ガールズ&パンツァー バタフライエフェクト   作:牢吏川波実

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 今回、戦車説明回をしようと思いましたが、その前にやることがあるので先にそっちを片づけておきます。


2-4 感情

「みほ、大丈夫?」

「なんだか、午前中に見た時よりもやつれてらっしゃるような……」

「あはは、大丈夫。心配しないで」

 

 結局あの後身体中隅から隅まで調べられた挙句に車椅子のアイデアも提出させられるなど、身心的にやつれるような事をした後、みほがようやく解放させられたのは放課後、日が落ちかけた頃であった。

 

「それより、38(t)を見つけたって聞いたけど?」

「はい!少し整備をしたらすぐに走れるようになるかと!」

「経年劣化もそれほどみられなかったから大幅な、装甲全部を取り替えないといけないほどの整備も必要ない」

「そうなんだ……」

 

 優花里、まほの言葉を聞き、みほは一安心する。38(t)は外で見つかったと聞いたので、雨風に晒されてのさび付きが気になっていたのだ。だが、よく考えるとここは学園艦。その上にずっとある戦車なのであるから、潮風によってさびるという事も考えられるため、それなりのコーディングが装甲や塗装にて元々なされていたのだろう。

 戦車道履修者全員が車庫前に集まってきたころ、生徒会の河嶋桃が前に出て話し始める。

 

「静かに!皆、聞いてくれ。ノルマであった全五輌の戦車が見つかり、運搬については自動車部に一任している。もう日が暮れてきたため、今日の所はこれで解散となる。明日は戦車を洗車するため、体操服を持参して集合してくれ」

「では、解散!」

 

 柚子のその一声で、みな雑談を始めながら帰り始める。

 

「私達も帰ろうか、みほ」

「うん……あれ?」

「どうしたんです?」

「うん、ちょっと」

 

 まほの声と共に動き出そうとした車椅子であるが、その前に、みほが何かが気になるような声を上げた。そして、みほが自分で車椅子の車輪を漕いで向かったのは、まだ一人たりとも動こうとしていない愛里寿を含めた一年生七人であった。

 

「愛里寿ちゃん、どうしましたか?」

「あっ、みほさん……いえ、実は私達にはまだやることがあって……」

「え?」

「ウサギ小屋を立て直すんです」

「ウサギ小屋?」

「はい、私たちが戦車を見つけたのがウサギ小屋の中で、でも戦車を出そうとしたら小屋を壊すしかなかったんです」

「だから、この後皆でウサギ小屋を立て直そうって話になってるんです」

 

 と、愛里寿の隣にいた少女が言った。見たところ愛里寿を除けば一番しっかりしていそうだ。と言っても、愛里寿は年齢的には中学生なのに大学生の学籍もあるのに高校生であるという考えてみると訳の分からないことになっていて精神年齢場にも歳不相応となっている気もしなくはない。

 

「そうなんだ……なら、私も手伝うよ。いいでしょお姉ちゃん」

「あぁ、もちろん私もだ」

「なになに?何をするって?」

 

 沙織と華、それから優花里もまたみほの元に駆け寄る。

 

「ウサギ小屋の立て直しだって」

「まぁ、ウサギですか、ふわふわして可愛らしいですよね」

「不肖ながら、秋山優花里も全力でお手伝いさせていただきます!」

「ほんとうですか?ありがとうございます!」

「けど、暗くなったら作業もおぼつかなくなるし、今日の所は完成しないかな?」

「はい、でもこれだけの人数がいるのですから、予想よりも早くに終わるかもしれません」

「よし、それじゃ行こう!あっそうだ。私澤梓です!」

「私は西住みほ。よろしくね」

「はい!」

 

 そしてそれから数時間後、結局その日の内には終わらなかった物の、必要最低限でウサギが逃げないような建物は作り直せたため、今日の所はお開きにしてまた明日という事となった。正直言えば愛里寿は嬉しかった。戦車以外でも自分が人と関われるようになっていくように変化していくことが。それに、戦車以外の話もまた楽しい物だった。小屋を立て直したらどこに行こうかとか、休日にこの街の事を案内してあげるとか、色々と話してくれた。そして今、彼女たちは学校帰りのアイス屋さんに立ち寄っている。

 

「んん~、やっぱりここのアイスはいつ食べてもおいしい~」

「うん、こっちの期間限定の完熟ミカン味もおいしいよ」

 

