うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

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一校の野外訓練場

一校の野外訓練場を望むことが出来る国道には車が6台止まっている。八王子の郊外と呼べるこの場所では車が連なって止まっても人目に付くことは無い。人いないしね。

だからこそ、魔法師卵の訓練場があるのだ。普通に見たら魔法師の野外訓練なんて爆発事件が起きているようなもんだからね。

 

夜の明かりは道路わきの街灯くらいで、曇り空で星も月も見えない。

車から数人の人影が下りる。それが6台分で20人以上の人影だ。

全員が黒い目出し帽に軍用の軽装プロテクターを装備している。

 

小声とハンドサインの指示で車から武装を取り出すと各自装備していく。

腰には消音器付きの拳銃。そして長めのナイフ。ナイフの方が本命だ。

ナイフというより肉厚の小太刀と言った方がいい。

打刀より一回り小さいが、集団戦の時は小振りの方が誤って友軍を傷つけないのでおススメだ。

 

目元に装備したスポーツグラスは、いくつか視覚補助機能が付与されており暗い森の中でも十分に視界を確保できる。実は民間でも同じものが買えたりするのだが、これが結構いい値段だ。サラリーマンの月のお小遣いなど吹っ飛ぶ。ミリタリーマニア垂涎のスポーツグラスだ。

 

問題はどうやってこの怪しい集団を止めるかだ。

国防軍陸軍第一師団遊撃歩兵小隊。れっきとした陸軍のお仲間だ。

第一師団の中で剣の取り扱いに熟達した魔法師たち。「剣術」の腕だけ比較しても桐原・壬生よりも上だろう。

九島の爺様からの圧力で、今晩の一校野外訓練場に乱入しパラサイト奪取を狙っている。

旧第九研究所は古式の近代化を研究していたから、パラサイトを使役する方法も承知済みなんだろう。

こういう時既知未来知識持ちが仲間にいると他勢力の動向推察が楽で助かる。

 

今夜の情報の漏れどころは・・・俺の予想だと四葉真夜と黒羽たちだ。

レイモンド・S・クラークの情報を横からつまみ食いできるのは、同じ情報検索システムを使う四葉真夜の可能性が高い。

四葉の熟女が黒羽に指示を出す、黒羽の動きを察した九島が歩兵小隊を動かす。

黒羽の足跡を八王子辺りで見失えば、そりゃ一校を怪しむだろう。八王子における魔法師の最大拠点。

「パラサイト」「黒羽」「魔法師」の三つの単語が揃えば、場所の推察は容易だ。

 

どんな状況であっても国防の仲間だ。流石に殺すとか重傷を負わすのは申し訳ない。

閃光手りゅう弾投げ込んでもいいけど、あのスポーツグラスの機能だと閃光手りゅう弾によって、視力低下の後遺症が残る可能性がある。投げ込むのもためらわれる。

 

正面から出てって説得かな~。「ジジイの言うことより、孫娘のお願いきこうぜ!」とか。

説得できそうにないな~。

 

俺は、隠れていた訓練場敷地の木の影から国道への斜面を登り、集団の近くに出る。

「すいません~、第一高校前駅ってどっちですか?」

一校の制服に、口元だけはハンカチで隠す。両手には木の棒が一本ずつ。変態だな、俺。

そんな奴が駅はどこかと、戦闘服の集団に声を掛けるのだ。変態だ。

 

歩兵小隊は俺の姿を認識し、小太刀を抜き戦闘態勢になる。陣形も組み本気だ。

殺すわけにもいかないし、相抜けするほど手加減もできない。相手は魔法に熟達した剣士集団だ。

「我こそは!九島の分家藤林の次女の彼氏であるぞ!」とか言っても威圧効果ないだろうな。

 

さて、歩兵小隊には悪いが実戦で振るわれる達人のカリスティックの餌食になってもらおう。

「悪いんだけどさ、気絶してくんない?」

全員に聞こえるように言った。集団の殺気が一段高まった。

 

 

「ここは引いてよ」

雪光の声が暗い森の中で聞こえる。

言われているのはゴスロリ?風の少女が一人。その護衛なのか黒ずくめが7人。

「そう言われましても、御当主様の命でもありますので」

言葉は濁しがちだが、声ははっきりと拒否している。

 

