何故か英雄になったけど俺は闇堕ちしない   作:月光法師

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 今回は賛否が別れると思いますが、まあ気にせず投稿。
 サイタマ先生ちょっぴり救われるの巻。

 それと感想欄を読んだ方は知っていらっしゃるでしょうが、サイタマとセフィロスはまだ戦いませんと言いましたね。あれは嘘だ。すまぬな……。





災害レベル【鬼】でも瞬死

 

 

 

 取り敢えず今日も無事に……無事? うん、無事に一日が終わった。

 隕石の処理任務を完遂できたからね。もう引退会見してもいいレベルなんじゃないかなぁ。

 言って気付いた。俺がヒーロー辞める時って会見開かなきゃならないんだろうか……? 一応S級1位だし、可能性はなくもない……?

 

 もうやだよー! パッと辞めたいよパッと!

 

 やめよやめよ。折角いいことあったのに、気分が沈んじゃうよ。

 

 そう。今日は良いことがあったのだ。

 

 協会に呼び出され、職員さんから任務内容を聞き、その場で「この前S級に新人さんが出来ましたよー」って聞かされ……。

 おーい。この前っていつだよ。というか知らせるの遅くない? 一応S級1位ですよね自分……?

 

 そしてちょっと(しこり)が残りつつもジェノスくんの話を聞いたんだ。

 19歳でサイボーグ。ヒーローテストで満点を叩きだし、情報によれば数々の怪人悪人を討伐。直近だと進化の家なる秘密組織を壊滅させた実績を持つ。大金星を上げ続けてきた期待の大型ルーキー。

 

 なるほど。すごい実力を持っているようだ。S級の一種の資格である、災害レベル【鬼】を単独で対処できる能力もあるようだしね。

 しかし俺が注目したいのはそこじゃない。そこじゃないぞ! この俺が直々に見極めてやるわ小僧! このS級1位のセフィロスがなぁ! あっ、大口叩いてすんません……。

 

 あまり期待していなかったが、ジェノスくんは今回の任務で協会の招集を受けてやって来た。

 おっ! ちゃんと来たのはお兄さん的にポイント高いぞぉ(チョロい)

 

 ジェノスくんと自己紹介をした際「セフィロスって呼んでね! よろしく頼むよ! 英雄とかって呼ばないでね(震え声)」って言ったらフランクに呼び捨てで呼んでくれた。ポイント高い(チョロい)

 

 おいおい良い子だよこの子! 絶対良い子だよ! ちゃんと任務に来るし! 頼んだら素直にその通りにしてくれるし! フランクだけど全然嫌味じゃないし! 逸材だ! めちゃくちゃ有望だよ!

 この子もS級1位枠だな! (チョロい)

 

 それで自己紹介だけ済まして俺たちは現場に向かった。

 到着して空を見上げると、おっきな隕石が。

 わー、すごーい(白目)

 

 思わず協会に対して「相変わらずだなー」って言ってしまったのは仕方ないことなんだ。

 だって安定の無茶振りなんですもの(諦め)

 

 いやね、ここに来るまでに隕石見えてたよ? なんか思ってたよりもデカくね? とか考えてたよ?

 でもいざ落下予測地点に到着したらね。なんか、思ってたよりもデカくね……。無理くね……。

 ってなったのは仕方ないと思うんだ、うん。

 

 まあジェノスくんが何処までやれるかまだ分からなかったから、早計な決めつけだったかもだけどさ。

 

 そしてそこへ合流してくるメタルナイト。

 なんか隕石を見て悟りを開いてたらキラリと光るメタルボディが見えたんだよね。

 やったぜ! これで勝つる!

 

 だってあのメタルナイトだよ? 個人でどれだけの兵器を所持してるか分からない。協会からも警戒されて要監視対象になるほどの人物だよ?

 そりゃすごいでしょ! あんな隕石一発でしょ! やっちゃってくだせえメタルナイトの旦那!

