ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか 作:日本人
────ダンジョン七階層、ロキ・ファミリア
────ガキンッ!キィンッ!
剣戟の音が鳴り響く。その正体は金髪の美少女────アイズと覆面の槍使いだった。
「⋯ッ!」
「⋯チッ」
Lv5、第一級冒険者と呼ばれるアイズの剣戟を尽く払い除ける覆面。他の場所では、同様の覆面を被った者達がロキ・ファミリアのメンバーと戦闘を行っている。
「チッ!クソがっ!てめぇら何のつもりだっ!?」
Lv5、ベート・ローガは目の前の剣士に蹴りを見舞う。覆面から覗く尖った耳は剣士がエルフである事を示していた。剣士は蹴りを躱し、お返しとばかりに突きを放つ。それをベートは紙一重で躱す。
「全ては────あの方のために」
それだけ言い放つ剣士。やがて剣士の言葉を切っ掛けに、覆面の間に波紋が広がる。
「「「「「あの方のために!あの方のために!!あの方のために!!!」」」」」
「クソっ、なんなんだコイツらは!?」
その狂信者の様な行動に、思わず悪態をつくリヴェリア。その横でフィンはますます嫌な予感が強くなっていくのを感じていた。
「(親指が疼く⋯⋯⋯なんだ?何が目的だ?)」
言いようのない不安をフィンは感じていた。
「下がって!」ヒュンッ!
「ギャア!?」
僕は前線でミノタウロスの相手をしていた男性に呼びかけ、彼に襲いかかろうとしていたゴブリンを鉤爪でバラバラにする。男性は驚いている様だ。まぁ、先程に自分達が全滅しかける原因を作った奴がいては無理も無いが。
「ッ!?さ、さっきの!?何で⋯⋯?」
「早く!!仲間を連れて逃げて!」
「わ、わかった⋯⋯」
僕に言われて下がって行く男性。チラリと後方を見ると、先程ミノタウロスに殺されかけていた少女が仲間に僕が渡したエリクサーを飲ませているところだった。見ると倒れていた他の二人は既に回復したのか立ち上がってこちらに向かってこようとしていた。僕はそれを制す。
「早く撤退して下さい!もう少しで援軍が来ます!それまで時間稼ぎしますから早く!!」
「だ、だけど貴方は⋯⋯!?」
先程の少女がこちらを心配してくる。自分達が死にかける原因を心配するなんてかなりのお人好しみたいだ。僕は苦笑しながら返答する。
「さっきも言いましたけど時間稼ぎをします!貴方達が死にかけたのは僕の責任です!これくらいはさせて下さい!!」
「し、しかし⋯⋯」
「もう武器も殆ど残ってないでしょう?今モンスターに襲われても厄介ですから急いで地上に!!」
「⋯⋯⋯礼は言わんぞ」
「お構いなく!」
僕は彼らが撤退していくのを見届け、モンスター達に突っ込んだ。
「シっ!」
「グガッ!?」
近場のゴブリンの胴を抉り、そのまま先程腕を斬り飛ばしたミノタウロスの元へ向かう。その際に雑魚モンスターが襲って来るが、全て右手の鉤爪と左手のナイフで斬り捨てる。
「ヴヴォォォォォ!!」
雑魚モンスターに囲まれたのを好機と見たのか隻腕が突進してくる。勿論そんなものを喰らうほど甘くは無いので飛び上がって回避する。ミノタウロスは無様にすっ転び、間抜けな姿を晒す
────そうだ、こいつは弱い
躱された事に怒ったミノタウロスが腕を振るうが、それもひらりと躱してすれ違いざまに斬り飛ばす。
「ヴモォォオ!?」
────でかいだけで技術も信念もないただの木偶だ
「なんだ、弱いじゃないか」
苦し紛れに振るわれた角を躱し、そのまま首に鉤爪を突き刺し、抉りとるように動かす。
「────ッ!!」
断末魔の叫びを上げ、倒れ伏すミノタウロス。
────そんなものに負けるはずが無い、何故なら────
「────僕は、強いから」
何も無い木偶の坊に負けるはずが無い、ただの獣に蹂躙されるはずが無い、死ぬはずが無い。そうだ、何を怯える必要があった?自分の情けなさに吐き気が出そうだ。
「────さて、」
僕は周囲のモンスター達を見回す。
「⋯⋯ッ?」
瞬間、違和感に気付く。ミノタウロスが
────ゴリッ、ガリッ、ボリッ、バキベギッ
────咀嚼音⋯⋯?何かを食っている?何を────
「────まさかっ!?」
咄嗟に音の方向を見る。そこには先程の冒険者達が倒したであろうモンスターの死骸、そしてそこで死骸を
「────ヴヴヴヴヴモォォォォォオオオオオ!!!!」
────雄叫びを上げるミノタウロス。その咆哮に怯えた雑魚モンスター達は散り散りになって逃げだす。正直僕もさっさと逃げ出したい。が、僕が逃げ出せば間違い無く他の冒険者に被害が出る。それだけは避けなければならない。彼らには援軍と言ったが、当然そんなものは無い。彼らを安心させるための嘘。上級冒険者達がいない今、僕が闘い続けるしかないのだ。
────それにしても何故このタイミングで上級冒険者が?
