何故か英雄になったけど俺は闇堕ちしない   作:稲荷猫

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 すみません。そっと投稿しておきます。

 書き終わってから「なんだこのクソみたいな文章」ってなったんで加筆したり修正したりして、そんで疲れてもういいやってなったので投稿。
 色々と申し訳ないです。

 あとどうでもいいけどGが出たので萎えました。ちょっくらヌッコロしてきます。





災害レベル【?】

 

 

 

 その日、J市を恐怖で覆った深海王、並びに海人族たちは撃破された。

 

 その災害レベルは鬼であったが、鬼の中でも上位の脅威度であった。それが協会職員の最終的な見解だ。

 S級ヒーローが二名も敗北したことで、脅威の度合いがそこまで高く見積もられたのだ。

 その上、その脅威を打ち破ったのはC級ヒーローだ。

 何も知らない者たちが騒ぎ出し、協会へのバッシングが強まるのは至極当然のことだった。

 

 例え二人のS級ヒーローが不意討ちにより大きなダメージを受け、常の実力を発揮しきれなかったとしても、それで納得してもらえる世界ではない。

 世間の荒波は優しくはなく、ヒーロー協会をその波濤で責めるのみ。

 

 そしてこの度、戦いに敗れたヒーロー達もまた己を責め、心の戦をしていた。

 それはヒーローたちが自身で乗り越えなければならない問題。しかし乗り越えた暁には、彼等は今よりも更なる飛躍を見せるだろう。

 その時がいつになるのかは、さて。

 

 

 ここで一つ。

 突然だが御復習(おさらい)をしておこう。

 災害レベルとヒーローのランクについてだ。

 

 まず災害レベル。

 

 災害レベル【狼】。

 危険因子となる生物や集団の出現。

 

 災害レベル【虎】。

 不特定多数の生命の危機。

 

 災害レベル【鬼】。

 町全体の機能が停止もしくは壊滅の危機。

 

 災害レベル【竜】。

 いくつもの町が壊滅する危機。

 

 災害レベル【神】。

 人類滅亡の危機。

 

 以上の五段階となる。

 

 次にヒーローのランクについて。

 

 C級ヒーロー。

 一般人より少し強い程度。三人集まれば災害レベル【狼】に対処可能。 

 

 B級ヒーロー。

 災害レベル【狼】を一人で対処可能。五人集まれば災害レベル【虎】にも対処可能。

 

 A級ヒーロー。

 災害レベル【虎】を一人で対処可能。十人集まれば災害レベル【鬼】にも対処可能。

 

 S級ヒーロー。

 災害レベル【鬼】~【竜】に一人で対処可能。人類の最高戦力。戦闘力の高い者を選抜して組織されている。

 

 ただし、これらはあくまでも基準のようなもの。

 基準より下の者も、上の者も当然いる。

 そのため過信は禁物だ。

 

 そして言える確かなことがある。

 怪人はどれも人間より強靭であり、凶悪だ。常人では立ち向かうこと自体が愚かな行為だ。災害レベル【狼】にすら常人は敵わない。

 そして彼等に立ち向かえるヒーローは確かに何処かで常人を超えた存在であり、超人である。例えC級のヒーローであろうと、だ。

 

 さて話を戻そう。

 

 災害レベル【鬼】に対処可能なS級ヒーローが二名も敗北してしまった此度の深海王。

 その深海王を倒してしまった名も無きC級ヒーロー。

 

 この二つの事柄に、協会は緊急の会議を開いた。

 

 S級ヒーロー二名の敗北。

 これだけでも衝撃的に過ぎる事件だ。

 

 A級やS級は社会的影響も強いため、ヒーロー協会としては敗北の二文字が痛すぎるのだ。

 端的に言って、協会の存在意義すら疑われるレベル。

 民衆やスポンサーからの信用を多少なり失うことは避けられぬだろう。

 

 更に言えば、セフィロスが一日いなかっただけでコレだ。

 ヒーロー協会とヒーローに対する世論は良くない方向へと傾いてしまった。

 救いなのは、事件被害者であるJ市民たちから攻撃的な言葉や行動がなかったことか。

 ヒーローや協会へ、感謝の声が多く届けられていた。

 