 

 まあ常にはただの問題児なんですけどね()

 ほんとS級ヒーローこんなのばっかりだよぉ。有事の際には頼りになるんだけどね、有事の際には。有事の際だけはね! (三回目)

 

 そして今はその有事。彼等は立派にことを成してくれる筈さ。

 

 なんとなく皆を見ていて気付いた。

 おっ! サイボー組やん! S級のサイボー組やん! これ中々いいコンビちゃう? 隕石逝かせるなんてイージーモードなんちゃう!?

 ふっ、勝ったな(慢心)

 えっ? 駆動騎士? 知らない子ですね。

 

 しかしこの二人だったら良いコンビだと思うんだよ。二人ともサイボーグだから(単純)

 だから言ったんだ。「ジェノスくんの良いとこ見てみたいー」って。

 それから二人が協力して隕石撃破! とはならなかった。

 メタルナイトが早漏野郎だったからだ(罵倒)

 

 お前さ~、ホントそういうとこだぞ! 今のは協力するとこでしょ普通! なんで一人でやっちゃうんだよー。しかも全弾撃ち尽くすしー。隕石も壊れてないしー。

 

 メタルナイトがそんなだから、ジェノスくんがなんとかせねば! って気合い入れてるじゃん。いや全然良いことなんだけど。

 メタルナイトのフォローしようと頑張ってくれてるんだよね多分。

 めちゃくちゃ良い子だよこの子。やっぱり良い子だったよ。

 

 ただね? あの、そんな「ここで死力を尽くす!」みたいな感じにまでならなくても……(戦慄)

 あああああ! 待って待って! まだ序盤だから! 勇者がひのきの棒もらって王城でたばっかのとこだから! きみS級になったばかりでしょ! そんな使命感に燃えなくていいから! そうやって一人で抱え込んで潰れるの新人の典型だから! もっと先輩頼ってー!

 

 そしてジェノスくんの左手から撃たれる巨大で強大なエネルギー砲。かっこいいぞジェノスくんー!

 しかし止まらない巨大隕石。

 

 エネルギーが切れたのかプスプス言ってるジェノスくん。大丈夫なのかジェノスくん!?

 

 これはイカンと思ったね。折角の有望な子をここで潰すわけにはいかないと! あとちょっと後輩にかっこいいとこ見せたい(見栄)

 

 よーし! やっぱり見栄えがいい技がいいよねー! あと余裕そうに見える方法がいい! そして最後に派手なのがいい! でもかっこいいって言ったら剣だよね! 剣でスパーンと斬っちゃうとこも見せたい!

 決めた! 全部盛りだー! (ばか)

 

 そしてスタイリッシュに決める魔法! 斬撃! 魔法! の三連撃。 うむ、決まった(ドヤァ)

 

 うん? 魔法使えるのって? なんか体の中にある魔力的なやつをギュッとしてハァッ! ってやったら使えるんだよ(適当)

 バングさんだって適当がベストって言ってるしそんなもんでしょ(違う)

 

 そして驚く後輩たち。

 ふふふ、悪くない心境にござる(照れ)

 

 まあ跡形もなく壊したのはちゃんとした理由もあるんだけどね。瓦礫とかで街に被害でたらダメだし、俺に各方面から攻撃来そうだし(白目)

 S級1位のくせに! とか。ヒーローのトップがこの程度どうにか出来んのか! とか。やっぱり仕事は出来る限りベストな結果に繋げなきゃね。

 じゃないと信用信頼も落ちちゃう。童帝くんとかが向けてくれるキラキラした瞳がドブ川を見るような瞳になっちゃう。くっ、それはきつい!

 

 ま、今回の件は無事完遂できたからその心配はないけどさ。

 

 ここまでが隕石破壊任務についてのお話。

 

 これまで語ったことで分かったかもしれないけど、良いことの一つはジェノスくんという有望株が後輩になってくれたこと。

 そしてもう一つ。どうやらジェノスくんには先生と呼び慕っている人がいるらしく、その人がなんと俺の探し人だったのだ。

 

 名前はサイタマくん。Z市のゴーストタウン在住、25歳のハゲ……禿頭の男性だ。職業はヒーローをやっているらしい。

 ファッ!?

