシェアハウスにいるが手を出せない。

USNAエージェントが尻込みするほどの諜報組織が渋谷の街をうろついているのだ。

それに多数の魔法師もおり、下手に動けば我々の動きが露見し国際問題になりかねない。

この状況に対し【パラサイト】が一つ解決の糸口になるかもしれない。そう伝えると彼女の機嫌が少し良くなった。

 

日本の警察組織がパラサイト確保をする際は戦闘になる。そこに乗じて脱走者の処分を行えばいい。

俺が陽動に動き、遠距離による狙撃を行う作戦を現在参謀部が計画している。

少なくと原作の2月15日(ピクシー起動)までは間があるので、それまでには作戦案もまとまるだろう。

警察の動きと四葉光夜の動きを見張っておけば、だいたいの動きは把握できる。

 

「そう上手くいくのか?」

「そのためのスターズです」

バランス大佐の心配を慰める。

司波達也の動きを見ればスターズの力を借りずとも状況は追える。

少しの間、俺の口車に乗っかってもらおう。

 

 

2月6日の放課後。

光井ほのかに頼まれて、ロボ研の建物が見える喫茶室に呼ばれた。

ここは日当たりがあまり良くないし、校舎の本棟から一棟挟んだところにあるので学生の姿はない。

 

「シールズ君には申し訳ないけど練習相手になって欲しいの!」

テーブルを挟んで光井ほのかは頭を下げてくる。

「え?」

突然も突然だ。素で声が出てしまった。

彼女は真剣だ。今までで一番真剣な顔をしている。

「もうすぐバレンタインなんです。達也さんにチョコ渡す練習の相手になってください!」

 

え?

 

「どうしても緊張しちゃうんです。シールズ君は達也さんに似ているから告白の練習させて」

もう一度頭を下げてくる。

 

え?

 

「ああ、はい」

 

一気に光井ほのかの表情が明るくなる。笑顔をこちらに向けてくる。

「じゃあ、これからチョコを渡すふりをするので「ありがとう」と言って受け取ったふりをしてください」

あ、はい。おれはうなずいた。

 

 

「達也さん!受け取ってください!」

「食べてください!」

「達也さん、お願いします!」

「もっと微笑んで」

「優しく」

「歯は見せないで笑うんです」

「少し困ったように」

「目で笑うんです」

「もうちょっと固く笑ってください」

「あまり口角は上げないで」

「そうです!そんな感じです!」

「達也さん、好きです」

「好きなです、付き合ってください!」

「そばに居てもいいですか?」

「「困った子だな」って言ってください」

「名前は呟くように言ってください」

「親密な距離なんですけど、ちょっと離れている感じです」

「首をかしげない。まっすぐこっちを見る」

「髪をかき上げない!」

「好きです!」

「好きなんです、達也さん」

「ちゃんと目をみる。首から下は見ないんです!」

「テンションを上げない感じで」

「テンションはフラットです。上りもしないし下がりもしません!」

「「愛しているよ、ほのか」って言ってください!」

「恥ずかしがらない!」

「もう一回!」

「もう一回!」

「ほら、口元が笑ってます。もう少しクールに」

「棒立ちじゃなくて、やや屈みこむように」

「顔は近づけるけど、近づけ過ぎない」

「「ありがとう、ほのか」って言ってください」

「「達也さん好きよ」というので「俺もだよ」で返してください」

「「ほのかは出来る子だよ」って」

「はぁはぁ、一度、一度バレンタインに戻ります。取り乱しました」

「チョコレートです!受け取ってください」

「達也さん、どうぞ!」

「バレンタインですので、チョコレートです」

「一緒にチョコレート食べませんか?」

 

 

長い。2時間近く司波達也になった気がする。疲れた・・・。

新兵訓練でもこれほど疲労を感じたことは無いぞ・・・。

女子の恋にかける熱意は恐ろしい。

 

「光井さんは、達也君のどこに惹かれたの?」

少し休ませてくれ、そんな気持ちで質問を切り出した。

いきなりの、それも想定外の頼みに思考が空白になったので彼女の真意を知るためでもあるが。

「私もともと、人に頼りすぎるというか、依存しやすいというか」

彼女は少しもじもじしている。馴れ初めというわけじゃないが、自分の気持ちを思い返すのは少し恥ずかしい。

 

「去年の4月に初めて会ったんですけどしっかり自分の芯を持っていて、憧れるというか・・・」

少しだけ頬に赤みを帯びる。憧憬とも恋が混じりあっているんだろう。

「その、私もこの人の隣にいたいというか」

光井ほのかは下を向く。ネガティブな気持ちになると下を向くようだ。

「・・・でも私あんまり優秀じゃないし、そんなに役に立たないし・・・」

こんなに健気な娘にこう言わせる司波達也は最低だな。

この娘は近所に住んでいた子犬にそっくりだ。

 

エレメンツの家系にいる光井ほのかは相手に依存しやすい。

忠誠心や従属性が高いというような言い方をされるが、単に依存心が表に出やすいだけだ。

そんな奴は世の中にごまんといる。どうせ北山雫あたりが、「しっかりしろ」と吹き込んだのだろう。

 

光井ほのかはそんな依存性の高い自分に多少なりのコンプレックスがあるのだろう。

司波深雪と自分を比較した際に際立つ自立性の弱さ。

だがこの娘は知らない。司波深雪が近親相姦というタブーでさえ乗り越えかねない愛を持つことを。

 

俺は司波達也が嫌いだが、あいつにアドバイスするなら光井ほのかの方が「魔法師=兵器」の思考から抜け出す手を差し伸べてくれるだろう。

司波深雪は「魔法師兵器論」の深みに一緒にはまるだけだ。「悲劇の兄妹」という運命共同体でいられる喜びに囚われ沈んでいくだろう。

 

光井ほのかはきっと司波達也の回りの面々で一番「普通の精神」の持ち主なのだろう。

精神的な弱点と、精神的な強み。普通の少女だ。

 

「優秀なことが恋人の条件じゃないよ」

彼女は俺の言葉で顔を上げこちらを見てくる。

俺は柄にもない恋愛アドバイスで困ったような、そのなんだ、年齢相応の笑みを浮かべているはずだ。

「恋愛で大事なのは好きかどうかだけで、能力なんて別だよ」

「でも」

「大丈夫。達也君は能力の有無で恋人を選ぶタイプなの?」

「・・・・」

顔を赤らめてもう一度下を向く光井ほのか。

俺の言葉で司波達也と恋人になった自分を想像したのだろう。

 

「変な言い方だけど、達也君を信じてアタックしてみなよ、ね」

光井ほのかに向かって微笑む。

人生初の恋愛相談が原作キャラへとは。

 

俺は光井ほのかの恋愛を応援したいのと、司波達也へ勝手な憎しみを持つアンビバレンツな気持ちになった。

 

 


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