一人称が書けない。難しい。書きたくない。しかしこれも修行なのだ……。私は書くぞ……ッ!
けど途中から三人称になってもいいよね。うん、これは逃げじゃないぞぉ。ちょっと休憩しただけだから()
それでは暇潰しにでもして頂ければと思います。
どうぞ
少し過去を振り返ろう。なに、昔話というほど遡る話じゃないさ。
今から三年ほど前の話。俺がヒーロー協会からヘッドハンティングを受け、給金に釣られてホイホイと承諾の旨を伝えた後のことだ。
ヒーロー協会の動きは恐ろしい程に迅速だった。具体的に言うと、各方面への宣伝と喧伝が半端じゃなかった。
曰く、英雄セフィロスという男がヒーロー協会にて最初のヒーローとなった。
曰く、英雄セフィロスが今後ヒーローたちのトップとして地球の平和を守る決意を表明した。
曰く、英雄セフィロスに倒せぬ敵なし、守れぬ人なし、打倒出来ぬ困難なし。
曰く、曰く、曰く………。
……うん?
…………え。
いや………………え。
ちょっ、待ってぇぇぇぇぇぇえええ!!?!?
超待ってぇぇぇ!!!
英雄とか呼ぶのまず止めて!! あれだよね? お金目的で賞金首狩ったり、異様に出会う怪人が鬱陶しくて片っ端から叩き切ってたら、なんか皆がいつの間にかそう呼んでたんだよね!?
それをさぁ、なんかよく分かんないけど権力者の多いヒーロー協会が宣伝やら喧伝しちゃったらさぁ、なんかそれが公式みたいになっちゃってるよね?
あの、本当勘弁してください。
ちゃうんです。賞金首狩ってたのとか真面目にお金目的やったんです。怪人とか滅茶苦茶出会うし襲ってくるしで半ギレで斬ってただけなんです。
それをこう、ね? 英雄だー! すごいー! みたいに持ち上げられても素直に喜べないんだ……。
これ悪い風潮だからな! やりたくもないのに学校で委員長とかさせられる奴の気持ち考えたことあるのかよ! 放課後とか早く帰って遊びたいのに先生の手伝いで暗い廊下を一人トボトボ歩く悲しみが分かるのかよ!
えっ、ちょっと違う? 伝わればいいんだ。
要は俺も無理矢理やりたくない仕事をさせられてる。しかもその方法が相応しくない呼び名を悪用して外堀から埋めるという悪辣さ。
………ヒーロー協会こえぇ。
あとさぁ、俺がいつ! 地球の平和を守る決意表明したんですかねぇ!!?
全然ッ! 一言もッ! 言った覚えがないッ!
ホント誇大広告もいいとこなんだよなぁ(遠い目)
それでなに? 倒せぬ敵なし、守れぬ人なし、打倒出来ぬ困難なし?
それ敵倒せなくても人一人守れなくても全部の非難と罵倒が俺に来るやん! ブーイングのスコールがピンポイントで発生してまうやん!
しかも打倒出来ぬ困難なしってなにそれ……ッ!!
おま、それはやっちゃ駄目だろぉ! やっちゃ駄目なやつやん……(悲しみ)
つまりこう言いたいんだよね?
ヒーロー協会「ウチらが命じた案件は絶対完遂。拒否権とかねぇから。どんな無茶振りでもクリアしろよ」
任務を完遂出来なかったら………。
宣伝と言ってることが違う! →周囲からの信用失墜! →ヒーロー協会の株が暴落! →お前責任取ってクビな!
なんてことになりかねないのでは……。元々信用とかないよね、なんて言わないでね! ぺーぺーの新人に信用寄越すわけないことくらい分かってるから!
いやしかし……。
……。
28歳独身無職。特技は棒振りです!
