仕事で死にそうなので投稿することにしました(はーと)
短いですが今回は村田先生版でサイコスちゃん登場おめでとうってことで。
昔話を一つ聞いて欲しい。
あれはまだ私が弱かった頃のことだ。ヒーロー協会もなく、我らが怪人協会もなく、現れた怪人に民衆は怯えることしか出来なかった頃のことだ。
そのときに怪人に対処をするのは警察、もしくは民衆の中に紛れる超人たちだった。
災害レベル【狼】程度の弱い怪人ならば警察でも対処が可能であった。それより上にいけばその道のプロフェッショナルか、人の身を越えた超人が必要だった。
奇しくも私は超人に類される側だったが、しかしその力も当時は高が知れていた。凡人に毛が生えた程度。はっきり言って雑魚だったよ。
けれど力の探求には貪欲であったようにも思う。しかしその貪欲さも仮初めでしかなかった。
それを知ったのはある日のなんてことのない日常に訪れた脅威と、それを打ち払ったあの人を見てからだ。
S級1位ヒーロー。英雄セフィロス・クレシェント。
今ではそう呼ばれているあの人を。
鮮烈だった。
突然現れた怪人。民衆に揉まれながら逃げ惑う私。そんな無様な私の前に現れた英雄。
当時の私にとっては恐ろしく感じた巨大な怪人を、一刀の下に打ち倒す英雄。
数多の群衆の中にいた冴えない私など彼の目にはまず留まらなかったことだろう。それでも私の目は彼に釘付けだった。いや、当時そこにいた者たちは皆が彼に目を奪われていたか。
流れる銀の長髪は眩く日の光を反射し、蒼の瞳は空を内包していると錯覚させるほど澄んでいた。服の上からでも分かるスラリと伸びた肢体は黒の特徴的なコートに包まれ、左手には彼の長身をも越すのではと思わせる長刀。
民衆の危機に現れ悪を討つ。
正しくヒーローだった。だがヒーローであってヒーローでない。皆が真っ先に思い描くであろうテレビでやっている作り物ではない、得も言われぬ神聖さがそこにあるような気がした。
ヒーローだ。だがヒーローではない。
───英雄だ。
彼こそが人の中で最も秀でた存在であり、伝説となるべき存在なのだ。そしてその在り方。その美貌。その強さ。英雄と呼ばずして何と呼ぶのか。
私はその一件から彼のことを調べ始めた。そして時間をかけて集めた情報は相当な量になった。
当時はなかったヒーロー協会とヒーロー制度だったが、なんと彼はそのときから人助けをしていた。
只人には打ち勝てぬ凶悪な怪人を倒し。賞金がかけられる程だが誰にも捕まえられぬ犯罪者たちを捕らえ。大荷物を運ぶ老人がいれば荷物を持ってやり、はぐれてしまった親子を見留めれば引き合わせてやる。
他にも出る多くの情報と感謝の言葉は軽くネットで調べるだけで集められた。
一目だけ見た彼の印象と全く相違のない人物像。
何故これほどの人物がいることを知らなかったのか。以前から同じように活動していたらしいが、私は全く知らなかった。超能力くらいしか興味がなかったから、話がどこかで出ても右から左だったのだろう。
少しだけ自身を恨んだ。
しかし彼の個人情報に関してはあまり集まらない。色々と聞いてみた者もいるそうだが、彼はどうやら饒舌な方ではないらしい。
同時期に私はそれまで手を抜いていた美容やファッションについても学び出した。彼に接触するにしても、今の自分ではいけないと思ったからだ。
端的に言って一目惚れしていた。
恋とは人を盲目にさせるとよく言うが、私はその言葉の通りだった。
彼に会いたい。彼の隣に立ちたい。彼と話がしたい。どんな過去を持っているのか知りたい。どんな思考思想をしているのか知りたい。好物はなんだろうか。嫌いなものは。好きな女性のタイプなんかも。
そのためには自分を磨かなければならない。私は私より魅力的な女性が多いことを知っているし、私なんかより力を持った者が多いことも知っている。
幸運だったのは、そんな存在が身近にいたことか。
B級1位ヒーロー。地獄のフブキ。今はそう呼ばれている女。
彼女は私より強力な超能力を持っていた。
彼女は美容にもファッションにも拘っていた。
彼女は容姿にも優れていた。
彼女を尊敬していた当時の私は、彼女を目標に据えて自分磨きを始めた。
そんな時だ。
未来にて本当に英雄セフィロスの隣に私が立てているのか。それが気になってしまった。
私は予知能力の訓練を始めた。これが完成すればかの大予言者シババワのように未来を見通すことが可能になる。
───しかして、未来には栄光などなかった。セフィロスの隣に立つ私などいなかった。
なんだこの未来は。こんなものなど求めていない。こんな絶望の未来など……!