 だがそれも気休めにしかならない。

 具体的な解決策が必要だ。

 

 「この件に関しましては、ヒーローの人材不足解消と個人の戦闘力の底上げが必須課題となるでしょう」

 「そんなものは後でいい。スポンサーへの言い訳は用意できているのかね。彼等と手を切ることになれば協会自体が存続できんのだぞ」

 「確かにそうかもしれんが、そこは口の巧いやつに任せればどうとでもなるだろう。それよりもっと高度な情報伝達システムを構築すべきでは?」

 「全て急ぐようなことでもあるまい。セフィロスがいればそれで問題ないと思うのだがね。」

 

 思ったことを口々に言う協会役員たち。

 そのまま会議は進行していく。

 端的に言って、会議をしている光景ではなかった。まるで意志疎通が出来ていない。

 彼等の言うことも一考すべき事柄ではあるのだが、残念ながら仔細に話し合うつもりはないらしい。

 実行するにしても計画への肉付けや実行は、この場にいない彼等の部下たちが行うことになるのだろう。

 

 「そういえば、怪人にトドメを刺したというC級ヒーローについてはどうするおつもりで?」

 

 おっと忘れていた。そんな言葉が聞こえてきそうな切り出し方をした協会役員がいた。

 その言葉により、話題はとある一人のヒーローへと移行する。

 

 「災害レベル【鬼】を倒したんだ。これまで通り、S級への昇格でいいんじゃないか?」

 

 S級ヒーロー。

 言葉正しく、超人のみが在籍を許される位階。

 

 成り立ちはセフィロスが起因であり、初期メンバーはそのセフィロスが声をかけることで集まった。

 それ以降のメンバーは協会が市井から見つけてヘッドハンティングに成功した者。下位のヒーローの中から【鬼】を単独撃破した者が現れた場合には、その者をS級へ昇格させることで人員の拡充を図ってきた。

 

 今回もその例に当て嵌めての判断だろう。

 しかし。

 

 「そうすればいいと私も思いますが、このサイタマというC級ヒーローには問題がございまして」

 「問題? 今のS級ヒーローたちを超える問題児だとでも言うのかね」

 「ははは、今さら問題児が一人や二人増えてもな」

 

 隣合う職員同士で笑う声も聴こえる中、その問題が提示された。

 言葉は酷く神妙な声と顔で告げられた

 

 「どうもこのサイタマというヒーローは、ヒーローテストでインチキをしたとの噂がありまして。そのインチキのせいなのか、記録は全て過去最高記録。それも次点に大きく差を着けた圧倒的なものなのです」

 「私も聞いたな。なんでも審査員の買収や機器への細工等をしていたとか」

 「ふーむ。それが事実かどうか今のところは判然としていないのだよな、確か」

 「ならば取り敢えず昇格は保留ということでいいのでは? なにより私も彼を映像越しに見ましたが、S級に上げるのは不可能に思えますし」

 「ああ、アマイマスクの審査に一度通す必要があるからな。噂と相まってA級以上への昇格は絶望的だろう」

 

 A級以上のヒーローは社会的な影響も大きくなる。彼等が下手なスキャンダルでも起こそうものなら、それだけで協会へのバッシングへと繋がるだろう。

 それを危惧したA級1位ヒーロー【イケメン仮面アマイマスク】と協会役員たち。彼等は民間の支持を得るため、一つの取り決めをした。

 それは『A級以上のヒーローたちの管理』。これを部分的にアマイマスクにも担ってもらうというもの。役員会で正式にきめられたことでもある。

 きっかけはアマイマスクが『そちらの方面』に口を出させろと言い募ったことにあるのだが、それは蛇足であろうか。

 

 俳優やアイドル、モデルなど多方面で活躍するイケメン仮面アマイマスク。

 彼の社会的影響はとてつもなく大きい。ヒーローとして圧倒的存在感を放つセフィロスよりも、影響は大きいといえる。

 そんなアマイマスクは同じ協会所属として、他のヒーローたちの不祥事やS級の身勝手さを嫌う。ヒーローとしての才や能力のない者には更なる嫌悪を向ける。

 