キツい。これはキツい(迫真)
この年で無職になるのはキツいし、なによりも折角就職が決まってクセーノ博士を安心させてあげられたんだ。その安心をぶち壊したら俺はもうクセーノ博士に顔向けできない。
主に申し訳なさと情けなさから。
まあそんな感じでね。
個人の意思なんてガン無視するのが常道と謂わんばかりなわけでして。
これが世界か。俺、真理の一端を得る(不本意)
それでまあ、とにかくヒーロー協会が俺をガッチガチに固めてるんだ。命令は絶対遵守の完遂的な意味で。
所感としては、ドラム缶に突っ込まれてコンクリ流し込まれて鎖で雁字搦めにされてる以上に感じてる。
これまじだから(真顔)
まあそんなわけで、一番最初にヒーローになってしまった俺に下された任務内容は『確かな実力を持ったS級ヒーローの確保』だ。
流石に大富豪が設立した組織。集めた職員たちは優秀だ。資金もある。一から十までのマニュアルも既に出来上がっていた。宣伝もバッチリでヒーロー志望応募者は多かったらしい。あとはテストを行いそこで基準値に満たなかった者をふるい落とすだけ。
だが真の実力者は協会から事前に、直にヘッドハンティングを受けている。当たり前だ。平和を謳う組織を設立しても、実働する手足が、それも強靭で万人が安心出来るだけのモノがなければ意味がない。応募者を募ってそこから発掘なんてナンセンス。
事前の準備はとても大事なのだ。どうやらヒーロー協会はそれを怠らなかったらしい。
S級という階級も在野に埋もれた実力者、またはその原石を発掘し確保するためのものらしいし当然か。
まあ、多くの権力者や資産家が集まっていたため、どれだけ強かろうと所詮一個人の情報など簡単に手に入ったはず。
それらの情報を俺も渡され、彼等を協会所属のヒーローにするよう説得をしてくれ、と。
渡されたリストには十数人ほどしか人物の情報が記載されていなかった。どうやら協会の方で厳選した人物らしい。そのリストの中から最低三人は連れて来て欲しいらしいが……。
悲しいことに皆が皆、協会からの勧誘の手紙に色好い返事を返さなかったらしい。無視する者も多かったとか。
……あの時点で承諾したのは俺だけだったらしい。
こんなことを協会職員さんに言われた。
「英雄セフィロス。貴方がここに来てくれて本当に助かったよ。僕たちの未来は明るい」
とても晴れやかな笑顔だった。
(どんな仕事でも押し付けることが出来るから)僕たちの未来は明るい、って言う意味じゃないよね? 職員さんのメガネが反射して瞳が見えないですけど、晴れやかな笑顔(ただし目は笑ってない)じゃないですよね? ね?
クセーノ博士ェ……俺はもう、駄目かもしれませんンンン!!
と、そんなこともあり。職員と長く会話して胃が悲鳴を上げてきたので俺は颯爽とその場を後にした。いざ人員集めにと俺は飛び立ったのだ。
しかしまあ手紙に色好い返事はなかった、若しくは無視である。なんとなく想像はついていたが、会う奴どいつもこいつもアクが強い。
ほとんどの奴等が、勧誘の言葉を俺が放ったと同時に仕掛けてくるってどういうことなの(白目)
唯一しっかり話せた流水岩砕拳のバングさんは天使。だが手合わせはしっかりした。本当にどいつもこいつも肉体言語しやがってぇ!
そして相手方の事情も試みた上で、俺が承諾を貰うことが出来たのは四人であった。
彼等彼女等こそ最初期から現在まで、S級にて最強格との呼び声を維持し続けているヒーローたちである。
S級2位 ブラスト
S級3位 戦慄のタツマキ
S級4位 シルバーファング
S級5位 アトミック侍
因みに協会がS級ヒーローを召集するとき、毎回ちゃんと集まるのは俺とバングさん……シルバーファングだけである。
おい。来てねぇ奴等まじ許さねぇかんな。他の案件入ってたならいいけど、遠いからとかサボりとか……。
仕事しろよぉ! 頼むからぁ! 俺が一番働いてるって可笑しくない!? 協会の秘密兵器的な立ち位置じゃないの俺!?
