ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか 作:日本人
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2018年1月28日 黒帽子様、真夜蒼様、報告ありがとうございました。
────ダンジョン五階層。アイズ・ヴァレンシュタインは走っていた。理由としては逃亡したミノタウロスを始末する為である。途中、謎の覆面集団による妨害を何とか突破し、ミノタウロスの捜索を続けていた。
「(お願い⋯⋯間に合って⋯⋯!)」
そう胸中で祈りながら少女は駆ける。
────少女は知らない、己と同じ復讐者が、あの少年がミノタウロスと戦っている事を。
「さぁ、行くぞぉ!」
「ヴォォオ!」
ベルの雄叫びに答えるようにミノタウロスが叫んだ時、既にベルはミノタウロスの懐に入り込んでいた。
「シィッ!」
哄笑と共に放たれた5つの刃は胸筋を浅く切り裂く。ミノタウロスはベルを捕まえようとするが、ベルは既にそこにはおらず、ミノタウロスの背後に回り、斬りつける。後方に剛腕を振るうもベルは瞬時に回避し、脇腹を鉤爪で浅く抉る。
「ヴォォォォォォオオ!!」
激昂したミノタウロスはめちゃくちゃに腕を振り回すも、その全てをベルは避けきり、逆にミノタウロスの体に浅くだが着実に傷を刻んでいる。
────遅い、遅すぎる
身体が軽い。
────違う、僕が速いんだ
頭が冴える。
────今なら殺せる
四肢に力が漲る。
────
全身にありえない程の力が漲り、あらゆる全てが冴え渡る。ベルはその事に歓喜した。己の復讐を果たすための力────それがここにある。
止まらない、止まっていられない。まだここは中間地点、目標には程遠い。
早く行かなければ────ミノタウロスが邪魔をする。
どうすれば?────倒せばいい。
そうだ、邪魔だ。邪魔なのだ。ならば殺す。全て殺す。尽く殺す。一切合切殺し尽くす。それでいい、そうすればフレイヤに手が届く────!
更にベルの身体に力が溢れる。ベルはミノタウロスの左角に手を掛け、そのままミノタウロスの首の後ろによじ登る。不快に思ったミノタウロスがベルを振り落とそうとするが時すでに遅し、鈍く光る鉤爪がミノタウロス右眼を深々と抉っていた。
「ヴォォォォォォオオ!!?」
痛みのあまり叫び声を挙げ、暴れ回るミノタウロス。ベルはミノタウロスから離れる為に跳ぶ────それが不味かった。
「がぁッ!!?」
暴れ回るミノタウロスの左拳が背中に叩き込まれる。肺の中の空気が一気に押し出され、無様に吹き飛ばされる。何とか受け身をとり、ミノタウロスへ向かおうとしようと思うが、上手く足に力が入らない。
「ヴォオ!」
「ぎっ!?」
殴り飛ばされ宙を舞う。そのまま足を捕まれ、壁に叩きつけられる。
「が、アアア!?」
叩きつけられたベルを中心にクモの巣状にヒビが広がる。壁に貼り付けられたベルはそのままミノタウロスに何度も拳を叩き込まれる。ミノタウロスは怒りのままに拳を振るった。
「がっ!ぐぉ!?い゛い゛ぁ゛!?」
叩き込まれる事に何度もベルの口から血飛沫が飛び散る。ミノタウロスはベルの胴体を鷲掴みにし、ダンジョンの奥へぶん投げる。吹き飛んだベルは何度かバウンドし、しばらくして停止する。
「⋯ぁ⋯⋯あ⋯⋯」
喉からは掠れたような音しか出ない。しまった、油断した、しくじった。恐らく肺に肋骨が突き刺さっているのだろう。あまりの激痛に意識を保てない。更に身体のところどころから血を流している。視界がやけに暗い。血を失い過ぎたのか、ゆっくりと視界が暗くなっていく。その時、ベルの耳に何者かの足音が聞こえた。足音の主はベルの横で立ち止まる。
「────頑張ったね」
ベルは声の主に顔を向ける。それは金の少女────アイズ・ヴァレンシュタイン。自分と同じロキ・ファミリアの第一級冒険者。
「────後は任せて」
「────あ?」
まて、彼女は何と言った?
