病気物件をなおしたい 作:くまさん in the night
ちなみに私はウェブ上での投稿は初めてですが、この作品は処女作ではありません。拙いながら今までにも物語を書いたことはあります。
ただしそれも短編をいくつか作っただけであること、最後に作ってからそれなりにブランクがあることなどの理由から、この作品のクオリティはほぼ処女作レベルだろうと思われます。
「あのう、ものすごく家賃が安い事故物件って……ありますか? 俺、命の危険しか問いませんから……」
不動産屋に入店して早々、俺の発した一言のせいで店員さんがわずかに眉をひそめた。
まあ、当たり前か。事故ってる物件の紹介をするのは、店員さんにとってもあまり良い気分では無いだろうし。
それとも、みすぼらしい格好をしたオカルトの好きなそうな学生が来店したのがいけなかったのかな。これから厄介な客の相手をしなくてはいけない、とでも思われたのだろうか。
いや、六割くらいは当たってるけどね。確かに俺は一目でわかる苦学生らしい姿をしているから。
むしろ現在の俺が苦学生じゃないなら、日本にいる苦学生の大半は腎臓の片方か住む家が無い人だろうね。
例えば俺が今背負ってるリュックには生活に必要な道具を始めとして、貴重品や大学で必要な筆記用具一式などが詰め込まれている。だけど大学生活を送るための全財産を肌身離さず持ち運ぶ人間は、同級生達の中を見渡してもたぶん俺以外にはいないだろう。
ていうか全財産が自力で持ち運べるくらいの量しか存在しないとか、そんな学生が他にいるのか? いないよな?
それになんていうか『生活費が無いなら安さが取り柄の事故物件に住めば良いじゃない』などと考えてしまう性格だって、我ながら少し変わっていると思う。
変人であればイコール厄介な人間って訳じゃないけど……でも、厄介である確率は多少高くなる。だからひょっとすると自覚がないだけで俺は厄介な客かもしれない。
それでもさすがに幽霊や怪奇現象の類いは好きじゃないから、残りの四割くらいは間違っている。
オカルトって何が面白いんだろうね?
「そうですね……ちなみに、予算はどれくらいをお考えでしょうか」
「ええと、高くても一ヶ月で八千円前後です。九千円代だとかなりキツいです」
「そう……ですか」
無茶な相談なのはわかっているつもりだ。だけど俺には退けない理由がある。
「どんな部屋でも良いんです。ここで見つからなければ、今年の冬はもう野宿するしかないんです」
そう、もし今が夏なら橋の下や公園でも生きていけた。だけどもう目前まで迫って来ている冬将軍は違う。
なんたって将軍様だからね。皇帝や王様よりもなんとなく弱そうだけど、曲がりなりにも責任者だからね。
「そうですね……九千円ちょうどの物件では難しいでしょうか?」
「はい。学費のために食費や光熱費を削ろうにも限界があります。だからできればこれ以上の出費は押さえたいです。それに」
一瞬迷ったけど、これも言っちゃうか……。
「今の俺はお金が無さすぎて、ここ三年ほどは服すら買えていません。しかも靴に至っては七年も買えていま」
「うわぁー……」
引かないでお願い。
ていうかなんで小学生時代の靴がまだ履けるの? 物持ちが良すぎとか以前に、足のサイズが固定しすぎだろ。
「そうですね………………では、こちらの物件はいかがでしょうか」
「え、それってもしかして……」
やった! やっと条件に合う部屋が見つかりそうだ。ここまで長かったなあ。
あとどうでもいいけどさ、この店員さんは『そうですね』が口癖なのかな。その言葉を聞くと、しばらく前に放送していたお昼休みの番組を思い出すんだよね。
なんだよ『ウキウキウォッチング』って。今の俺を観察するのかよ止めろよ恥ずかしいだろ!
おっと、浮かれ始めてる場合じゃないよね! さあて、お楽しみの家賃はいくらかな?
どれどれ……。
えーと、一ヶ月…………500…………円……?
ん?
「あ、そっか。これって5000円の間違いですよね?」
「いえ、500円です」
えっ……?
えええええええええええっ!?
◇
さっそく部屋の下見に来た訳なんだけど……うん、どうしてだろう……やっぱり普通(?)のボロアパートにしか見えない。
もしかしたらまだ見えないだけで、扉の向こう側には惨劇の爪痕でも残ってるかもしれない。だけど外観を眺めた限りでは、そこそこ、いやかなりボロいことと、周囲に生えている木々のせいで昼でも暗い以外には何の特色も見当たらない。
なんでだ……ここの二〇四号室は本当に敷金無し、礼金無し、家賃は月額五百円のとんでもない事故物件なんだよね?
