ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか 作:日本人
2018年6月23日 結構な加筆修正。今更ながらに書き忘れていたことを追加しました。
「あ、ベル君」
「おはようございます、エイナさん」
宴会から数日後、僕はギルドを訪れていた。理由としては言わずもがな、義指の試運転である。なんだかんだでダンジョンに入るのを禁止されてしまった僕はロキ様に何とか交渉し、条件付きでダンジョンに入る事を許してもらったのだが────
「⋯⋯彼女達がお目付け役?」
「⋯⋯はい」
「やっほー!こんにちわー!」
「⋯⋯どうも」
────僕の後ろにはまさかの第一級冒険者のティオナ・ヒュリテさん、そしてLv3のレフィーヤ・ウィリディスさんが立っていた。しかも僕の監視役として。
────ロキ様、いくら何でも過剰すぎでしょう⋯⋯!
ロキ様曰く、「こうでもしないとまた死にかけそうで怖いんや」との事だ。
いや、いくら僕でも数日おきに死にかけるわけないじゃないですか⋯⋯。
まぁ、そんなこんなでたまたま暇だったお二人方が僕のお目付け役として選ばれたらしい。まぁ、レフィーヤさんなんかはものすごく嫌そうな顔をしていたのだが⋯⋯、やっぱりエルフだから男と関わるのが嫌なのかな?元々彼女らの種族は潔癖症な人が多いし。
「(不潔です不潔です不潔です不潔です不潔です不潔です不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔!!!!)」
ちなみにベル本人は全く覚えていないのだが宴会での事、
『おーいベルたーん!飲んどるかー!』
『はい、飲んでますよロキ様』
『かーー!ベルたん全然飲んでへんやろ!ほらほら、もっと飲みーや!!どうせなら潰れるまで飲んでもらうでーー!!』
『それは少し困りますね⋯』
『ほえ?なんでや?』
ここでベル、無言でロキに近寄り抱き寄せる。(それと同時に周りが湧く)
『べ、べべべべベベルたんっ!?』
『こうして、貴女を抱き締めることも出来ないでしょう?』
唐突にロキの耳に舌を這わせ、息を吹きかけるベル。
『べ、ベルたんアカンって!?っふぁ、そこ⋯⋯ダメ⋯⋯っ!?』
『ふふっ、耳が弱いんですね?ならもっと⋯⋯』
『何やってるんですか貴方はーーーーー!!!?』
ズゴンッ、とレフィーヤが奮った杖でぶん殴られ鈍い音を立てて吹っ飛ぶベル。完全に気絶していた。周囲の人間は男衆はフィンとガレスを除いて全員が前屈みになり、女性達は(主にエルフ。アマゾネス除く)顔を真っ赤に染めていた。その後、ベルは起きたのだが、酔っていたのかロキに何をしたのかを全く覚えてなかったのだ。当然、しばらくロキ・ファミリアの女性陣としばらく気まずくなったのは言うまでもない。ロキに至ってはベルを見ただけで顔を真っ赤にして逃げ出すレベルだった。(当然の如く、禁酒を言い渡された)まぁ、こんな事があったせいでレフィーヤのベルへの評価はただの変態といったランクまで落ちているのである。当然、ベルは知る由もない。
「⋯⋯とりあえず、無茶はしないでね?」
「大丈夫ですよ、あくまでも軽い肩慣らしなので」
「⋯⋯それでも、だよ」
沈痛そうな面持ちでそう言うエイナさん。⋯⋯ギルドの受付嬢をしているのだ、恐らく過去に担当冒険者が死亡する事もあったのだろう。彼らに僕を重ねているのかもしれない。
「大丈夫ですよ、エイナさん」
「?」
僕は柔らかく微笑みかける。
「────必ず、生きて帰ってきますから」
「────っ!」
何故か顔を真っ赤にして顔を逸らすエイナさん。それと同時に後方からの重圧が増す。何故に?
