ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか 作:日本人
2018年1月16日 一部加筆修正。
さらに修正
2018年1月17日 ショーP様、報告ありがとうございました。
2018年1月28日 鬼灯 白夜様、報告ありがとうございました。
僕の名前はベル・クラネル。現在14歳。容姿は白髪で紅の隻眼、隻腕と言ったところだろうか。ちなみに、それぞれ欠損部位は左、右だ。冒険者になる為にオラリオに来た僕はロキ・ファミリアの入団試験に合格し、かのオラリオ最強派閥の一角に所属することになった。オラリオに来た主な目的は〝強くなるため〟。僕の説明としてはこんなところだろう。さて、今現在僕が何をしているのかと言うと────
「────すみません、冒険者登録をお願いしたいのですが」
────僕はファミリアの主神であるロキ様の命に従いダンジョンを管理している冒険者ギルドに来ていた。ロキ様曰く、「ダンジョンに潜るなら冒険者登録は必須やでー」との事だ。不敬な事だが神様というより何処にでもいるおっさんといった感じがロキ様からは感じ取れる。
話を戻そう。冒険者登録をする為にギルドを訪れた僕は丁度誰も並んでいなかった受付にいた受付嬢に話し掛けていた。(ちなみにフード付きマントは着用している)エルフ特有の尖った耳に整った美貌、どことなくヒューマンらしさを感じる女性。恐らくハーフエルフだろうと当たりをつけた。彼女は僕を見て訝しんだような表情をする。
「えっと⋯⋯君が?体格からしてまだ十四、五歳だよね?」
「そうですが何か?」
女性の質問の意味が分からず聞き返す。
「あのね、冒険者って言うのは危険と隣り合わせの職業なんだよ?君みたいな子供がやるようなものじゃないんだよ?」
「知ってますけど?」
この女性は何が言いたいんだ?
「ハァ⋯⋯。いい?早い話、君みたいな子供がダンジョンに潜っても犬死するだけだよ。だから冒険者なんかにならないでまともな仕事を探した方がいいよ?」
「これでもロキ・ファミリアの入団試験に合格しているのですが」
「⋯⋯えっ?」
僕がそう言った途端、固まる女性。何事かと思うと突然眉間に皺を寄せてこちらを睨んで来る。
「⋯⋯君、そういう冗談は言わない方がいいよ?只でさえロキ・ファミリアの人達は人気なんだから。ファンの人達に袋叩きにされるよ」
「⋯⋯これが証拠です」
そう言ってロキ・ファミリアのエンブレムが刻まれたバッジを取り出し、女性に見せる。女性は訝しげにエンブレムを手に取り、次第にその表情が驚きに染まっていく。
「嘘⋯⋯本物⋯⋯?」
「偽物だったらこんなところに出しても直ぐに見破られますよ」
女性はしばらく硬直していたが、コホン、と一つ咳をして佇まいを正す。
「失礼しました。ならば氏名、年齢、所属ファミリアの提示をお願いします」
「名前はベル・クラネルで十四歳。所属ファミリアはさっきも言いましたけどロキ・ファミリアです」
「────はい、登録完了しました。お手数ですが、最後の確認をさせていただきます」
「はい、お願いします」
「では────冒険者は危険で、命を落とす可能性もある職業です。それを理解していますか?」
────危険?命を落とす可能性?そんなこと七年前のあの日にとっくに理解している。
「はい」
「次に、仮に命を落としても自己責任となりますがよろしいですか?」
────生憎、自分のケツは自分で拭く主義なんだ。
「はい」
「最後に────貴方は後悔しませんか?」
────後悔?寧ろここからが始まりだ。後悔なんてあの日に腐るほどした。今更後悔なんてしてられるか。
「はい」
「────わかりました。ベル・クラネル氏。我々ギルドは貴方を歓迎します」