 もちろん、こうやって大人数でアイス屋に来ることも初めて、というかアイス屋に立ち寄るという事も初めてだ。アイスはいつも家のお手伝いさんが作ってくれるものばかりだったから、別の人が作るアイスクリームは初めてであるし、いつもと違った味もおいしい。

 

「ねぇ、愛里寿のアイスも一口食べさせてよ」

「え?あ、はい」

「ありがとう……ん~おいしい!」

 

 もちろん友達にアイスを一口分けるという事も初めてだ。こんな気持ちとなるのか。自分がおいしいと思う物をまた、誰かがおいしいと思ってくれるという事。

 

「あゆみのも食べていいですか?」

「うん、もちろん!」

 

 愛里寿は山郷あゆみのスパークリングなんとかという味を一口食べた。口の中で花火が弾けたような痛みが口の中を襲う。こんな味、感触も初めてだがしかし、なかなかに刺激があっておいしい。誰かと何かを分けあうことの嬉しさも楽しさも、共有できることの素晴らしさも、自分は今まで知らなかった。こんな当たり前の感情を知らなかったなど、自分が本当に人間だったのか疑わしくなってくる。喜怒哀楽、人にはその四つの感情があるという。しかし、自分はそのどれも持ち合わせていなかった。喜ぶことも、怒ることも、悲しむことも、楽しむことも知らなかったと思う。いや、楽しむことはあの子達のおかげで知っていたのかもしれない。しかしそれも一時の感情であり、それだけがあったとしても人間は生きていけないのかもしれない。喜怒哀楽のどれかひとつでもかけた人間は、人間なのだろうか。それは、ロボットと同じなのではないだろうか。喜ぶこともない、怒ることもない、悲しむこともない、楽しむこともない、そんなものは人間じゃない。けど、自分はもっとひどかった。自分は、それらを望むこともしなかった。人間として素晴らしいものである感情を欲しがることはなかった。多分それは、なくても人は生きていけるだろうと思っていたから。でも、自分は知らなかったのだ。感情のすばらしさを。元々楽しいという感情を知っていたから、あの子たちのおかげで知っていたから、だから自分は気がつくことができた。他の三つの感情もまた、人間を人間にするのには必要不可欠なのだと。

 

「あれ?そういえば、もう一人いませんでした?」

「あぁ、優季なら彼氏の家に」

「えっ!?彼氏いんの!?」

「は、はい……」

「うぅ……後輩に先を越された……」

 

 彼氏、恋、自分にも恋をする時が来るのだろうか。誰かを好きになるという事ができるのだろうか。人に恋をして恋をされ、愛を知り、愛を育み、未来を夢見ることができるのだろうか。島田流の家元として、いや島田愛里寿という一個人としてたくさんの人たちを導いていくことだけが夢であるのだろうか。もしかしたらもっと違う未来もあるのかもしれない。島田流を率いていくにしても、それと並行して別の仕事に就くという事もできるはずだ。たった二日三日でここにいる人達は自分の価値観を大きく変えてくれた。自己の存在意義を見直すチャンスを与えてくれた。自分はもっと変わることができるかもしれない。自分はもっと大きな人間になるのかもしれない。

 

「どうしたの、愛里寿?」

「いえ、何でもありません」

 

 愛里寿は嬉しそうに言った。自分自身が想像もしていなかった島田愛里寿という人間は、ここで作られていくのだ。

 

 

「もしもし、大洗女子学園の角谷です」

『あら、角谷さん?試合ができる人数と戦車は集まったかしら?』

「えぇ、なんとか……明後日はよろしくお願いします」

 

 杏は、生徒会室から電話をかけていた。明後日くる予定の日本戦車道連盟の強化委員である教官だ。そこには、いつものようにおちゃらけた雰囲気の少女の姿はなかった。

 

『それでどうかしら?今集まっている子たちで優勝できる目星はついた?』

「えぇ、思っていたよりも凄い子たちが集まってくれました。もしかしたら……いえ、優勝できます」

『そう、よかったわね』

 

 そう言って、電話口の相手はクスリと笑う。それはそんな事出来るわけがないだろうという嘲るような笑いではない。彼女がそこまで言うのだから、本当にできるのだろうなという確信に近い笑みであった。

 

「……どんな子たちが来たのか聞かないんですか?」

『楽しみは、最後まで取っておきたいもの……明後日行ったときに目にするわ』

「分かりました……」

『……?』

 

 教官は少し不思議に思った。杏の声色が少し前に電話した時よりも弱々しい気がするのだ。珍しいことだ。礼節をわきまえており、いつも元気で、その声は頼もしくもありたくましくもある、そんな少女だったはずなのに、なんだか今日はおかしい。

