うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
千代田さんの「開始!」の声がスピーカーから響く。
緋村は左足を前にし、下段の構えだ。すぐにでも飛び込んできそうだ。
俺は右手に木刀を持ち、力を抜き棒立ちだ。
剣の達人がよくやる「無形の位」とか「自然体」とかいう力を抜いて、隙無く立っているだけだ。
緋村は低く構えたまま動かない。
「どうした、緋村君。その構えはこけおどしかい?」
数m先の緋村は汗をかき始めている。今までどんな相手と戦ってきたか知らんが、勝負事で自然体で正対する奴もいなかっただろうに。俺の隙の無さに実力差を感じているのかな。
「へいへい、緋村ビビってる~」
挑発してみた。緋村は眼の中に強い感情をため込むが、攻めてくる様子はない。
一歩踏み出す。緋村が二歩下がる。もう一歩。今度は少しだけ殺気。緋村が三歩下がる。
左袈裟と右袈裟を同時に。右の切上げと左胴を間を置かず。
今度は突きを眉間、ノド、鳩尾、臍下と一瞬で。
連続の攻撃を緋村は時に剣で受け、身を躱し、そして直撃する。
俺は自然体で歩くだけだ。木刀など一回も振っていない。手首のCADも触れていない。魔法発動時の魔法光もない。
訓練室の隅まで避難し、ノドと鳩尾への突きをまともに喰らった緋村は大きくせき込んでいる。
両袈裟を上手くいなしたが、左胴はまともに喰らい、眉間と臍下は何とか避けた。だがノドと鳩尾はいかん。呼吸が一気にダメになる。
視線や体の動きで意識を誘導させて「やられた気になる」というものがある。
感受性が強かったり、型稽古中心の武道だと「やられた!」という瞬間に体が実際のダメージを受けるというものだ。
思い込みによるダメージだ。
だが俺の行ったのは少し違う。本当のダメージだ。
つまりあれだ、なんだ、「気」を叩きつけたのだ。「気」だよ、「気」。魔法全盛時代に「気」だよ!
うわ~恥ずかしい。「気」、亀仙流だ、舞空術だ、ぐわ~、なんかわからんが恥ずかしい。
かめはめ波、波動拳、虎煌拳、まあ何でもいいや。
俺は気を使うことが出来る。なんというか魔法と武術の中間の感じだ。
今回、緋村にやったのは気を「棒」のイメージにして叩きつけた。
緋村は見えない棒状の気を「察知」し何とか全撃被弾は免れた。
この「気」が魔法とどう関係しているのかはまだ不明だ。
軍関係者にも説明しづらい。
「おっす、オラ重蔵、てぇ~へんだ!オラかめはめ波が出来るようになっちまった!」とか真田君に言っても理解してくれるだろうか。
なので能力の把握実験は九重寺で、現物寄進をすることで時折やらせてもらっている。
隣室の観客たちにはどう見えているのか。
俺は歩いているだけで、緋村がいきなり痛みを感じ、木刀を振り回し部屋の隅へ逃げ込む。
「どうする?続けるか。一度目の敗北で生き残るのは武士の情けだ」
俺は負けを認めるよう言う。別に武士とかどうでもいいが負けることを促した。
緋村は無理に呼吸を整えた。腹筋を使い肺の空気を一気に出して、無理やり呼吸を正常状態にする。
空手の息吹にも見られる呼吸法だ。
「冗談。先輩あんたホントは強いんだ」
痛みによる脂汗を顔中に出し、強がってくる。
「二度目の敗北で生き残るのは武士の恥だ。一度目は負けてもいいんだぞ」
優しく諭すが聞くつもりは無いようだ。緋村は手首のCADを操作する。
!!!
床を激しく蹴る音。緋村はまるで加速したゴム毬のように室内の壁、天井、床を蹴り加速していく。
どうやら加速術式と接触面の衝撃反射を利用した室内の高速戦闘のようだ。
通常の移動魔法、自己加速、そして接地面への衝撃を反射させる魔法。
少なくとも三つをこの速さの中で平行して使っている。流石だ。最高速度では雪光に劣るが、空間を縦横無尽に動くので攻撃される範囲が特定できない。まさに「飛天」だ。
「それでいいな」
俺はその場に胡坐で座る。
座禅のように足先を膝の上に乗せるような座り方ではない。普通に胡坐だ。座りやすくて立ちづらい。そして背が少し丸まる。
武道的にはダメな座り方だ。
わざと隙を作った。
◆
速度というのは武道における大事なファクターだ。速度に関する武道の構成要素は多岐にわたる。歩法や攻撃手段、「速くない速い攻撃」、心理的な攻防による速度etc.。
最強議論で雪光が上がるのも納得だ。速いは先制が取れる。速いと攻撃が当たらない。速いと攻撃が当てやすい。
だから速度は重要なのだ。
だが、雪光が素手であれば実は速度は怖くない。
それがこれからやる緋村対策でもある。
俺は目をつぶる。周辺では殺気の塊となった緋村がぶんぶん飛んでいる。
床、壁、天井、壁、床、壁、天井
ちょっとずつ塊から感じる殺気の距離が縮まる。
世界は殺気と闘気などの「意気」が存在する。俺はそれを感じるのだ。
武道の達人もやるアレだ。俺はもう少し細かく感じ取れるがね。
俺の正面から加速した先の塊、先端に一番殺気が高い。切っ先が俺に触れた瞬間、俺も一気に動く。
上半身をひねり、剣を持つ緋村の手首をつかむ。そしてそのまま一本背負い。
手首を離さず、俺も前転をし、緋村の腹の上に座った姿勢で着地する。
マウントポジションだ。
「どうだい?」
緋村の戦意を確認したが俺の下で気絶をしている。あの一本背負いが効いたようだ。
意のある速さは感じられる。そして一瞬だ。一瞬だけ同じ速さで動けば相手を制する。
常に100の速さを出す必要はない。100の速さを感じ、その時が来たら101の速さを出せば勝てるのだ。
「終わったよ」
隣室に顔を向けたが、皆ボー然としている。
俺歩く、緋村が退く、緋村跳ね回る、俺座る、緋村俺に向かって飛び込む、決着。
動作をしたのはほとんど緋村だ。逃げ回る、飛び込む。
俺は歩いて、一瞬だけ早く動いて、緋村の上で胡坐だ。
だがこれは全力じゃない。
緋村に見せたのは一端でしかない。きっと全力を出すのはもっと先だ。
考えたら、このくらいならパラサイト事件前でも出来たかも。
修行しろよ、緋村!