ガールズ&パンツァー バタフライエフェクト   作:牢吏川波実

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 武部さんに関しては自分自身ちょっとやっちまったかなと思っています。


2-8 始動

 校門前にて止められた武部沙織以外の四人は、冷泉麻子と別れた直後に集合場所となっている倉庫前に向かった。当然ながら、彼女たち以外の履修者はすでに集合済みで、みほたちが一番最後となってしまった。しかし、まだ教官も来ていないという事で、その点からみればよかったと言えるだろうか。

 それから数分後、沙織もまた倉庫前へと来た。しかし、その手にボコの姿はなく、何となくげっそりとした印象があった。

 

「うぅ……結局没収されちゃった……」

 

 やはり規則は規則なのか、ボコは学業に関係のないものとされて没収されてしまったらしく、放課後まで風紀委員管理となってしまったらしい。

 

「まぁ、規則ですからしょうがないですね」

「でもただのぬいぐるみじゃん、ゲームとか漫画と違って学業とは何にも関係ないじゃん……」

「学業と何の関係もないというのが問題なのでは?」

「うぐ……あぁ、ボコ……」

 

 華からのきつい正論。それにしても、一体どうしてこうなってしまったのだろうか。昨日までボコの事を全く知らなかった沙織がここまでボコの事を溺愛するようになってしまうなど想像もできなかった。麻子も言っていたが、これはもはや洗脳の域に達しているのかもしれない。ボコの魅力が凄まじいのか、沙織の感受性が人よりも優れていたからなのか、そのどちらともとれるのだが、にしてもこれはちょっとやりすぎである。

 

「それにしても、教官遅くない?」

「あぁ……ん?」

 

 まほは聞いた。空高くから飛行機のジェット音がするのを。いや、これはそんなに高くはない、むしろ低い位置からの音。そう、すぐ近くを飛ぶ飛行機の音だ。空港か自衛隊の基地に降り立つならこのような音が聞こえるのは分かるのだが、この当たりの海域には島など、飛行機が降り立てるような陸地はない。と、いう事はこの音の持ち主はここを目指していると考えるのが普通であろう。

 その時、学園の向こうから一つの大きな機影が姿を現した。それは、セスナなどと言った小型機よりも大きく、普通の旅客機よりも太い外観をしている。どう考えても一般の飛行機であるようには見えなかった。その飛行機の姿を見た優花里は興奮しながら言う。

 

「あぁ!あれは、空自が所有しているC-2輸送機!前に自衛隊の交流イベントでも見ました!!」

 

 C-2輸送機とは、1973年から運用が開始されていたC-1輸送機の後継機として2016年から運用が開始された輸送機である。配属先の基地からは≪Blue Whale≫、青い鯨の愛称で呼ばれているのだとか、あとさらに言えば、実は諸々の事情により開発が遅れ、2018年9月まで運用試験を実施した後、空輸任務に使用される予定であるそうだ。2018年の9月まで運用試験をして、2016年から運用開始となっているのはどういうことなのだろうか。という疑問がわくのだが、詳細は定かではない。

 C-2輸送機(今回の機体に関しては通常の機体に戦車を積み込めるように少しスケールアップをしたC-2改らしい)が、学校の上を通過し、すぐ近くにある駐車場の上に来たその瞬間、下部のハッチが開いていき、上空へと上がる際に斜めになったその一瞬の時に、パラシュートを付けた一輌の戦車が降りたった。

 

「おぉぉ!!あれは、自衛隊の所有している最新鋭戦車、10式戦車!!」

「ひとまるしきって?」

「現在日本自衛隊が所有し、かつ国産の戦車の中では一番新しい戦車だ。当然、戦車道の試合に用いることはできないが……正直第二次世界大戦以前の戦車100輌で10式に挑んで勝てるビジョンなど浮かばない。それほどの戦車だ」

 