あっ、違う? そうですか……。でも一応S級1位なんだし他に仕事回した方が……。災害レベル竜以上は君に任せる? アッハイ。
俺はもうすぐ死ぬかもしれない。主に過労で。
つーかさぁ、ここ地球だよね? 災害とか怪人が多過ぎでしょ! それにプラスして犯罪組織とか凶悪犯罪者も多いし! プラスして事件ある度にお偉いさんの警護として呼び出されるし! プラスしてモデルの仕事してこいとか言われるし! いや最後ヒーロー関係ないよね!?
おまっ、まじ俺の睡眠時間を返せよぉ。
ショートスリーパーを強制されるとか新手のイジメだよこれ。それでも全然平気なのがセフィロススペックなんだよなぁ。そして平気そうだからって更に仕事が増えるんだよなぁ(絶望)
この国の労働環境ブラック過ぎワロタ。
いや、ごめん。笑えねぇ……。
中身一般人だから相当キツい。逸般人にはなれなかったよ……。
だがそれもこれまでだ。
俺はついに希望を見つけたのである! というか現在から一、二年前くらい前からその人物は目撃してたんだけど。
多分、年は俺よりも少し若いくらいの男性。ちょこちょこ俺が一方的に、彼と怪人との戦いを観戦してただけなのだが、その男性がすごい。めちゃくちゃ凄い。
最近なんて怪人をワンパンで倒すところしか見てない。
何故かいつの間にかハゲてたけど。そのときは同一人物とは思えなかったくらいだったけど。
取り敢えずとてつもなく強いのだ。メキメキ実力を上げてたけど、最近じゃ彼、敵なしなんじゃないかなぁ。
そして俺はピーンと来た。セフィロス脳細胞にあれほど感謝したことはないね。世紀の大発明を越える思い付きだった。
ふふふ、そうだ! 彼をS級1位ヒーローにしてしまえばいい! そして俺は彼をスケープゴートにしてヒーローを辞めるぞぉ!
俺はッ!!!
ヒーローを辞めるぞジョジョオオオオ!!!!
おっと失礼。テンションが上がってつい。
いやしかし。本当に希望だ。彼は逸材だ。
ただ、彼はどうやらヒーロー協会には所属していないようだ。調べてみたが協会には登録されていなかった。
ふむ……。もしかしたら彼もヒーロー協会に所属したくない理由があるのかもしれない。今時ヒーロー協会を知らない人はいないから、多分そうなんだろう。
ああでもなぁ。彼が欲しい。めちゃくちゃ欲しい。是非ヒーロー協会に来て欲しい。
そして願わくば俺と立場を入れ替えて欲しい。
そして俺のことも助けて欲しい。
なんとかヒーロー協会に所属してくれないかなあ。
灰色の脳細胞は高速回転し、なんとかしようと唸りをあげる。………どうしよう。取り敢えず会ってバトって協会に来るよう納得させる方法しか思い付かない……ッ!
これも全部、今までの経験のせいなんだようん。普通に考えたら力付くでしか物事を解決してないからね俺。賞金首も怪人もヒーローにもなんとか勝ってきたけど、よく考えたら彼等とのバトルしかしてないからね俺。研究所から解放されてそれだけって俺の人生薄すぎない?
まあヒーローに関しては全部あっち側から仕掛けてくるんだけどネッ!
ふむ。よろしい。ではまずは彼に会いに行こうではないか。
《ピピピピピピピッ!》
……!
この音は……ッ!! くっ! なんという間の悪さだ。まずいな。どうやら彼に会いに行けなくなってしまった。
だが仕方ない。仕方ないことだ。これこそが俺の使命であり宿命なのだから。
なに。思うところはあるが、これも俺が背負っているものだ。はね除けることなどせんよ。
さあ、行くか……!
S級1位ヒーローとして、人々を脅かす者共の元へ。
───正義、執行
とかなんとか格好つけて言ってみたけどね。テンション上げなきゃやってられんよ!