 

 詳しく話を聞くとどうやらジェノスくんと同日にヒーローテストを受けて合格したそうだ。それがつい5日前の出来事。

 かなり強い筈なのになぜ今時ヒーロー名簿に登録したのか。俺はてっきり興味がないか、既に手に職つけてるのかと思ってたんだけど……。えっ、プロヒーローの存在を知らなかった? アッハイ。

 世の中には色々な人がいるんだね(悟り)

 なんか色々ツッコミたいけど一つだけ。

 

 一年以上悩んでいた俺って一体……!

 

 しかもその時に。

 

 「セフィロスは仕事何してんの?」

 

 ってサイタマくんが。

 あっ(察し)

 

 やべーわー。自分で自分のことちょっとは有名人じゃね? とか思ってたのやべーわー。自意識過剰も甚だしいね。いや、ちょっと、これはホントに恥ずかしい。

 そうですよね。所詮一つの組織の実働員トップ。皆が知ってるわけないですよね。

 かーっ! やべーわー! ホント俺って恥ずかしいわー! これからも精進しますんで許してください! そして私の自意識過剰は忘れてください!

 

 でもちょっとこう、新鮮だった。というか久々で懐かしかったというか。自分で初対面の人にしっかり自己紹介するのがさ。

 勿論、今までも初対面の人には自己紹介しっかりしてきたよ? でもそれって大体は任務で一緒になる人たち(ヒーローとは言ってない)だったりなんだよね。護衛対象とかだね。

 あとは色んな企業やスポンサーの重役たち。

 

 あっちは元々こっちのこと知ってるし、なにより仕事だし。こうやって自己紹介してお互いに距離感を図りながら、じゃあ双方のこと知っていこうね。みたいなのは本当に久しぶりなんだよなー。

 

 クセーノ博士と以来な気がするよ。日常で日常らしいことするのは。

 それから話しながら仲良くなってね。

 またなー、って言いながら別れたよ。

 

 これはもしや友達になれるのでは……。

 

 というか、あれ? 俺って今まで友達いなかったんじゃ……。

 グフッ(吐血)

 

 いらぬ真実に気付いてしまった。この世には知らずにいればよいこともあるのだ……。

 せふぃろす(28)ちょっと限界かもしれない。

 

 でもさー、彼すごく不思議な人だったなー。

 

 今までに何回か戦ってる姿は見てたから、強いんだろうなー。とは思ってたけど。こうやって間近で見ると強者特有のオーラっていうの? そういうの感じないんだよね。

 ホントなんて言うんだろ。ギュッと中身が限界まで詰まってる感じ? 外に余分なものが出てないっていうかさー。完璧に内に全てを凝縮仕切って、鍛えぬいた。みたいなー?

 

 言葉を借りると、二次元の存在が三次元の存在を知覚出来ず、認識できない。みたいな?

 で、二次元と三次元を隔てる壁は力の差もあるけど、サイタマくんの薄皮一枚だよ。みたいな?

 けどその薄皮一枚が次元の壁以上に厚いんだろうなー。

 上手くは言えないけど、そんなことを彼に感じた。

 

 ま、実際のとこ、誰もが彼を脅威として判断することを放棄してるんだろうなー。

 目の前に「こいつ……強い!」みたいな人がいたら警戒なり何なりするだろうけど、俺からしたらそれこそアホっぽいし。

 やっぱりちゃんとした強い人は強さを感じさせないんだよ、きっと。で、油断した敵を一撃で倒すと。

 

 マンガじゃないんだからさ。やっぱそれが一番でしょ。怪人なんて特にね。追い詰められて変身とか殊更に多いし。

 賞金首狩ってた時代にそれ学んでからは俺も一撃で倒すようにしてるし。

 サイタマくんが一撃で倒すのもそういうことなのかも。作業みたいとも言ってたから、もしかするとそうじゃないのかもしれないけどさ。

 

