うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
「ちょっといいかしら」
昼休みに七宝琢磨は食堂で一人食事をしていた。
ややクラスで浮いていた。この数日の七草姉妹との衝突や、生徒会との距離感から七宝派閥形成の足がかりが掴めずにいた。
そう悩んでいた矢先、向かいの席に美少女が座ってくる。
「どうぞ」
七宝琢磨は一瞬、驚いた。
一校女子は可愛い女子ばかりだが、目の前の女子生徒はその中でも相当目を引く美しさだ。
黒髪に黒い瞳。髪は肩にかかる位。綺麗な唇に目が行く。
座り姿も色っぽい。真っすぐ座らず少しだけ斜めに座る。七宝の視界の端に女子の足が見える。
スラっと長い綺麗な足が組まれている。
「七宝琢磨君でしょ。藤林奏。2年よ」
目の前の女子生徒が自己紹介する。
(九島の。この人が)
目の前の女子生徒の優しい笑みに、七宝は内心でドギマギしている。自分の表情にこの驚きが出ていないか心配になる。
「最近、君いろいろとやってるらしいわね」
彼女の口元に視線。白い歯が見えた。
七宝琢磨は以前から女優の小和村 真紀と交流があり、大人の色気というものに接してきたので女性への免疫に自信があったが、どうも目の前の女生徒にはドキドキする。
(この距離で薄っすらと感じられる甘い香りはなんだ!)
「意外と無口なのね」
「いや、そうでもない」
小和村 真紀と会話をするとお互いの主導権の取り合いで七宝も緊張する場面も多いが、藤林奏と向かい合うのは居心地がいい。
無口と言われたのは、藤林奏の口元に見とれていたとは言えない。
「その、藤林先輩が俺に、その、何の用だ」
「ん、少し興味があって。意外と背が高いのね。七宝君。あたしは『カナデ先輩』か『カナデさん』で呼んで。あたしも琢磨君で呼ぶから」
何とも甘い口調だ。女性に下の名前で呼ぶことを求められた。命令のようでお願いのようで、なんともくすぐったい気持ちになる。
小和村 真紀も名前で呼んでいるがこんなに好意を感じるような口調ではなかったことを七宝は覚えている。
(俺は、別に恋に落ちたわけじゃない!)
そう自分に言い聞かせるが、この鼓動の速さは恋を指し示している。
「わかった。カナデ先輩は俺に何か聞きたいのか?食事中なんだ、手短に頼む」
自分の動揺を隠すため、殊更冷静に突き放すように七宝は返答する。
カナデはテーブルに肘をつき、少し顔を七宝に近づける。
「琢磨君は、一校でどんなお勉強をするつもりなの?」
気持ち、ほんの少し「お勉強」が強調されている。
七宝はカナデの視線が自分を覗き込んでいるように感じた。
彼女の唇に視線が行く。
(なんなんだ!この人は、俺に惚れているのか?!どどどどどどどどど童貞を狙っているのか!?)
カナデの「お勉強」の言い方で、七宝琢磨はあらぬ妄想に駆り立てられた。
放課後の教室で藤林奏が隣りに座り「琢磨君も上級生とお勉強する?」と胸を押し付けてくるシチュエーションだ。
「いや」
声が裏返った。七宝は顔を赤くする。
「大丈夫よ。落ち着いて」
優しく微笑んでくる。まるで生徒の失敗を見守る美人教師だ。
七宝は傍らのコップの水を飲む。
「俺はこの一校で自他ともに認める魔法師になるつもりだ。カナデ」
「カナデさん」
「・・・つもりです。カナデさん」
「よくできました」
もう一度微笑んでくれた。それも七宝が調子に乗ったのをいさめた上で。
(なんで俺は生姜焼き定食なんて食べてるんだ!)
七宝はなぜか”カナデとキスが出来る”前提で自分の昼食の選択を悔やんだ。
「そのカナデさんは、なぜ俺に」
「そうね、ちょっと確認しておきたかったの。本当に派閥を作りたいのか」
優しい笑みではない。妖しい笑みだ。
まるで誘っている様に見えたのは七宝琢磨が自意識過剰だからだろうか。
「カナデさんは派閥のトップになりたいのか?」
疑問を口にしたが、どちらかというと胸の鼓動を収めるため何か喋りたかっただけだ。
「派閥なんてこの学校じゃ意味無いわよ。十師族とか関係ない凄い人たちがゴロゴロいるもの」
カナデの言葉に七宝もうなずく。
確かに十師族は目立つが、二年生の上位陣には司波三兄弟や光井ほのか、北山雫など非十師族系が名前を連ねる。
(十師族以外の実力者か。取り込めるのか?)