「ッ!!」
再び全身に力が漲る。否、先程の比ではない、それ以上の力が溢れてくる。ベルはミノタウロスを狩ろうとするアイズの肩を掴み、押しのける。
「っ⋯⋯!?なん⋯で?」
ボロボロの、しかし明らかに雰囲気が違うベル。その姿にアイズは驚愕し、問いかける。ベルが答えたのはたった一言────
「────アレは、僕の獲物だ」
それだけ告げてベルはミノタウロスに駆け出す。その顔は、己への怒りに染まっていた。
────
「あぁ⋯!いいわ⋯ベル!それでこそ貴方!」
フレイヤは恍惚とした表情を浮かべ、ベルの様子を注視する。怒り、憎悪、純粋さ、あらゆる全てが今のベルの魂には込められている。フレイヤは純粋に狂喜する。自身が見込んだ少年がこれ程までに輝くとは彼女にも思いもよらなかったのだ。
「ベル⋯⋯もっと私に魅せて⋯⋯その輝きを!!」
アイズは戸惑っていた。それもそうだろう。ミノタウロスの、恐らく『強化種』らしき個体と戦い、死にかけていた自身と同じファミリアの新人の少年を助けたら押しのけられ、「自分の獲物だ」と言われてしまった。少年は未だLv1。Lv2であるミノタウロスの『強化種』に敵うはずがない────そう、思っていた。
「オオオオオオオオオオオ!!!!」
「シャァァァァァァァア!!!!」
アイズの目の先には少年とミノタウロス。一方的になる筈だったその戦いはあろう事か少年が圧倒的に優勢であった。ミノタウロスが腕を振るう度に、それを躱し、全身に傷を刻んでいく。
「⋯⋯⋯ありえない」
その一言に尽きた。Lv1はLv2に勝てない。これが絶対の真理であり、常識である。それを目の前の少年は覆し、圧倒的な技術を以てミノタウロスを圧倒していた。
「⋯⋯⋯貴方は⋯⋯どうしてそんなに強いの⋯?」
アイズは無意識下のうちにそんな事を呟くのだった。
一方、ベルは溢れ出る怒りを抑えきれずにいた。
────自分は何をしていた?
先程倒れていた時の事を思い出す。
────ふざけるな、復讐も終えていないのに倒れる事など許されない
怒りが吹き出す度にミノタウロスの体から血飛沫が舞う。
────誰にも譲らない、殺す、までは────!!
「ッ!おおおおおおおお!!」
────ラッシュラッシュラッシュラッシュ
目まぐるしい速度の斬撃がミノタウロスの体を抉り続ける。ミノタウロスも負けじと腕を振るうが、その全てがあっさりと避けられる。
「遅いんだよ!!」
叫び、ミノタウロスの肩口を斬り裂く。唸り声を挙げるミノタウロスの鼻面に膝蹴りを叩き込み、衝撃を利用して後ろに下がる。ミノタウロスはしばらく頭を振って、
「ヴゥゥゥオオオオオオオオオ!!!!」
雄叫びを挙げ、四肢を大地につき、しっかりと踏みしめる。思わずアイズは目を剥く。ミノタウロスが誇る必殺の切り札である突進体勢。あらゆるものを砕き、破砕する強力無比な一撃。
「⋯上等だっ⋯⋯!!」
ベルはそれと真正面に対峙し、鉤爪の切っ先をミノタウロスに向ける。
「⋯っ、ダメっ⋯!」
アイズが思わず叫ぶが遅かった。既にミノタウロスの体はベルに向かって飛び出していた。その場から動かず、ベルは真っ直ぐミノタウロスを見つめている。
────勝った
ミノタウロスは本能で勝利を確信し、その顔を歪める。次の瞬間────
────倒れ伏していたのはミノタウロスだった。
「⋯⋯⋯えっ?」
「⋯ヴ?ヴ⋯⋯ゥウォ⋯!?」
何故自身が倒れているのか理解出来ず、混乱するミノタウロス。咄嗟に起き上がろうとするも、四肢に全く力が入らない。アイズも同様、ベルが何故生きているのか理解出来なかった。
────ベルがした事は単純、ミノタウロスの