今日も協会から呼び出し食らったので逝ってきます(社畜感)
◇
その日、地球には大きな危機が迫っていた。
空を見上げれば、否が応にも目につく巨岩。いや、それは巨岩で済ませていいものか。
それは天の失墜。神の裁き。地球の歴史を漂白しかねない脅威。宙から飛来した塵である。
───隕石。
人はそう呼ぶ。
過去には天降石とも記された飛来物。人々が隕石に対してどのように解釈していたか、それだけで理解に足る。
人々は空を見上げて涙を流した。
あれほどの脅威。人の身には如何ともし難い。誰もがそう思った。
もしかすると一部の力ある者たちはそう思わなかったかもしれない。自分ならばどうにか出来る。日本への被害が甚大でも自分なら問題ない。
しかし悲しいかな。一般の人々はそうもいかず、また落下した際に周囲の地表にある資源はその悉くが芥となるだろう。
隕石は直径数十メートル。下手をすれば百メートルに届くやもしれない。
直径一メートルから十メートルのものはそれなりの頻度で地球へ降り注いでいるが、その多くは大気圏で燃え尽きてしまう。
今回に関してはそれも到底期待出来ない。
仮に直径百メートルもの隕石であった場合、TNT火薬換算で約一億トンにも昇る。この数値は脅威だ。
世に言う原子爆弾。非道の核兵器であり、人命を踏みにじる最悪の破壊兵器。たった一発で半径数キロが被爆圏内となり、半径一キロ圏内を死臭と瓦礫で満たす。
そんな、皆がふと頭に浮かべる某原子爆弾はTNT火薬換算で実に一万五千トンにも昇る。
そしてこの原子爆弾に換算した時、直径百メートルの隕石は原子爆弾約6666発と同等の爆発力となる。
さあ、これで隕石の脅威は具体的となった。
恐ろしさが、表面に浮き上がった。
今回、この隕石を観測した協会。彼等によってS級ヒーローはA市の協会本部に集められた。協会からの指令は一つ。この隕石をどうにかしろ。端的に言ってこの一言だ。
なんとも無茶苦茶な指令とも呼べないもの。しかしS級ヒーローにとっては日常茶飯事なのだから、世に平和というものがあるなら疑う他ない。
集まったのはS級18位ジェノス。S級4位シルバーファング。そして最後に一人。
「───今回は三人か」
ジェノスとシルバーファングが会話をしている最中、奥の影からカツリと靴音が響き、次いで耳障りのいい美声が二人の鼓膜を震わせた。
「セフィロスくん、来とったのか。久しぶりじゃのう」
「お前は……。S級1位、英雄セフィロスか」
「ああ久しぶりだ、シルバーファング。そしてお前は……新人のジェノスだったな。俺のことはセフィロスで構わない」
よろしく頼む。そういって気負うことなく差し出されたセフィロスの右手。
ジェノスはじっとそれを見つめて、脳内でのみ圧縮された時間の中思考する。
(S級1位。つまりは全ヒーローのトップに立つ存在。こんなにも早くに出会えるとはな。サイタマ先生から出された課題は『S級10位以内を目指すこと』。こいつの強さが判れば見えやすい強さの指標になるだろう。流石にサイタマ先生ほどではないだろうからな……)
ジェノスは黙ったままセフィロスの右手を握り握手を交わした。
「無口なやつだ」
「何いっとるんじゃ。それはセフィロスくんもじゃろうが」
「そうかもな」
薄く笑いながらシルバーファングとジェノスを見て、セフィロスは満足そうに頷いた。
「有望株だな」
「ッ!!?」
「ほお! 君がそういうとは珍しい」
シルバーファングが目を見開いて驚く中、隣で握手をしたままジェノスは固まってしまった。驚きに体が硬直したからだ。
(バカなっ!? まさか握手をしただけで俺の実力を完全に把握しきったというのか!? 俺はサイボーグだぞ! そんなことが……! いや確かセフィロスは剣の達人。武を極めた者は拳を合わせただけで相手の力量を看破するという。ならばこれもその一種か? 真偽は不明だが魔法とも超能力とも言えるような力さえ持っているらしいことを考えれば納得か……。この男……底が見えない)
「どうしたジェノスくん」
シルバーファングの声にジェノスはハッと気が付いた。どうやら自身が固まってしまっていることさえ思考の外にあったようだ。
