ガールズ&パンツァー バタフライエフェクト   作:牢吏川波実

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 因みに、他の投稿作品のアクセス解析を見たらわかりますが、私の小説はどうやら話が進めば進むほど人を選ぶようになって、どんどんと読者が減っていく方向にあるようなので、この小説の読者の方々も注意してください。

※タイトルナンバー重複のため修正。


1-6 羨望

 瞬く間に終わった戦車道についてのプロモーションビデオ。どう考えても他の選択科目のことを置き去りにしたもので、彼女たちが必死で戦車道に人を集めたいという事がありありと伝わってくるようなクオリティで逆に驚いた。

 煙が晴れて、体育館の灯りがともり始めるころ、『必修選択科目履修届』と書かれた紙が、プロジェクターで大きく映し出された。そこには、一番上にでかでかと戦車道と書かれており、その下に小さく茶道、書道、合気道、華道、弓道、仙道、香道、長刀道、忍道と書かれているという、あまりにも戦車道の自己主張の強いものが映し出されていた。

 

「みほ、大丈夫?」

「うん……ありがとう、五十鈴さん」

「いえ、どういたしまして」

 

 まほは、明るくなったタイミングを見てみほに話しかけた。本来なら、先ほど様子がおかしくなった時に話しかけたかったが、みほと自分の間にいる愛里寿に迷惑をかけるわけにはいかなかったため話しかけることができなかった。しかし、どうやらさらに向こう側にいた五十鈴華がみほの手を握って落ち着かせてくれていたようだ。

 一見して大したことのないように思えるこの行動だが、精神的に落ち込んだ時や、相手を元気つけたいときにボディタッチという物は素晴らしいほどの効果をもたらしてくれるのだ。よく、母親が子供の手を握っているという行動をよく見るが、あれは子供が迷子にならないためという事の他に、そうすることで母親の暖かさに直に触れることで子どもに無意識に安心感を与えるためであると言われている。まぁ、使い方を間違えると人生を崩壊させる原因にもなりうる諸刃の剣ともいえるのだが……。

 ともかく、まほは華に感謝しかなかった。因みに、さらにその向こう側にいる沙織はというとだが。

 

「はぁ……」

 

 顔のゆるみから察するにすっかりと戦車道に魅了されているように見える。

 ともかく、まほは愛里寿と場所を交代してもらった直後、またも生徒会三人衆が前に出てきて話を始める。

 

「実は、数年後に戦車道の世界大会が日本で開催されることとなった。そのため、文科省から全国の高校、大学に戦車道に力を入れるよう要請があったのだ」

 

 なるほど、確かに自分も母から戦車道の世界大会開催の話を聞かされた。その時に西住流として選抜されるように精進するようにとも。

 戦車道は、それなりに歴史のある武道であるが、知名度で言うと華道や茶道には今一歩劣っている。そのため高校、大学で戦車道を推進することで、近くにある戦車道世界大会に向けて熱意向上を図ろうとしていると考えるべきだろうか。

 ともかく、あの生徒会の話から察するに、どうやらどの学校に行ったとしても自分とみほ、それから愛里寿は戦車道から逃れることができなかったのかもしれない。少なくとも脅迫まがいのように勧誘を受けることもなかっただろうが。

 

「んで、うちの学校も戦車道を復活させるからねぇ、選択すると色々特典を与えちゃおうと思うだ。副会長」

 

 と言われて、隣のポニーテールの少女が反応した。あの眼鏡をかけたほうが副会長だと思っていたため、少々驚いてしまう。

 

「成績優秀者には食堂の食券百枚、遅刻見逃し二百日、さらに通常授業の三倍の単位を与えます!」

 

 瞬間、館内はざわついた。流石のまほであっても、そのような特別待遇は聞いたことがなかったので驚いた。

 

「そんなに……何故彼女たちはそこまでして戦車道履修者を集めようとする……いくら世界大会が近いと言っても、これは異常だぞ」

「うん、ただでさえ戦車道は黒森峰やグロリアーナ女学院みたいなより名門の学校が沢山ある。こんな無名校から人をかき集めても意味ないんじゃ……」

 

 何をそこまで必死になることがあるのだろうか。それにこの特典の数、生徒会が用意できる範疇から逸脱している。学校側も協力しているには違いはないが、ここまで大きな特典を付与させるなど、学校側が何を考えているのか理解できなかった。

 

「と、いう事でよろしく~」

 

 かくして、必修選択科目のオリエンテーション、というより戦車道の紹介は終了した。 体育館の中はまだ喧騒が支配しており、自分から外に出ようとしている者はいなかったため、みほたちが外に出るのは容易かった。

 戦車道を知っている者、知らない者をも巻き込んでそれぞれに衝撃を与えるようなプレゼンテーションだったのだから、あそこまで騒ぎ立てるのは当然であろう。

 後ろから見ても彼女たちの戦略がズバリとはまったことは目に見えていた。あと、ここにも一人あからさまにその術中にはまった人間がいる。

 