実は犬小屋のことを「ワンコイン」と呼んでいました。くらいは覚悟してたけど……全然違うよね。
なんで隙間風があまり吹き込まない程度のボロさなんだ? せめてもっと無様であれよ、怖いだろ!
これって過去に起こった事件の概要とか知っといたほうが良いのかな? 知らない方が逆に怖いタイプだよね。訊けば不動産屋なら教えてくれるよね?
「もしかして、この部屋って過去に五十人くらい死んでたりしますか?」
「アハ……アハハハ……ハハ……」
間違えた。せいぜい四~五人にしとけば良かった。図星は良くない。
「あ、いや、さすがに五十人も亡くなられてはいりゃせ、いませんよ!」
おい、フォローが遅いぞ。あと噛まないで、焦られると怖いから。
「ただ、ちょっとこの二〇四号室に入居した方々がいつの間にかスーっとどこかに去ってしまわれるだけです。実際に亡くなられた方はむしろ一人だけですよ。
つまり旅ですよ旅! ほら、よく言うでしょう? 『旅は道連れ世は情け』って」
『道連れ』じゃねえよアンタはもう黙っててくれよ怖いんだよ。この職員はちゃんとフォローする気があるのか?
いや、逆にここはあえて担当者の正直で誠実な対応と考えよう。この人は大切な顧客に対して、物件の危険性を正確な情報で伝えようとしているんだ。そうに違いない。ていうかそうだ。
だから目の前にいるこのオッサンが「しまった」って顔をしてるのも、何か別の理由があるはずだ。
きっとブリブリと溢れ出てしまったとか、そんなところだろう。
どうかそうであれ!!
って今は、「この情報が正確なものです」とかダメじゃねえか。
神隠しとか漏らしたとか。
「あ、やっぱり噂です。行方不明になるという噂があるだけです。そういうことです」
『あ』でも『やっぱり』でもねえよ。一瞬でも担当者が誠実だと誤解した俺の純情を返せよ。
仕方ない。色々と気になることはあるけど、それでも五百円の家賃は魅力的だから、住むかどうかは一度部屋の中を見てから決めよう。
「あれ? 二階にはどうやって上がれば良いんですか?」
「あ、それはですね、確かこっちに……ああ、あった。この脚立を使うんですよ」
どうやらこの二階建てアパート、階段はすでに失われているらしい。
言われた通りに俺は脚立で二階に上がった。しかしなぜか担当者のオッサンはここまで来ない。
見た感じ靴ヒモを結ぶのに忙しいようだけど……すぐに来るのか?
オッサンは左足の靴紐を結んで、それが終わると次に右足の靴紐へと取りかかった。
その後、すでに結び終わっている左足の靴紐を一度ほどき、そしてまた最初から結び始めた。
そうですか。来たくない、と……。
「来てくださいよ!! なんでこっちに来ないんですか!?」
「二〇四号室の鍵です。お受け取りください」
会話ってドッジボールじゃない。俺はそう思います。
下にいるオッサンが、こちらに鍵を投げてきた。キャッチボールは鍵じゃないんだけど、仕方ないので俺は鍵を受け取……拾う。
ちょうどその時、俺の背後にある二〇五号室の扉が開いた。
そして扉の向こうから大学生みたいな青年がヌッと顔を覗かせてきた。
第一住人発見。
あれ……? コイツ……貧乏オーラが皆無だ……!!
つまりボロアパートに好んで住む変人ってことだな。
お近づきになりたくない。
「新入りか?」
「いえ、通りすがりの学生です」
今の俺は「まだ」通りすがりの学生だ。
俺は偶然ボロアパートの前を通り、偶然脚立に登って二階に上がり、偶然ボロアパートの鍵を保持しているだけだ。
これらはあくまで偶然でしかない。
すなわち嘘はついていない。
よし、完璧な論理だ。完全無欠すぎるからか、俺の胃からはゲロがこみ上げてきた。
「なるほど。冬は近いが、十分な資金を持ち合わせていないから格安の事故物件に住むのか。そして今まで、春から秋にかけては、雨宿りのできる公園かどこかで寝泊まりしてたってところだな」
速攻でバレた。なんでそこまで分かるんだってとこまで見抜かれた。
「俺は理学部三年の弥柳だ。弥生時代の弥と幽霊の出る柳で『ミヤナギ』だ。今はこの通り二〇五号室に住んでいる。もし君が何か困ったらすぐ俺に言ってくれ。大学の先輩として、できる範囲で協力する」
だから俺が後輩であることとかこの人に言ってないよね? あれ、もしかして俺の心が読まれてる? 神通力か?