ジェノスは握手をほどいた。
「いや、なんでもない」
セフィロスはその動作さえ興味深そうに見つめている。ジェノスは自身の全てを暴かれている最中なのかもれないと戦慄した。この男は平時の動作から全てを暴ける程の洞察力、観察眼を持っているのかと。
なんとなくジェノスはその場を早く去りたいと思った。その思いが天に通じたのか、市内全域に警報が鳴り響く。
巨大隕石接近を知らせる警報だ。
他のS級ヒーローはもう来ないだろう。協会本部に向かっている最中だったとしても、待っている時間はない。
セフィロスは見切りをつけた。
「急行するぞ」
シルバーファングとジェノスも異論なく、三人で隕石落下予測地点、Z市へと急ぎ飛び出した。
比喩ではない。建築物の屋上や屋根を足場にしながら風を切り裂き進んでいるからだ。
常人が見れば霞むような速度で駆け抜ける三人。その脚力と持久力は文字通り、人の限界を超えていた。
目標地点、到着。
それと同時にジェノスがサイボーグとしての装備を装着する。両腕の指先から顎のラインまでを覆うメタルブラックの装具。それは美しく光を反射させていた。
空を見上げれば燃ゆる星屑。
もう、時間はない。
「……相変わらずだな」
「なに?」
ポツリ溢したセフィロスの言葉をジェノスが拾う。
何が相変わらずだというのか。シルバーファングに対して言ったのか、それともジェノスに対して言ったのか。
ジェノスに言ったのなら、サイボーグに何か思い入れでもあるというのか。
(もしそうだとすれば奴への手掛かりが掴めるかもしれない)
「……メタルナイト」
またもセフィロスが溢す。
その視線は定まっており、だとすれば先の言葉もメタルナイトに対してのものだったのか。
だがここにメタルナイトはいない。
そうジェノスが思ったのも束の間。
(……! 高速接近反応。まさか……)
ジェノスが搭載する高速接近反応に動きがあった。数は一つ。方角はセフィロスの視線の先だ。
大きな駆動音を響かせながら飛翔する金属塊が近付いてくる。ブースターをジェット噴射させて飛ぶ様はまるで流星のよう。
ジェノスとは違い一目で分かる全身サイボーグのヒーロー。彼こそS級8位メタルナイト。
「……ボフォイか」
ジェノスはメタルナイトの本名を独り言つ。ただの確認作業だ。
思考はメタルナイトではなくセフィロスの方へも割かれているが故に。
(なんという感知能力! クセーノ博士が設計し、俺に搭載されている機器はどれも高性能なもの。だというのに奴は易々とそれを超えている)
なるほど。この一幕だけでもS級1位の名が伊達ではないと理解できる。
それからジェノスがメタルナイトへ隕石破壊の協力を要請するも、すげなく断られてしまった。メタルナイトは兵器の実験に来ただけであると言う。おまけにメタルナイトからジェノスへ、本名ではなくヒーロー名で呼ぶことが常識だと注意する始末。
中々な個性を発揮するメタルナイト。しかしやり取りを見る限り、悪人ではないのだろう。個人主義で偏屈な部分が強いようだ。
他のヒーローも多かれ少なかれ似たり寄ったりだ。それはそれで問題な気もするが、あまり気にしていてはヒーローを続けるなど不可能だろう。
「ソレニ 私ガ協力 スルマデモ ナイダロウ」
「どういうことだ」
「セフィロスくんがおるなら問題ない。メタルナイトが言いたいのはそういうことじゃろう」
ジェノスがチラリとセフィロスを見やる。
どうやらセフィロスは相当に信頼されているらしい。テレビや雑誌でも特集が組まれるのは珍しくないようだが、なるほど。それらが事実ならば相応の実績があり、故に彼等は信頼を向けているのだろう。
「ダガ セフィロス。オ前ハ 最後マデ 手ヲ出スナ」
どうやらそれでもメタルナイトは実験を優先するようだが。いや、セフィロスがいるからこそか。後を気にする必要がないのはでかい。
「いいだろう」
軽く頷いたセフィロスを後目に、いよいよ無視できない距離に迫った隕石へ全員が意識を注ぐ。
「ジェノス、いい機会だ。お前の力を見せてみろ」
(俺の力を測るつもりか?)