 そういえば、キングさんも同じ感じらしいね。ワンパンで一撃らしい。

 彼はサイタマくんと違ってめっちゃ強面だけど。強者感バリバリだけど。でもオーラはそうでもないんだよなー。とはいえ実は弱かったです、なんてことも有り得ないし。

 だってキングさん人類最強とか言われてるんだよ? 今までも災害レベル【竜】を何度か対処してるらしいし。協会がそれをしっかりデータとして記録してるらしいしね。

 じゃあ弱いわけがない。

 多分キングさんも強さを隠すのが上手いんだろうなー。

 

 そう考えると今回はいい勉強になったよー。

 

 俺ってまだサイタマくんやキングさんほど強さを隠せてない気がするし、うん。ちょっと頑張ろうかな。

 今まではほら、任務をどれだけスピーディー且つ完璧にこなせるかに着目してたから。一撃の鋭さとか速度に気を使ってたんだよね。

 よし、サイタマくん見てたら久々に刺激を受けたぞー。数年ぶりにやる気も出て来たしなー!

 畏れ多いことにこの体はセフィロススペックなんだから、俺がここで甘んじてたらダメだよね。

 

 おーし! 一丁やったるぞー!!

 

 あっ……。……なんか電話かかってきた(嫌な予感)

 

 あ、はい。もしもし、セフィロスです。えっ? 次の任務? ……。ワカリマシタ! 逝ってきます!(社畜感)

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 サイタマとセフィロスが並んで歩いていた。

 サイタマが動けなくなったジェノスを背負い、Z市の人通りのない道を進む。向かうのはサイタマが在住しているZ市郊外のゴーストタウンだ。

 

 背負われながらジェノスは己が先生と仰ぐ男サイタマと、ヒーローの頂点に立つ男セフィロスの邂逅を思い起こす。

 

 『さっきのすげーな。どうやったんだ?』

 『お前は……』

 『俺はサイタマだ』

 『セフィロス・クレシェント。セフィロスでいい』

 『そっか。で、セフィロスがやった───』

 『ああ、それか───』

 

 サイタマがいきなり疑問を投げ掛け、そのあとに素っ気ない自己紹介をお互いに交わした二人。少し話をすれば、何故かそのまま帰りながら話は続いていた。

 二人共に話をする気がないなら直ぐに別れて各々で帰路についただろう。ということはまあ、そういうことだ。

 

 ジェノスは何気ない話を朗らかに交わす二人を交互に見て、再度サイタマへ視線を向けた。

 

 なんとも珍しいなと、そう思ったのだ。人の名前を覚えるのが苦手で、物臭でマイペース。興味のないことはとことん覚えないし話も聞かない。そんなジェノスが先生と仰ぐ男は、セフィロスの名前を覚えている。そして和やかに話し続けている。

 驚愕する他なかった。

 

 途中交わされた会話を聞く限り、サイタマはセフィロスがS級1位の男と知らない筈なのだから。

 

 『そういやセフィロスは何やってんだ? あっ俺はヒーローやってるんだけど』

 『そうなのか。俺と同じだな』

 『そうだったんだなー。あ、だからジェノスと一緒にいたのか───』

 

 明らかにセフィロスの存在を知らない発言だった。サイタマはセフィロスの中身に興味を持ったということなのだろう。何か感じるものがあったのかもしれない。

 

 順位の話もせずに話は二転三転と転び続け。とりとめもない話を続けている。

 

 ふと、セフィロスが自動販売機を見つけて足を止めた。おもむろに近付いて硬貨を入れると、振り返って言った。

 

 「何か飲むか?」

 「おっ、いいのか? サンキュー」

 

 ジェノスは断った。先生の上で飲むわけにはいかないし、なにより腕が動かないから。

 プシュッ、とプルタブを開ける小気味いい音がした。

 

 ジェノスは驚いた。

 

 (打ち解けるのが早いだと……しかもサイダー)

 

 あの英雄セフィロスがサイダーを飲んでいる。俗物感が皆無のセフィロスが、である。だがそれも所詮は色眼鏡で見ていたのだろう、とジェノスは頭を振った。

 それにサイダーを飲んでいても特に違和感は無いように思える。会話を聞いていても思ったことだが、セフィロスはお高く止まっているような存在ではないらしい。

 それどころか、少しの茶目っ気すら垣間見える。

 