僕はこの状況にきな臭いものを感じながらも鉤爪を構え、ミノタウロスに向かっていった。
────それと同時に朝と同じような視線に気がつく。
「ッ!」
また⋯⋯何処で見ている?なぜ僕を?僕は一旦ミノタウロスから距離をとる。ミノタウロスは急成長した身体に慣れないのか上手く動けない様だ。────周囲に人の気配は無い、ならばどうやって⋯?僕はふと、神が使用する力の一つ────『神の鏡』について思い出す。
『神の鏡』────遠くの風景を映像にして空中に投影するというもの。⋯⋯まさかこの視線は神が?だとしたら誰が⋯⋯生憎僕が会った事のある神は三柱だけ、いずれもこんな事をする様な人物では無い。そんな事を考えている内にミノタウロスはようやく身体の調子を掴んだのかこちらを睨みつけ、雄叫びを挙げながら突進してくる。
「ヴゥォォォオ!!」
「ッ!」
剛腕が振るわれ、それを紙一重で躱す。
────速すぎる!
それは先程のミノタウロスを凌駕する速度、もはや別の次元の一撃だった。僕はナイフを振るい、腕に切りつける。
────パキンッ
「⋯⋯チッ!」
ナイフは腕を切りつける所が過擦り傷さえ負わせることなく乾いた音をたてて砕け散る。いくら何でも硬すぎるだろ!ミノタウロスは腕を突き出したまま、そのまま横に薙ぎ払う。
「くっ!?」
咄嗟にしゃがみこんで回避、弾かれるようにその場から飛び退く。
「ヴゥゥゥ⋯⋯」
ミノタウロスは唸りながらこちらを見ている。他の個体よりも知能が高い様だ。早い所何とかしたいが、鉤爪は恐らく決定打にはならないし、奴との戦闘をこなしながら『魔法』を詠唱するのもキツイうえ通用するかはわからない。
「さて、どうする⋯⋯?」
僕はミノタウロスを正面に、そう呟いた。
────
「ふふ⋯⋯⋯」
薄く笑みを浮かべるフレイヤ。その目の前には『神の鏡』が浮かんでいる。そこにはミノタウロスと対峙する白髪の少年の姿があった。
「いいわ⋯ベル、
恍惚とした表情を浮かべるフレイヤ。────フレイヤは人間の魂の色が見える。素質のある者は強く輝き、反対に素質の無い者は霞んで見える。彼女はその力を使って今や地上最強の勢力を誇るファミリアを作り上げたのだ。今、彼女から見たベルの魂は強い輝きを発していた。
────もっと、もっと輝きなさい。
そう念じるフレイヤ。その為の仕込みは発動し、眼下の少年と戦っている。本来もう少し仕込む予定だったのだが、ロキ・ファミリアのミス、そして少年がダンジョンに潜ったと聞いて居ても立っても居られなくなってしまった。結果、仕込みをミノタウロスの群れに紛れ込ませ、ベルの元へ向かわせた。賭けに近かったが見事にそれは成功した。更に、団員達にロキ・ファミリアと上級冒険者達の
「そう、でも────」
────まだ、弱い、まだ輝きが足りない、もっと、もっと強く輝け、でなければ意味が無い。
フレイヤは己の配下に命じる。
「やりなさい、オッタル」
ここには居ない自身の配下に呼び掛ける。その時、『鏡』の中で動きが生じる。
「さぁ、もっと輝いて、ベル。その為に────」
────私は、
そう呟いた彼女の顔は狂気に染まっていた。
「ヴォォオ!」
「シっ!」
ミノタウロスの剛腕が振るわれ、それを紙一重で躱す。それと同時に鉤爪でその腕に細かい傷を刻んでゆく。
────現在、ベルとミノタウロスの戦闘は膠着状態になっていた。ベルは決定打を与える術を持たず、ミノタウロスはベルを捉えることができない。どちらも千日手、動けない。ミノタウロスもそれを理解しているのか深くは攻めない。明らかにベルを警戒している。その異常に高い知能は明らかに人為的とも見えるものだったがベルは気づかない、否、気付く余裕が無い。両者が睨み合うその時、
「ッ!?」
ミノタウロスの後方、何者かが現れ、こちらを見ている。でかい、体格からして男のようだ。男は無言でミノタウロスの方へ駆け出す。
「ヴォォッ!」
ミノタウロスもそれに気付き、腕を組んで振るうが、
「⋯⋯⋯ムンッ!」ガッ!
