ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか 作:日本人
酒サケ鮭様、誤字報告ありがとうございました。
「────ロキ」
ロキ・ファミリアホームの黄昏の館。時刻は昼に差し掛かった頃だろうか。ロキは鍛錬をしているだろう団員達を見に行こうとしたところでアイズに呼び止められた。
「ん〜?どしたんやアイズたん?」
「彼の────ベルのこと教えて」
唐突に言い放たれたのは先日ファミリアに入ったばかりの少年のこと。確か今はリヴェリアと共にディアンケヒト・ファミリアの店に向かっている筈である。
「ベルたんの?何なに?やっぱアイズたんも気になるん?」
「────ふざけないで」
アイズから殺気を含んだ威圧が飛んでくる。ロキは内心やっぱり来たかと思いながら表情を引き締める。
「────ベルの身体能力のことか?」
「⋯⋯知ってたんだ」
「そりゃウチが試験見たからなぁ」
「⋯⋯私は今朝あの子が鍛錬してるのがたまたま見えたから⋯⋯」
「そーか。で、アイズたんが言いたいのはベルのスペックが明らかに〝おかしい〟ことやろ?」
「うん⋯⋯。あの子、レベル1どころかレベル2の動きをしてた」
そう、明らかに異常とも言えるベルのスペック。どうやったら⋯⋯いや、〝どれほどの地獄を味わえばあの様になるのか〟。ロキとアイズの考えは見事に一致していた。
「⋯⋯あの子に強さの秘訣を聞きたくて探してたんだけど⋯⋯」
その場でキョロキョロと周囲を見回すアイズ。どこか小動物らしいその行動に思わず笑いが漏れる。するとアイズはムッ、とこちらを睨んで来る。
「⋯⋯何がおかしいの?」
「ククッ⋯⋯!っ、いやいや何もあらへんよ。それと、ベルたんならリヴェリアと買い物行っとるで?」
「⋯⋯そう」
ポツリと呟き悲しそうに項垂れるアイズ。思わず抱きつきたくなるのを必死に我慢しながらロキはアイズを諌める。
「アイズたん?近々遠征があるんやから今はその準備をしとき。ベルたんからはいつでも聞けるやろ?」
「⋯⋯うん、わかった、ありがとうロキ」
軽く微笑みながらお礼を言ってくる。その微笑みでロキの理性を縛る鎖は弾け飛んだ。
「ムッハーーーーー!!!!アイズたん可愛すぎやぁ〜〜〜〜〜!!!!」
「⋯⋯ロキ、煩い」
黄昏の館ではいつもの日常の、いつもの光景が繰り広げられる。だが彼女達は気付いていない。自身たちが抱え込んだのがとびきりの爆弾だった事を────
歓迎会の翌日、僕はリヴェリアさんの案内の下ダンジョンに潜る準備をするために街に来ていた。しかし此処に来た時も思ったがかなり賑わっている。やはり世界最大のダンジョンを有しているからだろうか。その賑わいに思わず見入ってしまった。
「────ベル、私は何処に案内すればいいのだ?街を見るのもいいがそのままでは日が暮れてしまうぞ?」
リヴェリアさんに言われてハッとなる。あぁそうだった。今日はわざわざ時間を取ってもらってるんだから急がないと。
「すみませんリヴェリアさん。それでは案内をお願いします」
「あぁ、任せておけ。それで?何処に向かうのだ?」
僕は間髪入れず、
「ヘファイストス・ファミリアの店でお願いします。とりあえず武具が見たいです」
と答える。リヴェリアさんは薄く笑みを浮かべ、「悪くない選択だ」といって身を翻す。
「こっちだ。はぐれるなよ?」
「はいっ」
そのまま僕はリヴェリアさんについて行った。
────数分後、僕はヘファイストス・ファミリアの店の前に立っていた。ホームは何方かと言えば無骨な雰囲気で、いかにも〝鍛治師〟と言った感じがした。
「それでベル、装備はどうする?私が選んでもいいぞ?」
リヴェリアさんはそう言ってくれるが────
「────いえ、自分の命を預ける物ですから自分で選びます」
そう答えるとリヴェリアさんは先程よりも深い笑みを浮かべている。
「成程な、冒険者としての基礎はしっかりしているな。ロキが期待するのも頷ける」
「ははっ⋯⋯、僕としては当然の事を言っただけなんですけどね⋯⋯」