 10式戦車は、陸上自衛隊が運用する国産戦車としては、61式・74式・90式に次ぐ四代目のなる主力戦車である。そのスペックは、正直あまりにも凄すぎてよくわからないが、世界トップクラスの戦車であることと、あとフィクションのみの話ではあるがかつて『ウルトラマンに出てきた際に複数体の敵怪獣を倒した実績があるらしい』という事だけ分かってもらえればどれだけ強いのかがよくわかるのかもしれない。

 

「それにしても随分乱暴というか大雑把なような……」

「はい、あと少し待ってればこっちのグラウンドに降りれたのに……」

 

 まさか一応は車だから駐車場に止めなければならないと思ったなどという、戦車探しの時の沙織の意見を実施しようとしているのかと思ったが、流石に停まっている普通車にぶつかるリスクを押してまでそのようなことをするとは思えない。

 

「学園長の車がッ!」

 

 ……いや、もしかしたら最初からぶつかるつもりで駐車場に降りたのかも知れない。地面に降り立った10式は、そのまま滑るように駐車場を滑走して止まった。一台の赤いスポーツカーを巻き添えにして。

 

「学園長か……そういえば私は会ったことがないが、学校の中にはいるという事なのか?」

「お姉ちゃん、気にするところちょっと違う気がする」

 

 まほが大ボケをかましている間にも、10式戦車は遠慮することなく方向転換をしながら学園長の車を押しつぶす。それは、まるでせんべいが平らになるかの如くに綺麗につぶれて、もはやおいしそうとまで思ってしまった。

 

「あぁ……あれはもう修復は無理そうだね」

「自動車部も匙投げるんだ」

「というか、あれって確かフェラーリ……」

「安くても何百万はくだらない……学園長も気の毒に」

 

 とは思うが、しかしこういった映像はなんだか知らないが胸がスカッとしてしまう。学園長には申し訳ないがしかし、これも学校の運営責任者としてやらなければならない戦車道関連の資料作成の全てを学生に任せたことの因果応報と思えば、さほど罪悪感もなくなってしまうだろう。

 学園長の車を潰した戦車は、グラウンドと駐車場の間にあるフェンスを隔てた向こう側にフェンスと平行にして停車すると、入口が開いていき、中から一人の女性が現れる。

 

「こんにちわ!」

「……」

 

 先ほどまでの行動すべてがまるでなかったかのように、清々しい顔でそう挨拶をした女性。まほは、その顔に見覚えがあった。

 

「あの女性は確か……」

「お姉ちゃん、知っている人?」

「あぁ、少しは……」

 

 それから数分後、整列した戦車道履修者の前に女性は立っていた。女性は、10式をこれまでの大雑把な行動とは裏腹に律儀に停車させてきた。そんな気遣いができるのであれば、もっと優しめな着地を見せてもらいたかった気もするが、迫力もあり、戦車を知っている自分達ですらその光景が魅力的に映り、少しだけ心の中で感心してしまったため、いいデモンストレーションを見せてもらったという事にしておこう。

 

「会長に騙された……」

「でも、確かにかっこよくて素敵そうな方じゃないですか」

 

 沙織は、さらに一段と落ち込んでいた。彼女は、女性ではなく、男性が来るのだと思い込んでいたからだ。しかし、こうなるという事はあらかじめ予想で来ていたことだった。と、いう事の説明は以前にもしたであろうからここでは省く。

 

「皆静かに、こちらは陸上自衛隊富士教導団戦車教導隊所属、蝶野亜美一等陸尉だ」

「よろしくね、戦車道は初めての子が多いと聞きますが、一緒に頑張りましょう」

「蝶野一尉」

「あれ?あなたもしかして……」

 

 蝶野は、自分に声をかけてきた人物に見覚えがあった。かつて、自分が世話になった西住流現家元の西住しほの長女、西住まほだ。前年度の戦車道全国大会の数か月後に、大怪我を負った妹のみほと共に西住流から破門され、戦車道の名門黒森峰から去り、その後消息不明となったと聞いていた。風の噂で海外に渡ったという話もあれば、本土のどこかの山奥に籠ったとまでも言われていたが、まさか、この学園艦に乗っていたとは。だがまほがいるという事は必然的に……。