「私、戦車道履修する!」

「……」

 

 沙織である。

 

「最近の男子は、強くて頼れる女の子が好きなんだって!それに、戦車道やったらモテモテなんでしょ?」

「「……」」

 

 確かに彼女の言う通り自分たちはモテモテだったと言えよう。ラブレターもたくさん受け取った。……女子から。

 おそらくだが、戦車道をしたからと言って、異性からモテるようになるという事は必ずしも言えないだろう。むしろ、自分とおなじ女性であるというのに、重厚で迫力のある物を動かしているという憧れや、尊敬と言った意味合いから女性にモテるということは考えられることだ。

 

「みほとまほさんもやろうよ!家元でしょ!」

 

 しかし、二人は答えなかった。代わりと言っては何だが、その沙織からのお誘いに華が代わりに応えてくれた。

 

「沙織さん、お二人にはお二人の事情があるのですから、無理強いさせるのは申し訳ないです」

「え、そう?」

 

 正直なところ、華は先ほどのプレゼンを見て戦車道を履修したいと心の中で思った。しかし、それでいて先ほどのみほの手を握った感覚が忘れられないでいた。

 戦車を見た瞬間に震え始めた手、虚ろになる眼、沸騰したヤカンのように噴き出した汗、それらが彼女が戦車道という物に対して、戦車という物に対してトラウマを感じているという事を示していた。

 自分は、戦車道には疎いもののルールも厳格に決められており、安全に十分配慮したもので、大きなケガをするような人間が出ることはないという事を知っている。だが、みほのその身体が、自分の記憶と矛盾していることをありありと示していた。果たして、安全なはずの戦車道でみほの足が動かなくなったほどの出来事とは何なのだろう。彼女の心に傷をつけたのは何なのだろうか。

 華は、彼女は戦車を避ける理由を知らなければ、戦車道を履修する気にも、履修する資格すらもないと思っていた。

 そういえば、みほは戦車道の試合で足が動かなくなったと話していた。練習中ならともかく、試合中の出来事が原因であるというのなら今の時代、ネットでいくつかのサイトの文献を探れば出てくるだろうか。それに、彼女の家も自分の家と同じく、その道の流派の名門であるらしいため、名前で検索すれば出てくるのかもしれな。友達の過去を暴き立てるようで少し後ろ髪を引かれるが、しかしそれを知らなければみほの友達を続ける資格はないように思えた。そう思ったのだ。

 

 

 そんな体育館から帰り際の五人の姿を少し後ろの柱の影から見ている少女がいた。

 

「や、やはりあれは黒森峰女学園の西住みほ殿とまほ殿です。……それからあの銀髪の方もどこかで見たことが……」

 

 少女は筋金入りの戦車マニアであった。無論、戦車道の事も雑誌や実際の試合をテレビで観戦したりもしていた。自分もその雑誌に載っている少女たちのように戦車を乗り回したい。そう思っていたが、この大洗には何年も前から戦車道が廃止になり、戦車が置いていないためその夢は叶わなかった。ただ、それで戦車道のある学校に転校しようと思わないところが、彼女が親孝行ものであることを表しているのかもしれない。

 そんなあこがれの存在であり、高嶺の花であっただけの戦車道。しかし、そんな自分に対して思いもよらないニュースが舞い込んできた。

 

『西住姉妹が、大洗学園に転校してくる』

 

 彼女は、そのことに対して最初は大いに喜んだ。何故なら、彼女にとって戦車道名門校の黒森峰女学園の西住姉妹は憧れの存在であった。中でも、西住みほの事は、ある試合を見た時から、羨望の眼差しを送っていたほどだ。だが、その試合を見ていたからこそ、彼女は二人に会いに行くのを躊躇してしまった。体育館から出て行く彼女たちの背中を見て、声をかけようと追いかけてもこのざまである。

 あの試合、自分が西住みほにあこがれを持ったきっかけとなった試合。しかし、それは同時に、彼女に、彼女たちにとっては思い返したくないほどの苦い記憶のはずである。あんなことがあったのだから当然だ。何の関係もない自分が思い出してみても、胃がキリキリと痛み始めるほど。

 確かに、あれは人間としては正しかったのかもしれない。しかし、結果的にそれは美談となって昇華されて、多くの人の心の中に残されることとなってしまった。彼女は、そんな世間の評価の事をどう思っているのだろうか。自分は、そんな彼女に対して戦車の事も関係なしに付き合うことができるのだろうか。はっきりと言おう。彼女には、そんな自信一欠けらもなかった。だから、彼女はその美談の証としてみほが座っている車椅子を遠目から見るしかなかったのだ。それは、彼女の心が弱すぎたからではない。彼女の知識が膨大であったからこそ起こるすれ違いであった。

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