ふと意識が派閥づくりに向く。
「ねえ、模擬戦してみる気ない?」
突然のカナデの申し出に七宝琢磨は頷くべきか悩んだ。
◆
「前の席いいか?」
昼休みに緋村武心は食堂で一人食事していた。
まだ学校自体に馴染み切れていないし、その派手な外見から周りに人が近寄ってこない。
伸びた赤毛をポニーテールにして、うどんをすする優男。
食事時でもそれなりにイケメンに見えるのは顔の作りが良いからだ。
武心の前に座ったのは自分より少し小柄な男子だ。
威圧感のない平々凡々とした顔つき。制服の上からでもわかる体つきは運動系の部活に所属しているのだろうと武心は判断した。
「どうぞ」
「二年、生徒会の相馬だ」
自己紹介をした。
武心は心当たりがあった。最近学内の実力者、手短に武道系部活の人間に粉をかけている。
将来は国防軍の一線に立つ可能性もある「魔法と武道の名人候補」は武心としても一度は手合わせしておきたかった。
剣術部では桐原、剣道部では壬生、拳法部もなかなか活きがいい。マーシャル・マジック・アーツ部は言うことがない。沢木と十三束など是非とも対戦したい。
(立ち合いを希望する方法が少し乱暴すぎたかな?)
「緋村君は入学前から武道をやっていたのかい?」
「ん」
相馬の質問にまずはうどんをすすり込む。
「うちが古い家でね。家伝の武術を仕込まれたよ」
稽古の記憶はあまり楽しくなかった。単純な筋トレや地味な歩法の稽古。木刀を振り回しての型稽古だけは楽しかった記憶が武心にはある。
「それで武道系部活の実力者と立ち会いたいと」
「そうそう」
武心は目の前の上級生にフランクに接した。
別に舐めているわけではない。何とも言えぬ相馬新の存在の軽さがそうさせている。しゃべりやすいのだ。
「その武術が魔法絡みでね。一校に折角入ったんだ。魔法と武術で腕のある人とやってみたいじゃん」
「そっか~」
相馬は苦笑いしつつ同意のようだ。
「緋村君は誰とやってみたい?」
「う~ん、沢木先輩、桐原先輩、壬生先輩、あと司波雪光先輩もいいな。司波達也先輩も捨てがたい。服部会頭も相当やりそうだし。四葉光夜!四葉先輩とだったら死ぬほど楽しめそう!あと、千葉家の先輩もいるでしょ。ちょっと興味あるな~」
うどんをすするのを忘れ、校内の最強議論常連の名前がポンポン出てくる。
武心としても早く実力者とやり合ってみたい。自分の短い半生を注ぎ込んで修得した武術の実力がどんなものか知りたいのだ。
「それとも先輩、相手してくれるの?」
武心は殺気を相馬新にぶつけた。大して強くはない。遊び半分だ。
一瞬、殺気を受けて身を固める相馬。
(殺気を感知はしたけど、反応が悪いな)
武心の予想より反応が悪い。相馬はあまり実力者ではないのか。
「ま、まあ元気があってよろしい」
緊張した声を出し、相馬は椅子を引き距離を取る。殺気におびえた様子だ。
「だがな、生徒会としてはあまり道場破り的な行動は控えてもらいたい」
「控えてくれって、個人間の試合ですよ。それを禁止する権限が生徒会にはあるんすか?」
(なんか大事になっているのか?)
武心の考えだと、武道経験者のじゃれ合いだ。それに生徒会が首を突っ込んでくるのお門違いだ。
「君の行動は下手をすると部活間の遺恨になる」
「いえ、ちゃんと個人としての立ち合いであることを言ってますよ」
そう、武心は口頭で言っているのだ。だが、それは宣誓ではなく「一つ、個人ということで」といった会話の中に混ぜ込まれている。周囲に居た人間は聞き漏らす者の方が多いし、何より個人の立ち合いと認識しているのは武心一人だ。
天然なのだ。それも悪い方に。身勝手、自己中と言われても仕方がないし、事実そうなっている。
「じゃあ、なんだ。実力者と立ち会い出来れば満足してくれる?」
相馬が切り出した提案に緋村武心は心躍った。