ガールズ&パンツァー バタフライエフェクト   作:牢吏川波実

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 お気づきなのかもしれませんが、この小説には複数個の問題点があります。今回、その中の一つを緩和させるために当初の想定になかったあるキャラを引っ張り出します。多分、ふざけんなって言われる可能性がありますが……。


1-8 懸念

 まほたちが、自分たちの行く先を決めていたそのころ、一人島田愛里寿は悩みうなされていた。

 

「うぅ……」

 

 保健室で。いまだに大洗での生活に慣れることのない愛里寿は、今日も今日とて気分を害してしまったのだ。気分が悪くなるというのは昨日と同じではある物の今日のそれは一段と酷い。やはり、この悩み事がストレスとなってしまっているのかもしれない。

 みほたちは、同じ学年で一緒に悩んでくれるような友達がいたため、幾分かはましではあったが、愛里寿はまだ友達も作れていないため簡単に相談できるような人間がいなかった。それに、みほが戦車道にトラウマを持っていることも、その理由も知っているためこれ以上みほに負担をかけたくはないから彼女たちに相談するのもはばかられる。そのため、一人で自分の行く先を決めなければならない。

 昨晩、彼女は実家に連絡を入れた。大洗学園で戦車道が復活するということ、自分が戦車道の授業を取るか悩んでいるという事。それを、母に相談した。そして、母からの返事はやはり、自分で決めろという物だった。だからこそ、彼女は悩んでいた。そんな時、保健室の扉を開く音が聞こえる。養護教諭が帰ってきたのだろうか。

 

「愛里寿、気分どう?」

「えっと……澤さん」

「梓でいいよ。年は違っても同じ学年でしょ」

 

 保健室に来たのは、教室で自分の隣の席で授業を受けていた澤梓だった。もともと、愛里寿の異変に二日連続で気づいて、保健室に行くように促したのは彼女であった。そういえば、もう休み時間だったか、時計を見るような余裕など彼女にはなかったため、そこまで時間が経っていることに若干の驚きを感じる。

 

「……うん」

 

 名前で呼んでいい。その梓の提案に対して彼女はそう小さく返答した。だが、彼女にそう言われたものの、愛里寿は名前を呼ぶという事になれていなかった。ここまで自分に対して笑顔を向けて、同じ目線で話くてくれる人間にそうそう会えて来なかったことも災いしているのだろうか。この大洗で生活するうちに、徐々にこの感覚に慣れていくだろうとは思うのだが、すぐに愛称で呼び合う仲になる人間が現れるとは思えなかった。

 

「あ、そうだ……」

 

 そう言いながら、梓はスカートについているポケットの中から折りたたまれた紙を取り出した。それは、今まさに自分が行先を迷っている必修選択科目の選択用紙であった。梓の紙にはすでに、戦車道の項目に〇が付けられていた。

 

「愛里寿はどれにしたの?」

「え?……えっと、まだ決めてません……」

「そうなんだ……それじゃあ、私達と一緒に戦車道取らない?他にも何人か戦車道を取るつもりの人がいるの」

「え?でも……」

「でも?」

「……正直強くできる自信がありません」

 

 一見して、みほのように戦車にトラウマがなく、母から許可のような物も取れたため愛里寿が戦車道を履修するにあたっての障害はないように思える。しかし、一番の問題は素人ばかりが来るであろう戦車道履修者の生徒たちを強くできる自信が皆無なのだ。

 確かに彼女は島田流の後継者として、門下生に交じって戦車に乗っていた、母に代わって指揮を執った経験も多分にある。だからと言って、まるっきりの素人を相手にしたことなんて全くと言っていいほどない。野球で例えれば、リトルリーグにプロのキャッチャーが一人混じるような物か。それで強いチームを作れるほど戦車道は甘くない。だからこそ愛里寿は迷っていたのだが、その答えに対して梓は笑いながら言った。

 

「なにそれ、愛里寿まるで監督みたい」

「え?」

「強くなるとか、強くするとか……そう言うのの前に私は、なんだかおもしろそうだなって思って戦車道を選んだの」

「面白そう?」

「うん、私も最初は華道を取ろうかなって思ってた……でも、なんていうのかな……昨日のオリエンテーションの映像を見ていると、ちょっと怖いけど、でも興味ができたっていうか……」

「……」

「確かに、ちょっと生徒会の人達が胡散臭かったけれど……戦車道の授業を取るのも……楽しそうかなって」

「楽しそう……」

 

 面白そうだから、楽しそうだから、そんな気持ち考えたこともなかった。自分にとって戦車を操るという事は、もはや義務であり、勝つことが絶対だった自分にとって、楽しい、面白いという感情が湧いたことはなかった。

 コロンブスの卵的な発想とはこのことなのだろう。愛里寿にとって梓の言った言葉は、自分の今までの戦車道の概念を超えたものだったと言えるだろう。なにも、勝とうと思わなくてもいい。実家の時のように勝ちにこだわるのではなく、ただ楽しく戦車道をすればいい。そんな戦車道をしたことがなかったら、思い付かなかっただけで、至極当然なこと。愛里寿は、そんな戦車道もいいかなと思った。

 

「そうだよね……楽しく、戦車道ができれば……それも悪くないかも」

「愛里寿?」

「うん、大丈夫。私も、戦車道履修することに決めたから」

「本当、よかった」

「よかった?」

「うん……愛里寿と友達になれるきっかけができたもの」

「友……達……」

「うん!」

 