 

「はい、お久しぶりです。以前はお世話になりました」

「そんな、私の方こそ師範……いえ、家元にはお世話になったから……あなたがここにいるという事は……」

「はい、みほもいます。今は、機材の点検のために席を外していますが……」

 

 実は、蝶野がこの場に来るまでの間に、みほは自動車部の部員と共に倉庫に向かった。どうやら、車椅子のみほのための機材にちょっとした問題が発生したという事らしい。詳細はまだ聞いてはいないが、足が不自由なみほにとって試合中に機材が壊れるという事があれば、下手をすれば命にもかかわることになりかねない。何事もなければいいのだが。

 

「そう……ここにいるってことは、戦車道を?」

「はい……西住流とは関係なく、純粋に戦車道を楽しむために……」

「そう……分かったわ、武運長久を」

「ありがとうございます」

 

 蝶野は、ある言葉を放とうとしたが、しかし言うに言えなかった。やはりというか、予想していた通り、彼女は履修者にはあの事について話していない様子。そうでなければ、純粋に戦車道を楽しむために等という言葉が出るはずがない。そう、彼女たちは知らないのだ。まさか自分たちがこの学園艦の運命を託されているなど。夢にまで思っていないのであろう。

 

「教官!今日はどのような練習を行うのでしょうか!」

「そうね、本格戦闘の練習試合。早速やってみましょうか!」

「えぇ!いきなりですか!!」

 

 蝶野のいきなりの発言に、皆一部を除いた面々は驚きを隠せなかった。まほもまた、表情には出さなかったが、内心でかなり驚いていた。

 

「蝶野一尉、それはまだ早すぎるのではないでしょうか?まだ戦車の走らせ方すらも大多数が知らないのに……」

「習うより慣れろ。何事も実践と実戦から、じゃないと人は成長しないわ。それと、一尉じゃなくて教官でね」

「はぁ……」

「皆も聞いて。戦車なんてバーッ!と動かしてダーッ!と操作してドンッ!と撃てばいいんだから!!そう考えれば気楽な物でしょ?」

「確かにそうですが……いや、そもそも戦車乗りの基本の動かすことと、戦車道としての戦略を立てることの中間から開始したほうが早いのか?」

 

 まほはそう考える。それに、正直なところ全国大会までそれほど時間がない。これから戦車の乗り方のレクチャーを受け、簡単にでも戦術を立てて、それを覚えなければならない現状からして、下手でもいいから試合勘というものを養った方がいいのかもしれない。

 

「そう言う事。それじゃ、それぞれのスタート地点に向かってね。解散!」

 

 蝶野は、手に持った地図を広げるとそう言った。所々に印が付けられているが、それがスタート地点なのだろう。しかし、ここでもまた大雑把というかなんというか、そんな物を見せてしまうと、最初にどの位置に敵がいるのかを悟られてしまうではないか。とはいえ、そんな事を考えるのは自分の他にはもう一人、いやもしかしたらさらにもう一人いるのかもしれないが、とにかくごく少数しかいないだろう。

 蝶野の一言でそれぞれチームごとに分かれ始めた履修者の面々。愛里寿はそれを見ながら果たしてどう動こうかという事を思案する。だが、それもこれも全ては一度同じ戦車に乗る面々のスペックを見てからでないといけない。それも頭に入れなければ、何事も始まらないのだ。

 

「解散って言われても、戦車の動かし方も分かっていないのになぁ……」

「それはどのチームも同じだよ。でも、私たちはまだましな方だと思う」

「うん!だってこっちには愛里寿がいるし!」

「おだてないでください……」

「愛里寿?」

 