「はい、よろしくお願いします」
僕は女性に礼を言う。あぁやっとだ。やっとスタート地点に僕は立ったんだ。思わず喜びで顔が歪みそうになるのを何とか抑える。幸い女性は気づいていないようだ。
「────はい、とりあえずは普通に話すけど⋯⋯いいかな?」
「あ、はい、構いませんよ」
「なら普段の口調で話させてもらうね。さて、新人冒険者にはしばらくの間ダンジョンのイロハを教える為にアドバイザーがつくんだけどね?君のアドバイザーには私、エイナ・チュールがつくことになります。これからよろしくね、ベル君」
「はい、よろしくお願いしますエイナさん」
「さて、君はこれからどうするの?」
「とりあえずはホームに帰ってロキ様に報告をと思っています」
「そっか。ならまたねベル君。ダンジョンに行く前には声掛けてね?」
「はい、ありがとうございましたエイナさん」
僕はエイナさんに一礼してギルドから出ていく。ロキ様に早く報告を、と思いつつ僕は帰路を急いだ────
ホームである〝黄昏の館〟に帰還後、僕はロキ様の部屋を訪れていた。
「ロキ様、ただいま戻りました」
「お!待っとったで〜ベルたん!」
最初、僕の容姿に戸惑っていた彼女だが直ぐに軽い態度に急変した。流石の神の適応力、と言ったところだろうか。
「⋯⋯それではこれからよろしくお願いします、ロキ様」
「か〜!堅い!堅いでベルたん!もっとこう⋯⋯ロキたん!とか呼び方あるやろ!?」
「⋯⋯ロキ様」
「強情やなぁ⋯⋯ま、えぇわ。とりあえず冒険者登録も済んだ事やし、いよいよお待ちかねの────」
これはとうとう────
「ステイタスの付与、ですか⋯⋯」
「そゆことや!さて、んじゃまベッドに寝転がって〜。あ、上半身は脱いどいてな?別に剥いてもいいけどな〜」
「自分で脱ぎますので結構です」
「なんやつまらん」
会って一日しか経っていないがロキ様という神物の人となりがわかってきた。この神はかなり自分の欲望に忠実な神のようだ。僕は言われた通りに上半身裸になり、ベッドにうつ伏せで横になる。
「おぉ⋯⋯ベルたん意外とがっしりしとるなぁ⋯⋯」
ぺたぺたと僕の背中を触ってくるロキ様。正直くすぐったい⋯⋯。
「あの⋯⋯ロキ様?」
「ハッ、スマンスマンついベルたんの肉体美に惚れ惚れしとったわ」
ケラケラと笑いながら言い放つロキ様。⋯⋯軽く頭が痛くなってきた。
「⋯⋯何でもいいのでさっさとして下さい」
「ほいほ〜いっと」
ロキ様はそう言って僕の背に跨って背中に自身の血を垂らし、ステイタス────神の恩恵を刻んでいく。そして────
「ふぅ、まぁこんなもん────はっ?」
素っ頓狂な声を上げるロキ様。
「⋯⋯ロキ様?」
気になって声をかけるが一向に返事がない。
「ロキ様?」
「ハッ、あぁスマンスマンちょーっとビックリしただけやけん気にせんといてな」
「はぁ⋯⋯わかりました。それで僕のステイタスは⋯⋯?」
「あ〜ちょっと待ってなぁ」
そう言って
「これがベルたんのステイタスやで」
「これが────」
そこにはこう書かれていた。
【ベル・クラネル】
Lv1
力︰0 I
耐久:0 I
器用:0 I
敏捷:0 I
魔力:0 I
《魔法》
【
・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】
・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】
・指定範囲に付与
《スキル》
「【魔法】⋯⋯?」
「⋯⋯あぁ、Lv1で最初から魔法があるなんてラッキーやでベルたん!」
少し言いよどんだあと明るく言い放つロキ様。まぁ、詠唱式が明らかに不穏なのでわからなくもない。僕にはこれ以上ないくらいに〝ぴったり〟だが。僕がステイタスとにらめっこしていると唐突にロキ様が言い放つ。