「ヴォっ!?」
振るわれた剛腕を片腕で受け止める。ミノタウロスが暴れるがビクともしない。男は反対の腕で懐から何かを取り出す。
「⋯⋯針?」
それは紅の針だった。ベルは知らないが、それはヘルメス・ファミリア製のモンスターを凶暴化させる針、名を
「ヴォっ!?ゥゥゥ⋯⋯⋯!?」
針を打ち込まれ、数瞬苦しんだように唸るミノタウロス。次の瞬間────
「────ゥゥゥゥヴヴォォォォォォォオオオオオ!!!!」
狂ったように雄叫びを挙げるミノタウロス。狂ったように、では無い。事実狂っている。男はミノタウロスから離れ、ベルを飛び越えて唯、一言告げる。
「全ては、────の為に」
そう言って走り去る男。ベルは男の放った言葉に愕然としていた。
────いま、あの男は何と言った?奴は、
その言葉を理解した瞬間、ベルの心には憎悪、そして歓喜があった。
────そうか、そうなのか!フレイヤ、お前なのか!!
「⋯⋯クハッ♪」
狂気的な笑みを浮かべるベル。その顔から溢れるのは歓喜、そしておぞましい程の憎悪。
「いいさ、お前の思惑に乗ってやるよフレイヤァ⋯⋯」
そう言ってミノタウロスに目を向けるベル。
「ハハっ、お前も災難だよなぁ僕の復讐対象になるなんて」
────そうだコイツは奴の手先、ならば憎悪を持って殲滅する。
「────さぁ、復讐を始めよう」
そう呟いたベルは弾かれたように狂乱するミノタウロスへ駆け出した────
この場を借りて補足説明
ベル・クラネルについて
・性格は原作を元にしているが少し大人っぽい。が、キレたり復讐の事になると性格が豹変する。祖父を殺害したと思われるフレイヤの事を憎悪しており、フレイヤ・ファミリアの団員もフレイヤ同様に復讐対象となる。7年前にモンスターに襲われ、右腕と左眼を失う。なお現在、右腕はオーダーメイドの義手を装着している。(説明は後ほど)ロキ・ファミリアのメンバーについてはロキとリヴェリア以外とは余り関わっていないが、家族と認識している。(ファミリア内でベルが復讐者である事を知っているのはロキのみ)非童貞で、初めての相手はオラリオ外の
※追記:基本、目的の為ならば他人を犠牲にする事も躊躇わないが、過去の『英雄になりたい』という思いと祖父の教えが心に刻まれており、目的と信念の板挟みにあう。本人は自覚してはいないが、ときたま矛盾した行動をとるのはこのため。
ディアンケヒトについて
・原作よりも大人しく、ゲス成分控えめ。ミアハに対しては同じ医術の神である事もあり、冷たい態度をとるが、ミアハが団員の為に土下座までして義手制作を依頼してきたことに関しては素直に彼を尊敬している。ヴェルフと仲が良く、会ってはベルの義手の事について意見を交わしているらしい。
※追記: