ガールズ&パンツァー バタフライエフェクト   作:牢吏川波実

13 / 26
2-2 戦友

「探せと言われたものの……」

「……」

「どこにあるっていうのよぉぉぉぉ!!!!!」

 

 テニスコート脇にある駐車場、沙織の叫び声は大きく響き渡っていった。だが、確かに沙織が叫びたい気持ちもわかる。なにせ学園艦はかなり広いのだ。黒森峰に比べればまだ小さいが、それでも全長約七.六キロ、横幅は約一.七キロ、そこに船底も加えればさらに捜索範囲は広がってしまう。その中から明後日までに戦車を見つけろなど、あまりにも無茶苦茶な話だ。

 

「駐車場に戦車は停まってないかと……」

「だって一応は車でしょ?あってもおかしくはないじゃん」

 

 いや、目撃情報がないという事から、そのような目立つ場所に置かれているとは考えられない。駐車場などという多くの人間が見ることができるような場所に置いてあるのだとすれば、最初から生徒会役員たちがあの倉庫にまで持ってきているはずだ。そのためまほは、十中八九駐車場に戦車は停まっていないだろうという確信を持ちながら彼女たちについてきた。ならば何故止めなかったか、と言われてしまえば、正直この学校の事をあまりしならないため、学校内の見学もしたいと考えていたからだ。それにして、駐車場の横にはテニスコートがあるのだが、ここから勢いよくボールが飛び出して車が傷ついてしまうという事はないのだろうか。もちろん高さのある網によってそれなりの工夫はできてはいるだろうが、それでも自分のように素人がボールを打ったとしたら、かなりの高さまでボールは飛んでしまう。とまぁ、ある意味どうでもいいことを考えていた時であった。優花里が声をかけてきた。

 

「あのまほ殿」

「ん、なに?」

「いえ、そのまほ殿は、どこに戦車があると思いますか?」

「……そうだな」

 

 まほは考える。人目に付かない所に戦車があるとすれば、まず学生が使うような道路や施設の近くにはないだろう。つまり、学内や街中のほとんどの場所が候補から外れることになる。となると残るのは船底かもしくは学校の裏手にある森の中という事だろうか。

 まほは、倉庫の中にあった戦車の外観を思い出した。確かにあの戦車はかなり傷ついていた。まるで試合の後に廃棄されたかのように。もしも、戦車道がなくなった年に試合が始まる前から戦車道が無くなるという事が決定されていいて、そして最後の戦車道の試合がこの大洗学園艦の上で行われていたとするならば戦車を乗り捨てた、もしくは乗り捨てざるを得なかったという状況を仮定したらどうだろうか。すでにいらなくなるという事が決まっているのだから、学校側が戦車を運んでくれるように手配してくれていなかったため、帰ってこれるあの車輛だけが倉庫に帰ってきて、残った車輛が森に撃ち捨てられてしまっているという事も考えられるのではないか。ならば、今自分たちにできることは、最も可能性の高い場所を探ってみる事だけだ。

 

「森に行こう。そこに戦車があるのかもしれない」

「そうだね、何とかを隠すには森の中っていうしね」

「それは同類の物を隠す場合の言葉です」

 

 まほたち一行がそんなこんなの理由で森に向かって行ったそのころ、愛里寿達一年生組はというと、アグレッシブルな他のチームとは違って図書館で戦車道に関連する資料を探すことから始めていた。

 

「使っていた戦車の記録見つかった?」

 

 大量の本を抱えた梓がそう言った。しかし、その場にいる面々の顔から察するに結果は思わしくないもののようだ。

 

「戦車の『せ』の字もないよ」

「家の学校が戦車道辞めた時からさっぱり」

「これは、探すのに手間がかかりそうですね」

 

 と、眼鏡をかけたツインテールの少女大野あや、茶髪のショートヘアーの少女阪口桂利奈、そして愛里寿がそう答えた。やはりこの学校は長年戦車道から離れていたために、それに関係していた図書も建物の奥底に眠ってしまっているのだろう。あやは、戦車に関する記述が内とは言っていた物の、少しは戦車道について記述の有る資料はあった。しかし、今回戦車を探すにあたっては必要のないものばかりで、有効に活用できうるものは存在していなかった。

 

「なんで突然戦車道止めちゃったのかな?」

「やっぱ人気なくなったんでしょ昔っぽいから」

「そっか~」

 