 必然、アマイマスクに『そう』判断された者達はいくら実力があろうと実績を積み重ねようと、A級以上へは昇格ができない。

 現在のサイタマは実質、昇格することは不可能。

 

 しかし、何事にも例外はある。

 

 アマイマスクの隠された一面。力の信奉者としての側面を持つ彼。そんな彼を刺激するほどに格の違う力を知らしめることができれば、あるいは───。

 

 「ま、今回は彼をC級1位へ繰り上げるだけでいいでしょう」

 

 さて、今回の結論は出たようだ。

 それに伴い役員会議も終了を迎える。

 

 さて、サイタマがA級以上へ上がる日は来るのだろうか。

 もし来たのならば、それはサイタマの真の力が周囲へと伝わり始めるプロローグとなるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 周囲に人影はない。

 入りくんだ裏路地で、一層人が寄り付かなさそうな地点。人目などあろう筈もない箇所。

 

 古びた建物の扉を開けて入る三人の人影があった。

 

 「現在はここを拠点にしているのか」

 「ああ……ここ、で間違いな、い」

 

 セフィロスの言葉にジェノスが答えた。

 

 入って歩を止め、中を見回した。

 セフィロスは何かを思い出すように視線を巡らせ、壁の本棚を見付けるとそこへ近付いた。

 指先を少しだけさ迷わせ、取り出した本の題名は『LOVELESS』。後ろには第1章と続いていた。

 

 「それ、どうすんだ? もしかして本棚が動く仕掛けでもあんの?」

 「まあ見ていろ」

 

 素っ気ない言葉だけ返し、セフィロスは本を片手に二階へ上がった。

 そのまま右側の通路へ進み、その先にある部屋へ入る。

 その部屋の壁には下り階段が。

 

 「この先だ」

 「……隠してねーのか。じゃあその本を取った理由は?」

 「特にない」

 「えぇ……」

 

 悪戯好きの少年がするような笑みを垣間見せ、セフィロスは階段を降りていく。

 サイタマはジェノスを背負い直し、困惑顔をしながらも後を追った。

 ……サイタマが一人「これが英雄ジョークか」と謎の納得を抱き、セフィロスへ謎の信頼度を上昇させていたのは余談です。

 

 そうして三人は階段を下りきり、そこから真っ直ぐに伸びた通路を進んでいけば、見えたのは一つの鉄扉。

 

 特に逡巡もなく扉を開けて中へ入るセフィロスに続けば、サイタマの目に広がるのは地下に広がる機械の園。

 クセーノ博士がジェノスをサイボーグ化した話から分かる通り、これぞ科学者の研究施設と謂わんばかりの光景であった。

 これほど想像通りの光景も珍しい。

 

 「───久しぶりじゃの、セフィロス」

 

 機械の園から声が一つ。年季感じさせる老人特有の声だった。

 声の発信元は機械の影から姿を現し、三人の眼前に立つ。

 

 マッシュルームを思わせる髪型、感情を表出させない瞳、常に着ているのだろう縒れた研究用白衣。

 

 「クセーノ博士……お久しぶりです」

 

 セフィロスが珍しく敬語で親しみを込めて呼んだその人こそ、この研究施設の主。

 クセーノ博士その人だ。

 

 「たまに手紙を寄越すだけだったお主が、どういった風の吹き回しじゃ?」

 「なに、どうやら奇縁に導かれたようでして」

 

 チラリとジェノスを見るセフィロス。

 それを見てクセーノ博士は花咲くように笑った。

 

 「なるほどのぅ。お主にとっての奇縁がワシにとっての良縁じゃったか」

 

 嬉しそうな顔のクセーノ博士は話を続けようか悩んだ。久しぶりに見る顔だ。もっと色々と話したい。そう思うのは自然なことであった。

 だがジェノスを見てみればそうもいかないと、己の中に優先順位をつけていく。

 

 セフィロスとジェノス。二人共がクセーノ博士にしてみれば孫のようなもの。いつまでも痛々しい姿は見ていたくない。

 

