「花陽ちゃ〜ん」
一月十七日。帰り道。自宅付近で、花陽はフワフワした声に名前を呼ばれて振り返った。
「ことりちゃん、どうしたの?」
駆け足でやって来たことりに、花陽は首を傾げる。
今日は花陽の誕生日。先ほどまで、部室で盛大に祝われていたのだ。白米をお腹いっぱい食べて、花陽は幸せだった。明日からの体重は、ひとまず考えない。
「誕生日プレゼント、渡し忘れちゃって」
「プレゼント……? え、でもさっき……」
部室でパーティーをしていた時、メンバー八人からそれぞれプレゼントを貰っていたのだ。ことりからは、どこで見つけたのかどんぶりご飯のヘアピンを贈られた。
「うん、それともう一つ、作ったんだ〜」
「“作った”……?」
鞄を探ったことりが取り出したのは、
「じゃ〜ん♪」
「まさか、服……?」
「うんっ♪ 前の衣装を作った時に生地が余って、せっかくだから花陽ちゃんにピッタリな服を作ってあげようって思って」
「そんな、わざわざ私の為に……」
「私が作りたかったんだから、気にしなくていいよ」
申し訳なさそうに開いた花陽の口に、ことりは笑顔で人差し指を当てる。
「はいっ、花陽ちゃん受け取って」
「あ、ありがとう……」
丁寧に畳まれ包装されたプレゼントを、花陽は受け取る。
「開けてみても、いいかな……」
「勿論♪ あ、でも、どうせならお家の方がいいんじゃないかな」
ことりが向けた視線を追って、花陽はここが自宅の目の前だと気付く。
「ことりちゃんも、上がってく?」
「いいの?」
「せっかくここまで来てもらっちゃったし、それに……」
「それに?」
「ことりちゃんが作ってくれた服だし、一番にことりちゃんに見せたいなって……」
「花陽ちゃん♪ や〜ん可愛いっ♪」
綻ばせた顔で、ことりは花陽の頭をナデナデ。
「えへへ……」
花陽も、まんざらでもない様子でされるがままだった。
「ど、どうかな……」
「はわぁ〜、すっごくお似合いだよ花陽ちゃん!」
「えへへ、ありがとう。サイズもピッタリだし、お洒落なデザインだね」
「これなら絶対似合うってアイデアがあって、やっと花陽ちゃんに着てもらえたよ〜」
「もしかして、普段からこういうのも考えてるの? μ'sの衣装とは別に」
「うん、一応ね。でも、生地とか予算とか色々あるから、あんまり実現できないんだ〜」
少しだけ不満そうなことり。
「でも、部費を使ったりしたらにこちゃんとかに怒られちゃうもんね。今回は作れて良かった〜」
「凄いなぁ、ことりちゃんは。練習だけじゃなくて、衣装の事も考えて実際に作って……」
「花陽ちゃんだって、よく手伝ってくれてるよ?」
「ことりちゃんの言う通りにしてるだけだし……」
俯いた花陽の頭を、ことりは優しく撫でる。
「花陽ちゃんは、自分がどんなに可愛いか気付いてないだけだよ〜。花陽ちゃんは、ギュギュッと魅力の詰まった女の子なんですよ〜」
「うん、ありがとうことりちゃん。まだちょっと自信ないけど、私だってμ'sの一員なんだもんね」
グッと拳を握る花陽。やっぱり花陽ちゃんは可愛いなぁ、とことりも笑顔。
「……何だか、ことりちゃんってお姉さんって感じするなぁ……」
「私も、花陽ちゃんみたいな妹が欲しかったなぁって思ったんだぁ♪」
「へっ? 私、声に出てた?」
ぼんやり考えていただけのつもりが、いつの間か独り言になっていたようだった。
「ねえ、花陽ちゃぁん」
「う、うん」
何かを期待するようなワクワクした顔。この顔は反則だと、花陽は常々思っている。
「えっと、ことり……お姉ちゃん?」
「やぁ〜んもう可愛い〜♪ じゃあ私も、“かよちゃん”って呼ぶね♪」
「ええっ?」
「ダメ?」
「う、ううん。かよちゃん、かよちゃん……かよちゃんかぁ……。えへへ」
呼ばれ慣れない愛称を、転がすように口の中で反芻する花陽。
「ことりお姉ちゃん♪」
「かよちゃん♪」
ことりちゃんは、私にとって憧れのお姉ちゃんです。いつまで続けるのか分からないけど、今は思い切り甘えちゃいます!
「ことりお姉ちゃん、膝枕……いい?」
「うんっ。かよちゃんは甘えん坊さんですね〜、よしよし♪」
「えへへ……。私も、いつかは、ことりお姉ちゃんみたいな、優しいお姉さんに……。すう…………」
「かよちゃ〜ん、寝ちゃいましたか〜? ナデナデ。……お誕生日おめでとう。可愛い可愛いかよちゃん♪」