 二人が話をしながら飲み歩く姿は、中高生が友達と帰宅しているような。もしくは仕事終わりに一服しながら帰る同僚のような。そんな不思議と似合う光景に見えた。

 

 「サイタマはけっこう鍛えてそうだな」

 「まあ筋トレしたからな」

 

 二人の会話も普通のもので、それが却って心地好い。

 

 「セフィロスは剣使うんだよな。隕石斬ってたし」

 

 サイタマがセフィロスの腰元に帯刀されている刀を見る。

 セフィロスが柄を一撫でした。

 

 「ああ。夢と誇りだからな」

 「お前も意外と夢とかあるんだな」

 「意外か?」

 「だって無縁そうだし」

 「フッ、そうか。お前は何か無いのか?」

 「何かって、夢か?」

 「ああ」

 

 サイタマは少し考えるように缶を握る手を見つめた。

 何か思うことがあるのだろう。

 そんな彼を、セフィロスは何も言わず待ち続けた。

 

 「俺さ、ヒーローになりたかったから趣味で活動してたんだ。プロヒーローってやつがあるのを知ってテスト受けて、晴れてプロにもなれたけど……。なんか思ってたのと違うんだよな。それに最近は怪人倒すのも作業みたいに思えてきてさ……。自分が成長するワクワク感とかも得られなくなってきたんだ。セフィロスはなんかそういうの感じないか?」

 

 サイタマが抱える虚無感。

 人は外部から刺激を受けるから笑えるし泣ける。成長の糧にだって、生きる力にだってなる。

 しかしサイタマはいつしか、外部からの刺激を刺激とは感じなくなっていた。

 自身だけが周囲と隔絶された世界にいるような感覚。テレビの向こう側の不出来なバラエティーを見ているような、そんな感覚。

 つまらないことばかり。自身に影響を与えるもののない、張り合いのない日々。

 

 いつからそうなってしまったのか。それは誰にも分からない。勿論それはセフィロスにも。

 

 「……どうだろうな。プロヒーローなんてのはただの職業名でしかない。サイタマがなりたいのはそんな職業上のヒーローじゃなく、本物のヒーローなんだろうが……」

 「じゃあ本物のヒーローってなんなんだろうな」

 「そうだな……」

 

 少し考えるとセフィロスは言った。

 

 「魂」

 「魂?」

 「ああ。すごい魂を持ったやつ、だな」

 「なんだそれ」

 

 サイタマはすこし理解が難しそうに空を見上げて、再度セフィロスに問うため顔を向けた。

 

 「じゃあ───」

 

 その先の言葉は放たれなかった。セフィロスが手で制したからだ。

 いつの間にか歩みは止まり、ふと見回してみればサイタマの家に近付いていたようだ。それはつまりZ市郊外のゴーストタウンに入ったということ。

 

 「どうしたんだ?」

 「先生、生体反応です」

 

 それまで黙っていたジェノスがサイタマへ知らせた。

 住民の居なくなった街で生体反応。つまりそれは怪人の出現を知らせるものだった。

 

 「俺がやろう」

 

 ジェノスを背負うサイタマの様子をチラと確認し、セフィロスが言った。彼等に戦わせるわけにはいかない。そう判断したのだろう。

 

 怪人が、現れた。

 

 「クケケケッ! なんだぁ? こんなところに人間がいやがる。珍しいこともあるもんだなぁ」

 

 ギラギラと瞳を見開かせて現れたのは、猛禽類のような爪牙を持ったウサギだった。だだし人型で筋骨隆々とした、一軒家ほどもあろうという怪人だ。

 

 「ちょうどいい。腹が減ってたとこだ。食ってやるかぁ」

 

 セフィロスが前に出る。ゆっくりと長刀【正宗】の柄に手を置いた。

 怪人が徐に腕を持ち上げ、降り下ろした。大気を押し潰しながら迫る拳。ジェノスをして腕が霞んで見えるほどの速度。

 その拳はセフィロスを捉えること叶わず。

 