 「ジェノスは相当にやられたようじゃの。すぐに直すから安心しておくれ」

 「申し訳…ありません。よろ、しくお願いし…ます」

 

 一つ頷いたクセーノ博士はジェノスを担いでいるハゲ……禿頭の男性に目を向けた。サイタマのことだ。

 

 「君はもしやジェノスの師匠だというサイタマ君かな?」

 「そうだけど」

 「ワシはクセーノ。ジェノスがお世話になっておるの。今日は是非ゆっくりしていって下され」

 「俺はサイタマ。よろしくな、クセーノ。折角だし今日は寛がさせてもらうか」

 

 なんとも大胆不敵……というよりは感情の起伏の少なさ故か。サイタマは平常運転でクセーノに接していた。

 それを聞いても咎める者はこの場にいなかったところから、クセーノ家族(暫定)はサイタマのらしい言動に納得しているらしい。

 

 「ではワシは早速ジェノスを直してくるから、帰って来て早々悪いんじゃがセフィロスはサイタマ君を案内してやってくれんかの」

 「勿論です。さあ、サイタマ。着いてくるといい」

 「おう、じゃあ世話になるぜ」

 「クセーノ博士、よろしく…お願いし、ます。サイタマ先生、また後で…お会いしま…しょう」

 

 クセーノ博士と機械に運ばれていくジェノス。

 セフィロスを先頭に着いていくサイタマ。

 

 それぞれが歩み出し、暫しのお別れとなった。

 

 セフィロスは勝手知ったるといった歩みでサイタマを先導する。

 事実その通りなのだろう。どこか懐かしさを滲ませたような表情。サイタマからは見えないが、セフィロスの瞳には穏やかな色が宿っていた。

 

 つと、機械の園を抜け出して歩みが止まる。

 一つの扉。ドアノブはない。

 

 これも懐かしいな。セフィロスは内心呟いた。

 

 日々の生活では触れることのない機械、操作、動作。それらを己の身体で感じると、より一層感じる思いが膨れ上がるようだ。

 

 扉の横に四角形のパネルが置いてある。そこへ掌を翳せば、扉が自動で開かれる。

 機械に登録した者が掌を翳すことで認証されるようだ。

 ここでもセフィロスは少しの感動を覚えた。

 

 どうやら未だに登録を抹消したりはしていないようだ、と。

 そして自動で開く扉を抜ける。

 

 そこは広い部屋だ。

 簡易的な台所。冷蔵庫。テーブルと、それを挟むようにソファー。六人は座れるだろう。壁際には書棚が幾つかあり、本が隙間なく並べられている。書棚の横には両袖机。机上にはデスクトップパソコン。椅子はリクライニングチェアだ。また、部屋のコーナーには大型のテレビが設置してある。

 

 どうやらリラックスルームとしても、客間としても、ちょっとした仕事用にも使えるようデザインされているらしい。

 色は全て落ち着いた風味の暗色系統。シックな部屋に仕上がっている。

 

 「ここで時間でも潰そうか」

 

 セフィロスは部屋をキョロキョロと見回していたサイタマに振り返り、そう声を掛けた。

 そんなに珍しい部屋だろうか?

 

 「なんかクセーノらしくない部屋だな。いや、落ち着いてるし老人っぽくはあるのか?」

 

 開口一番これである。

 狭量な者が聞けば怒り出しそうだ。

 

 セフィロスは可笑しそうにクツクツと笑った。

 

 「ここは個人部屋というわけじゃないからな。自然とそうもなるさ。それと、このデザインにしたのは、俺だ」

 「あ、そうなんだ。意外とセフィロスってオシャレなんだな。もしかしてそういうのに気ぃ使ってんのか?」

 「そういったつもりはないんだが……。因みに、俺は一回の洗髪でシャンプーを一本使っている」

 「ブフォッ!」

 

 ニヤリと口角を上げながら放ったセフィロスの言葉に吹き出したサイタマ。それを尻目にセフィロスは台所へ向かいコーヒーを入れ出した。

 セフィロスがコーヒーをテーブルへと持ってきたときには、すでにサイタマがソファーへ腰かけていた。

 

 なんというやつだ……赦せんッ!