だがふと気付いた。
私の見た未来に英雄セフィロスの姿がない。どういうことだ。未来に行き着くまでに英雄は倒れてしまったのか。
有り得る。
今でさえセフィロスは人類のために身を粉にしている。
あんな食って糞して交尾して増えるだけ増えて何もしない現状のホモサピエンスのために英雄は食い潰されるのだ。
でなければ未来においてセフィロスの姿が確認出来ないなどあり得ない。
あの圧倒的な力を持つセフィロスが存在しないなどあり得ない!
駄目だ。今のホモサピエンスには絶望しかない。減らさなければ。滅ぼさなければ……! セフィロスを食い物になどさせない。
私が変える。この絶望の未来を……!
待っていて欲しい、セフィロス。貴方は私が救ってみせる。そのためには力がいる。個人の力。集団の力。それらを圧倒する大いなる力が!!
尊敬していたフブキ会長は私の話を聞き入れずに決別してしまう結果となった。
いいさ。私一人でもやり遂げてみせる。
そのあとだ。
私は一人の素晴らしい才能を持った人間を見つけた。私の超能力は相手の実力や才能までも見通す程に成長していたからだ。
怪人王オロチ。
今はそう名乗る元人間。
彼を見つけたときは運命だと思った。
やはり私の考えは間違っていない。人間は滅びるべきなのだ。天も私に味方している。
この出会いは私にそう思わせ、更なる邁進を後押ししてくれているようだった。
自らが汚れても構わない。未来に希望などはなく、一握りの救いすら用意されてはいない。ならば私が変えるのだ。
これはそう、覚悟だ。
なんとしてでも。何をしてでも。血に濡れようとも。悪としていつか討たれるとしても。
私はこの覚悟と共に進んで行くのだ。
───人に見切りをつけ、怪人に焦点を当てた。
───怪人化の秘を暴くため動き出した。
───生物の限界を超えて進化する方法を探した。
───役に立たぬ、むしろ我が障害となるだろう名ばかりヒーロー共を駆逐する計略を練りだした。
ふと気付く。
このまま行けばいずれセフィロスともぶつかる事になるのではないか?
現在彼はヒーローであり、そのトップに立っている。誰よりも人の為に奮闘している。それが人の為にならないことを知らずに……。
いや、彼に罪はない。未来を知る術など本来ありはしないのだから。大予言者シババワですら私の見た未来を知っているか怪しいのだから。
ならば彼を救う第一歩はなんだろうか。
私は彼の周囲を変えるために行動を起こした訳だが、出来れば彼自身にも
───そうだ。彼にはヒーローを辞めて貰おう。
簡単なことだった。未来を変えようと動いている私。そこにセフィロスが協力してくれれば、より未来改変は磐石になる。
このまま人間共にセフィロスが食い潰されることもない。
彼を救う道もより確実なものとなる。
………ふむ。
いいじゃないか。いい! とても素晴らしい!
この方向で案を練っていこう。
彼に直接接触する必要も出てくるだろう。勿論その役目を他に任せる気は微塵もない。怪人などどいつもこいつも品のない無知蒙昧ばかりだからだ。
ああ。待っていてくれ。必ずや貴方に救いをもたらそう。
英雄よ。あなたに悲運は似合わない。
───どうか、私の隣で微笑んでおくれ。
ちなみにヒロインは蚊娘