ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか 作:日本人
「────サポーター⋯?僕に?」
「はい、どうですか?」
僕は目の前の少女────ソーマ・ファミリアリリルカ・アーデと名乗った彼女の提案に困惑していた。当然だ。僕みたいな実績の無い新人冒険者とサポーター契約を結ぶ理由もメリットも無いのだから。それなのに目の前の彼女は僕に契約を持ちかけてきた。困惑しているとリリルカさんはクスリと笑う。
「もしかしてご存知ないんですか?御自分の噂。」
「⋯⋯⋯噂?」
噂になるような事はしてない筈だけど⋯⋯。
「はい。曰く、笑いながらゴブリンを素手で引き裂いていた。曰く、オークの首を捩じ切った。曰く、十階層で大量のモンスターを撫で斬りにしたなどなど話題には困らないくらいですよ?」
⋯⋯どうやら知らず知らずのうちにやりすぎていたらしい。
「なんでそれだけで僕だと?」
「変わった義手を付けた白髪紅眼の隻眼の冒険者なんてお兄さんしかいませんよ」
⋯⋯たしかにそうだろうな。ていうか僕以外にそんな人がいたら引く。
「そんな訳でリリをサポーターとして雇って欲しいのですが⋯⋯どうでしょうか?」
「⋯⋯」
僕はしばし黙考する。たしかにメリットはデカい。これまでよりもかなり探索は捗るだろう。が、どうも目の前の少女は胡散臭い。有り体に言えば信用ならない。
「(流石に考え過ぎか⋯⋯?)」
ここで考えていても始まらない。とりあえず僕は彼女の申し出を了承する事にした。
「わかった、よろしく頼むよリリルカさん」
「はい、よろしくお願いします。あ、それと自分の事はリリと呼んでください。その方が慣れていますので」
「僕の名前はベル・クラネル。よろしく、リリ」
こうして僕はサポーターを得ることとなった。
「へーそれでそのサポーターちゃんと契約したの?」
「はい。僕としても望んでいたことでしたし」
翌日、僕は朝、とある
「ふーん。その子って何処のファミリアの子?」
「たしか『ソーマ・ファミリア』だったと思います」
僕がリリの所属ファミリアを告げた途端、一気に渋い顔になる。
「あっちゃあ⋯⋯よりにもよってソーマ・ファミリアのとこかぁ⋯⋯」
「?何か不味いことでもあるんですか?」
「それは────「あまり先入観を与えるものではないぞティオナ」あ、リヴェリア。おはよー」
「おはようございますリヴェリアさん」
「おはよう二人とも。ティオナ、あまりそういった事は感心しないな」
「はーい、すいませーん」
「全くお前は⋯⋯所で聞いていいか?」
「「?」」
「何故、ベルが料理をしている?」
────そう、僕がしている作業とは料理。正確に言えばロキ・ファミリア全員の朝食作りである。元々ロキ・ファミリアはフィンさんとロキ様の意向で全員が一緒に朝食をとることになっている。朝食作りは当番制になっており、前日に今日の当番の人に言って代わってもらったのだ。流石に先輩達にだけこういった雑事を任せるのは心苦しいので買って出た訳である。その事をリヴェリアさんに言うと、
「成程な⋯⋯しかし大丈夫なのか?」
『料理なんて出来るのか』と言いたいらしい。が、もちろん心配は要らない。
「まぁ見ててくださいよ────」
「「「「「「「────美味い⋯⋯⋯!!!!」」」」」」」
朝食時、ロキ・ファミリアの大多数から同様の言葉が放たれる。彼らが口にしているのは僕が作った朝食。至ってシンプルなものではあるがどうやらお気に召したらしい。
「いや凄いでベルたん!まさかこんなに美味いとは⋯⋯!」
「昔ちょっと仕込まれましてね」