「さて、そんな訳で十階層まで来た訳ですけど」
「ねー、ベルくーん!何やるのー?」
「⋯⋯⋯⋯不潔((ボソ」
「ん?なんか言ったレフィーヤ?」
「いえ、何でもありません」
「⋯⋯⋯とりあえず今回は依頼して作ってもらった義指の効果の確認ですね」
そう、今回の目的は以前、ディアンケヒト様から受け取った義手一式を試す目的でダンジョンを訪れたのである。まぁ、試すと言っても今回はあくまで雑魚相手だから格上に通じるかはわからないが。
「とりあえずモンスターが寄ってきましたし、始めましょうか」
僕がそう言うと、2人とも自身の得物を構える。やがて、霧の奥からオークやインプ、キラーアント達が姿を現す。
「とりあえずティオナさんはレフィーヤさんの護衛を。危なくなったら援護お願いします」
「りょーかーい!」
「⋯⋯チッ、わかりました」
⋯⋯舌打ちが聞こえたのは気のせいだと思いたい。てかそんなに嫌われてるの僕⋯⋯?考え事をしているとインプが飛びかかってきたのでとりあえず
「さ、始めようか」
そうして僕達はモンスターの群れと激突した────
────ダンジョン深層域
「⋯⋯⋯こんな所か」
ダンジョンの奥深くの深層域、そこには漆黒の皮膚に覆われた黒いモンスター────ブラックライノスとオラリオ最強、フレイヤ・ファミリアのオッタルが対峙していた。いや、対峙というのは語弊がある。そこでは息も絶え絶えなブラックライノスを無傷のオッタルが見下ろしていた。
「あの方の為、役立ってもらうぞ」
それだけ言ってオッタルはブラックライノスに手を伸ばした────
「よっ、と!」
「ギィ!?」
僕は銀爪で先頭のインプを引き裂き、そのままモンスター達の中心部に入り込む。周りは全て敵、敵、敵、見渡す限りの魔物の群れ。本来ならば死を覚悟する様な場面であるが────生憎、こちらには本物の〝魔物〟がいるのだ。まぁ、早い話────
「ちょいさーー!!」
「「「「ギャアアアアアアア!!??」」」」
────相手にならない。ウルガを一閃し、複数の魔物をあっさりと薙ぎ払うティオナさん。レフィーヤさんは後方で待機している。モンスター達は今の一撃で二割がその命を散らした。流石に任せっきりという訳にもいかないので、
「『これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮』」
殲滅する。
「『
詠唱と共に飛び出した紅蓮はモンスター達を焼き尽くす。あちこちで断末魔の悲鳴が挙がり、肉の焦げる嫌な臭いが漂う。⋯⋯あ、でもオークはなんか美味しそうな匂いだな?豚だからかな?
「んー、まぁこれくらいでいいかな」
残ったのはオーク一体とインプ四匹。実験には丁度いいくらいの数だ。あ、なんか逃げようとしてる。
「ティオナさん!逃がさないようにしてください!」
「はいはーい♪」
ティオナさんはオークの後ろに周り、モンスター達を逃がさないようにしてくれている。
「レフィーヤさんは周囲の警戒を!」
「⋯⋯わかりました」
さて、お膳立ては整ったし、
「始めようか」
僕は銀閃を腕に取り付け、インプの内一匹に狙いを定める。
「撃ち抜け、銀の流星」
その言葉と共に五つ銀閃の先端から矢が射出される。矢は回転しながらそれぞれ四体のインプの頭部に突き刺さり、そのままぶち抜く、というか爆散させる。残りの一本はオークの足に突き刺さって動きを止める。
⋯⋯⋯えぇ⋯⋯これは⋯⋯⋯。
いやなんだよ矢で頭爆散って、こんなもんレベル1相当の奴に使うやつじゃないでしょう⋯てか命中精度高すぎでしょ、何で狙った所に寸分違わず飛んでいくんですか
なんちゅうもん作っていやがるんですかディアンケヒト様達。
⋯⋯おっといけない、吃驚して軽くパニックになってた。さて、
「次に行きましょうか」
僕は銀砲に換装し、それをオークに向ける。
「破砕せよ、銀の焔」
銀砲の先端をオークの土手っ腹にぶち込み、銀砲を起動させる。
────瞬間、オークの身体がボコボコッと膨れ上がる。ただし、主に背中部分が。
「え、ちょ」
なにか聞こえた気がするがもう止まらない。
────轟音────
「うひゃあっ!?」
「っっぅ!!?」
「ぐっ⋯⋯ぁ」
轟音と共にオークは背中から爆散し、僕らは轟音のせいで思い切り耳を痛めた。というか僕の場合完全に鼓膜が破れてる。耳から血が流れているのがその証拠だ。⋯これ、回復薬で治るのかな⋯?
「────!────────!」
ティオナさんが何か言ってるが何を言ってるのかさっぱり────うわぁ⋯⋯オークの残骸全身に浴びちゃっているよ⋯⋯⋯。うんごめんなさい。流石に僕も予想外でした。とりあえずディアンケヒト様達は後でシバく。僕は回復薬を耳に突っ込んで鼓膜を回復させる。うん、何とか聞こえるな。
「ちょっとベルーー!?何アレ!?心臓止まるかと思ったんだけど!?」
「文句は僕じゃなくて製作者に言ってくださいよ!僕だって予想外過ぎますよ!?」
新武装が2つ共爆散特化型とか誰も思わないでしょ!?