 

『どうかしたの?』

「蝶野さん、私の事……嫌いになるかもしれないけどさ、大洗学園の事は嫌いにならないでね」

『……嫌われるようなことでもしたの?』

「世間一般的に考えたらね……」

『……何ヶ月、貴方とやり取りしていたと思ってるの?あなたの性格だって分かってるわ。例え、誰が何と言おうとも、私はあなたの事を嫌いません』

「……ありがとう、ございます」

『それじゃ、また明後日』

「はい」

 

 それだけ言うと、杏は受話器を置き、横に置いてあるいつもの干しイモの入っている袋を取るとイスに座り、干しイモをかじる。不安がるだなど、いつもの自分のキャラクターではない事は分かっている。それに、そもそもそのことを覚悟して彼女達を戦車道に誘ったのだ。何も考えていなかったわけじゃない。多分、あまりにもいい結果に事が運びすぎて不安になっているだけだ。本当に、バカげたことを言っていると自分でも思う。

 

「会長」

「河嶋……」

 

 同じ生徒会の河嶋桃が、大量の同じような薬の入ったビンを杏の机の上に置いた。

 

「河嶋はほんと、変なところで頼りになるね~」

「いえ、それが私の役目なので」

 

 杏は、ビンの蓋を開けると、中に入っている薬を二つぶとって飲み込む。正直水と一緒に飲み込んだ方がいいのではないかと思うのだが、あいにく今手元にない。桃はやはりどこかで抜けているようだ。水無に飲み込むと、なんだか喉元で薬が残っているような感じがして気持ちが悪いのだが、文句を言うほどの事ではないため彼女はそのまま飲み込んだ。

 

「ねぇ、河嶋」

「何でしょう?」

「私さ、この期に及んでまだ自分の心配をしているよ。ほんと、自分勝手だよね」

 

 杏は、笑ってそう言った。どうして自分の事ばかり心配してしまうのだろうか。本当につらいのは、真に傷つかなければならないのは彼女達であるというのに。その覚悟もないで事を運んだわけではないというのに、まだ自分の心配をしようとしている自分が心の中にいる。なんとも自分勝手な女であろうか。

 

「会長、人はどれだけ見繕ったとしても、どれだけ覚悟をしたとしてもまず自分の事を一番に考える生き物です。会長は間違っていません」

「ありがとう、河嶋……ゴメンね、地獄の道連れをお願いして」

「いえ、この学校のためだったら、私は鬼になる覚悟はすでにできていますので」

「……そう」

 

 とは言っているものの、杏は柚子を通して知っている。この一件の結果自分たちに待ち受けているであろう物について説明したその夜、桃が泣いていたという事を。その時も今も、彼女は本当の自分を押し殺して自分に接している。ある意味役者だ。柚子も柚子で、他人がいる場所では平然を装ってはいるものの、一人だけで部屋にいるときはいつもの彼女の様子とは全く違う暗い姿を見せているのを見た。結局のところ、自分たちのしていることは、まだ彼女のような人間を完全な意味で受け入れてくれていない世間にとっては悪者のする行動なのだろう。

 

「妹ちゃんが……みほちゃんが戦車道を取るって決めてくれた時、本当に嬉しかった……その気持ちは本当だから……」

「分かっています会長。絶対に、この学校を優勝させましょう」

「当たり前じゃん。ここまでして、優勝できなかったら……」

「……」

「……ここから見る月は、やっぱり綺麗だねぇ……」

「はい、私もそう思います」

 

 学園艦はいつも、常に動いている。しかし、そこから見える景色はほとんど変わらなかった。そして、月の輝きも変わらなかった。この、自分の慣れ親しんだこの景色を守るためだったら、自分はどうなったってかまわない。だから彼女には、これ以上の試練を与えないでくれ。せめてこの学校にいる間だけでもいい。彼女の平穏を壊したのが自分であるのだから、彼女の安らぎを願ってもいいだろう。それぐらいのわがままは許してもらっても構わないだろう。




 今回、テレビを改めて見返した結果、戦車の発見から戦車の運搬までで一日が経過していることが判明したため、そのまま愛里寿たち一年チームが帰るのはなんかおかしいなと感じてウサギ小屋の一件を書いたら、そのままの流れで愛里寿の感情の話やら、元々書く予定だった生徒会の話にやらなってしまいました。結果的に、感想で自分が言ったことを反故にしている感じで悔しい。
 もっとこういう書き方した方がいいとかアドバイスがある場合は感想の方にお願いします。
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