「ヴ、オォ⋯⋯、ヴヴォオオ⋯⋯!!」
が、ベルにはそれだけで充分だった。既にベルは左腕をミノタウロスに向けている。
「『これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮』⋯⋯」
それはベルにとっての切り札。今の彼がもつ最大最強の『魔法』。
「『
瞬間、ミノタウロスの全身を憎悪の焔が包み込む。
「グォオオオオオオオオ!!!!???」
体の焼け焦げる痛みに必死に立ち上がるミノタウロス。そのまま逃走しようとするがベルはそれを許さない。
「『我らが憎悪に喝采を』!!!」
ミノタウロスの足元から突き出た槍がミノタウロスの体躯に突き刺さる。が、あまりに肉厚な筋肉に阻まれ、穂先数
「『喝采を』!『喝采を』!!『喝采を』!!!」
ベルが叫ぶ度に突き出る槍。やがてその数は数十、数百と数を増していく。
「ォ⋯⋯オォ⋯⋯オ⋯」
やがて、ミノタウロスの大柄な体躯が見えなくなり────
「『喝采を』!!!!」
ベルが拳をその場で突き上げて叫ぶ。瞬間、一際大きな槍がミノタウロスがいたと思われる中心部から突きあがる。しばらくして、焔と槍が全て消え去ったそこには、焼け焦げた跡とドロップアイテムである『ミノタウロスの角』が残されるのみだった。アイズは拳を突き上げたまま動かないベルに近づく。
「⋯立ったままで気絶してる⋯?」
────
最後の魔法に全力を注いだベルはそのままの体勢で意識を失っていた。
「⋯⋯凄い⋯⋯」
アイズはそれだけ呟き、立ち尽くす。しばらくすると、後方からベート、ティオネ、ティオナ、ガレス、リヴェリア、フィンが到着する。
「おいアイズ!ミノタウロスは⋯⋯っ!?」
「⋯⋯ちょっと、何よこれ?」
「焼け焦げた床に⋯⋯ベル君?」
「これは⋯⋯何があったのじゃ?」
「まて、それよりも何故ベルがここに?」
「皆、落ち着いて」
それぞれ喋り出す団員達を諌め、フィンはアイズに尋ねる。
「アイズ、ここで何があったんだい?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯した」
「うん?」
「ベルが⋯⋯ミノタウロスを、倒した」
「「「はっ?」」」
「なに?」
「なんだとっ!?」
「⋯⋯⋯それは本当かい?アイズ」
コクリと頷くアイズ。
「間違い無い⋯⋯ミノタウロス⋯それも『強化種』を、ベルは倒した」
「おいおいおい⋯⋯ミノタウロス、しかも『強化種』を?Lv1が?アイズ、お前夢でも見たんじゃねぇか?」
ベートの問いにフルフルと首を振るアイズ。
「夢なんかじゃない⋯⋯本当の事⋯」
「⋯⋯とりあえずは彼を回収しよう。治療も必要だ」
フィンの言葉に彼らは頷き、地上へとベルを連れて登って行った。
────ギルドの一室
「────ッハ!」
僕は何処か、ベッドの上で飛び起きた。⋯⋯ここは何処だ?僕はミノタウロスと戦って⋯⋯そこからの記憶が無い。とりあえずロキ・ファミリアではないみたいだ。しばらく部屋の中を観察していると、扉を開けてロキ様が入ってくる。
「っ!ベルたん!もう起き上がっても大丈夫なんか!?」
僕を見た瞬間、僕に飛びついて身体中をまさぐるロキ様。ってそれは不味い!
「ちょ、ロキ様!?大丈夫ですから!離れて下さい!」
僕は今起きたばかりである。つまり、その、僕のボクが恥ずかしい事になっているわけで⋯⋯、
「何言うとんのや!?ミノタウロスと戦って生きてる事自体が奇跡なんやで!?」
「あ⋯」
そうだ、思い出した。僕は十階層でミノタウロスと遭遇。怪物進呈をしてディアンケヒト様に義手をつけてもらって⋯⋯ってあれ?