 などとなるわけもなく、セフィロスはコーヒーをサイタマの前へ置くと、自らもソファーへ腰を下ろした。

 

 忘れているかもしれないが、彼らは二度目の邂逅である。なのにもう気安さを感じるのは、さて。

 

 気付けばサイタマは自分の頭を触っていた。

 

 「どうした、頭皮マッサージか?」

 「ちげーよ! ……なあセフィロス、強くなるごとに髪が抜けたりしないか?」

 「しない」

 「くっ……!」

 

 セフィロス即答。サイタマ悔しみ。

 

 サイタマは気を取り直した。

 

 「じゃあ強くなるごとに感情が希薄になったりとか、強いやつと戦いたいとか、そういうのはねーの?」

 

 サイタマの顔は呆けたものだ。真面目腐った顔でもなければ、真摯な瞳でもなかった。

 だがセフィロスは何か感じるものがあった。それがサイタマに対してか、それとも己に対してなのか判然としなかったが。

 だから真面目に考えてみる。それを表に出しはせずに、明晰な頭を回転させる。

 まず一つ。

 

 「感情が希薄になった、とは感じていないな」

 

 ヒーロー協会に所属してからは、様々な柵の下で感情を隠すことは多くなった。だが、それだけだ。希薄になった、とは断じて言えない。

 

 次の強敵と戦いたい、ということ……。

 

 「強敵とは……戦ってみたいかもな」

 

 想起するのは未だ実験体でしかなかった頃。

 繰り返される実験と観察。それらは一つたりとも穏やかではなかった。全てが過激にして過剰。セフィロスの心身を切り崩していくかのような日々であった。

 手術台の上で過ごした次の日、己の身に内に感じる違和感、異物。そんなものは当然の如く。

 拘束具を着用しての生活など、それ自体が日常となっていた。

 

 そんな日々の中、行われる実験と観察は手術台の上で行われるものだけではなかった。

 

 それも実験であり、観察であったのだろう。

 

 ───闘争を知った。

 

 ───勝利を知った。

 

 ───そして、己を知った。

 

 なんのことはない。ロボットや怪人を相手にセフィロスを戦わせたのだ。

 ときにはセフィロスより弱い相手。ときには強く、ときには同等。

 戦いの舞台でのみ、セフィロスは自由だった。目には映らぬ枷をつけられながら、それでも戦うときのみ手足を己の意思で動かせた。

 

 だからだったのかもしれない。

 久しく感じた喜び。それは果たしてどちらのものだったのか。自由に対してか、それとも闘争に対してか。どちらで喜びを感じていたのか……。

 

 セフィロスは過去を思い出す度に分からなくなった。

 

 敵と戦っていたとき、こんなところで死ぬものかと死に物狂いだったのは覚えている。

 勝ったときも、喜びではなく安堵したのは覚えている。

 

 だが───そうだ。

 戦いの中で喜びも確かにあった。自由の喜びとは別に、確かにあったように感じている。

 それは決まって同格か、格上の敵と戦っていたときに感じていたように思う。

 

 己より強いものと戦うことが楽しかったのだろうか。

 なんだそれは。まるで戦闘狂のようではないか。そんなことは断じてない筈だ。現に今もそんな兆候はない。

 あれはどちらかと言うと、戦いの中で己が錬磨されていく感覚が楽しく、それが喜びとなっていたような気がする。

 窮地にあって、成長していると感ぜられることが嬉しかったのだ。

 だがその根幹はなんだったか……と考えようとしたところで。

 

 「おーい、どうしたんだセフィロス?」

 

 呆けた顔のサイタマが声を掛けて、その声でハッと現実に帰るセフィロス。

 見ればサイタマのコーヒーは無くなっていた。それだけの時間、思索に耽ってしまったのか。

 

 だがそれよりも。セフィロスはサイタマの顔を見て、考えた。

 サイタマは強い。今まで見たことがないほどに。誰もを超越した強さを持っている。

 そして己もまた……。

 

 ふと、今日はサイタマと戦う予定だったのだとセフィロスは思い出した。

 ここで掘り返すのもどうなんだと思いつつ、しかし思ってしまえば止まらない。

 

