うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
バレンタインでは雪光が恋に玉砕し、3月の下旬にはタツヤ・クドウ・シールズはUSNAに帰って行った。
パラサイトとの戦闘後からカナデがべったりだ。登下校以外にも、かつてはセーフハウスで今は宿舎替わりになったマンションに入り浸っている。
何度か身体を交わしたがその度に少し泣きそうになっている。
「心配性だな・・・」
「・・・うるさい」
彼女は俺が死ぬのが怖いのだろう。抱きしめながら頭を撫でてやる。
「そろそろベットから出ないと遅刻するぞ」
入学式の前日から彼氏の家に泊まり込み。爺様知ったら血管切れるんじゃない?
俺は先にベットから出て、床に落ちていたブラジャーをカナデに渡した。
◆
俺は、更なるチートを手に入れた。
はっきり言って人の区分から外れた気分だ。
少し前の休日に夜遅く、九重寺で少しその能力を使ってみた。
「九重さん、これで庭先貸してくれませんか」
「これは?」
「某所で作られた杜氏が自分で飲む用に選別した、市場には絶対に出回らない般若湯です」
「好きなだけ使ってくれていいよ」
この調子だから九重さんは好きだね。
一時間もすると俺は自分の能力をちゃんと理解した。
九重さんは弟子たちに「適当に」修行するよう言うと俺を堂内に呼んだ。
「悪いが般若湯が無くなるまで付き合ってもらうよ。自棄般若湯とは初めてだ」
あの九重八雲をしてこんなことは初めてなようだ。そりゃそうだ。
あんなものを目の当りにしたら、泰然自若とした九重八雲も般若湯を飲むだろう。
魔法が神話とおとぎ話を現実にしたように、俺は「武術が見る夢」を現実にした。
◆
「カナデは今日もアラタさんと一緒に登校なのね」
深雪副会長が「恋人同士お熱いわね」という茶化すようなニュアンスで言ったのだろう。
「アラタの方が近いから泊ったの」
ああああ、そうサラっとばらすな!
ほら、深雪副会長が「え、泊った」と言ってフリーズしたぞ。
生徒会役員は早めの登校なので、周りには五十里先輩と千代田先輩と光夜と中条会長と雪光と司波達也がいる。
千代田先輩は「恋人同士なら当然よね」という視線を俺やカナデではなく五十里先輩に向けた。
お前らもか。
中条会長も驚いている。光夜と司波達也に表情の変化はない。雪光は少し顔を赤くしている。
違うんです!いやらしいことはしてるんですが、同意です!同意!コスプレ衣装を持ち込んだのはカナデです!
俺の無言の言い訳を理解したのは誰かいるんだろうか。
深雪副会長でさえ、カナデと俺の顔を交互に見ては赤い顔をさらに赤くしている。
「ほら、深雪固まらないの。これから入学式なんだから」
一人この固まった空気の中、深雪副会長の背中に回り、校舎の方へ押すカナデ。
「まあ恋人同士だとね!」
免罪符でも手に入れたかのように千代田先輩は五十里先輩の手を握り大股で歩き出す。
すげ~デレデレな顔してるよ。
う~ん、カナデに「アラタはあたしのモノ」宣言をされた気がするぞ。
まあ、いいか。
◆
俺は、あの野外訓練場の晩に手に入れた「タツヤ・クドウ・シールズ」の血液の付いた服の切れ端を持っている。
魔法師のDNA情報は高度な機密だ。おいそれと分析していいモノじゃない。
「タツヤ・クドウ・シールズ」の血が付いた服の大部分は風間さんには提出済みだが、俺が別個に保有していることは伝えていない。
疑念があった。
あの時、机の上から落ちたファイルを片付けるふりをして見た個人情報。
どうやらこの世界に転生した人間の情報のようだった。
一瞬で判断できたのは、俺の保有チートと、「タツヤ・クドウ・シールズ」の身上書?だった。
あいつの身上書で読めたのは「特殊設定」の欄だけ。
『悲喜劇の子:プラス8修正、担当官ではなく監督者の任意設定』
それが何を意味するのか、よくわからない。
だが「司波達也とよく似た顔」「魔法の実力」そして「悲喜劇」
俺の中のオタク知識とマインドをフル回転させ、「悲喜劇」に似合ったシチュエーションを考えた。
この世界で生きるタツヤ・クドウ・シールズのどこが悲喜劇なのか?