まさか〝あの人〟の趣味で教えられたものがこんな所で役に立つとは僕も予想外だった。⋯⋯あの人は元気にしているだろうか。思わず過去を思い返しているとそれを不思議に思ったのかロキ様に話しかけられる。
「ベルたん?どうかしたんか?」
「⋯⋯いえ、なんでもありません」
「そうか?ならええけど⋯」
どうやら心配させてしまったらしい。流石に申し訳くなくなる。
「すいませんロキ様⋯」
「ええよええよ。こんな美味いモン用意してくれてありがとな」
「⋯⋯恐縮です」
本当にロキ様は偉大な神だと思う。高々、一眷属の為にここまで親身になってくれる神などそうそう存在しないだろう。ロキ・ファミリアに優秀な人達がいるのも、彼女の神徳によるものかもしれない。
「ムフフフフ⋯⋯悩ましげなベルたんも可愛いわぁ⋯⋯」
⋯⋯⋯前言を撤回した方がいいかも知れない⋯⋯。
────ロキ・ファミリアでの朝食を終えた僕はリリと合流するべくギルドへ向かった。ギルドの入口付近には既にリリがいた。どうやら待たせてしまった様だ。
「リリ」
「あ、ベル様おはようございます!」
呼びかけると元気に挨拶してくれた。笑顔が可愛らしい。
「おはようリリ。待たせちゃったかな?」
「いえいえ全然そんなことは無いですよ。じゃ、早速行きましょうか」
「そうだね。行こうか」
僕はそう言ってリリを担ぎ上げる。
「へ?」
「行くよ!」
そう言って全速力で走り出す。
「ちょ!?ベルさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」
そのまま僕はダンジョンへと向かった────
「────ふぅ、到着、と」
「到着、じゃないですよ!?」
あの後、ダンジョン十回層に辿り着いた僕はリリから思いっきり文句を言われていた。
「いきなりあんな事するなんて何考えてるんですか!?ていうか明らかにおかしい速度だったんですけど!?ベル様Lv幾つですか!?」
「?1だけど」
「明らかにそれ以上の速度出てましたけど!?」
リリは顔を真っ赤にして叫ぶ。可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「ちょっとベル様!?聞いてるんですか!」
先程から叫び続けるリリ。てかここダンジョンだからそんなに叫んだら、
「!フッ!」
「ふぇ?」
瞬間的に腕を突き出し、リリを背後から襲おうとしていたインプの顔面を貫く。リリはゆっくりと横を向き、死骸と目が合うと高速で後退りする。
「ひぃぃぃぃい!?」
「やっぱり来たか⋯⋯」
数は5、6、7、8⋯⋯まだ増えるなこれは。
「リリ、僕の後ろに」
「は、はいっ!」
さて────
「────殺ろうか?」
「ベル様⋯⋯⋯本当にLv1なんですか⋯⋯?」
「さっきからそう言ってるでしょ?僕は正真正銘Lv1だよ」
「ならなんでこんな異常な量の金額稼げるんですかぁ⋯⋯⋯」
────今日の成果は70万ヴァリス。僕としてはこんなもんだろという感じなのだが⋯⋯、
「こんな額上級冒険者が7、8人のパーティ組んで漸く稼げる様な額ですよ?ベル様色々おかしいですよ⋯⋯」
「それは酷いなぁ⋯」
リリの言った事に思わず苦笑する。あながち間違っていないのがなぁ⋯⋯。それにしてもかなり稼げたのは僥倖だ。義手を上手く使えているというのもあるが⋯⋯やはり思ったより稼げたのはリリの存在が大きいだろう。やはりサポーターというものが大事だと気づいた1日だった。
「あの、ベル様。その、そろそろ報酬の方を⋯⋯」
リリが言いにくそうにもじもじと告げる。まぁ金の事だし言い難いのは仕方ないだろう。だが一瞬彼女の瞳に宿った光を僕は見逃さなかった。それには幾分かの恐怖、そして多大な侮蔑が含まれていた。気になったが流石に本人に確認するわけにもいかず、僕は片方の袋に報酬の1割を入れ自分の懐に。残りをリリに手渡す。