「その〝当然の事〟が出来ない者達は多い。誇っていい事だぞ?」
正直くすぐったい。本当に大したことはしていないのだけど。
「それでは、私は此処で待っていよう。ゆっくり選んでくるといい」
「はい、ありがとうございます」
そう言って店の中に入った僕は新人の作品が並べられているエリアに直行する。正直手持ちの金額ならもっと高ランクの武具を買えるが⋯⋯今の自分の身の丈に合ってないので手は出さない。それにパッと見たけど〝合格〟はいなかったのでどっちにしろ買うつもりは無かった。そのまま暫く見ていくと、1つの軽鎧が目に入る。
「(名前は⋯⋯
なんて事無い普通の軽鎧。だけど実に〝僕好み〟。僕は暫くその軽鎧を眺める。ふと、端の方に作者名が書かれているのが目に入る。
「(作者名⋯⋯ヴェルフ・クロッゾ、か)」
────覚えた、そして決めた。この人なら僕が望むものを作ってくれる。そんな確信があった。僕はその軽鎧を手に取り、購入しようとカウンターに持っていく。ついでに作者についてカウンターで聞いてみよう。出来れば専属契約を結んでもらいたいな────そんな事を考えながら向かうと前方が騒がしい。何事かと思い近づいてみると、恐らくヘファイストス・ファミリアの団員達が言い争いをしていた。片方は赤髪の青年で、黒い着流しに身を包み、その顔を憤怒に染めていた。もう片方は三人組で、青年をニヤニヤと小馬鹿にしたような表情をしている。
「てめぇ!もう1度言ってみろ!」
「何度でも言ってやるよ!お前見たいな奴はウチの面汚しなんだ!さっさとオラリオから出ていけよ!」
「そうだそうだ!」「目障りなんだよ!」
一人が青年を馬鹿にし、その取り巻きがそれに追従する。はっきり言って気分の悪い光景だ。だが助けようとは思わない。リヴェリアさんを待たせているし、此処で面倒事を起こせばファミリアにまで被害が及ぶ可能性があるのだ。流石にロキ様達に迷惑をかけることは出来ない。僕は三人組の後ろを通ってカウンターに向かおうとする。その時、ふと青年が僕が持っている軽鎧に視線を滑らせ、そして思い切り目を剥く。
「おいアンタ!その鎧!」
────あぁ、今日は厄日だ。そう思いながら青年に顔を向ける。何故か青年は目をキラキラさせて詰め寄ってくる。
「アンタその鎧を買うのか!?」
近い近い近い近い!顔を思い切り寄せてくる。勘弁してくれ、なんでむさくるしい男の顔をドアップで見なきゃならないんだ?
「はい、そうですけど⋯⋯てか近いです⋯」
「おっと、悪い悪い!俺の作った鎧を買ってくれるってんで嬉しくてな!」
「えっ?じゃあ貴方がヴェルフ・クロッゾさん?」
「おう、俺がヴェルフ・クロッゾだ。ヴェルフって呼んでくれ」
まさかこんなにも早く会えるとは⋯⋯さっき厄日って言ったけど訂正、今日はついてる!
「よかった、僕も貴方を探してたんですよ。この鎧、一目見て気に入ったんですよ。ぜひ作者の方とも会ってみたいと思ってたんです」
「おっ?そうかそうか!いや〜やっと俺の作品の良さをわかってくれる奴がいたか!」
「まさに一目惚れですよ⋯⋯ぜひせんぞ「おい、ちょっとまちな」⋯⋯何か?」
ヴェルフさんと話していると先程の三人組の一人が話し掛けてくる。ニヤニヤといやらしい笑いを浮べながらその男は言葉を発す。
「そんな奴の装備より俺達のやつの方が余っ程使い勝手がいいぜ?おっと、俺はバーナ・スルーマンだ。よろしく頼むぜ?」
「おいバーナ!人の客を取るんじゃねーよ!」
ヴェルフさんがバーナさんを怒鳴りつける。が、バーナさんは意に介さず喋り続ける。
「なぁアンタ、そんなもんじゃ無くて俺の作品を使ってくれよ。そんなガラクタより余っ程マシだぜ?」
「バーナてめぇ!言うにことかいてガラクタだと!?」
バーナさんはニヤつきながらヴェルフさんを嘲るような目つきで見る。
「ガラクタだろ?未だにLv1で鍛冶スキルも持ってない、その上〝魔剣を打てる〟のに生身で魔剣を超える武器を創り出すなんて夢物語を語るバカの作品なんだ、ゴミと言わないだけありがたいと思えよ?」