 蝶野は、あやが放った名前に聞き覚えがあった。会ったことはなかったものの、戦車道の関連書籍の中に写真や名前が掲載していた少女だ。先ほどまでは、その低身長から人の陰に隠れてしまっていた物の、それぞれがばらけだした今、ようやくその少女の姿を捉えることができた。確かに、自分が勝手に知っていた少女の顔によく似ている。しかし、蝶野は信じることができなかった。何故ならば、戦車道をよく知っている人間からすれば、それがどのようなことであるのかを理解できたからだ。蝶野は、改めて確認するために、愛里寿に近づいて聞く。

 

「貴方もしかして、島田流の?」

「はい、島田愛里寿です」

「そうなの……だとしたら凄いわねこの学校……」

「教官、島田流って?」

「さっきも西住先輩が西住流って言ってたけど……」

「戦車道には、華道における池坊、小原流、草月流。茶道における表千家、裏千家、武者小路千家みたいにたくさんの流派があるの。いくつかの流派は時代と共にすたれていったけど、それでも現代にまで残っている名門の流派はたくさんあって、中でも二大流派と言われ双璧を成しているのが、西住流と島田流なのよ」

「へぇ……あれ?西住先輩が西住流で、愛里寿が島田流ってことは……」

「そう、つまりこの学校にはその二つの流派の娘、次期家元候補とも言える子たちがいるという事よ」

「へぇ、愛里寿ってなんか戦車の事詳しいなって思ってたけど、名門の娘さんだったんだ」

「言ってませんでしたっけ?」

「言ってなかった……よね?」

「え?どうだろう……そんなこと気にも止めたことなかったし……」

 

 などと、一年生四人がそれぞれに驚いている中、梓は一人保健室で愛里寿と話していた時の事を思い出していた。あの時、自分自身まるで監督のようだと言った愛里寿の≪強くできる自信がない≫という発言。今考えてみると、あれは戦車道という物をよく知っているからこその発言だったのだ。愛里寿がそう考えるのも無理はない。何故なら、西住流である二人を除けば、自分たちは戦車という物に関してはずぶの素人。そんな子たちで構成されたチームを強くする自信、湧いてくる方がおかしい。だが、ここで梓はふと気がつく。強くできる自信がないということは、強くしなければならないという責任感の表出なのではないかと。フィクションの世界でよく見るのだが、俗にいう名門と呼ばれる由緒正しい続柄は、常に勝ち続けなければならない。そのために、多くの苦労があるらしい。そのためには、時に人間らしさを失い、まるでマシンかのようにその分野でのエキスパート性を求められるのだと。特に、アニメや漫画では敵やライバルキャラとしてそのような存在があるが、もしかしたら、愛里寿は勝利という物に縛られているのかもしれない。絶対に勝ち続けなければならない。勝利以外の物には何の価値もない、そう思い込んでいるのかもしれない。これは、考えすぎなのかもしれないがしかし、そうであったとしても自分達と愛里寿の付き合い方が変わるわけではない。彼女が名門の家の子であったとしても、自分たちの友達であることに変わりはないのだから。梓は、愛里寿の手を取ると言う。

 

「西住流でも島田流でも、愛里寿が私たちの友達ってことに変わりはないよ。それよりも戦車の動かし方教えてよ」

「……」

 

 紗希もまた愛里寿の手を取った。というかいたのか紗希。無口であるがゆえに彼女は何かのアクションを起こさなければこちらとしても見つけることができない。先ほどの蝶野が島田流と西住流の事について話している時にも上の空であったようだが、ちゃんと話は聞いていたようで、彼女もまた梓の意見に賛成だそうだ。そして、他の四人もまた……。

 愛里寿は、何となくであるがこのような反応が来るであろうことを予測していた。元々、戦車道を知らない彼女たちにとって、自分達の正体など知ったところでそれほど驚くようなことではないと考えていたから。それに、きっと彼女達だったら自分の正体など関係なしに、友達として付き合ってくれる。そう確信していたから。愛里寿は、6人の友達と共に行く。7人目の友達の元に……。




 次回からこの小説初めての戦車戦が開始予定となります。自分自身どうなるのかがとても不安というかなんというか……とりあえず頑張ります。
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