「あ、そう言えばレフィーヤさんは⋯⋯」
僕らが揃って後ろを向く。そこには⋯⋯まぁ乙女として色々駄目になった状態のレフィーヤさんが気絶して倒れていた。
「レ、レフィーヤ(さん)ーーーーーー!?」
当然この後めちゃくちゃ謝った。
「そういやベル君っていつまでソロのままなの?」
帰り、ギルドのシャワーで汚れを落としたティオナさんがそんな事を聞いてくる。うーん、考えて無かったな。
「流石にサポーターくらいは雇おうとは思ってるんですけどね⋯⋯なかなか見つからないと言うか」
僕がミノタウロスを倒した事はギルドが箝口令を敷いて秘匿している。他のレベル1に悪影響が出たら困るらしい。たしか『タケミカヅチ・ファミリア』の人達が倒した事になっているハズだ。あの後謝罪しに行ったけど逆に謝られた。曰く、「結局助けに来たのだからお相子、自分らもお前を見捨てて逃げたのだから変わりない」だそうだ。良くも悪くもクソ真面目な神だったなぁタケミカヅチ様は。まぁそんな訳で、ロキ・ファミリアという以外に何も無い僕に好き好んで自分を売り込むサポーターなど居らず、僕は未だにソロをやっている訳だ。⋯⋯この右腕もその一因ではあるのだろうが。
「ふーん、そっか。じゃあ帰ろっか!」
ティオナさんはそれだけ言うと僕の手を引き、ホームまで走り始める。⋯⋯ティオナさんが全力疾走するもんだから僕はティオナさんに引っ張られながら空中を舞い、レフィーヤさんはいつの間にかおいてけぼりを食らうのだった。
────翌日、僕は一人でギルドを訪れていた。あの後、ディアンケヒト様達に改良型の製作を依頼してからホームに帰った。ディアンケヒト様達は早速義指の改良に取り掛かっているようだ。僕は昨日ティオナさんに言われた事を思い返していた。
「(サポーターかぁ⋯⋯)」
「────サン」
サポーター────その名の通り冒険者の支援を生業とする冒険者で、主に魔石やドロップアイテムの回収。後方からの援護などが役目だ。ぶっちゃけ彼らがいるかいないかで冒険の効率は段違いだ。いい加減僕としてもサポーターを仲間に加えたいのだが、
「(そう簡単にはいかないよなぁ⋯⋯)」
「────ぃさん」
サポーターは冒険者だった者達。そう、
「(どこかにサポーターが落ちてたり⋯⋯しないよなぁ⋯⋯)」
「────お兄さんッ!!」
「ん?」
叫び声が聞こえ、視線を下に向けると馬鹿でかいバックパックを背負った、どこかで見た少女が僕の袖を掴んでいる。
「ごめんごめん、考え事をしてたから気付かなかったよ(この子⋯⋯どこかで見たような)」
「うぅ~~~さっきからずっと話しかけてましたよぉ」
「ごめんね、それで、何か用かな?」
「あ、そうですね。それでは────」
コホンっと佇まいを直す少女。
「────お兄さん、サポーターを雇いませんか?」
────これが、僕と、リリルカ・アーデの出会いだった。
────オラリオ とある路地裏
「はぁ⋯⋯⋯」
とある住宅地の片隅。へスティアは溜息を吐きながらトボトボと歩いていた。
「今日もダメだったなぁ⋯⋯」
彼女には眷属がいない。ロキやフレイヤなど最初期の頃からいた神と違って、へスティアが地上に降臨したのはかなり遅かった。最初の眷属集めで躓き、そのまま出来ないままズルズルと引きずり、その結果がこれである。
バイト無しには生活にも困るその姿は、とても神には見えなかった。肩を落として、
やがて、廃教会に辿り着いた時、ヘスティアは異変に気づいた。
「扉が⋯⋯開いてる?」
朝、家を出た時には閉まっていたはずの扉が少し空いているのだ。間違っても閉め忘れたとかはありえない。
まさか盗人かと、戦々恐々としながらゆっくりと扉を開く。すると中には────
「くぅ⋯⋯すぅ⋯⋯」
「⋯⋯⋯はい?」
小柄な茶髪の少女が、ベッドに横になって寝ていた。一瞬思考が固まり、呆然となるがすぐにハッとなるヘスティア。そして意を決した風に、思いっきり息を吸い込み、
「コラーーーーー!!!!何してるんだーーー!!!!」
廃教会が軋むレベルの大声量。寧ろ今にも崩れ落ちそうになっている。
「ふひゃぁっ!?ご、ごごごごめんなさいっ!?」
ヘスティアの大声に飛び起きる少女。眼前には仁王立ちのヘスティアがいる。ヘスティアは威圧感たっぷりに話し始めた。
「それで、君は何者だい?何が目的なんだい?まさか盗人じゃないだろうね」
焦った様に顔の前で手をブンブンふる少女。違う!と必死に否定する。
「ち、違うんですよ!?こ、これには深い訳がっ⋯!?」
「今の状況を五行で説明すると?」
「ファミリアに
入ろうと思ったら
どこも門前払い
仕方ないので
休んでました」
「ふんふんなるほど⋯⋯⋯ファミリア?」
聞き捨てならない一言が聞こえたので思わず聞き返す。
「君は冒険者になりにオラリオに来たのかい?」
「は、はい!」
「で、他のファミリアからは門前払いされた、と」
「は、はい⋯⋯。お前みたいなガキが来るところじゃない⋯⋯って」
(⋯⋯これは千載一遇の好気!見逃す手は無いね!)
その時、ヘスティアの唇がニヤリと歪んだことに少女は気づかなかった。
「ならボクのファミリアに入らないかい?」
「え!?か、神様だったんですか!?てかファミリアに!?良いんですか!!?」
「勿論さ!ボクは大歓迎だよ!」
「ぜ、是非お願いします!!」
────ヘスティア・ファミリア結成。
この少女はかの白兎の関係者なのだが⋯⋯⋯それは別の話。