「てめぇ⋯⋯!」
ギリギリと歯ぎしりをしてバーナさんを睨みつけるヴェルフさん。バーナさんは取り巻きの二人に言って自身の作品を持ってこさせる。そしてそれを僕の前に突き出した。
「さぁ見てくれよ。こいつは自信作なんだぜ?」
そう言われて見ないわけにもいかず、僕はその作品を見る。⋯⋯確かにいい出来ではある。彼の自身も頷ける出来だ。
「どうだ?」
「⋯⋯確かにヴェルフさんのものよりもいいものですね」
その言葉を聞いて愕然とした表情を浮かべるヴェルフさん。反対にバーナさん達はニヤニヤ笑いを深める。
「だろう?だからこんなガラクタよりも俺の作品を「────素材だけは」⋯⋯なんだと?」
「素材だけはヴェルフさんの作品に勝っている────そう言ったんですよ」
そう確かにいい出来ではある────世間一般の基準で見れば。
「おいおい!こんな奴よりも俺の腕が劣るって言いたいのか!?」
「そうですけど何か?」
「ッハハハハハ!!⋯⋯ふざけてんじゃねぇぞてめぇ!!!」
顔を憤怒に染め僕の胸倉を掴みあげてくるバーナさん────バーナ。僕は事実だけを突きつける。
「別にふざけてなんていませんよ⋯⋯貴方の作品には何も無い。情熱も、誇りも、信念も、魂も何も無い。この作品は〝生きていない〟」
「何訳わかんねぇ事言ってやがる!!?」
⋯⋯この人は馬鹿なのか?鍛治師の癖にそんな事もわからないなんて。
「言葉通りです。ただ薄汚い欲望を注ぎ込んだ穢れた武具、それが貴方の作品です」
「じゃあヴェルフの野郎は違うってか!?」
「えぇもちろん。まぁ、名前はアレですけど⋯⋯この鎧は彼の魂が込められている。ただ売るためだけに作ったものじゃない、純粋に使い手を想って作られた正真正銘の〝生きた〟作品だ。それをガラクタなどと罵る権利は貴方にはありませんよ」
「チッ!訳わかんねぇ事ばっかり言ってうぜぇんだよ!」
そう言って振りあげた彼の拳は────
「────待ちなさい」
一人の女性の声によって遮られる。声のした方を見ると眼帯をした女性が立っていた。
「ヘッ、ヘファイストス様っ!?」
ヴェルフさんが驚愕の声を上げる。成程、どうやらこの女性がヘファイストス・ファミリアの主神、ヘファイストス様の様だ。ヘファイストス様はこちら────具体的に言えばバーナを睨んでいる。
「バーナ、これはどういう事?何故貴方は客に殴り掛かろうとしているのかしら?」
バーナを睨むヘファイストス様。明らかに怒っている。
「こっ、コイツがッ!コイツが俺の作品を馬鹿にしやがったんですっ!」
バーナは僕を指差し、必死に言い訳をする。ヘファイストス様は僕を見て、
「何故そんな事を?」
そう聞いてくるが────
「ヘファイストス様、先程のやり取りは全て見ていたんでしょう?別に言う必要も無いでしょう?」
「⋯⋯何故そう思うの?」
「でなければあんなにタイミング良く出てこれるわけないじゃないですか」
そう、明らかに狙っていたと思わしきタイミングで出てきたのだ。〝気配もしていた〟し、その可能性は高いだろう。
「多分そのバーナとか言う人を気遣ったんでしょうけどね。とりあえず人を待たせているので手短に済ませたいんですが」
「⋯⋯一つ聞かせなさい」
ヘファイストス様の言葉に会計に行こうとした僕は振り返る。
「何ですか?」
「貴方は何であんな事を言ったの?」
あんな事────バーナの作品を貶した件だろう。そんな事聞くまでもない。
「簡単です────僕は目的を果たす為に命を預ける事の出来る武具を探しに来たんです。それをあんな〝粗悪品〟を勧めてきた事、そして僕が気に入ったヴェルフさんの作品を貶した事にイラついたからですよ」
ヘファイストス様は苦々しい表情をして、
「そう⋯⋯わかったわ。もう行っていいわよ」
「失礼します。あ、ヴェルフさんはついてきてください。専属契約を結びたいのでその話を⋯」
「えっ!?マジか!?是非頼む!!」
僕はこちらを睨んで来るバーナを尻目にヴェルフさんと共に店を後にした。