うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
その日は珍しいメンバーで放課後喫茶店に来ていた。
千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、森崎駿、光井ほのか、北山雫、須田渉。
部活や委員会も終わり、各自お茶しに行きつけの喫茶店に寄ったらちょうどいたのだ。
普段から昼食を共にすることもある面々なので、同じテーブルについてお喋りを始めた。
二科のカリキュラムが少し変わって、監督役として実技授業に講師が時折つくこと。
山岳部に司波家の親戚の女の子がマネージャーで入ったこと。
七宝があの件以来、がむしゃらに勉学も部活も邁進していること。まるで何かを忘れようとするように。
緋村が剣術部の稽古にえらく熱心なこと。まるで何かを忘れようとするように。
三年の女子が恋人の居ない雪光を虎視眈々と狙っていること。須田が今度雪光を中心にグループデートを企画している。
もうすぐ試験だが、司波達也に特命赤点先生を頼むかどうか。今回は須田も助成を願いたいこと。
そんな中で、アラタの実力の話になった。勉学ではない。実戦での話だ。
「でも強そうには見えないよ」
少し眠たげな声で言うのは北山雫だ。
彼女は伝聞では実力者であることを聞いているが実際は見ていないので少し懐疑的だ。
昨年の九校戦でのスピードシューティング新人女子優勝者としても、2年生の実技成績上位者としての自負もあり
あののほほんとした顔の実力を怪しんでいた。日頃の実技や部活を見ても、特筆するところが無いのだ。
「あたしじゃ勝てない」
「俺も無理だな」
エリカとレオが雫の疑問に答える。
「でもそれは格闘戦での話だよね」
雫は二人の証言が限定的だと指摘した。
エリカもレオも一流の魔法師と言ってもいいだろう。格闘戦に限っては。
だが二人の証言は格闘戦ではない実力を計る指標にはならない。
「授業の実技や基本的な的撃ち競技なら、きっと一科生なら平均ぐらいだと思うよ」
同じクラスの幹比古が、アラタの実技を評価した。
「じゃあ、なんであそこまで評価されているの?」
雫は首を傾げた。評価しているのは格闘系部活のエース格や、ジェネラルと言われる服部会頭などだ。
一科でも実力者ばかりが「相馬新は強い」と太鼓判を押す。格闘戦は強いのはわかるが、あの服部会頭が評価するのだから他の面も評価すべき点があるのだと、雫は考えていた。
「北山さんは十文字先輩との模擬戦は見てないよね」
「うん。その時は見てないね」
幹比古の言葉にうなずく雫。あの模擬戦を見ていた人間で、この場にいるのはエリカ、レオだけだ。
「ん~、アラタは凄いよ。速度以上に早く感じるね」
「わかる。あいつ、魔法を使用する際の位置取りや身体の使い方が抜群に上手い」
須田の発言に同意するモーリー。
「身体の使い方?」
雫はもう一度首をかしげる。CAD操作にかけては学内でも上位につけ、何よりもCAD操作で名を上げた一族のモーリーが説明を始める。
「基本的な話だけどブレスレット型CADって実際は目標に対して、ブレスレットをつけた腕を向ける必要はないんだ」
魔法を使用する際の照準というのは、基本目視である。
拳銃型CADはその照準を補助する機能がある。武装一体型CAD、特に白兵戦仕様のモノは照準を必要としない。武器が当たれば魔法発動だからだ。
だがブレスレット型は照準の補助機能が拳銃型より一段下がる。構造上の問題だ。
ブレスレット型CADで魔法を発動する際、掌を相手に向けるのはCADの照準機能を身体動作で補助していると言ってもいい。
「アラタが上手いのはブレスレット型CADやタブレット型CADを使用するときに、視線だけ向けて、腕とか身体は次の行動のために動いている点なんだよ」
「つまりアラタさんは、CADの操作を他の動作を並行して行っているということ?」
ほのかがモーリーの説明の捕捉を求める。
「そう。その通り。あいつは、例えば走りながらとか、障害物を越えたりしながら自然にCADをいじれるんだ。だから魔法発動後に次の行動のための隙というかタメが無い。森崎家の表現で【身体の使い方】って呼んでるけど」
そう言われて雫は相馬新の実力をちょっと理解した。