ジェノスは再度、巨大隕石を見上げる。
これほどの大質量、高エネルギーの物体を自身が打ち砕けるのか。疑問が押し寄せ、解を導きだそうとするも更なる問題が浮上する。
メタルナイトが数多のミサイルを撃ち込んだ。大威力の破壊兵器だ。それは隕石へと衝突し、光を炸裂させ、大煙幕で空を覆う。
そうして的となった隕石は──変化、なし。
変わらぬ姿で地表へと迫り来る。それが更なる動揺と疑問をジェノスへもたらした。
「心に乱れが見える。お主は失敗を考えるにはまだ若すぎるのう。適当でええんじゃ、適当で。土壇場こそ、な。結果は変わらん。それがベストなんじゃ」
「 ! 」
何かに気付いたのか、それとも思い至ったのか。ジェノスはそれまでの掌へのエネルギー充填を中止。胸部を開きコアを取り出すと、それを腕部へ嵌め込み更なるエネルギーを出力した。
そしてそこから得たエネルギーを全て掌へ。
そのまま隕石へと照準を固定。
「バング、セフィロス、伏せていろ!」
放出。
光の柱が、突き立った。
「うおおおおお!!!」
咆哮。
失敗や二次的な被害を度外視した全力の一撃。今できる全てを捧げた一撃だ。
反動で今立つ地面がひび割れる。
それほどの一撃を放っても──隕石は止まらない。
エネルギーが尽きたのか、熱を冷却する音を鳴らしながら膝を突くジェノス。
「残り9秒」
ジェノスはセフィロスのことをよく知らない。
セフィロスは有名だ。故に真偽は不明にしても多くの情報が手に入る。多くの敵を打ち倒したのだろう。災害を対処したのだろう。実績も功績も素晴らしいのだろう。
だが、セフィロスに言われるがまま巨大隕石と向き合ったジェノスからすれば、あれは人に破壊出来るモノではない。素直にそう感じた。
逃げるんだ。
ジェノスがそう言おうとして、セフィロスとシルバーファングへ視線を向けたとき。
ジェノスは見た。
セフィロスの天高く掲げられた右手。そこに集まる常軌を逸した力の波動。
聞き取れない程の小さな声でセフィロスが何かを口にした。隕石の迫る轟音も合わさり、誰にも聞き取ることは出来なかった。
「───」
変化は劇的だった。
巨大隕石を包む透明な膜。更に小さな無色の球体が列なして巨大隕石を囲んでいく。幾重にも幾重にも囲んで、それは一瞬の出来事だった。
───巨大隕石、停止
「……バカな」
「なんと!」
「……」
呆然と呟くジェノス。数年の付き合いがあるシルバーファングも初めて見たのか、驚愕に目を見開く。メタルナイトは沈黙を保っているが、その心境は如何なるものか。
しかし驚愕はそこで終わらない。
これまたいつの間に構えていたのか、左手に握る長刀を一瞬の溜めの後、解放。
───閃光
直上まで迫っていた隕石へ一振り。否、誰にも一振りとしか認識出来なかっただけ。周囲から見ればそれはまるで、斬撃だけが虚空から無数に生まれ、隕石をただの石ころへと変えていくよう。
なんと恐ろしい絶技。人はこれほどまでの境地に到達できるのか。
まだ、終わらない。
無数に切り裂かれた隕石はデカいだけの石ころへ姿を変えた。それでもこれほどの数量、質量。街へ落ちればそこは石ころが山と積もり、押し潰されてしまうことは想像に容易い。
何しろ百メートルに迫ろうかという巨大隕石だ。それを停止させ、ここまで切り刻んだことだけで既に領域外の成果。
