うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる 作:madamu
酒井大佐の狙いは「大亜連合勢力圏への侵攻」と俺は睨んでいる。
具体的には東南アジア一部地域を実効支配している大亜の前線基地を叩き、東南アジアへ貸を作り日本の存在を際立たせることだと思っている。それを実行するために軍内の伝手や賛同者を募っている、そういった行為を密かにしていると俺は考えていた。
酒井大佐が指揮を執る富士演習場の脇にある富士基地は、演習場脇と言っても九校戦会場から5kmは離れている。
富士基地は首都圏への飛来物迎撃用のミサイルが配備されており、そのミサイルが九校戦会場を狙っている。
会場から出た俺は全速力で基地に向かう。
富士基地は二つの目的がある。一つが首都圏への飛来物を迎撃するミサイルの配備、運用基地。そしてもう一つが富士演習場を利用した訓練施設としての運用。
俺も若いころは結構厳しい訓練をこの富士演習場でやった。
42.195kmを1時間41分で走る俺の速度をもってすれば5kmなどあっという間だ。もしかすると今なら1時間半切るかも。
基地の入り口は兵士が歩哨しており簡単には入れない。基地の塀沿いに走り、適当な所から壁を越えて敷地内に入る。
警備の軍用犬もいるので、すぐに手近な建物に身を寄せる。
情報端末に着信を感じる。ディスプレイには【叔父】の文字。
「今どこにいる」
「富士基地敷地内だ。どうなってるんだ?」
「わからん。酒井大佐には連絡がつかない。基地内の別回線で連絡入れて大佐の所在を確認させている」
「悪いけど、勝手に動かせてもらうよ」
「待てないか」
「異常だ。基地は平静なのに、ミサイルの照準は定まっている。それに基地司令と連絡が取れない。基地内に何かがあった可能性もある」
「テロか」
「または基地内での局地的反乱」
自分の言葉で背筋に汗が流れる。最悪のケースだ。だが、酒井大佐の目的と九校戦へのミサイル照準はどうつながるんだ?
「状況が進んだら報告入れるよ。あと九校戦会場の退避指示タイミングは任せる」
「無理するなよ」
風間さんの言葉を聞いて連絡を終わらせた。話をしながらも俺は建物内に侵入し酒井大佐がいるであろう基地司令室を目指す。
建物内は静かだ。人の気配もある。動いている様子もある。だが、人間特有の喧騒は無い。
軍人も人間だ。冗談も言うし、会話もする。その様子はない。適当な室内を盗み見したがPCに向かう軍人の姿を数名確認しただけだ。
精神干渉魔法?基地全体に広域で?全員の動きを制御している?その可能性もある。
周囲を注意しつつ進む。サイオンの活性状況も注意だ。建物内の数カ所あるIDチェックを誤魔化し抜ける。
5分経つ頃には、富士基地司令室前だ。
過去何度訪れているので建物内の構造を把握しているから時間もかからなかった。
室内からは何も気配がない。
司令室というのは大体が手動ドアだ。機密の話をしていることもあるので自動ドアで勝手に開くのはまずいのだ。
ゆっくりと扉を開け、室内を確認。誰もいない。
基地司令用の大型の机と応接用のソファ。そして「気炎万丈」と書かれた額。
俺は机周りを捜索するが何か異変がある訳ではない。飲みかけのコーヒーに、基地内の警備シフトの変更申請が表示されたモニター。椅子や机の回りに争った形跡はない。
部屋を出て次の目的地へ向かう。基地内にあるミサイルのコントロールルームだ。
建物内の兵士たちの眼を盗み進んでいく。ミサイルの発射シークエンスの機械音はない。
まだ九校戦会場を狙っているが発射はされていない。
今頃、スティープルチェイスで誰かがゴールしただろうか。光夜か、雪光あたりが優勝したか?