「さ、この後はベルたんの歓迎会や!食堂に行こか!」
「え?そんな事するんですか?」
「モチのロンや!久しぶりの新人やしな!ほな、行こか!」
そう言い放って僕の腕を掴んで引きずって行くロキ様。
「あの⋯⋯自分で歩けますって」
「堅いことは言いっこなしやでベルたん!」
そう言うロキ様と共に僕はホームの食堂に向かった。
「(ベルたん⋯⋯)」
ロキの心は表情とは裏腹に疑念で満たされていた。それはベルのステイタスが原因である。
【ベル・クラネル】
Lv1
力︰0 I
耐久:0 I
器用:0 I
敏捷:0 I
魔力:0 I
復讐:EX
《魔法》
【
・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】
・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】
・指定範囲に付与
《スキル》
【
・早熟する
・憎悪の念により効果上昇
・復讐を行う時、アビリティに超大幅補正
これである。魔法はまだいいとしよう。詠唱式が不穏だが裏を返せばそれだけだ。だが、アビリティ欄にある復讐という聞いたこともないスキル、そしてEXというこれまた見た事の無いランク。そして最後にスキル【復讐者】である。その効果は正にレアスキルと呼べるもの。他の娯楽好きの神々が知れば狂喜乱舞するであろうものだ────そこに至るまでの道筋を無視すればの話だが。
「(ベルたん⋯⋯キミは一体何者なんや⋯⋯?)」
ロキはベルの横顔を見ながらそんな事を考えていた────
「さてさてさーて!全員ちゅうもーく!」
そんなロキ様の声に合わせ他の団員達がこちらを向く。ちなみにフードはしたままで僕はロキ様の隣に立っている。
「今日は新しい団員を紹介するでー!ほら、ベルたん前に出て」
言われた通りに前に一歩出る。食堂中の視線が僕に集まっている。はっきり言って居心地が悪い。
「今回の試験に合格してウチに入る事になったベルたんことベル・クラネルや!皆仲良うしたってな〜」
「ベル・クラネルです。これからよろしくお願いします」
ロキ様の紹介と共に僕も挨拶をする。はっきり言って今の僕はかなり怪しい風貌なのだが挨拶自体は意外と好評だったようで「よろしくなー!」「これから頑張ってねー!」等の声が聞こえてくる。
「ほんじゃ、ベルたんの教育係は⋯⋯よし、リヴェリア、頼むで!」
「私に⋯⋯?成程な⋯⋯わかった、引き受けようか」
ロキ様に呼ばれて応えたのは美しいハイエルフの女性。────オラリオ最強の魔導士、レベル6のリヴェリア・リヨス・アールヴである。彼女が立ち上がると共に周囲にざわめきが満ちていく。自分で言うのもなんだがレベル6の冒険者を教育係に付けるというのは期待されているという事だろうと思う。彼女はこちらに顔を向ける。
「これからよろしく頼むぞ、ベル」
「こちらこそ、かの
そう言って頭を下げると彼女は苦笑して、
「ベル、私の事はリヴェリアと呼んでくれ。あまり畏まったのは好きじゃない」
「⋯⋯ではリヴェリアさん、と呼ばせて貰います」
「そうしてくれ」
「じゃ、話し合いも終わったところで夕食や。各自親睦を深めておくんやで。あ、ベルはココな」
と言って自身の近くを指差すロキ様⋯⋯拒否権はないようだ。僕は言われた席に座る。
「ほんじゃま────いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
極東の方から入ってきたらしい食事前の挨拶を終え────僕の周辺にはロキ様他、ロキ・ファミリアの第一級冒険者の方々が集まってきた。何故だ。