だというのに更に先を目指すというのか。
左手の長刀を地面に突き立て、再度右手を隕石へ。いや、もう隕石とは呼べない。人の胴体程の大きさに斬り分けられたソレ。
セフィロスの右手は何を掌握しているのか。何かを掴むように伸ばされた右手の先で、灼熱が集まり出す。
石ころの群れの中心へ。セフィロスの斬撃が通った後を道標に、次々と中央を目指す燃えるエネルギーたち。透明な膜の中で集った灼熱は人の角膜を焼き付くすような。
なんといったか。それはいつも目にしているモノだ。しかし人の手が届かないモノ。隕石と同じく、過去には神として奉られていた存在。
ああ、あれはそう───太陽
どういった原理なのか。セフィロスは神すら手中に納めるのか。ああ、分からない。
分かるのは石ころの群れの中心に太陽が生まれていたことだけ。そして無色の膜が唐突にふと消え去った瞬間。ガラリと石ころたちが音を立て、天を見上げた誰もが未来を想像し。
「───フレア」
太陽が、爆ぜた。
隕石の数分の一程度の、しかし大きな太陽は。隕石の迫る轟音が無くなった不思議なしじまの中、セフィロスの常と同じ声音で放たれた言葉を切っ掛けに何倍にも膨張した。
風鈴のように周囲へ反響し、耳奥に残るたった一言だった。
フレアは石ころの群れを悉く呑み込み、内にある全てを莫大な熱量で煤へと変貌させる。後に残ったのは、隕石の質量からは考えられない程の少ない煤。それらはフレアの熱量が尽き、外界に晒されたが最後。風に吹かれて更に塵芥となる。
星の大気の流れを汲み、彼等は地球を廻るだろう。天から失墜する運命にあった一つ。彼等はまた翼を得た。この星から出ることは叶わないが、それでもまた旅に出た。宇宙を廻る壮大な旅と比較すれば陳腐だが、それでも悪くない結末だ。
「任務完了。帰投する」
周囲が止まった時間の中。
限られたヒーローたちにのみ支給されている協会専用の携帯端末で報告を簡潔に済ませるセフィロス。
まるでいつものことだ。
背中でそう語る姿の、なんと遠いことか。
長刀を納め、携帯端末を懐へ仕舞い、セフィロスはヒーローの後輩たちへ視線をやり、柔らかく微笑した。
「どうした?帰るぞ」
バングは。
メタルナイトは。
ジェノスは。
頂点に立つヒーローの偉大さを刻み付けられる。
眼下の街では喜びにうち震える歓声が響き渡っている。今回の巨大隕石を観測し、ヒーローたちへ無理難題だと理解しつつも、信じて任務を告げた協会でもそれは変わらず。
ただ、この場にズレた存在がいたことを誰も知らない。
知っているのは本人と、あとはその親しい存在のみか。
いつもは感情も気力も抜け落ちたようなやる気のない顔を引き締めて。隕石を完全破壊したことすら眼中になく。偉業とすら認識しない存在。
ただ見つめるのは、英雄と呼ばれる男の在り方。その力。それのみ。
成した功績などどうでもいい。
常なら人に興味など懐かない彼は、その男に心を擽られた。
彼はじっと男を見つめて、一歩を踏み出した。
誰かがじっとセフィロスを見ているらしい。
ダレナンダー
ちなみに共通の恩人を持ってる癖にお互いを知らない奴等もいるらしい。ダレナンダー
今回のフレアは個人的にFF9のフレアを想像してかきました。隕石を止めたのはDFFを参考にしました。