「爪が無い?」
そう、そこには腕はあれど肝心の爪が無かったのだ。疑問に思っていると扉を開け、何故かボロボロのディアンケヒト様が入ってくる。
「ハーっハッハッハ!!ベルよ!その事についてはブヘァ!!」
瞬間、ロキ様の高速の回し蹴りがディアンケヒト様を吹き飛ばす。
「怪我人おるのに騒ぐ奴があるかぁ!!しばらくそこで寝とけ、だぁほ!!」
そう吐き捨てて扉を閉めるロキ様。⋯⋯彼女は怒らせないようにしようと、心に刻む。
「とりあえず、ここはギルドの一室や。ベルたんは治療が必要な程の大怪我を負っとったらしいんやけどな、とりあえずそれでここに運ばれたんやけど⋯⋯それで?何があったんや?一応詳細は聞いとるけど本人の口から聞きたいしな」
「わかりました────」
そこから僕は様々な事を話した。ミノタウロスと遭遇した事。怪物進呈をして冒険者を囮にした事。ディアンケヒト様に諭され、義手をつけてもらった事。そしてミノタウロスを倒した事。流石にフレイヤの件は話さなかった。証拠が無い上に、下手にロキ様に伝えれば、激怒したロキ様がフレイヤの下に殴り込みに行くだろう。が、証拠が無いので向こうはいくらでも知らばっくれる事が出来る。そこからロキ・ファミリアはフレイヤ・ファミリアを陥れるために────などとなることは何としても避けたかった。僕が話し終えるとロキ様は、
「そうか⋯⋯」
それだけ言って下を向く。そしてバッと顔を上げて、
「よく無事やった!!」
それだけ言って僕に抱き着いてきた。僕は戸惑いながらロキ様に、尋ねる。
「あの⋯ロキ様?怒らないんですか?」
「怒る?褒める事はあれど怒ることなんて、ひと一っつも無いで?」
「でも⋯⋯怪物進呈の事とか⋯」
「ベルたん、そんな事誰でもやっとる。それはそれで正しい判断や。むしろディアンケヒトの奴の方がおかしいんやで?話を聞いた時は怒りのあまりボコボコにしてもうたわ」
だからボロボロだったのかディアンケヒト様⋯⋯。
「いいか?ベルたん。キミはLv1でミノタウロスの『強化種』倒すなんて凄い事を成し遂げたんやで?もっと誇らにゃ」
「⋯⋯⋯それでも、僕が彼らを見捨てた事に変わりはありませんから」
「〜〜〜〜か〜〜〜暗い!暗いでベルたん!」
唸り声を挙げるロキ様。ふと、何かを思い出したように向き直る。
「そや!気分転換に、ステイタス更新しよか!もしかしたら新しいスキルとか手に入っとるかもしれんしな!」
「えっ?ここでですか?」
ギルドの一室、つまりは借り物何じゃあ⋯⋯。
「ええってええって!ほら、脱いだ脱いだ!」
「⋯⋯わかりましたよ」
僕はハァッと溜息をつき、服を脱いでベットに横になる。ロキ様はその上に馬乗りで乗ってくる。そのままロキ様はステイタスの更新作業を始め、
「ふうっ、まぁこんなも────はっ?」
以前のステイタス付与の時のような素っ頓狂な声を挙げるロキ様。しばらく無言でステイタスを書き写し、僕に見せてくる。
【ベル・クラネル】
Lv1
力︰726 B
耐久:643 C
器用:895 A
敏捷:972 A
魔力:609 C
《魔法》
【
・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】
・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】
・指定範囲に付与
《スキル》
【
・自分よりも強い相手と戦う時、ステイタスに高補正。
・こ■は、『
「⋯⋯なんですか、これ?」
ステイタスが異常に伸びている。ロキ様に顔を向けると首を振り、
「残念ながらウチもこんなケースは初めてや」
僕はスキル欄に目を向ける。
「⋯⋯⋯こっちは?」
ロキ様、またも首を振る。
「こっちも同じや。⋯⋯⋯ったく、ステイタスが文字化けなんて初めてやで?」
ロキ様にも分からないようだ。流石に僕自身不気味なのでステイタスについて考察してみるが、一向にわかる気配はない。
「ベルたん」
ロキ様が真剣な表情で話しかけてくる。
「いいか?ベルたん。ベルたんはなんやようわからへんけど『成長期』みたいなもんや。というか、それ以外に考えつかん。新しいスキルの方もようわからん。でもこれだけは言っとくで────」
ロキ様は一旦言葉を切る。
「────ステイタスは絶対に秘密や。これがほかの神にでも知れたらエラい事になる」
「⋯承知しています」
「頼むで」
それだけ言ったロキはぱっと明るい顔になる。
「さて、とりあえず帰ろーか!」
そう笑顔で言い放つロキ様の後を追いかけ、僕は黄昏の館へ向かった。
────途中、エイナさんにしょっぴかれて朝まで説教を喰らったことは今でも印象に残っている。