「やっほーベル君!私はティオナ・ヒリュテ!よろしくねー!」
「少し落ち着きなさいバカティオナ⋯⋯私はティオネ・ヒリュテよ。よろしくね」
「ほうほう⋯⋯なかなか面白そうな坊主だの、儂はガレス・ランドロックという」
「⋯⋯アイズ・ヴァレンシュタイン」
「フンっ、ベート・ローガだ。どんな奴かと来てみればヒョロヒョロのチビじゃねーか」
「とか言ってる癖にしっかり見に来てんだから素直じゃないよねーベートは」
「うるせぇぞ絶壁が!」
「「よし表出ろ」」
「止めなさいバカ二人!ロキも悪ノリすんな!」
最後にロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナさんが声を掛けてくる。
「騒がしくて済まないねベル・クラネル君」
「いえ⋯⋯改ましてこれからよろしくお願いしますフィン団長」
「その事なんだけど⋯⋯君は〝その腕〟でダンジョンに潜る気かい?」
⋯⋯やはり言われたか。
「腕?腕がどうかしたの?」
そうティオナさんが聞いてくる。
「実は────」
そう言ってフードを捲り、マントを捲りあげる。ティオナさんは絶句し、他の人達も苦い顔をしている。
「これって⋯⋯」
「────小さい頃にモンスターにやられちゃいましてね。と言ってもそれ程支障はありませんし義手も手に入れるつもりです」
「義手⋯⋯?ディアンケヒト・ファミリアの銀腕《アガート・ラム》か?」
リヴェリアさんがそう言って聞いてくる。
「はい、そのつもりです」
「あれは我々の装備程ではないがかなり高価なものだぞ?」
値段に関しては心配要らない。
「あぁ、それならコレがありますから」
そう言って僕はとある宝玉を取り出し、見せる。リヴェリアさんは驚いた様にしながらも、次の瞬間には目を細める。
「これはどうやって手に入れた?まさか⋯⋯」
「あ、いえ、盗みではなくしっかり正規の手段で手に入れましたよ」
勘違いされては困るのでしっかり正しておく。
「ほう⋯⋯ならばどのような方法だ?」
「⋯⋯あまり女性に聞かせるような話ではないですよ?ていうか食事時にするような話でもないですし」
「だが万が一という事もある。それにここには神であるロキがいるしな。神の前では嘘がつけないし、ちょうどいい」
どうしても僕に話させたいようだ。⋯⋯仕方が無い。
「⋯⋯貴族の奥様方の相手ですよ」
「相手?」
「⋯⋯夜のお供です」
その瞬間、ロキ様含む男性一同は目を見開き、リヴェリアさんは顔を赤く染め、ティオナさんとティオネさんは顔を引き攣らせ、唯一アイズさんだけは理解出来なかったのか首を傾げていた。
「ちょ⋯⋯、ベル、マジで⋯⋯?」
最初に復活したティオネさんが聞いてくる。
「はい、主に少年にしか欲情出来ない変態貴族や、刺激に餓えた貴族の奥様方、一部の女神様などを相手にしていました。これはその時の報酬ですよ」
「何もそこまで⋯⋯」
ティオナさんが何か言うが僕は首を横に振る。
「寧ろこの程度で良かったですよ。あまり集まりが悪い様でしたら衆道の方も視野に入れてましたし」
「⋯⋯ベルたん」
ロキ様がようやく復活したのか声を上げる。
「はい?」
「今後そういう事は一切禁止や────ええか?」
真剣な表情で言い放つロキ様。まぁ、流石に僕も好き好んで相手を務めたいとは思わない。
「はい、承知しています」
「ならえぇわ────さて、と!少し辛気臭くなったけどとりあえず乾杯でもしようや!」
そう言って麦酒の入ったグラスをこちらに差し出すロキ様。
「ほいじゃま、ベル・クラネル。ロキ・ファミリアはキミを歓迎するで。これからよろしゅう」
「────はい、よろしくお願いします」
こうして僕のオラリオ生活が幕を開けた。
ベルくんは非童貞です。