 ───居合い斬り

 

 長刀を抜き放つと共に無造作に一振り。やはり、一振りにしか見えない。だがそれが起こした現象は目を見張る。

 気付けば幾本もの光の筋がセフィロスから怪人に向けて伸びているのだ。そしてその光景の後、敵を切り裂く音が何度も周囲へ鳴り響いた。

 セフィロスの太刀は、音を置き去りにした。

 それを見たサイタマが、あっ……と少し間抜けた声を上げた。

 

 そして切り刻まれ解体される怪人。それを尻目にまた何事もなく歩き始めるセフィロスとサイタマ。その日、何度目かの驚愕と戦慄を起こすジェノスは置き去りであった。

 

 「でさ、さっきみたいに一撃で倒すばっかだと、なんか詰まらなくないか? 戦いのワクワクも感じないし、戦いの中で成長していくことも体感できない。そこんとこはどうなんだ?」

 

 本当に何事もなかったように話し続けるサイタマ。

 セフィロスはその言葉を聞いて問い返した。

 

 「サイタマは苦戦したいし、成長したいのか」

 「というか、それが楽しくてしょうがなかったんだよ。自分が一歩一歩強くなっていく感覚があってさー。でも最近はそれもないし、俺はこれ以上強くなれないんだなって」

 「つまり実戦の中で強くなりたいのか。そして強くなるより、そのワクワク感が欲しい。更に、強くなった自身と対等に戦える相手が欲しい。そういうことか?」

 「あー、そうだなー。うん、そんな感じかも」

 「フッ、確かにヒーローものに有りがちな展開だな」

 「あっ、今もしかしてバカにしただろ」

 「いや、していない」

 「絶対した」

 「していない」

 「いやした──」

 「いやして──」

 

 何度か繰り返す無駄な攻防。

 なんとか軟着陸を決めてセフィロスが言った。

 

 「なら今度、俺と戦ってみるか」

 「えっ、セフィロス強いのか?」

 「ああ、強い。少しだけな」

 「まあ見た目強そうだもんな。ジェノスはどう思う?」

 

 また今まで喋らなかった知識人な弟子に、意見を聞こうと水を向けた。それまでセフィロスの戦闘能力について考えを巡らせていたジェノスだが、サイタマの声に我を取り戻した。

 

 「あっ、はい。すみません先生。何の話でしょうか」

 「だから、セフィロスって強いのかなって話だよ」

 

 少なくとも本人の前でする話ではないが、二人は気にせず話し続けた。

 

 「はい、悔しいですが少なくとも俺よりは格上の強さかと」

 「そっか。じゃあジェノスだったらセフィロスとどんくらい戦えるんだ?」

 「……一合も持たないかと。そう考えれば、底の見えない強さという点で先生と同じですね」

 「そっか。じゃあ戦ってみるか」

 

 なんとも明け透けな話だった。

 サイタマは強いが武術を修めているわけでもないため、強弱の判断がつかない故であり。逆にジェノスは分析が得意なこともあり、そういう結論に達したのだろうが。それでもこう、デリカシーのなさが凄かった。

 

 「セフィロスは今からヒマ?」

 「ああ、特に予定は……。すまない、協会から連絡だ」

 

 一言断って携帯を開いたセフィロスは某かの話をしている。一つ頷いてから携帯を懐に仕舞い、サイタマたちと向き合った。

 

 「悪いな、任務が入った。手合わせはまた今度だ」

 「えー、まじかよ。ちょっと楽しみだったんだが」

 「ああ、まじだ。連絡先を教えてくれれば、此方からまた連絡しよう」

 「あっ、俺携帯とか持ってないから」

 「では先生、俺の携帯の連絡先を渡しておきましょう」

 「そうだな、じゃあそうしてくれ」

 

 話をとんとんと決まり、連絡先も互いに交換し終えた。

 

 「ではな。サイタマ、ジェノス……は体直しておけよ」

 