 友達。いい響きである。今まで自分に友達という物ができた記憶がない。名門の家に生まれた天才というのは、みな孤独なのだ。家柄という物のために、人生のレールを轢かれて、夢はもちろん結婚相手を親に勝手に決められることもある。そして何よりも周りの人間が家柄に委縮してしまい、英才教育によってさまざまな面で天才と評された愛里寿には、友達を作るチャンスすらもなかった。西住姉妹のように姉妹がいたら、まだ幾分かはマシだったのかもしれないが、それがない彼女には、その孤独感で言えば彼女達以上であろう。だからこそ……。

 

「友達……友達になってくれるの?」

「もちろんだよ、愛里寿」

「友達……ありがとう澤さん」

「じゃなくって」

「……うん、梓」

 

 この時感じた一生モノの暖かな心は、二度と忘れることはないだろう。

 

 

 

「思ったより集まりませんでしたね」

「十七人です。私達を入れて二十人」

 

 放課後、生徒会室にて集合した生徒会三人衆は、生徒から集められた履修選択の用紙を眺めていた。全部合わせて十七枚、自分達三人を合わせても二十人。これは、確実に少ないと言えようか。あれだけの特典を付けた上に、非人道的なことも行って履修者を集めては見たものの、ふたを開けてみればこの人数である。この大洗学園の全生徒の数から割ると、かなり少数なのだ。恐らく、特典を大量に付けたがために警戒されたり、怪しまれてしまったという事もあるのかもしれない。だが、この人数は彼女たちのある懸念事項をも左右してしまう。

 自分たちが出る予定である戦車道全国大会の公式ルールでは、参加できる車輛は、一回戦から準々決勝までは十輌、準決勝は十五輌、決勝は二十輌。さらに、最低参加車輛数は五輌である。調べたところ、自分たちが見つけた戦車は乗員四名である。まだ、他の戦車を見つけてもいないが、これを基準とするならば二十人はギリギリの数字と言えよう。欲を言えば、あともう十人程は欲しかったというのが、彼女たちの希望的観測だった。

 

「まっ何とかなるでしょ」

 

 だが、まだ出られないと決まったわけじゃない。最悪、三人乗りの戦車が五台あれば、15人で事足りるのだ。二人乗りの小さな戦車が複数あればなおいい。杏のある知り合いのいる学校では、二人乗りの小さな戦車が九割ほどで、大きな戦車は数えるぐらいしか(数えられなかったらそれはそれで問題があるのだが)ない状況でも戦車道をしているというのだから、いざとなったら彼女たちをまねるぐらいのことはできるかもしれない。

 人数の問題については一応何とかなる。そう杏は思っていた。しかし、今彼女の目の前にいる二人はさらにもう一つの問題について頭を抱えていた。

 

「しかし、もう一つ懸念事項があります」

「西住みほさん、彼女に戦車道を選択してもらえませんでした……」

 

 西住みほ。昨日オリエンテーション前に杏自らスカウトしに行った少女。戦車に疎い彼女たちにとって、前の学校で戦車道をたしなんでいた西住流家元の娘である西住みほの加入は、今後戦い抜くにおいては重要なメンバーであった。だが、自分たちが彼女に交渉しに行ったときにはいい返事をもらうことができなかった。無理もない、自分の足が動かなくなった原因の一端である戦車道というトラウマを引き出してしまったのだから。聞くところによると、その後の授業では彼女は体調不良のために保健室に向かったのだとか。

 

「どうしますか?いっそのこと、彼女を呼び出して……」

「いいんじゃないそんなことしなくても?」

「ですが……」

「姉ちゃんと、島田ちゃんは履修してくれるんでしょ?なら、それでもういいじゃん」

「……」

 

 確かに、戦車道経験者三名が履修するという一番理想的な目標は達成できなかったものの、みほの姉である西住まほ、島田流家元の娘である島田愛里寿は引き入れることができた。普通の学校なら十分すぎるほどの戦力である。

 

「それにさ……」

「それに?」

「いや、まっこれもこれで結果オーライ」

「……分かりました」

 

 みほの一件はこれで終わりとして残る問題、というよりも現在の所議論しなければいけないようなことは残り一つ。それが、名前だけ書かれてどこにも〇のついていない一枚の用紙。

 

「最後に……この少女はどうしますか?」

「あぁ、この子ね……」

 

 〇のついていない。それだけでは記載不備という事になるのだが、実はこの用紙の一番下には小さく※2、※3と表記して注意事項が書かれているのだ。注意事項は以下の通り。

※2希望がない生徒は自動的に「戦車道」の選択になる。

※3記載不備、または提出期限を守れなかった生徒は「戦車道」の選択になる

 因みに※1は戦車道選択に当たっての特典についてである。この注意事項から判断するに彼女は戦車道履修という事になるのだが、実際にその注意事項に当てはまる生徒が現れると困る物だ。

 この学園の生徒は全員がまじめな人間であることを彼女は自信を持って言える。しかし、もしも、この少女が冷やかしとして無記載で出した場合という事も考えると、戦車道履修者のモチベーションにも影響を及ぼす恐れがある。

 

「まっ、ちょっくらその子の所に行ってくるわ。河嶋、後のこと頼んだ」

「分かりました」

 

 正直一握りを除いて素人ばかりが集まることが確定的である戦車道において、モチベーションやらなんやらというのは無関係な気もするが、それでも一応どんな人物であるのかだけは確認しておきたい。杏は、そう思って生徒会室の扉を開き、件の少女の下へと向かった。

 そして次の日、その少女は集合場所に姿を見せなかった。




 杏から桃への呼び名って『河嶋』か『かぁしま』か『かーしま』のどれかだと思うのだが……。
 ところで活動報告にてそれほど重要じゃないお知らせがのっておりますので見といてください。
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