 ───サイタマと戦えば、思い出せる気がする。

 

 自身と同等か、もしくはそれ以上の強さを持つサイタマとなら……。

 

 「なんだ? そんな悩むような質問だったか? なんつーか意外───」

 「サイタマ」

 

 サイタマの言葉を遮ってセフィロスは言った。

 

 「───約束を果たそうか」

 

 セフィロスの瞳には、少しだけ危険な光が宿っているような……いや、気のせいなのか。

 よく分からず、サイタマは即答した。セフィロスの顔を見て、そうしなければならないように思えたからだ。

 

 「ああ、いいぜ」

 

 サイタマはキメ顔だった。

 しかしてその内心は。

 

 (なんか約束したっけ……?)

 

 やっぱりサイタマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は折角の休みだ。その筈だった。でもなんか知らんが怪人が徒党を組んで侵攻してきおった。

 

 そしてS級のジェノスくんに救援要請。それに着いていくらしいサイタマくん……。

 

 ゆ る さ ぬ !

 

 何が許さんって、こんなにときに限ってワラワラ出てくる怪人だよ! なんで今日なんだよ! 俺が休暇とってんだからお前らも休暇しとけ!

 

 そして一人寂しく待つのも嫌だから二人を追って行きましたよ。

 

 でももうクライマックスだったの……。

 

 殺られそうになってるジェノスくん。けれどそこへ向かってきていたサイタマくん。

 あれ? これ絶対に俺お邪魔じゃね?

 

 いいんだ、やっておくれよサイタマくん。

 そしてワンパンで白目を向く怪人。

 何もしてない英雄(笑)。

 

 つーか言われたよッ!!

 市民に言われちゃったよッ!

 まあその通りなんですけど!?

 

 へへっ、なんとかその場を切り抜けたかったからテキトーにやっといたらなんとかなったっほいぜ(白目)

 

 まあ気を取り直してこれから遊ぼうぜ! ってなったんだけど、ここ街中だし手合わせみたいなことは出来ないしなぁ……どうすっかなー。ってなってたとこで良い行き先が出来ました。

 

 なんと! 我が恩人のクセーノ博士ん家!!

 

 っていうかジェノスくんも俺と似た境遇かよ! 同志よ、これからも仲良くしようね。というかこれ、一種の義兄弟と言えなくもないのでは(迷推理)

 

 俺のこと、お兄ちゃんって呼んでもいいんだぜ?

 

 まあそんなことが判明し、じゃあクセーノ博士ん家が近いしそこでちょっと遊ぼうかなって思ったんだ。

 んで着いてから感動の再会をした。

 クセーノ博士には一応言っときたいんだが、ちゃうねん。帰らなかったんとちゃうねん。帰れなかったんや。仕事がブラック過ぎたんや()

 でもこれ言うとなー、ちょっと言い訳っぽく聞こえそうだしなー。変な心配もかけたくないし、うん、止めとこ。

 

 そんでジェノスくんをクセーノ博士が直すまでノンビリしてようかなって思ってた時に事件が起こった。

 

 「じゃあ強くなるごとに感情が希薄になったりとか、強いやつと戦いたいとか、そういうのはねーの?」

 

 サイタマくんにそう聞かれたんだ。

 

 ハッ!!?

 

 そんな衝撃が俺の中に生まれた。俺が忘れていた何かを思い出させるような、そんな衝撃だ。

 でも思い出せない。

 なにか……そう、とても大事なことだった筈なんだ。

 

 俺の中でとても大事な……。日々の仕事で忙殺(比喩じゃない)されそうな中、少しずつ忘れていってしまった何か……。

 

 思い出せずにぐるぐると回る思考の中、サイタマくんに声をかけられ現実に戻る。そしてサイタマくん見てビビっと直感が震えた。

 

 なんかサイタマくんと戦ったら思い出せそう(脳筋)

 

 ここクセーノ博士ん家だから耐久に優れた実験室とかあるし、ちょっとやんない? (物理)

 

 ってことでクセーノ博士に許可貰ってやって来ました実験室ゥ! ふはは! なんかテンション上がってきたぁ! でもここ壊したらダメだから本気でやらないでね?(震え声)

 

 そうやって一応保険をかけつつサイタマくんとレッツバトル! 