何とか歩兵小隊を黙らせて、訓練場の敷地内に戻ると雪光が四葉の工作員の足止めをしていた。

こっちは体ぼろぼろだ。防刃性のある薄いアンダースーツを制服の下に来ていなければ何か所か切られていた。

躊躇なく戦えれば無傷だったけど、「歩兵小隊を必要以上に傷つけずかつ、トラウマを与えないようにする」というのは大変だ。

 

「命令って言っても光夜兄さんが介入しているから、そっちの思い通りにならないし怒らせると面倒だよ」

「それは光夜さんが当主であればの話です。未来の分家が当主様のご意向に逆らうことなど許されません」

「そうはいっても、四葉でパラサイトなんてどうにかできるの?僕、手を貸さないからね」

「当主様のご命令でも?」

「僕はそんな命令知らない」

「こちらも分家の方が敵方にいるからと言って帰る訳にはいきません」

「実力行使するの?勝てると」

「・・・」

実力的には雪光の方が上か。たしか黒羽亜夜子だっけか。潜入能力は高いとか光夜は言ってたけど。

 

「こっちは終わったぞ」

そう言って俺は二人の会話に横から口を挟む。

黒羽全員の眼が俺に向く。集団のすぐ後ろ。手を伸ばせば集団最後尾に手が届く距離だ。

「で、やり合うなら加勢するけど。そっちの子は俺が誰だかわかってる?」

「関・・・重蔵」

父親から相当吹き込まれたのだろう。俺を見る目が酷い。業界的にはご褒美です!とか言えないレベルで侮蔑の視線だ。

銭形のとっつぁんのコスプレしている奴に何を吹き込まれたのか。

「民間組織は下がってなさい」

諭すように言ったが余計に視線が厳しくなった。

 

パラサイトと接触したらすぐにカナデが公安に連絡。20分もせずに魔犯対班の凄腕が来るだろう。司波達也一党(10人超えてれば一党でいいだろ。秘密結社だ。「秘密結社お兄様」だ)の行動は民間人の暴走だが、現役の軍人(俺)の介入があるし、場合によってはいくらでも言い訳は効く。

 

前回の青山霊園での一件から学校での夜間試験を友達合わせてやっていたらパラサイトが来て、吉田一門の天才児がいるので撃退できた、お終い!という理屈付けも出来るし、内々に風間さんと佐伯さんのOKも取っている。

「なんというか、各諜報関係に恩を売っておいてよかったよ」と風間さんが頭を抱えていた。

パラサイトという処理の見通しがつかない問題を解決できる可能性が今晩なのだ。

ちょっとの無茶もしまっせ。上手くいけばパラサイドールの絡む九校戦での軍内政治闘争も発生しない。

もっと言えば九島をはじめとした十師族内の暗闘も派手にせずに済むかもしれない。

雪光が心配している京都での起きるであろう事件も回避し、国内外でのトラブルも数年は落ち着いてもらいたい。

 

「一旦引きます」

口惜しそうに黒羽のゴスロリちゃんが姿を消すと、間を置かず戦闘音がしてくる。

「行こう」

雪光と戦闘音のする方向へ走ると、そこでは司波達也を中心に戦闘が繰り広げられていた。

 

 

深雪副会長と光井さん&ピクシーを円陣の中心に置き、その周りを司波達也、光夜、エリカ、レオが固める。レオも今回は長物「小通連」を持ち込み、直接パラサイトに触れないよう距離を取りながら戦っている。雪光も想子剣を展開し、パラサイトとの戦闘に踊り込んでいく。

 

「くっそ!」

その瞬間だ。先ほど離れたはずの黒羽の気配が近づいてくる。

司波達也と光夜も気配の方を一瞬向く。

「俺が抑える!」

俺は二人にわかるよう声を挙げ、気配の来る方向へ走る。

一度引くふりをして、俺と雪光がパラサイトと接敵するのを待っていたか。

 

その時だ。屋上で公安や周辺の電子監視をコントロールしているカナデからイヤホンスピーカーに連絡が入る。

「八王子の道路管制が混乱中。公安部隊の到着は未定。あと防諜二課がUSNAのエージェントを見失ったわ」

タツヤ・クドウ・シールズの介入が決定した。

 

この状況を終息させるのはこの場にいる一校生に委ねられた。


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