 振り返り手を振りながら言ったセフィロスへ、また二人も言葉を返した。

 

 「おう、またな」

 「言われるまでもない」

 

 飾らない言葉と、生意気な言葉。顔を見ずとも分かりやす過ぎる二人の言葉に、涼しく笑みを見せながらセフィロスは飛び立って去っていった。

 建物を足場にして去っていくセフィロスの背中は直ぐに見えなくなった。

 

 サイタマもジェノスを背負い直して、直ぐ近くの我が家へ向けて足を再起動させた。

 背負われながらジェノスは少しの疑問をサイタマへ問うた。

 

 「先生、失礼ながらお聞きしてもよろしいでしょうか」

 「ん、なんだ?」

 「先生が初対面の人物にあそこまで言うのは珍しいと感じたので。何か理由でもあるのですか?」

 

 あー、とまたもや空を見上げて言葉を探すサイタマ。

 言葉は唐突だった。

 

 「昔さ、俺がヒーロー目指すためにトレーニングし始めた頃」

 「……? はい」

 「まだ全然弱くて、怪人にボコボコにされることも珍しくなかったんだよ」

 「先生にもそんな時期が……」

 「それでさ、そんなんばっかだったけどなんとか勝ちは拾ってたんだ。でも一度だけ本気で死にそうになったことがあってさ。手足折られて体も握り潰される寸前で」

 「そのとき先生はどうやって切り抜けようと?」

 「頭突き」

 「なるほど! くっ、メモが取れない……!」

 

 本気で悔しがるジェノスに少しだけ引きながら、サイタマは話を続けた。

 

 「でもそんな時に助けてくれたやつがいたんだよ。銀髪のすげー長い刀持ったやつ」

 「それは……」

 「多分、セフィロスだ。まあ俺もその時のこと思い出したの、ついさっきなんだけどな。でも俺が誰かに助けられたの、後にも先にもあの時だけだったからさ。今日セフィロスに会ってからずっと、なんか思い出しそうではあったんだよ」

 「そんなことが……。だからあれほど先生は話を?」

 

 どこか納得がいったジェノスは頷いて、確認のような言葉を放った。

 

 「いや違うけど」

 

 けどサイタマはサイタマだった。

 ぬぼーっとした顔であった。

 

 そりゃそうである。サイタマが話をしていたときは、思い出そうと記憶の海を探索中だったのだから。

 ジェノスが予想した言葉と180度反対の言葉を言い放ち、サイタマは少しだけ後付けをした。

 

 「んー、なんていうか。あの時、本当の危機だったんだよ。そんな自分ではどうしようもない本当の危機にだけ颯爽と現れる姿見てさ」

 

 ジェノスは見た。

 記憶を掘り起こして、それを見て笑っているのだろう。

 日向のような笑みだった。

 

 サイタマの口が一拍のあと開いた。

 

 「ああ、こいつヒーローだ。って思ってさ」

 

 ───目指すヒーロー像だったんだよ

 

 ホント久々に思い出したけどな。そう言ってサイタマはからからと笑った。

 それは失っていたものを少し取り戻したような。

 いつも影となっていた虚無感が少しだけ埋められたような。

 そんな嬉しさが籠っているように見えた。

 

 少なくとも、ジェノスにはそう見えたのだ。

 

 ジェノスは理解した。

 サイタマがなぜあれほどまで話をしたのか。それはサイタマにとってセフィロスが初対面の相手ではなかったから。それだけの話だったのだ。

 ただ、忘れていても確かな、信頼にも似た何かがそこにあったからなのだ。昔はあったそれが、今もサイタマの中にあるのか、ジェノスには判断がつかない。だがもしそれに名前があるならば───

 

 ───人はそれを夢という。

 

 

 

 

 

 

 







 DFFにおいて「なぎ払い」と「居合い斬り」は同じ技です。地上で放つか、空中で放つかの違い。
 ですがこの作品で「居合い斬り」で統一します。ご容赦を。

 最後に、良ければ活動報告をご確認ください。
 この小説の今後についてです。

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