俺は情報端末を起動させる。
「酒井大佐とは接触できない。これからミサイルコントロールルームに向かう」
「追加の情報だ。別回線での連絡も途絶えた」
「基地内では作業は普通に行われている。ただ兵士たちの反応は希薄だ。精神干渉の可能性がある」
「九校戦会場の旅団を向かわせる」
「頼む」
基地内の平静さが不気味だ。まるで脊髄反射のように仕事を進める兵士たち。巡回、歩哨の兵士たちも決して精気満ち溢れた目つきではない。何なんだ、ここは。それでいて監視の視線は張り巡らされている。
透明な重い膜の中を進んでいる気分だ。空気が硬くそして鈍い。
昼の日差しが建物内に入り、室内気温が少し上がる。緊張と異様な空気と日差しで俺の精神状態も揺れる。
これは精神干渉魔法なのか?それとも過去からの出会いと事件が重なったせいなのか?
一度左腕を右手でつねる。痛みで少しだけ意識が安定する。やはり異常だ。精神干渉や情動干渉に近い何かが動いていると思った方が良さそうだ。
コントロールルームへのIDチェックも抜け、ついにコントロールルームに着いた。
地下特有のエアコンの作動音と、廊下清掃に使われる薬品の香りに混じって微かに血の匂いだ。
コントロールルームの内部はどうなっている。人が死に、ミサイルの発射シークエンスは始まっているのか。
コントロールルームの扉を開けた。本来はIDカードでの開閉だが情報端末の情報部謹製のチートアプリケーションで処理をする。部屋の中は薄暗い。コンソールの明かりを際立たせるためだ。
コンソールの前の椅子には男が一人、床には二人の人間が血だまりに倒れている。
男に気付かれる前に一気に距離を詰め、背後に立つ。
扉の音に反応し振り返る瞬間に背後から男の首に腕を回し、一瞬で落とす。
床にゆっくりと寝かし、顔を確認すると酒井大佐だ。胸元の階級章も大佐を示している。
次の瞬間だ。コンソールルームの奥。影の中、人がいる。
常人なら気付かない、鋭敏な人間なら気配を感じるかどうか、達人名人なら察知する。
それ程の隠形だ。いや、隠形とも違うのか?気配が恐ろしく薄い。
!
「幻馬」の歩法を使い視覚的に錯覚を与えつつ、人影に気を飛ばす。
相手からすれば、複数の人間から同時に叩かれるビジュアルが見えているはずだ。
俺自身も渾身の打撃を死角になる場所から叩きこむ。だが気や俺の拳に人間と接触した感触はない。
後ろにステップし距離を取る。
「うふふふふふ、いやホント、はははは」
声を出して笑う。大声ではない。まるで独り言のように笑う。男の声。
まるで悪戯が思いのほか成功した子供の笑う方だ。
影の中にいたのは俺より少し背が高い。
「何者だ」
気を室内に充満させる。もう何をしても見逃すことはない。
奴の体格は悪くない。年齢は20歳ほど。細身だが筋肉質。身体の重心から見ると格闘技の経験はありそうだ。
容貌は黒髪で柔和な眼。だが優しさよりも人を見下すような印象を受ける。
「いや、うふふふ、実戦で使ったのは初めてだけど本当に最強じゃない?」
つまらない自画自賛を聞かされる。俺を意識していない独り言。
「何者だ」
再度の俺からの問いの返答代わりに男が動く気配。
先ほど手ごたえの無さから、近づいての攻撃を止めた。
俺は右腕を突き出し、気を撃つ。
空間を走る青白い何か。初撃の後ろに隠しの一発。
隠し刃の気弾を含めた二連撃は男を突き抜け壁に多大な損傷を与える。
まるでクモの巣のようなヒビを入れ、壁の表面が崩れる。
男は右手をスナップして指を鳴らす。
俺の位置、足元に魔方陣が展開される。
危険を感じ跳躍する、がダメだ。右足に魔方陣から伸びた何かが絡みつく。
魔方陣が上昇し、俺の右足の足首に到達すると一瞬で魔方陣が閉じる。
俺は痛みを感じ、転がり距離を取る。
右足が切断された。気を使い出血を抑える。
「【至高とか究極とかそんな感じで魔術師】がこんなに便利とはね」
男はそう言ってもう一度含み笑いをした。
「【よっ!英国男優!】にしては声が高いな」