「はい、これがリリの分」
「⋯⋯⋯へ?」
ポカンとするリリ。やがてハッとなると慌てて袋を突き出してくる。
「こ、こんなに受け取れませんよ!?殆ど全部じゃないですか!?」
「あ、いいよいいよ今はそれ程金に困ってないし」
僕自身まだまだオラリオの外で稼いだ宝石類や金がまだ残っているのでそれ程困っていない。正直全額上げても良いくらいだ。
「で、でも⋯⋯」
「う~ん、じゃこうしようか」
「はい?」
「今回の報酬は契約金込、次回以降は普通に半々、って事でいいかな?」
「そ、それでも多過ぎますよ!り、リリはサポーターですよ!?」
「それが?」
「それがって⋯⋯サポーターって言うのは所詮ただの荷物持ちですよ?それに報酬を半額も払うなんて⋯⋯ベル様はおかしいですよ!?」
ややヒステリックに叫ぶリリ。僕としては何故それ程までに自分を卑下するのかがわからない。
「でもその荷物持ちのおかげでこんなに稼げたんだよ?」
「え⋯⋯?」
「僕は自分一人でこんなに稼げただなんて思ってない。
「ベル様⋯⋯」
驚いた顔をしてこちらを見るリリ。そんなに変な事を言ったつもりは無いんだけど⋯⋯まぁいいか。
「じゃあねリリ。また明日」
僕は手を振ってその場を後にした────。
────リリルカ・アーデはサポーターである。なりたくてなった訳では無い。彼女には冒険者の才能が無かったのだ。
『おい!さっさとしろよサポーター!報酬減らすぞ!!』
『はぁ?なんでサポーターごときに報酬なんかやらねぇといけねぇんだよ』
『おいおい約立たずごときが報酬ねだってんじゃねぇよ!』
そんな彼女は搾取される側の人間だった。
口を開けば暴言の嵐。報酬がまともに支払われる事など無く、唯の都合のいい道具として使われる毎日だった。
────リリルカ・アーデは盗人である。
常に彼女を搾取する冒険者。そんな存在を彼女が嫌うのは当然だった。元々盗みも嫌がらせの一環だった。しかし、彼女は盗みの効率の良さに気づく。そんな彼女が盗人になりきるのにそう時間はかからなかった。
────そんなある日、〝彼〟と出会った。
ある日、盗みがバレて盗みを働いた冒険者に暴力を振るわれていた時、彼は現れた。彼は流れるような動きで冒険者をのしてしまった。その時は彼を次の標的としか見ていなかった。
端的に言えば、彼は規格外だった。彼に近づき、上手く契約を、結べたところまでは良かった。が、問題はそこからだ。彼はLv1とは思えない動きでモンスターを叩き潰し、切り裂き、葬った。
不味いと思った。これ程の実力者から盗みを働くのは難しい。彼女は報酬を頂いたらさっさと彼の前から消える事をこの時決めた。
地上に戻り、報酬の話を切り出した。70万ヴァリスという大金を手に入れたは良いものの、どうせ大した額は貰えない。そう思っていた。
────彼は、報酬の大半を自分に渡したのだった。当然彼女は焦った。これはおかしい。たかがサポーターに払う金額では無い、と。少年は不思議そうに言った。
『君のおかげで、これ程まで稼げたんだ』
だから遠慮する事など無い、と。その言葉に呆然としているうちに少年は言ってしまった。『また明日』とだけ言い残して。
────何故だろう。少女は不思議に思った。元々少年の前から居なくなって二度と会わないつもりだった。だけど何故か、二度と彼に会えないと思うと胸の奥がチクリと痛んだ。彼女は、その
「ベル⋯⋯⋯⋯ベル・クラネル⋯⋯⋯」
しっかりと、彼の名を口にする。不思議と、それだけで気分が良くなるのを、彼女は自覚した────