 と、宇津木優季と山郷あゆみは言った。昔っぽい、まさにその通りだ。なにせ戦車道で使っている車輛は、主に第二次世界大戦中かそれ以前に使用していた兵器であるのだからそう言われてしまうのも仕方がない。母も言っていた。現在のレギュレーションでは第二次世界大戦末期、つまり1945年までの戦車が戦車道の試合で使用できるという事になっている。これは、戦車の性能が後年上がり続けているため、それ以降の戦車までも参加が可能になってしまうと金銭面で潤いのないチームには不利となってしまうからという問題に繋がるからだ。1945年までは、それなりに性能の差はある物の、それは些細なものである場合が多く、知略と策略を用いればどうとなる差であるから1945年までの戦車での参加は認められているのだ。

 だが、この終戦までの戦車という規定を作ってしまったことにより戦車の種類が頭打ちとなり、結果的に目新しいものが無くなってしまっているのだとか。

 

「もう少し探して何も出なかったら、外に……」

「……」

「え?」

 

 その時、なにやら漫画らしきものを見ていた丸山紗希に袖を引っ張られる。そういえば、いまだにこの少女の声を聞いていないが、無口なのだろうか。

 

「何ですか?」

「……」

 

 紗希は、何も言葉を喋らずに一枚のノートの切れ端らしきものを愛里寿に手渡す。どうやら、紗希が見ていた漫画のページに挟まれていたようだ。このタイミングで渡してくるのだから、なにか重要な手がかりでも書いていたのであろうか。愛里寿は、ゆっくりと中を開いてみてみる。

 

「何々?何が書いてあるの?」

「愛里寿?」

「……どうやら、日記の一ページみたいです。読みますね」

 

 上から下まで、愛里寿はゆっくりと読み進める。

 

『○月×日 今日、私たちの戦車とお別れになった。ゴメン、最後の試合に勝てなかった上に、この場所に連れて帰れたのはあなたと、もう一輌だけ。他の子たちは、離ればなれになっちゃった。廃部が決まっちゃって、もう皆を車庫に戻すお金も使わせてくれないんだって。私達が弱かったから、もしも私たちが強かったらこんなことにはならなかったのかな。もっと、あなたたちと、皆と一緒に戦車道をしたかった。私達がいなくなると、あなたもきっと寂しくなるよね。大丈夫、あなたは、私達であの子たちの所に連れて行くから。だから寂しくないよ。あの子たちのように死んじゃう、なんてことはないと思うけど、それでも私は心配だから。私はこの大洗を離れちゃうけど、またいつか戻ってくるから、それまでさようなら……』

 

 愛里寿は、すこしだけホッとした。少なくともこの日記を書いた人は、戦車に愛着を持ったまま戦車から離れてくれたのだ。戦車道が無くなってしまうことに対して、誰もが賛同したわけではないのだ。最後まで抵抗して、最後まで戦車道を愛してくれたまま離れてくれて、それだけで何となく愛里寿は救われたような気がした。

 

「連れて帰れたのはあなたと、もう一輌だけ……つまり帰れた戦車は二輌ってことだよね」

「でもさでもさ、車庫には戦車一輌しかなかったよね」

「だよね……この人が乗っていた戦車はどこに行っちゃったんだろう……」

 

 確かに、それもその一輌はかなりボロボロとなっていた。この日記から察するには、やはり最後の試合が終わった後にそのまま放棄されてしまったようだ。それを車庫に戻すお金も使わせてもらえなかったという事は、つまりは移動させるためのお金がなかったという事、大洗学園艦から外に出そうとするのならば撃破された場所から移動させなければならない。つまりそれぞれ撃破された場所にそのままになっている可能性が高い。それに……。愛里寿は言う。

 

「これは私の想像ですが、車庫にあったⅣ号D戦車はボロボロでした。という事は、この人が搭乗していた戦車もまた、Ⅳ号Dと同じように満身創痍で帰ってきた可能性が高い……その状態で遠くに戦車を自力で移動させるのは無理がある。つまり、もう一輌の戦車は、この学校の敷地内、もしくは学校に近い場所に隠してあるのではないでしょうか?」

「そっか!」

「愛里寿ちゃん頭いい!」

「それほどでもありません」

 

 愛里寿は、今まであまり母親以外に褒められたことがなかった。というよりも、褒められるとは感じていなかった。そのため、彼女たちに自分の考えを褒められ、少し嬉しかった。

 

「でも、一体どこにあるのかな……」

「この日記によると『あの子たち』の所にいるって書いているから、何かが複数個はある場所なんだよ。多分命のある……それにこの文面からすると、この子が帰ってくるまで待っていてくれる場所、つまり長い時間置いておける場所かな……となると、候補はかなり絞られてくるはず。この学校の地図ってどこにあったっけ」