あいつは「司波達也」に容姿がそっくりで、USNAの軍人でスターズで、それも指揮官格で凄腕魔法師で、シールズ家の一員。う~ん、別に悲喜劇じゃない。
ポイントはきっと司波達也なんだろう。そう直感させるのは容姿の酷似があるからだ。容姿が似ていることが悲喜劇?
俺が知っている司波達也とその周辺の情報は
司波達也は情動が司波深雪にしか向いていない。
司波深雪は達也を愛している。
軍人として大黒竜也特尉として魔装大隊に所属している。
九重八雲の弟子。
分解と再生が使える。精霊の眼を持つ。あとは?
数年前の沖縄で風間さんに見いだされた。
司波深夜と死別している。
使用人扱いだった。
護衛の女性を亡くして・・・はいない。当時沖縄に同行していた雪光の活躍もあり死亡はしていないらしい。
あとは?あとは?
じゃあ四葉は。司波達也の人生を狂わし、日本いや世界の魔法師集団でも、秘密に彩られた一族。
四葉は人体実験で達也の情動の一部を消した。
四葉は大漢を消し、世界から恐れられている。
現当主の四葉真夜は少女時代に崑崙方院に捕まりレイプされて、その影響で子供が産めない
四葉家は軍主導の研究所時代の前から青波とかいう人物から援助を受けていた。
それとタツヤ・クドウ・シールズは何か関係あるのか?
「悲喜劇」悲喜劇ってなんだ?時には悲劇、時には喜劇か。
この場合の悲劇とは?司波達也の情動か?兄妹の恋愛か?
四葉真夜の少女時代のことか?不可思議な人物による四葉への影響か?
じゃあ、何が喜劇だ?
いや見ようによっては喜劇だが、悲劇でもある、ということなのか。
この世界を考えた時、「達也と深雪の物語」として世界を捉えると悲劇の始点は?
どう考えても大漢の崩壊とその原因だ。
これが無ければ、世界はもう少し平和だったかもしれない。
少なくとも四葉家は平和だったはずだ。
この時の四葉の最大の悲劇は「四葉真夜は12歳の時に崑崙方院に捕まり強姦され子供が産めなくなった」である。
なぜ、大漢は四葉真夜を攫ったのか。優秀な魔法師の遺伝子を欲していたのか。
12歳の少女をレイプする意味は?単なる性的指向?
子供が産めない・・・、彼女を妊娠させるつもりだったのか?
だが、それならレイプしなくとも卵子を抽出して対外受精で成人女性を母体にして出産・・・。
未成熟な肉体をレイプした場合、生殖機能を失うことがあるだろう。
有能な遺伝子を奪取するなら、血液からクローンを作るなり、先ほどの卵子の抽出なりを・・・
いや、違う。逆だ。卵子の抽出後にレイプしたんだ。
当時12歳の少女から排卵された卵子を抽出。これで有能な魔法師の生成に必要な情報は手に入れた。
じゃあ、その卵子は?直ぐに四葉の反撃により大漢は消滅した。
崑崙方院は卵子をどうした?
この時、俺は過程を想像せずに結論に達した。オタクとしてのマインドが悲劇なようで喜劇、喜劇なようで悲劇を想像したのだ。
知らぬ間に敵対関係になる家族。妙な連帯と反発。神と読者だけが知る事実。
当事者は悲劇だが、物語を読む読者にしてみればエキサイティングな喜劇なのかもしれない。ハッピーエンドが約束されているなら。
始業式も終わり、七草の双子が生徒会室に出入りするようになるらしい。
周りには光夜、雪光、深雪、司波達也と四葉の家系が何人もいる。
2095年の技術なら、血の付いた布でDNA鑑定など容易だ。
調べる準備は出来た。あとは調査のタイミングだ。
俺はタツヤ・クドウ・シールズが四葉真夜と七草弘一の息子であると漠然と想像していた。
一応、来訪者編本編は終わり。余話をいくつかやって、2年生編のスタート。