確かに九校戦でも動きながら魔法を操作する競技は身体動作と魔法の連動を注意される。バトルボードの新人戦選手だったほのかの苦労を見ていればわかる。
動きながら手首のCADを操作するのは慣れが必要だし、運動しながら的確に操作するのは決して簡単なことではない。
CAD操作と身体操作に目をつけるのは流石森崎と雫は見直した。
森崎家はCAD操作の大家であり、雫もCADの新作発表会に行った時に森崎家の人間がメーカーにCADの仕様と操作感について長時間話あっていたのを見たことがある。
「あとあれ。単純な魔法式の構築が上手いよ。術式は複雑にならないよう考えてるし、アラタの作る魔法式はそれこそ単一目的意識が高いっていう感じかな~。誰でも使えるとか、使うときの注意点がはっきりしてる感じ」
須田の発言には全員が驚く。
「っていうことは、俺たち二科生でも使えるってことか?」
「使えると思うよ。というか、複雑な術式にならないようあえて注意している感じかな。あと複雑な術式を解体して、単純な術式に分けて、複数の別個の魔法として運用することもあるし。なんか一つの複雑な術式使うくらいなら魔法式を分割して、複数の簡単な魔法式を段階を踏んで使う感じかな。確実性を持たせる運用が多いと思うよ」
レオの質問に須田が答える。
須田も以前複雑な魔法式を使用する課題で、モノリスコードの仲間に相談した際にアラタから術式の分解運用の考え方と実際の手順を教えてもらったことがあった。
光夜は「そうか」としか言わなかったので須田はそれ以来勉強の相談相手から光夜を外している。
「意外と面倒な魔法運用をしているんですね」
美月の感想に全員がうなずく。
魔法は複雑になったとしても個人の技量でフォローが効く。
魔法をより簡単な術式で確実に運用するのはまるで自分の実力を過小評価しているように見えると雫は感じた。
「あれ、みんなだけ?」
喫茶店に入ってきたカナデはテーブルに固まる面々を見つけた。
椅子を持ってきてテーブルに入り込むカナデに、エリカが声を投げた。
「カナデの彼氏の話。魔法の実力がよくわからないって話してたの」
そのまま、今していた「CAD操作」と「確実性優先の魔法運用」の話を説明した。
「ん~、そうね。なんというか、不測の事態を常に想定している感じかな」
「それは戦闘ということ?」
雫がカナデの意見に補足を求める。
「うん、戦闘もなんだけど戦闘に行き着くまでの状況っていうの?例えば、そうね山岳活動時にロープにぶら下がって心拍数が上昇して緊張状態にある時とかかな。そんな「複雑なことに集中できない」という状況下をたまに想定し実技演習してるみたいよ」
「あんだそりゃ?アラタは山岳救助隊希望なのかよ?」
レオが素っ頓狂な声をあげる。そんな特殊な状況を想定しての実技演習など聞いたことはない。
「たんなる想定例よ。実際はどんな状況を想定してるかは本人しかわからないし」
カナデも確実とは言い難いといった表情をしている。カナデの言葉も推測なのだ。
「なんか軍人さんみたいだよね」
モーリーの説明、須田の感想、カナデの推察を聞いた雫は自分の感想を言葉にした。
「確かにね、軍人の発想に近いかもね」
エリカも雫の言葉に賛同。
ほのかと美月は頭の上に?マークを掲げている。
男子チームはうんうんと頷いている。
「軍人さんって、戦闘に入ると固まらず動き回ったりするの。特に軍人の魔法師さんは足を止めると的になるから常に動き回るんだって。それに戦闘行動時に複雑すぎる魔法式だと発動ミスが怖いから、単純な魔法式で複数段階を踏んで、複雑な魔法式と同じ効果を出す運用もするらしい。それに常に不利な状況を考えての訓練とか、軍人さんの思考だよ」
雫は誰とも目を合わせず、独り言をつぶやくように説明した。まるで名探偵だ。
「おじさんが現役の軍人らしいからそのあたりじゃないかしら」
カナデが雫の思考に応えるが内心は緊張している。
(ちょっとまずい状況かな~)
アラタの魔法師としての実力から、正体にたどり着こうとしている。さすが魔法を専攻する魔法師の卵たちだ。
その日は結局アラタの実力が「目立たないところ」で評価されている、で落ち着いた。
その晩、カナデはアラタに正体を推理する最後のピースを自分が与えたことを謝罪した。
お尻を二度叩かれた。