まさか神通力があるからこんなアパートでも生きていけるのか!?
俺が頭の中に大量の「?」を浮かべていたら、先輩が右手を差し出してきた。俺も反射的に右手を差し出して弥柳なんとか先輩と握手する。
「えっと……経済学部一年の矢車です。矢を放つ車で『矢車』って書きます。こちらこそよろしくお願い致します」
仕方ない。この人に嘘をついてもすぐ見破られそうだから、残念だけど正直に言ってしまおう。
「ちょっと待ってろ。引っ越し祝い持ってくる」
「そんな、まだ入居も決まってないのに貰うなんて悪いですよ」
「だが引っ越すんだろ? それに俺はこれから外せない用事で出掛けなきゃいけない。だから今を逃すとしばらくは渡せない」
「え、ちょっ……」
なんか微妙に勘違いされてるけど、俺がそれを伝える前に先輩はドアを閉じた。
◇
弥柳先輩が持って来たのは、陰陽師が持ってそうな八枚のお札だった。
使い方は一〇二号室の住人に教えてもらえ。とだけ言うと、先輩は黒い自動車に乗り込みどこかへ出かけてしまった。
先輩がアパートの敷地内を出発する時、俺の視界に入ったその横顔は、最初に見たときよりもいくらか晴れやかになっていた。
なんだか少しずつ外堀を埋められているような気がしないでもないけど、それは錯覚……だよね?
その後、お札があるから大丈夫、と何度か自分に言い聞かせてみた。だけど愛車のアクセルを踏んだ直後に先輩が一瞬だけ見せた安堵の表情は、やっぱりまだ俺の脳裏にこびりついたままだった。
◇
さて、と。そろそろ本気を出して玄関に入らないとね。
よーし、ドアを開けるぞ。
すぐ開けて、すぐ中を確認して、すぐ帰ろう。
おっと俺には帰る家(?)が公共の土地にしかないんだっけ。
まあ、私用地じゃないから俺の家とは呼べないよね。
よし、開けよう……あ、そうだ。ドアを開ける前に鍵を開けないと。
カチャカチャ、カチリ。
それじゃあ、さん、に、いちでオープン……いや、スリー、ツー、ワンの方が良いかな。スリー、ツー、ワン、GOシュートにしようか。むしろ最後のワンだけウノに代えて、ささやかなアクセントを加えるっていうのも悪くは
「お客様ぁー? まだドアを開けないのですかぁー? そろそろ大人しく入居するか手続きをしてくれないと困りますよー!」
どっちみち住むのかよ同じじゃねえか。
「あーはいはい、部屋に入れば良いんでしょ入れば!」
さようなら平凡な人生。
そしてこんにちは異世界異能力バトルラブコメディ。
なんだよ『異世界異能力バトルラブコメディ』って。欲張りすぎだろ俺。
まあ、神隠しだからある意味間違ってないけど。
ガチャリ、ギィィ。
……しまった、変なこと考えてたら、ついうっかりノリで開けちゃった。
『きゃっ! エッチ!』
「………………………………え?」
その瞬間、俺は自分の目を疑った。
なぜなら扉の先にあったのは、半透明なオッサンによる、誰得な下着姿だったからだ。
最初はニセコイのSSを投稿しようと思っていました。
その構想、というより妄想が始まった段階では、せいぜい十~二十話くらいあれば完結するかな、などと考えていました。
しかしこの見通しは甘すぎました。プロットが完成したら、なんと第一部は四十九話も必要だと判明します。しかも第二部とおまけを合わせると、さらに十一話が追加されます。
未完は嫌だ、どうせ書くなら完結させたい。ていうか完結しないと登場人物が可哀想すぎる!
そこで私はとりあえず一旦短い作品を完成させて、その中で連載の練習をしようと決めました。
それがこの作品を書き始めたきっかけです。
またその関係で、この作品にはその二次小説に登場するオリキャラの一部を登場させています。試運転ってヤツですね。