 

 あっ……あっ……なんか思い出せそうぅぅうう!

 

 でもなんだっけ()

 

 思い出せそうで思い出せない!

 ジレンマ! 焦れったい!

 

 つかサイタマくん避けれない攻撃を腕とか足で防いでるけど、なんでそれ大丈夫なの? 俺、刀で攻撃してるんだけど?(白目)

 

 一応どっちも本気じゃないとはいえ、サイタマくん普通じゃないわ、やっば。

 まあ服が切れてからは全力で避けてるけど。

 もしかして服の性能が凄かったのかな。あっ、やっぱなんでもない。頭に諸直撃したのにピンピンしてるわ。すごーい()

 

 それに何このサイタマくんのパンチ。

 やだ、こんなの初めて。これ本当に手加減してる?

 

 そんな感じでやりあってたら、いつの間にか熱が入ってたらしい。どんどんお互いセーブしていた力を解放していき、しかし最後まで決着は付かなかった。

 

 全力を出すまでもなく、クセーノ博士からストップがかかったのだ。

 それに、気付いたら研究室が瓦礫の山に変わりそうだったこともあり、俺たちの戦いはそこで終わってしまった。

 

 けどね、それでも良かったよ。

 なぜなら、そう。

 

 ──思い出せた。

 

 サイタマくんと戦ったお陰で、俺は思い出せたんだ。とても大事にしていた思いを。人生の目標を。いや、これは信条であり、信仰だ。

 

 俺はセフィロスだ。

 セフィロス・クレシェントだ。

 

 誰がなんと言おうと、中身が違おうと、この身体は紛れもなくセフィロスなんだ。

 そしてそれを認識していく内に、俺はその想いを抱いたんだ。過酷な実験の中でも、確かに芽生えたんだ。

 

 その想いを思い出し、胸に秘めながらも、その後みんなとお喋りをしてから解散の流れとなった。

 クセーノ博士は泊まっていけばいいと言ってくれたが、明日からまた仕事があるため丁重にお断りさせて頂いた。ごめんよクセーノ博士。

 

 なんとなく夜風に吹かれて帰りたくなり、俺は一人で歩いて帰路についた。

 夜空を見上げて、そこに瞬く星を今までにないほど綺麗だと思った。

 そういえば、最近は空を見上げることもしていなかった気がする。

 これも全ては想いを思い出せたからかもしれない。

 

 そうこの想い……。

 

 ───俺のセフィロスは最強なんだッ!

 

 この崇高なる想いを。

 

 ふっ。本当にいつからかな。忘れていたのは。

 この初心を思い出させてくれたサイタマくんには感謝しかないぜ。

 今度お礼に行こう。

 

 だがまずは……やらなければいけないことがある。

 俺のセフィロスは最強なんだッ! これを仮に『プロジェクト・S』としよう。

 この『プロジェクト・S』を完璧にするためには越えなければならない壁がある。

 忙しさのあまり気付かなかった、とても重大な要素だ。

 

 それを乗り越えるために俺はどんなことでもやろう。悪魔にだって魂を売るさ。外道非道もこなしてみせよう。

 

 そう!

 

 ───アトミック侍とセフィロスのキャラ被りを防ぐためならなッ!!

 

 刀を使い、一振りにしか見えないのに、一瞬にして幾閃もの斬撃が繰り出されている?

 

 これダメなやつやッ!

 諸に被ってる! ダメ! 絶対ダメ!

 刀はいいとしても、攻撃方法が一緒やん! 流派とかあるかもしれんが端から見たら一緒にしか見えないよ!

 

 くそったれぇ!

 

 アトミック侍め、どうしてくれようか……ッ!

 

 だが、いい。乗り越えてくれようぞ!

 セフィロスに不可能はないと教えてやるわ!

 待っていろ! アトミック侍ッ!

 

 「約束の地は……渡さない」

 

 最強はセフィロス!

 被りなんて許さないんだからねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









 こんな主人公書いてごめんなさい!
 なんでもするから許して!
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