「確か、生徒手帳にありましたよね?」

 

 梓の言葉に、愛里寿は胸ポケットにしまっていた生徒手帳のページを開く。そこには、この学校の最新版の案内図が書いてあった。改めて見るとかなり大きな学校だが、果たしてこの学校のどこに戦車があるというのだろうか。

 

「うわっ、広ーい……」

「しらみつぶしに探すにしても時間がかかるよ……」

「見かたを変えてみるの。まず、車庫や校舎の中にはない。それに校門裏門周辺は人通りも多いから、もしあったとしても目撃証言が出てるはず。それにこの子は戦車の事を友達、ううん戦友のように考えていたんだと思う。なら、雨風に晒されるような屋外には置かないだろうし……」

「……」

 

 愛里寿は思わず感心してしまった。梓の判断能力、発想力は自分に迫る物がある。いや、磨けば自分すらも超えて行ってしまう可能性すらある。それに、優しさもある。彼女は戦車長に向いているだろう。恐らく、自分や西住流の二人がいなかったら、彼女を中心にチームが動かせるほどに成長することができる。その片鱗を少し、のぞかせていた。

 

「ねぇ、愛里寿はどう思う?」

「え?……そうですね。でも学内だと部活動や掃除などで、生徒は必ず立ち寄りはするだろうから、学内での目撃証言がないのは変……周囲の景色に同化して目立たなくなった?」

「そっか、あまりにも自然に置いてあるから、誰も不自然に思わなくなったんだ。でも、もしもそうならなおさら見つけ出すのは難しいな……」

「えぇ、嘘ぉ……」

「ここまできて最初から出直し?」

 

 梓、愛里寿、そしてもう一名以外はその梓の言葉にため息をついた。

 最初から出直し?本当にそうだろうか。少なくともこの学校内にあるという可能性があるのだ。最終的には虱潰しに探すという手もあるが、他になにか見過ごしているようなことはないだろうか。

 いや、なにか必ずあるはずだ。この日記の中に手がかりが、その場所のヒントがあるはずだ。日記の中に出てくる登場人物は、『私』『あなた』『他の子たち』『皆』それから『あの子たち』である。『私』はもちろん日記の執筆者であろう。『あなた』は、この日記の執筆者の搭乗していた戦車。『他の子たち』それから、『皆』というのは、『あなた』以外の戦車であろう。ならば、『あの子たち』とは何なのだろうか。他に戦車道をしていた人達だろうか。いや、そうであれば『あの子たち』ではない。『私』は、『あなた』に愛着を持っていたはずだ。それならば、側に置いておけるのならば自分のすぐそばに置いておくだろう。それに『あの子たち』のように死ぬというのは一体どういうことか。まるで、なにか惨劇のようなものがあったかのような言い分である。そう、それこそ十年前にあったあの惨劇のような何かが。だが、もしそんなものがあるとするならばどこかに痕跡があったり、母からそのような話が転校前にあるはず。では一体何なのだ、この死ぬという一文は……。

 

「……」

「え?」

 

 その時だ、隣にいた紗希が愛里寿の肩をツンツンと指で触れた。愛里寿が紗希の方を向くと、彼女は何も言わずにただ生徒手帳の地図のある場所を指さした。

 

「紗希さん、ここが気になるんですか?」

「……」

「え、でもここって……」

「ほぼ毎日誰かが一度は見ている……っていうか、絶対に中に入ったりしているじゃん、ありえないでしょ」

「……ううん、可能性はあるかも」

「え?」

「愛里寿が言ったでしょ。あまりにも周囲の風景に同化しすぎている可能性があるって。ここだったら暗がりで、傍から見てもオブジェや置物のように自然に溶け込んじゃっていたって可能性も……」

「えぇ、それにここだったら、日記の気になっていた一文にも納得がいきます。もしも『あの子たち』がこの子たちだったとすれば、こんな書き方をしたのにも合点が付く……」

「行こう皆……この子の友達を迎えに!」

「「「「うん!」」」」

「はい」

「……」

「それじゃ、まずはこの山積みになった本を元あった場所に返そう」

「はい」

「紗希その本借りるの?」

「……」

 

 愛里寿達は本を元にあった場所に返却し、紗希は呼んでいた漫画、恐らく戦車に関係する漫画であろう物を借りると、図書館を出てその目的地へと向かっていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。