強がりで相槌を打ってみた。相槌への反応でまともか狂人かわかる。
「個人的には【よっ!社長!】の方が好きなんだよね」
会話が成立する。
この時代に【バッチ!カンバーな!バッチ!】を知っている。60年近く前の俳優だ。それも役名と俳優名が一致している。
2010年代マニアか、それともあの時代を生きた人間か。
「改めて聞く。何者だ」
「転生者」
「はぁ?」
奴の答えに不快感を出す。真面目な問いを茶化されたことに対しての不快感だ、表面上は。
転生者でチート持ち。つまり奴の能力は【至高の魔術師】なのだろう。
厄介だ。俺のオタク知識だと瞬間移動など現代魔法や古式魔法とは全く違う超能力のような魔法体系のはずだ。
「目的はなんだ」
「ん~まあ司波達也と遊ぼうかと」
「誰だ、そいつは?」
男が軽く答え、俺は司波達也の存在をとぼけた。
男の声は軽かった。この基地での命のやり取りもまるで遊びのようだ。
俺のことを「何も知らない人間」と判断したのか、口が淀む。
「知らないなら別にいいや。この後の山場で会うだろうし。次は京都か~」
男の呟きに無理やり割り込む。
「お前は顧傑またはジードヘイグの関係者か」
「あ~、串揚げ食べたい」
俺の言葉を無視をする。そして男は右手で目の前に円を描く。
空間に穴が開き、穴の先には何処かの住宅街。住所を指し示すものはない。
だが、住宅街の先にはいくつかの特徴的なビルが見える。
男はひょいっと穴の中に入る。
「お兄様によろしくね~」
一秒後、空間の穴は埋まる。
俺の視界には死体と、失神した酒井大佐と、損傷した壁と、ミサイル発射用のコンソールが残った。
◆
「信じられないな」
「だが事実だ」
俺の右足を再成した司波達也は基地での出来事に驚いていた。
この場には司波達也と俺しかいない。
カナデが手を回して準備してくれたミラージュバット控室だった部屋だ。
スティープルチェイスの結果は、まあ後でいい。
今は謎の男の話だ。
少し崩して着たスーツ。年齢は20歳前後だが10代にも見えるし、30代にも見える。
嫌な男だった。
101旅団の中隊が基地に到着すると、兵士たちは正気に戻る者、泡を吹いて痙攣する者、失神する者と反応は様々だった。
俺は傷の修復が出来る「大黒特尉」のもとへ運ばれて、1分ほど前に右足は再成した。
カナデは右足を失った俺を見て、うろたえて泣いた。今日は彼女にとって衝撃的な日だったな。当分はべったりしてくるだろう。今は女性士官に付き添われて別室で横になっている。
「男の目的は何だと思う?」
「愉快犯と見ていいだろう。だが標的は軍ではなくお前なのかも知れん」
右足の調子を確認する。指も開くし、関節に違和感はない。さっきまであった痛みも皆無だ。こりゃスゲーな。
「俺?」
「そうだ。光夜の言葉を借りると【アカシックレコード】でも見たのかもな」
アカシックレコードという単語に司波達也は眉を顰める。
「周公瑾の時もそうだが、俺の存在はそこまで重要なのか?アカシックレコードとは呼んでいるが、光夜や雪光は予知能力の一種だろう。周公瑾は無意識下における九校戦のイメージの結果とも受け取れる。だがその男はなぜ俺を?」
「俺に聞かれてもな」
優しいな。アカシックレコードを予知能力として理解しているのか。
俺は困って曖昧に苦笑する。転生者という正解を伝えていいか悩むな。
「動機は不明。基地を占拠した能力も不明。なんと風間さんに報告したもんかね」
「ありのまま報告するしかないだろう」
俺は困り顔ついでにもう一つの困りごとを口にした。
司波達也はいつもの鉄面皮で答え、一つため息をつく。
もしあの男が【魔術師としては至高!】ならば現代魔法の理屈は通じない。
文字通り奇妙な能力なのだ。魔法で物理現象を改変させる現代魔法とは違う。
俺の記憶通りなら鏡像世界に入り込み、空間移動をし、減ったビールを補充することが可能だ。
右足をぶった切ったあれも、空間操作の結果だろう。
アメコミ対お兄様。
三文小説だな。
地味